虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
学園から帰ってきた後でも、俺はひたすら頭を回して現状の打開策を考えてる。今日は夕方に
「……つむぎ。つむぎ?」
「んっ? あ、ああ。どうした姉さん?」
「手が止まってるわよ。もしかして……ご飯不味かった?」
「そんな訳ないだろ! いつも通りすっげぇ美味ぇよ! ちょっとボーっとしてただけだから!」
いかん。考え事に没頭してて完全に食事の手が止まってた。不審がられないようにハンバーグを箸で1口分つまんで口に運びながら繋にそう伝えた。……うん。やっぱ美味い。
「そう? あと、その首に巻かれてるタオルは何?」
「あっ、これね! 今日暑いからさ! こうして首に巻いてすぐ汗拭けるようにしてたんだよ!」
「リビング、冷房効かせてあるはずだけど……」
「い、いやー! 最近首に何か巻いてたい気分だからさ! あははは……」
……自分でも何言ってんのか分かんなくなってきた。なんだよ何か巻いてたい気分って。普通そんな気分になる奴がいるか。いねぇよ馬鹿。ホントのところは先日、首筋についた跡を隠す為にタオルを巻いてるって感じなんだけど、まさか跡が消える前に繋が帰ってきて且つ夕食作るとは思わんかったよ。苦肉の策としてタオルを使ってる状態だ。
「……ふーん? そうなのね」
「そうそう」
よし。なんとかこの場を凌いだぞ。このまま触れてこないでくれ、頼むぞ姉さん!!
「そうだ、聞いてよつむぎ。最近果林ちゃんにね、体型維持にオススメの物教えてもらったの!」
「おぉ良いじゃん。何オススメされたの?」
「黒酢よ。美容効果もあるみたいだからこないだからよく飲むようにしてるの」
「へぇ。黒酢ねぇ……そいつは初耳」
繋は食事中によくこんなふうに雑談をしてくる。最近あった良いこととかを話してくれる。同好会について聞いてくることもあるけど。果林さんとも変わらず仲良くやれてるみたいで安心だ。繋の話を聞きながら俺は味噌汁を啜った。
「最近は液体のものだけじゃなくて、黒酢エ
「うぇっほっ! ごほっ! かはっ!」
何気ない雑談であるはずなのにある単語で動揺して味噌汁が変なところに入って激しく咳き込んだ。やべぇ不意打ちかましてきたなこの姉!!
「大丈夫?」
「お、おう大丈夫大丈夫セーフセーフ」
繋が椅子から立って背中をさすりに来てくれた。ここ最近いつもにも増して過保護なんだよな……嬉しくもあるし恥ずかしくもある。背中をさするのが止まったその瞬間、繋が巻かれているタオルに手をかけた。
「えいっ」
「あっ!! ちょっ姉さん待っ……!」
俺の首からタオルが外れ、俺が手で隠す前に繋がそれを阻止。繋はまじまじと首筋を覗き込む。向けられている目線にあるのは勿論……あの跡だ。
「やっぱりね。これ……キスマークじゃない」
「まさか姉さん……わざと?」
「試しにそれっぽい単語を言ったら分かりやすい反応したから確信に変わったわ。ふふっ、『頭隠して尻隠さず』ね」
「ふざけんなちくしょぉぉぉぉっ!」
マジでこの姉……妙なところで勘が鋭い。うわぁぁぁぁバレたくなかったぁ!! 羞恥以外の何物でも無ぇよこんなん!! 顔があっつい!!
「昨日の夜に、歩夢ちゃんにされたのよね?」
「全部分かってんじゃねぇかアンタ!!」
「まあね。昨日の段階で既に怪しく見えたけど、断定はできなかったから改めて確認したってわけ。つむぎ、あからさまに首押さえてたし」
くっそぉ……あん時は気が動転しててボタンを留め直すって思考に至らなかったから直接手で押さえてたんだよな。そこも最初から見抜かれてたって訳か。わざと知らないフリしやがってぇぇぇぇ……しんど。
「これには、かくかくしかじか訳があってのことなんだよ。そもそも歩夢とそんな関係じゃないし」
「あら、もうとっくのとうに『相思相愛』だと思ってたのに、違うのね」
そう言いながら席に座り直す繋。相思相愛……っておいちょっと待て。歩夢が、俺を?
「うーん、歩夢は俺に『好き』とかそういう感情は無いと思うんだけど」
「え?」
「ん?」
繋が珍しく頓狂な声を出した。繋のそんな声、俺生まれて初めて聞いたんだが。
「まさかつむぎ……気付いてないの?」
「な、何に?」
「歩夢ちゃんが、つむぎを好いているってことよ。私が見る限り、つむぎに『竹馬の友』以上の気持ちを抱いてるわよ、あの子。じゃなきゃ……ねぇ?」
え? いや、は? 歩夢が俺を? 何で? 散々迷惑かけたのに? 今だって傷付けちまってるのに……?
「いや、姉さんそれは違うよきっと。歩夢が俺を好いてる? 随分幸せな冗談だな。迷惑ばっかかけた俺の、一体どこを好きになるっていうんだよ」
「それ……本気で言ってるの?」
繋の声音が一気に変わる。俺の言葉を聞いて、一瞬にして怒気が混ざったような口調に変わった。
「だってそうだろ。小さい時から歩夢に縋りついて、ずっとずっと面倒も苦労もかけて、今だって。だから俺は歩夢に恩を返せるように夢を見つけて、それを叶える為に行動してる。そうでもしなきゃ、俺が歩夢に合わせる顔なんて……」
「冗談でもそんなこと言わないでっ!!」
普段の繋からは考えられない程の怒鳴り声が、テーブルを叩く音と同時にリビングに響いた。
「ね、姉……さん?」
「……ごめんなさい。『あの人』のせいなのは百も承知だけど、つむぎ。あなたは自尊感情が余りにも低すぎる」
「自尊感情?」
「自分自身の評価に関する感情のことよ。今の言葉を聞いてよく分かった。つむぎ、『自分は他の人から好かれる訳ない』と思ってるでしょ?」
それは……そうかもしれない。今は昔程ではないが、心の底では『俺は好かれる程の価値がある人間なのか?』って思う時は稀にある。そう思わない為に俺は日々を精一杯生きるようにしてるんだ。そしたらそんなこと考えなくて済むから。
「人から好かれるような奴になれるように俺なりに頑張ってんだ。皆の役に立つんだって。その為の夢だってちゃんとある! けど、歩夢はそれを拒むんだ」
皆の役に立つ為の夢。それは、『自分が同好会皆の曲を作る事』だ。作詞や作曲をして俺が曲を生み出して、いつかライブで歌ってもらう。そんな夢。
簡単に叶えられる夢じゃない。だから俺は学科を普通科から音楽科に転科して、ちゃんと知識と技術を身に付けてその夢を追いかけたいと思った。学科が変わる以上、歩夢と居られる時間は絶対に減ってしまう。そこも含めて俺の夢の話を聞いてもらおうとしたのに、もう2回も拒否られてる。身近で真っ先に聞いてくれそうな幼馴染から、2回もだ。
「歩夢の為にも、同好会の為にも本気で叶えたい夢が俺にもできたんだよ! なのに歩夢に言えなくて、聞きたくないって言われて、誰にでも優しくは駄目みたいなことも果林さんから言われるし俺……もうどうすりゃ良いかわかんねぇよ! どんだけ考えてもわかんないんだよっ!!」
頭を掻き乱して繋に本音をぶつけた。果林さんから言われたあの言葉がけっこう深く心に突き刺さってる。家帰ってからずっとああして考えたけど、無理だったわ。正直頭が痛い。悩んでばっかで情けないな、俺。
「つむぎにここまで本気になれる夢が見つかって嬉しいわ。でも、それは恐らく歩夢ちゃんとの関係性を変えてしまう夢なんでしょう?」
「……そう、だよ」
「その夢が、現状の人間関係を変えてまで叶える価値があるものなのか、そしてそれが自分に可能であるかどうか。考える点はそこだと思うわ」
繋は俺が夢を持ったことを肯定した。その上で俺が今考えるべきことを示してくれた。
「歩夢ちゃんが何でつむぎとずっと一緒にいてくれたのか、側にいてくれたのかも、胸に手を当ててもう1度考えてみて。迷惑とか恩返しとかそんなのもう取っ払って、自分の気持ちに素直になりなさい。つむぎの本当の心を、歩夢ちゃんに見せてみて」
歩夢に、本当の心を見せる。俺の本当って、歩夢の為に頑張る以外に何があるんだろう……。
「幼馴染……ってか友達って、難しいな」
「ええ。少しのことで傷付いて、傷付けてしまうものよ。あともう1つ、つむぎに言っておこうかしら」
「……なに? 姉さん」
「ただ隣にいる事が絆ではない。離れない事が絆ではない。かと言って離れる事も絆とは言えない」
俺に、自分自身にも言い聞かせるように繋はそう告げた。
「お友達の大切さを痛い程わかってるつむぎなら、自ずと答えは出るはずよ」
「わかってるよ。それは死ぬ程わかってる」
「それなら大丈夫。つむぎ自身で考えて、答えを出すの。つむぎと歩夢ちゃんのこれからに関わるんだから」
そうだ。これは俺が答えを出さなくちゃ意味が無い。果林さんも言ってたろ。これからの俺の行動で、それが正しいか正しくないか決まるって。
「姉さん。さんきゅ」
「お礼を言う暇があるなら、ちゃちゃっとご飯食べちゃいなさい。ね?」
そう言われて俺は再度箸を持ち、姉さんの手料理の味を今一度噛み締めた。果林さん、姉さん。ありがとう。俺に思い出させてくれて。歩夢が俺にとってどれだけ大切で、どれだけかけがえのない存在かを。俺が間違ってたんだ。ここに来てやっと、夢夢言いまくってた今までの自分を、ひどく悔いることとなった。