虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
会場設営を始めて2日。俺達が思い描いたステージが9割方完成し、俺と今日子さん達、そして助っ人である創一も交えて微調整の段階に入っていた。
「さんきゅな
「構わないさ。会場設営にボクも携われて光栄だよ。少しは役に立てたかな?」
「かなりな。お前身長でかいからさ、高いとこに花付けたりするのは俺達だけじゃ出来なかった。創一がいたから、スムーズに設営できたんだ」
創一は俺達より身長が高く、且つ腕も長いから高所での作業にめちゃくちゃ向いていた。俺の手が届かない範囲の箇所にも飾り付けをしてくれたお陰で会場をもっと華やかにすることができた。マジで助かった。グッジョブすぎるぞ創一。
「力になれたのなら嬉しいよ、
「そりゃあまぁ、そうなんだけどさ。いつ見せようかな……歩夢のステージ作ったのまだ本人に言えてないんだよ」
「そうなのかい? すぐに報告できると思うけどね。……おっと。ボクはそろそろ失礼するよ」
言いながら急にカバンを背負う創一。何か用事でもあるんかね?
「ん。何かあるのか?」
「いいや? 後はもうキミ達に任せていいと感じただけさ。紡君、キミの想いが上原さんに届くことを祈ってるよ」
「……ああ。絶対、伝えてみせる」
「「「創一先輩、ありがとうございました!」」」
「礼には及ばないさ。また会える日が来ると信じているよ! さらば!」
カッコつけながら颯爽と帰っていった創一。本当にこいつは。最後の最後までキザでいやがる。でもお人好しなことに変わりはない。だからあいつと友達やれてるんだし。何はともあれ助かった。あとで改めてお礼のメッセージ送っとくか。
創一を見送った方角から、人影がどんどんこっちに近付いてくるのが見えた。目を凝らしてよく見てみると、その人影は俺達が想いを伝えたいと願う張本人だった。
「あれ……歩夢ちゃんですかね?」
「すげぇ良いタイミングで、来てくれたな」
この状況を見計らったんじゃないかと思うくらいのタイミングで歩夢が駆け付けてきた。ってかまさか創一、歩夢が来るのを予測して先に帰ったのか? いや。そんな筈ねぇか。だとしたらそれは最早エスパーの域だ。偶然だ偶然。
「
「歩夢。来てくれたんだ」
歩夢にゆっくりと近付いて出迎える。俺の名を呼んだ歩夢はこないだまでとは違う、どこか決意に満ちた表情をしていた。これなら……存分に見せられる。
「出来たよ。歩夢のステージ!」
今自分がいる正面から歩夢の横に位置を変え、歩夢にステージの全貌を見せた。数え切れないくらいの花が飾られた、歩夢だけのライブ会場。俺達で生み出した最高の場所だ。
「皆で作ったフラワーロード。今日子さん達と力を合わせて完成させた、歩夢の晴れ舞台だ!」
「歩夢ちゃん、最近元気なかったから……皆で1つ1つ、気持ちを込めて作りました!」
この華やかなステージを作るのに、苦労もけっこうあった。どんな花を使うか、どういう配置をしようか悩んだり、花を並べるだけでも5人で精一杯やって2日もかかっちまった。けど、歩夢の為なんだ。苦労してナンボだろ。歩夢の為なら、俺はなんだってやれる。
「歩夢のイメージにもぴったりだしな。花言葉だってあるんだぜ?」
今日子さん達3人が黄色いガーベラを手にし、歩夢にそれを見せた。
「黄色いガーベラの花言葉は、『愛』。私たちの気持ちです!」
改めて見ても、今日子さん達らしい花だな。歩夢への愛を花で表すってアイデアは俺では思い付かんかったし、やっぱすごいファンだよ、この後輩達。
「こんな……私の為に……」
「こんなじゃねぇよ、歩夢」
歩夢が自分を卑下する理由はまったく無い。歩夢を好いてくれるファンは、ここに居るんだから。
「可愛くて、純粋で、いつも頑張っていて……私たちはそんな歩夢ちゃんが、大好きなんです!」
それを聞いて歩夢は嬉しそうに顔を綻ばせる。今日子さん達の気持ち、ちゃんと届いたみたいだな。
「
真似っこだけど、俺も歩夢への想いを花にして伝えてみようと思って、ある花を使うことにした。その花を一輪手に取って、歩夢に差し出した。
「綺麗……! 花言葉は?」
俺は色んなことを考えた。その度に悩んで、迷って。夢のことや幼馴染のことで頭がいっぱいで眠れない夜だってあった。でももう……迷わない。どんなことがあっても、幼馴染には素直でいたい。どんな時でも、大切な幼馴染の側に、俺は……!
「『変わらぬ想い』。俺の気持ち……それだけは、変わらないってことだ」
ずっと、変わらなきゃって思ってた。変わらなきゃ前に進めないって。そう思い込んでた。実際は違った。たしかに変わらなきゃいけない時は来る。だけど……夢の為だからって、変える必要が無いものまで変えることはないんだって気付いた。
俺は自分のホントの心に従わずに『歩夢の為に』って言って遠ざけようとした。それで歩夢が楽になるならって。それが根本から間違ってたことを果林さんが教えてくれた。きっと歩夢は最初から、俺と離れることを望んじゃいなかった。迷惑だと感じてたなら、とっくのとうに歩夢の方から離れていった筈だ。今の今までずっと俺の近くに居てくれたのは、歩夢も俺を『親友』だと思ってくれてたからなんじゃないかって結論に至った。
甘ちゃんかもしれない。弱いかもしれない。けど俺は本当は……歩夢と生きてたい。離れたくなんて、ないんだ。
「歩夢には、俺達が居る。それを忘れないでほしい」
「
歩夢には皆が居る。俺も、同好会の仲間も、今日子さん達だって。
「だから歩夢も……っ!? 歩夢さん!? ちょっ、ええっ!?」
いきなり歩夢に抱きつかれて上擦った声を出してしまった。マジか……3人共見てるのに……。
「「「あーっ! ずるいっ!!」」」
今日子さん達も声をハモらせながら歩夢の腕に混ざる。いやどんな状況よこれ? さすがに4人も抱えきれないよ……? それでも歩夢は腕に力を込め、俺達を強く抱きしめている。
「皆……大好きっ!!」
歩夢の口から出たその言葉に内心ドキッとしつつ、歩夢が喜んでくれた事実を確かに感じながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
「久しぶりだなぁ、一緒に帰んの」
「ふふっ、そうだね!」
学校での作業を終えた帰り。俺と歩夢は久しぶりに歩みを共にしている。やっぱり隣に歩夢がいると安心する。バス停の前に着いたところで足を止めると、歩夢は何か言いたげな顔でこっちを見た。
「ん、どした?」
「今日は歩いて帰らない?」
「そうだな。歩いて帰ろっか」
歩夢の提案に賛同し、今日はバスではなく、徒歩で帰ることにした。夕方だからかそこまで暑くないし、歩くにはちょうど良い気温だ。俺達は再度歩いて家へと向かった。
「……ねぇ」
「うん?」
「『前に進む』って、大切なものが増えていくってことなのかな」
しばらく歩いているところに歩夢にそう問われた。前に進む、か。俺達は一歩一歩前進してここまで来た。その中で大切なものがたくさん増えた。間違いなく、そういうことなんだろうな。
「そうかもな。たしかに増えてく。……いくら増えたって、変わらない大切なものだってある」
「え?」
「歩夢は、俺にとって大切な存在。それは絶対に変わらないよ。それだけは、絶っ対にな!」
「
「たしかに人は変わる。変われる。それは事実だ。でもさ……変わらないモンの1つや2つ、あったって良いんじゃないか?」
誰だって変わることができる。同好会の仲間達がそれを証明してる。俺だって変われた。泣いてばかりの毎日が、今じゃたくさんのものに囲まれて、楽しく過ごせてる。俺が変われたのは同好会の皆と、歩夢が居たからだ。
「うんっ……!」
泣き笑いの表情で歩夢は強く頷いた。歩夢も、変わらないことを望んでたというのを改めて認識できた。そこでふと、昔の記憶が脳裏をよぎる。あの時、歩夢の家で泣いていた日の記憶。
『うっ……ううっ……あゆむ……』
『つむちゃん……大丈夫だよ。わたしが居るから』
『ぼくは……生きちゃいけないの……?』
『そんな訳ないっ! わたしは、つむちゃんと生きていたい。ずっとずっと、一緒にいたいよ……だからそんな悲しい事、言わないで……』
『ぼくだってっ……あゆむと……』
あの時、俺が泣き止むまで歩夢が抱きしめてくれてたっけ。終いにゃ歩夢も泣き始めたんだよな……ずっと前から、一緒に居たいって俺に言ってくれてた。あの出来事から数年。俺達はもう1度、俺達の意志を確認し合うことができたんだ。
「フェスティバルの当日はやる事たくさんあるから、歩夢のステージはあんま見られないと思う。……悪い」
「大丈夫。私達は皆それぞれの場所、それぞれのステージで……」
「バラバラだけど、心は繋がってる……だろ?」
歩いてるうちにフェスティバルについての話題に移り、本番についての話をした。当日はマジでやること山積みだから、皆のステージをゆっくり見られる時間は正直無さそう。でも皆なら大丈夫。俺も皆も、心は1つ。……今の歩夢になら、伝えられる。
「歩夢。俺、もっかい夢について考え直してみて、ちゃんと答えを出したんだ。聞いてほしい」
歩夢は真っ直ぐに俺を見つめながら頷いた。大切な人の為の夢。俺の答え。それらを今この場で全部話す。
「もう1度、音楽をやってみたい。最初はその為に音楽科に転科しようと思ったけど、やめた。独学で勉強する。そんで皆の為に、曲を作りたい。これが俺の夢。歩夢の為、同好会の為に叶えたい願いなんだ」
音楽は人の心を動かせる。心を熱くさせる。皆のお陰で今一度知れた。だから俺も、誰かの心を動かせるような、そんな曲を生み出したい。その為の勉強は、必ずしも学科を変更しなくちゃいけない訳じゃない。独学でだってやりようによってはちゃんとした知識を身に付けられる。
「そうなんだ。……私は、皆の為に歌うよ。私を信じてくれる人、応援してくれる人の為に」
「俺が夢を見つけられたのは、歩夢のお陰だ。この髪飾りが、俺と歩夢をずっと繋いでくれてたんだよ」
三つ編みにした髪に付けてる髪飾りを触りながら俺は歩夢に伝える。これがあったから自分らしくなれた。髪が長い自分を愛せるようになった。
「これからも俺は1番近くで歩夢を応援する。側で、ずっと歩夢を見てるから。たとえ違う道でも、君と一緒なら怖くない。歩夢と一緒に、歩いていきたいんだ!」
「私も、
優しく微笑みながらそう返す歩夢。歩夢は俺と距離を詰め、そっと手を握った。
「
「……歩夢。今までありがとう。これからも一歩ずつ、歩いていこう。俺と歩夢の、夢に向かって!」
俺達は再度自分達の意思を確認した後、より一層強く手を握った。先のことはまだわからない。これからどうなるかなんてわかりもしない。だからこそ俺達は前に進める。明日を、未来を信じられる。違う道だとしても、共に立って歩いていけるように。全ての始まりのこの場所で、俺と歩夢は想いを誓い合った。この想いが消えてしまわないように。これからもずっと、一緒に歩いていけるように。