虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也
時計が昼の12時を指し、スクールアイドルフェスティバルが開幕。開始から数分しか経ってないのに、もうたくさんの人が集まっていた。璃奈の宣伝効果恐るべし。イベントの情報はかなり広範囲のとこまで広まってたみてぇだ。ありがたい。
そんな訳で俺もお仕事開始。スクールアイドルフェスティバルのビラ配りと会場案内、見回りが主な仕事だ。呼び出しが入ったらそこに向かって対処しに行く感じ。1日中動き回る立場だから皆から『熱中症に気を付けてね』と何度も念を押されちまったよ。なので水分補給しっかりしつつ仕事をこなしていくか。皆頑張ってんだ。俺も皆に負けないように頑張らなくっちゃな!
フェスティバル開始から数時間。ライブ会場から歌声と歓声が遠くに居てもガンガン響いてくる。皆のライブの音を聞きながら動き回ってる度に、『自分は1人じゃないんだ』って気持ちになれた。暑さはきついけど、お客さんの歓声が俺のモチベになってる。皆の為、来てくれた人の為にしっかり宣伝していかないとって、身が引き締まる。まぁ今はちょっと水分補給兼小休止でベンチに座ってんだけどさ。
5分くらい休憩したところで立ち上がったその瞬間、強い風が吹いてベンチに置いてたチラシが何枚か飛んでいってしまった。
「あっ、やべっ!!」
急いで残ったチラシを抱え、飛んで行った方へ走る。その方角には1人の人が立ってて、その人の足元にチラシが落ちた。その人がチラシを拾い上げたのを確認し、俺は走るスピードを上げた。
「すみません! そのチラシっ……」
一定の距離まで近付き、チラシを拾ってくれた人に声を掛けた。その人が振り向いた時、思わず息を呑んだ。優しい色のチノパンに無地の白いTシャツ、紺色のベレー帽。オレンジ色の長髪をした女性だった。
あまりの綺麗さに驚きつつも、宣伝も兼ねてその女性にスクールアイドルフェスティバルについて話すことにした。
「あ、あの! 今スクールアイドルフェスティバルってお祭りをやってて、色んなスクールアイドルがそれぞれの場所でライブをしてるんです! もし興味があれば、来てみませんか?」
「スクール……アイドル……」
その人はチラシに目を通しながらそう呟き、その後に俺の方に視線を向けた。
「キミは、スクールアイドルが好き?」
「……えっ?」
いきなりの質問に一瞬ビクッとなったが……俺の答えは1つだ。
「はい。……大好きです。俺を変えてくれた存在、そして……俺に夢を見つけさせてくれたのが、スクールアイドルの皆ですから!」
きっかけはせつ菜さんのライブを見た時。そこからどんどんスクールアイドルの存在にのめり込んでいって、同好会に出会って。たくさん仲間ができた。その仲間が俺を変えてくれた。前に進む勇気をくれた。そんな大切な人達を、『大好き』と呼べねぇ訳ないだろう。
「……そっか。キミの夢、叶うと良いね」
「もう、叶ったみたいなものですけどね。このイベントは元々俺が考案したものなんです。スクールアイドル達に、もっと大きな場所で歌ってほしいなって思って。それで今日、無事に開催することができました」
「ふふっ。本当に、スクールアイドルが好きなんだね」
「まぁそうですね……あ、スクールアイドルフェスティバルも俺の夢なんですけど……『これからも側でスクールアイドルを応援する』ってのが、今の俺の夢かもしれません」
スクールアイドルフェスティバルがゴールという訳じゃない。もっとたくさんの人にスクールアイドルを知ってもらいたい。だから自分のできること……曲を作るのも含めて、同好会の為に役に立つ人で在り続ける。それが……俺の本当の夢なのかもな。
「きっと辛いことがあったり、『もうダメかも』って思うことがあるかもしれないけど、キミならきっと大丈夫。一緒に居てくれる仲間を、大切にするんだよ?」
その人のこの言葉には異様な説得力があった。その人も夢を追いかけた人なんだろうなって、一瞬で分かるくらいには。
「もちろんです! 仲間と共に、これからも歩き続けます!」
俺の目の前に立つ女性の青い瞳を真っ直ぐ見据えながら、俺は自信を持ってそう答えた。
「……ファイトだよっ!」
その人はそう言って優しく微笑んだ後、踵を返して歩いていった。
「あのっ! ちょっと待っ……」
「
その人を引き止めようとした時に後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきたので振り返ると、俺と同じ黒いTシャツを着た歩夢がこっちに来ていた。
「歩夢! ライブお疲れ様。ちゃんと水分取ってるか?」
「うん!
「バッチリ取ってるよ。俺が倒れる訳にはいかないからね」
額の汗を軽く拭いながら歩夢にそう言うと、歩夢は俺が抱えてるチラシの束に目線を移した。
「ずっとチラシ配ってたの?」
「ああ。もっと色んな人にフェスのこと知ってもらいたいしさ。今だって、1人の女の人に知ってもら……って、もう居なかった……」
ダメ元で後ろを見てみると、案の定さっきの女性の姿はなかった。
「その人って、
「見えてたんだ。そうそう。でもあの人、なーんかどっかで見たような気がするんだよなぁ……」
その人と話してる時から既視感みたいなのは感じてて、最後のあの笑った顔で既視感が余計に強まった。なんだろう、初めて見た気がしないというか……うーん、謎い。
「そうなんだ……ありがとう、
「当たり前だろ? ってか、こんなに頑張ろうと思えるのは歩夢が居るからだ。前も言ったろ?」
「うん、そうだったね!」
歩夢からの『ありがとう』は本当に救われる。ああ、頑張って良かったなって心からそう思える。皆が必要としてくれてるって分かるから、俺も全力で頑張れるんだ。
「おっと。わり、呼び出し入った。歩夢、またあとでな!」
スマホの通知音が鳴ったので開くと、メッセージアプリに来てほしい旨が書かれた文が表示されてたので、そっちへ向かうことに。
「頑張って!
「おう! 歩夢も頑張ってな!」
歩夢に手を振って全力ダッシュで現場へ向かう。こっからまだまだ忙しくなりそうだ。終わりの時間まで、絶対乗り切ってやらぁ! 気張るぜ俺ェ!!