虹×夢カラフルデイズ   作: 龍也/星河琉

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第40話 あなたの為の歌

 歩夢に言われた通り、俺は客席の位置に着き、皆の準備が終わるのを待っていた。待っていると後ろから肩をつつかれたので振り返ると、黒いワンピースに身を包み、いつもの変装をした(つなぎ)がそこに居た。

 

「おつかれさま、つむぎ」

 

「姉さん! ってマジで来たのかよ……」

 

「当たり前でしょ? つむぎが作ったステージ、それに歩夢ちゃん達の歌を聞きたいもの。会場に私の()()も来てたみたいだけど、もう帰っちゃったわ。あの人も最後までここにいれば良かったのに」

 

「師匠……? まぁ良いや。姉さんも楽しんでくれてたなら何よりだ」

 

「ええ。私は遠くの方で見てるから、つむぎは近くで見てなさい? 歩夢ちゃん達、スクールアイドル同好会の歌を」

 

 そう言って繋は目を細めて笑う。マスクしてるから口元は見えないけど、笑ってるってことは一目で分かった。

 

「ああ。特等席で見届けるよ!」

 

 

 

 

 

 しばらくするとステージの明かりが一斉に点き、会場内に大きな歓声が響き渡る。そのステージに上がっているのは、各々のライブ衣装に着替えた同好会の皆だった。個性溢れる各々のライブ衣装をここでもう1度、見ることができた。

 

 歓声が収まった後、かすみ1人にスポットライトが当たり、ライブのMCが始まった。

 

「最後のステージに集まっていただいた皆さん! そして……モニター越しに見てくれている皆さん! 今日は私達と一緒に楽しんでくれて、本当にありがとうございます!!」

 

 かすみの『最後』という言葉を聞いて、俺の体に緊張が走る。そうだ、これで最後なんだ。その最後を締め括るのが……虹ヶ咲。東雲と藤黄が託してくれた、この最後のステージ。色んな感情が、想いが込み上げてくる。

 

「ちょっとアクシデントもあったけど、皆のおかげで、このステージに立つことができました!」

 

 愛にスポットが当たり、観客を見渡しながら堂々とそう言った。そーいや、愛からフェスティバルのこと、めちゃくちゃ相談されてたっけ。少しでも良いライブにするって、すっげぇ張り切ってたもんな。その成果が今、このライブ会場に現れてる。

 

「今日は色んなステージを周って、皆と繋がることができて、とっても大切な1日になりました!」

 

 璃奈が1番大事に思っていた、『誰かと心を繋ぐ』こと。それが今日叶えられたおかげが、璃奈の声はいつもより明るいものだった。めちゃくちゃ感慨深いものがあるな……。

 

「スクールアイドルフェスティバルは、みんなの夢を叶える場所! 私たち同好会は、グループとしてではなく……1人ひとりがやりたい夢を叶えるスクールアイドルとして、歩き始めました!」

 

 しずくの言う通り。フェスティバルのコンセプトは『皆の夢を叶える場所』。皆それぞれに想いが、気持ちがあって。皆違うからこそ、それぞれの良さが際立ってるんだ。グループじゃなくてソロで活動するって決断は、結果的に良いものだったって今は心の底からそう思える。

 

「1人で夢を追うことは簡単ではなくて……それぞれが、それぞれの壁にぶつかったけど……」

 

「その度に誰かが誰かを支えて……今日、ついに大きな夢を叶えることができました!」

 

 お次は果林さんとエマさん。そうだよな。皆めちゃくちゃ悩んだよなぁ。でも皆には、側に居てくれる人がいて。俺も力になれるように頑張った。共に支え合うことで、俺達は前に進むことができたんだ。

 

「私達は……1人だけど、独りじゃない!」

 

「今まで皆に支えてもらった分、次は私達が、皆の夢を応援します!!」

 

 彼方さん、それに続けてせつ菜さん。そうだ。俺達はもう、1人じゃない。大切な仲間が居る。切磋琢磨し合える仲間が居るんだ。皆、気持ちは一緒なはず。

 

 そしてMCの最後の1人。俺の親友……そして、最初に夢を誓い合った大切な人。歩夢にスポットライトが当てられた。

 

「これからも、つまずきそうになることはあると思うけど……『あなた』が私を支えてくれたように、『あなた』には、私が居る!」

 

「っ……」

 

 歩夢らしい答え。そして……1番心に響く言葉だった。歩夢がつまずきそうな時、必ず俺が側で支える。1番近くで歩夢を応援する。そう誓ったんだ。一緒なら、俺達は真っ直ぐ前に進める気がする。歩夢が居てくれるから、俺が俺でいられるんだよ。

 

「この想いはひとつ! だから……全員で歌います! 『あなた』の為の歌を!」

 

 歩夢が手を伸ばすと、皆も揃って手を伸ばした。皆で歌う歌……? そんな話聞いたことないけど……? 

 

「「「私とあなたの応援歌! 『虹×夢(にじゆめ)カラフルデイズ』!」」」

 

「なっ……!?」

 

 皆が同時に曲名を言い、俺は思わず頓狂な声を上げた。だってそれ……俺が考えてた曲名だ。『夢に虹を架ける』って単語でピンときて生まれた曲名なんだけど……歌詞は完成してないはずだぞ!? なのに……って、おい。ちょっと待ってくれ!! 

 

『いつも通りの日々』

 

『何かが変わり始めてる』

 

『皆と出会えて色が溢れた』

 

『新しい世界を観に行こう』

 

『君と一緒に』

 

 皆それぞれが曲のメロディに乗せて歌詞を言葉にしていく。暫く聞いてようやく分かった。それらは……俺がくしゃくしゃにして捨てたはずのルーズリーフに書いてあるものだった。……もしかしてあん時、散らかってたルーズリーフが片付いてたのは、皆あれを持って帰ってたからか!? それで俺の代わりにこの曲を……『虹×夢カラフルデイズ』を完成させたってのか? この短期間で!? 

 

『夢色の虹を架けよう』

 

『笑って泣いて、怒って悩んで』

 

『カラフルな毎日だからこそ楽しい』

 

『いつも側で感じてる 君の想い』

 

『完璧じゃなくていい』

 

『君は君で僕は僕だから』

 

『信じた道を進めばいい』

 

「……ははっ。そんな歌詞、書いた覚えないっての」

 

 そういうことか。やっと気付けた。俺、皆の為に曲を作りたかったから作詞してた。でも……『皆の為に』って気持ちが先行して、いつのまにか『完璧じゃなきゃいけない』って、固定概念に囚われてた。けど実際は違ったんだな。ごみとみなして捨てたはずのモンが、今ここに曲として、歌詞として生まれ変わってる。そこに皆が考えたであろう歌詞も付け加えられてて……本当に1つの曲として完成していた。だから、『私とあなたの応援歌』か。俺が皆の為にって生み出した物を、スクールアイドル同好会の為だけじゃなくて、俺を含めた観客全員に向けた物にしちまうなんて。こんなん聞かされたらさ……。

 

「……泣くに決まってんだろ。バカ」

 

 皆の最後のライブ、晴れ姿が涙でぼやけてよく見えなくなる。次から次へと発せられる曲の歌詞の1つ1つを聞きながら、周りの観客を驚かさないよう、俺は声を押し殺しながら涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の最後のステージを以て、スクールアイドルフェスティバル全日程終了。観客は皆満足した様子で帰っていった。そんな中、俺は繋と合流し、フェスについて色んなことを話した。

 

「……そう。あれ、元々つむぎが作った歌詞だったのね」

 

「ああ。いつまで経っても曲を完成させられない俺を見かねて、皆が代わりに作ってくれたんじゃない? なーんて」

 

「つむぎの歌詞があまりに素晴らしいから、同好会だけじゃなくてもっとたくさんの人に届けたいと思ったからそうしたんじゃない?」

 

「さ、さぁ! どうだかな! ってむず痒いわ! 俺はただ思ったこととか、気持ちを形にしてただけだから!」

 

「その言葉が、皆の心を救ってるのよ。それが、同好会の『勇往邁進』に繋がってるんだと思うわ」

 

 要は躊躇わずに真っ直ぐ進める力になってる、ってことか。だと良いな。俺にできるのはちっぽけなことかもしれないけど、それで誰かの心を救えるんなら……なんだってやるさ。

 

「つむぎさーん!!」

 

「あら、噂をすれば」

 

「この声、せつ菜さんだな。行くか、姉さん」

 

「ふふっ。ええ、行きましょうか」

 

 せつ菜さん達が俺達の方へ走って近付いてきたので、俺と繋もゆっくり歩を進めて距離を詰めた。

 

「あっ、繋さん! ご無沙汰しております!」

 

「せつ菜ちゃん、それに皆さんも。今日は大いに楽しませてもらいました。ありがとう」

 

「皆……今日は本当にお疲れ様!」

 

 俺と繋で皆に労いの言葉を掛ける。ホントに皆頑張ったよ。アクシデントがあった中であんな最高の熱量を出せたんだから。すごいよ。同好会の一員であることを、心底誇りに思う。

 

「同好会の皆さんがいることですし、紹介した方が良いわね」

 

「んあ? 紹介?」

 

 繋が藪から棒にそう言い、後ろを向いた。その視線の先にあるのは大きな樹木。いや、何で……? 

 

「そんなところに隠れてないで、そろそろ出てきたらどう? ……()()

 

「は……? 姉さん、今!」

 

 繋が呼びかけたことにより、木陰から1人の男性が姿を表した。俺や繋と同じ黒髪、優しくて、そして儚げな表情をしている男性。一瞬見間違いかと思ったが、あの顔を……俺が見間違えるはずがない。その男性は俺達の方へ近付き、そして口を開いた。

 

「皆さん、初めまして。つなぎ……そしてつむぎの父親の、高階(たかしな)(おさむ)です。いつも、息子がお世話になっております」

 

 男性は自己紹介した後、ぺこりと一礼する。そんでもって、繋と俺の顔を見て、フッと優しく微笑んだ。

 

「とう……さん……?」

 

「……久しぶりだね。つむぎ」

 

 声も、顔も。まごうことなき、俺の実の父親である高階(おさむ)だった。

 

「ずっと……会いたかったよ」

 

 

 

 




待ち望んだ再会



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