虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
突然の父親の登場に、せつ菜さんを筆頭に皆びっくりしているようだった。俺もびっくりだよ。まさか父さんも、スクールアイドルフェスティバルに来てたなんて。
「何で父さんがここに?」
「つなぎにしつこいくらい『来て』と言われてね。つむぎに会える良い機会だし、僕も来てみようと思ったんだ」
「なるほどね……」
そりゃ
「あなたが、つむぎ先輩のパパさんですか?」
かすみがズンズンと勢いよく父さんに近付き、詰め寄った。え、何か怖いですよかすみさん? どうしたんだ一体。
「かすみ?」
「そうだ。僕が、つむぎの実の父親だよ」
父さんは淡々とかすみに事実を伝える。するとかすみは父さんを睨みつけ、拳を握りしめる。
「どうして……どうしてつむぎ先輩を見捨てたんですかっ!? パパさんのせいでつむぎ先輩は……あんな辛い思いしたんですよ!? 分かってるんですかっ!?」
「おいかすみ……」
「ああ。分かっているよ……」
目に涙を溜めながらかすみは父さんを非難する。父さんは辛そうに顔を歪め、かすみの糾弾を受けた。
「分かってるなら何ですぐに助けなかったんですか!? そんな人が……今更なに父親面してっ……」
「かーすーみっ!」
「あたっ!」
これ以上言わせんのはマズいと思ったから、かすみの頭に軽く手刀を落として言葉を遮った。まぁ、父さんのことはあんまり話してなかったからこうなるのも無理ないだろうけどさ。
「先輩っ!」
「これ以上は言わねぇ方が良いぞ」
「で、でも……」
「お前の言う通り、たしかに父さんは家を出ていった。すぐに動けなかったのも事実だ。……けどな!」
父さんは家を出て行ってから、俺の為に高等部進学の為の費用や授業料とかずっと稼いでくれてた。繋と力を合わせて問題も解決してくれた。だから決して何もしてなかった訳じゃない。
「……それでも俺の父親だ。貶されんのはさすがに気分悪ぃぞ」
「うっ……ご、ごめんなさい……」
若干声のトーンを低くしてかすみに諭すと、すぐに反省したようだった。前から思ってたけど、かすみは決して物分かりが悪い人間じゃない。指摘されたらちゃんと謝れるし、何より……俺の父さんとはいえ、見ず知らずの他人にあれだけ真正面からものを言えるくらいには肝っ玉が据わってる。俺の為に言ってくれたってのは分かるから、俺はかすみの頭にポン、と手を乗せた。
「でもまぁ、俺の為を思って言ったんだよな? ありがとな、かすみ。お前のそういうとこ、嫌いじゃねぇよ?」
「つむぎ先輩……」
俺の為にああやって怒ってくれたことに対してお礼を言いつつ、かすみの頭を軽く撫でた。良い奴だよお前は。本当に……。
「
「えっ、良いのか?」
歩夢からの提案に俺は父さんと顔を見合わせる。気持ちは嬉しいけどさ。皆を待たせることになるからなぁ。
「行ってください、つむぎさん! お父様がいるとなれば話は別です! 積もる話もあるでしょうし!」
「せつ菜さんまで……さんきゅ。それじゃお言葉に甘えて、行ってくるわ」
「はい! 皆でつむぎさんを待っていますから!」
「皆さん、本当にありがとうございます。つむぎ、ああ言ってくれているんだし、少し話そうか」
「……ああ。話したいこと、たくさんあるしね」
皆が皆お人好し過ぎて参っちまうわ。こんな優しい人達と巡り会えて良かった。っつーことで俺と父さんは今いる広場からちょっぴり離れたベンチへと向かった。
「そうか、あの子は中須かすみちゃんというんだね」
「うん。さっきはびっくりさせてごめんな。悪い奴じゃないんだ。ってかむしろすげぇ良い奴なんだよ」
2人でベンチに腰掛けて、これまでの事と、同好会についてのことを話した。父さんは親身に話を聞いてくれる。久しぶりだから緊張するかなって思ったけどそんなことなかったな。父さんといるとなんだか心が落ち着くし、話しやすい。
「彼女がつむぎの為に本気で怒ってるというのは伝わった。余程信頼されているんだね。かすみちゃんだけでなく、他の人達からも」
「おかげさまでな。同好会の力になる為に色々頑張ったから、かな」
「それでこれ程の規模のイベントを開催するとはね。正直驚いたよ。これをつむぎが企画したなんて」
「俺にできることはこれくらいだからな。皆の為に……ただ、ガムシャラに動いてた」
「つむぎ、さっきからずっと気になっていたんだが、その喋り方は……」
父さんに指摘されて俺はハッとした。そうだ、父さんはこの口調の俺を知らない。父さんが知ってるのは昔の喋り方だ。
「あっ……ごめん。変、かな? 特撮のキャラの口調を真似たらいつのまにかこんな喋り方になっちゃってさ。『ぼく』に戻した方がいい……?」
「いや、そのままでいい。むしろその喋り方の方が、僕は好きだ。それがつむぎの自分らしさ、なんだろう?」
父さんはにこっと笑い、今の俺自身を肯定してくれた。
「うん。そうだよ。これが今の自分。『
歩夢の影響が1番大きいけど、同好会の皆が受け入れてくれたから、俺でいられる。今じゃそれが当たり前になりつつあるから忘れそうになるけど、本当に幸せなことだよな。
「名前……そうだ、まだつむぎに伝えていなかったことがある」
「伝えてなかったこと? なに?」
伝えてなかったこと……しばらく考えたけどいまいちピンとこなかったので首を傾げながら父さんにそれが何かを聞いた。
「つなぎとつむぎの……名前の由来だ」
「……姉さんに聞いたのか? 俺が由来知りたがってたの」
「ああ。つなぎにはもう伝えていたんだがね」
やっぱりかぁ。繋経由で知ることになったか。俺はずっと、自分の名前に疑問を抱いてた。母さんは何で俺に『紡』なんて名前を付けたのか。何か意図があって付けたのか、それとも何も考えないで繋に似た単語だからってんでそう名付けたのか。
「僕と
「たしか……同じバンド仲間だったんだよな?」
最近繋からそれをちらっと聞かされた。俺達の親は昔音楽やってて、一緒に活動してたことを。母さんにもそんな時期があったんだなって、なんとも言えない気持ちになったけど。
「そうだ。でも僕達は夢を諦めた。音楽で人を幸せにして、高みへ行くという夢。現実はそう甘くなくて、僕達は見切りをつけた。つけた筈なのに、無意識に我が子にそれを求めていたんだ」
『我が子に求めた』。それを聞いて俺は生唾を飲み込む。だとしたら……父さんと母さんが俺と繋にさせようとしていたことは、自分らが叶えられなかった『夢』を、子供に叶えさせたかったってことになる。
「じゃあ最初から、姉さんに音楽やらせるつもりだった、ってこと?」
「そう……なるな。だから僕達は長女であるあいつに、歌で誰かの心を繋げられるように、そして僕と母さんを繋ぎとめてくれた存在だから、母さんが『
「そうだったんだ……」
だったら納得がいく。最初からそうさせるつもりだったんなら、繋に最初からピアノとか諸々必要なもんを買い揃えてたのも自然だ。それを父さんから聞かされて繋はどう思ったか知らないけど、今の関係性を見る限り不仲ではなさそうだし、仲は良い方だから安心だな。だけどここで1つ問題発生。繋がそうだったんなら俺もそれに倣って付けられたもの、なのか……?
「じゃ、俺の名前はどうなんだ? 姉さんと一緒で、『あの人』が俺の名前を……叶えられなかった夢を子供に押し付ける為に……付けたっていうのか?」
単刀直入に父さんに聞いた。こうなったら聞かずにはいられない。俺は本当のことが知りたい。どんな理由であれ、俺のルーツを、ここで知りたいんだ。
「いいや。母さんの中につむぎがいるとわかった時、『名前を考えさせてくれ』と言ったのは僕だ。お前の名前は、母さんが名付けた訳じゃない」
「え……?」
マジ? 母さんが俺の名付け親じゃねぇのか……? 初耳なんだけど。いや初耳で当たり前なんだけどね。まぁじで?
「僕には……つなぎに自分達と同じ道を行かせたことに後悔があった。次に生まれてくる子には、それを押し付けたくなかった。ちゃんと自分自身の人生を紡いでいけるように、そして、『他者と心を紡ぐことができるように』という願いを込めて……『
「そうか、だから……紡、か」
初めて聞いた自分の名前の由来に胸が熱くなった。俺の名前は母さんの願いじゃなくて、父さんの想いと願いが込められてたんだ。1人の人間、息子としての人生を生きてほしかったからって。なんだか、父さんらしいな。母さんと違って父さんはいつも優しかった。母さんは自分の叶えられなかった夢を叶えた繋に固執してたけど、父さんは平等に俺達と接してくれていた。昔は父さんみたいな口調だったのも、無意識ながら真似てたんだろうな、きっと。
母さんのした事も今思えば気持ちは分からなくもないというか、そりゃそうなるよねって。おそらく……母さんは本気で叶えたかったんだろうな。音楽で高みへ行くって夢。それが自分には叶えられないと諦めた瞬間から、繋……自分の子供に叶えてもらおうと考えてたんじゃないかな。繋と比べて不出来だった俺に対しての態度は、要は失望から来るもんだったはず。側から見ればめちゃくちゃ胸糞悪い話だけどな。
「ま、つむぎも音楽をやるとは思わなかったけどね。皮肉な話だ。やらせるつもりはなかったのに、自らやりたいと言うもんだから、『駄目』と言う訳にもいかなかったんだ。……あの時強く止めていれば、つむぎにあんな思いさせずに済んだかもしれないのに」
「父さん?」
父さんはそう言って肩を震わせる。見るとズボンにシワがつくくらいに拳を強く握りしめていた。
「ごめんな、つむぎ。僕がもっと、ちゃんと母さんに言うべきだったんだ。『我が子に夢を求めるのは間違ってる』って。僕のせいで、つむぎを不幸にさせてしまった……ごめん……ごめんな……」
俺に言葉を伝える声がどんどん震えていき、父さんの手の甲に涙が落ちた。俺に対して、罪悪感があったんだな。繋と同じで、すぐには問題を解決できなかったこと。けれどもうそれらは言っちゃえば過ぎた話だ。それに父さんはずっと俺のことを思ってくれてた。そんな人を、責められる訳がない。
「父さんが謝る必要ないよ」
「つむぎ……」
涙で濡れた顔で父さんが俺を見つめてくる。もしも俺が『不幸』だと言ったら、今までのことを、『俺』を全部否定することになる。そんなの……御免だね。父さんが俺に込めた願いにだって、裏切ることになっちまうからな。
「たしかにしんどかったさ。死んでしまいたいとも思ったよ。けど、俺には歩夢がいた。歩夢だけじゃない。高等部に進学してからは、いっぱい仲間ができた。今の俺には、こんなにたくさんのものに囲まれてる」
最初は、自分を理解してくれる歩夢さえいればそれでいいって思ってた。今は違う。せつ菜さんと出会えて、俺の世界が広がって、歩夢の世界も広がっていった。それで俺達には夢ができた。母さんから虐げられて『明日なんか来なきゃいいのに』って思ってた俺が、『明日が待ち遠しい』って思えるようになれたんだ。
「一緒にいてくれる人がいる。夢だってある。やりたいことも実現できた。それに姉さんも父さんも、ずっと俺を助けてくれてた。……不幸なんかじゃないよ」
そうだよ。不幸であってたまるか。身内も俺を支えてくれて、今日こうして俺に会いにきてくれた。何より……父さんからの愛情があるって、気付けたから!
「今、俺は変われてる。ちゃんと笑えてる。こんだけ『幸せ』なこと、他にあるかよ。はっきり言ってやる。誰がなんと言おうと……俺は今幸せだ!
父さんを安心させる為に、俺は目一杯の笑顔を見せた。父さんが一瞬、目を見開いたがすぐ平静を取り戻し、口角が上がった。
「つむぎ……お前は本当に強い。強くて、優しい子だ」
父さんがそっと、俺の頭を撫でる。
「お前は、僕の自慢の息子だ」
……そりゃこっちのセリフだ。あなたも、俺の自慢の父親だよ。
「今まで、本当によく頑張った。僕達の子供が、つむぎとつなぎで良かった」
「俺も……俺の親が父さんで良かった。今までありがとうな。俺を救ってくれて……本当にありがとう」
「ああ……ああ!」
父さんが笑顔で俺を強く抱き締める。華奢な体格から出てるとは思えない程に、力強く抱き締められる。久しぶりに感じた親の温もりは、涙が出そうなほど暖かく、それでいてすごく心地の良いものだった。
「つむぎ、お友達のところに行ってきなさい」
「良いのか?」
これからのことを一頻り話し終えたら、父さんは皆の所へ行くように言ってくれた。
「大丈夫。これからたくさん会って話せばいい。皆、お前を待ってる筈だ」
「父さん……ありがとう。じゃあ歩夢達のところに行ってくるよ!」
「ああ。いってらっしゃい」
ベンチから立って姿勢を正し、皆が待ってる方へ行こうとダッシュした手前、言い忘れたことがあったので立ち止まり、父さんの方を向く。
「あ、父さんー!」
これだけは伝えなきゃな。これから何回も会えるとはいえ、言っとくに越したことはないだろうし。
「……またな!」
大きな声で別れの挨拶をして手を振ると、父さんは笑って手を振り返してくれた。ああ、親が居るってこういうことなんだろうなって改めて感じる。言葉では形容し難いけど、なんかこう、あったかい感じ。これも昔の俺なら絶対味わえなかった。これでまた俺は前へ進める。一緒に進む、待ってくれる人もいるしな!
「皆ーっ!」
「あっ、つむぎさん!」
せつ菜さんが真っ先に俺の声に気付き、手を上に挙げた。30分くらい待たせちゃったけど、全員あの場所に残ってくれてた。
「お父様とは、もういいんですか?」
「ああ。父さんが皆の元に送り出してくれたんだ。ってか、何で皆俺のこと待ってくれてたの? 疲れてるだろうし、帰ってても良かったのよ?」
「いいえ! 今日のライブの感想、まだ聞いていませんから!」
そういえば、たしかに。まだ言えてなかったわ。どうりで皆帰らず待ってくれた訳だ。そういうことね。
「
「うん?」
「今日の私達のライブ、どうだった?」
同好会の皆を代表して、歩夢が真っ先に俺に聞いてきた。もう、俺が何て言うか分かってるくせに聞いてくるんだから。ったく。
「正直びっくり尽くしのライブだったわ。俺が考えてた曲をいつのまに完成させてるし。サプライズにも程があるっての! よくもやってくれたな皆!」
「かすみんが提案したんですよぉ〜? つむぎ先輩とかすみん達で曲を作って披露したいって!」
「ホント、お前に色々振り回されっぱなしだわ! 感想はたくさんあるけど、これだけ言わせてくれ! 良いか?」
俺がそう皆に聞くと、全員満場一致で首を縦に振った。じゃあ問題ねぇな! このお祭り騒ぎの最後を締め括ったあのライブ。俺が抱いた感想を総じて纏めると、この一言に尽きる。
「……最っ高だ!!」
あのライブの熱量、ワクワクとドキドキを思い出すと、腹の底から笑顔が漏れた。あのライブを、俺は一生忘れない。忘れられない。皆の想いは、ちゃんとこの胸に響いてる。みんなの夢を叶える場所。スクールアイドルフェスティバルは、皆この上なく満足な様相を呈して幕を閉じた。