虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
4時間目の授業が終わった昼休み。俺は学園内にあるカフェでパンを食べながら、スクールアイドルの情報誌を読んで今日も研究に勤しんでいる。いつもは歩夢と一緒に昼食をとっているが、今日は歩夢のファンの人達が「お昼を一緒に食べたい」とのことだったので、今日は別々に。昼にスクールアイドルの研究をするのは初めてだが、なかなかどうして悪くない。腹も満たせて情報も頭に入れることができて一石二鳥だ。5時間目までまだけっこう時間あるし、ゆっくりできそうだ。
「ふぅ……」
「隣、いいかしら?」
「あ、はい。どうぞどう……」
コーヒーを飲んで一息ついたところに隣から声を掛けられたので振り返ると、見慣れた人物が立っていた。しかも3人。
「朝香さん、ヴェルデさん、近江さん……は寝てんな……」
近江さんはヴェルデさんにもたれかかって眠っている。午後の授業も残ってるのに大丈夫かな……ちょっとはバイトのシフト減らした方が良いんじゃねぇの……?
「こんにちは紡ちゃん。珍しいね、紡ちゃんがカフェにいるなんて。ね、果林ちゃん?」
「たしかに珍しいわね。今日は歩夢と一緒じゃないの?」
「歩夢はファンの人達と飯食ってる。お邪魔かなと思って俺はここで優雅に昼のひと時を過ごしてたとこよ」
「あぁ、そういうこと。せっかくだし、私達もここに座らせてもらえる? どこも満席なのよね」
「ほんとだ……どぞどぞ。お好きなように」
「ふふっ。ありがとう、
そうして朝香さんは俺の隣、ヴェルデさんと近江さんは対面になるように座り、各々昼食をとり始めた。そういや、3年生ズとこうして4人一緒になるの初めてかも。同好会では一緒だけど皆も含めてだし。
ヴェルデさんは相変わらずよく食べること。一食分の量なのかこれ……? それに比べて朝香さんは少食すぎねぇか……? この量で6時間目まで保つんだろうか。近江さんは椅子に座っても寝たままだし。早速それぞれの個性が爆発してるよ。
「紡ちゃんの食べてるそれ、コッペパンだよね?」
「ん。俺の中で今コッペパンがブームでさ。美味いには美味いんだけど、中須が作るやつの方が数倍美味いわ」
「それ、かすみちゃんに言ったらすごく喜ぶよ! 学食のコッペパンより美味しいって!」
「ぜぇーったいやだ。言ったら調子乗るし。ヴェルデさんも今言ったこと内緒にしといて。頼むわ」
「相変わらず素直じゃないわねぇ……たまには褒めたらどう? 紡に褒められたらあの子特に喜ぶもの」
「たしかにあいつのことは尊敬してるし信用もしてるけど、普段がああだから素直に褒めにくいんだよ……ってか喜ぶんかね?」
残り半分になった学食のコッペパンをかじりながら俺は朝香さんに聞いた。なんかなぁ、俺はまだまだスクールアイドルに関しては素人だから、桜坂や優木さんに褒められる方があいつにとっては嬉しいんじゃねぇか? わからんけど。
「きっと私やエマが褒めるより喜ぶわよ。だいぶ紡に懐いてるみたいだし。日頃のイタズラは好意の裏返し……なんてこともあり得るんじゃない?」
「げほっ、ごほっ……」
「あらあら、大丈夫?」
『好意』という単語に動揺してコッペパンが気管に入った。朝香さんが背中をさすってくれたおかげですぐに咳き込みは治ったけども。たまにものすごい爆弾発言するよなこの人……。心臓に悪ぃよマジで……。
「……中須が俺に好意? ないない。あれは絶対そんなんじゃ……」
「えー? でも同好会の人でかすみちゃんと1番仲良さそうなの紡ちゃんだよ? あり得るかも!」
「うーん……俺にもし妹がいたらあんな感じなのかなって思ったことはあるけど……あいつ、良くも悪くも後輩属性だし」
「それを言ったら、紡だって私から見れば弟みたいなものよ。可愛い後輩というか、ついお節介を焼きたくなるような……そんなカンジがするわ」
「わかる! 私も可愛がりたくなっちゃうもん! 紡ちゃんも、他の皆も!」
ヴェルデさんはまるで母性が具現化したかのような聖人だから分かるけど、朝香さんが言うとちょっと怖いというか……なんだろう、朝香さんだと拭いきれない違和感があるの何でだろう。言ったら怒られそうだから言うのやめとこ。
「私も……紡ちゃんかわいい弟みたいだなぁって前から思ってたよ〜?」
「近江さんおはよう。そういや近江さん妹いるからお姉さんだよな」
近江さんには『
「……姉とか兄って、何の為にいるのかな」
「ん〜? どうしたの〜紡ちゃん」
眠そうな眼がぱちっと開き、近江さんがじっと俺を見つめた。
「いや、あの……なんていうかさ、どういうことをすれば姉らしいとか、兄らしいって言うのかなって。弟や妹の世話することが姉らしいは、何か違う気がして……」
「んー……自分より後に産まれてくる妹や弟を、守る為じゃないかなぁ……?」
「守る、為?」
「うん。私がそうだったからさぁ……お世話も勿論そうだけど、妹が何か危険な目に遭ったりした時に、真っ先に動けるのがお姉ちゃんだしね〜。遥を想うと、不思議と力が湧いてくるんだよ〜」
「普通の姉だったら……そうなの? 絶対、そうするの?」
「もしかしたら私が過保護なだけかもしれないけどぉ……でもね……お姉ちゃんって、妹や弟の為なら、なんだってできちゃうもんだよ〜?」
「……そう、なんだ」
近江さんの言葉には説得力があった。妹の為に自分のことを後回しにして頑張れるんだから。だけど『アイツ』はどうだ。仕事優先で俺のことをちっとも見ちゃくれなかった。あろうことか、『アイツ』のせいで……『アイツ』ができ過ぎるせいで俺は……何年も何年も罵声を浴びせられた。近江さんと大違いじゃねぇか。少しは見習えよ……あのバカ姉貴が。
「紡ちゃんにも、お姉ちゃんとかいるの〜?」
「一応……いる。諸々の理由で会いたいとは微塵も思わないけど。忙しすぎてあっちが会う暇無さそうな気もするし」
「そうなんだ〜。いつか会いたいって思える日が来るといいなぁ……」
「あの人に会いたいって思うくらいなら、皆の為に何ができるかを考えるよ。そっちの方が、俺にとってずっと大事だしな」
冗談抜きで、『アイツ』のことなんかよりスクールアイドル同好会の方が優先に決まってる。あん時の泣いてばかりの俺じゃない。俺はここにいる。同好会の一員として生きてる。俺は『アイツ』とは違う。才能がある訳じゃない。だからこそ自分にできる最善を尽くす。
「じゃあ私達がその人の代わりに、紡のお世話をしないとね。いつもこっちがお世話になってばかりだし、たまには『お姉さん』を頼ってくれても良いんじゃない?」
「いや、何でいきなりお姉さん自称してんの? 遠慮させてもら……ッ!?」
「そんな固いこと言わないの。後輩は、先輩を頼るものなんだから。果林お姉さんが、色々してあげるわよ? ……あの人に頼まれてもいるし……」
「えっ、今なんて……」
朝香さんに顎クイされながら先輩風吹かされてんだけど。どういう状況? こういうのって普通男が女にするもんじゃないの? 最後にボソッと何か言ってたけど声が小さくて聞き取れなかった。なので聞き返そうとしたらヴェルデさんまで近付いてきた。
「果林ちゃんだけずるいよ! 私も紡ちゃんのお姉ちゃんみたいになりたい!」
「待っ……何で抱き付くの!? ちょっやめっ……」
ヴェルデさんが後ろからがっちり俺をホールドし始める。周りからの視線が痛ぇ! 公開処刑ですかこれ!?
「じゃあ私も〜。よしよーし。いい子いい子〜」
「近江さんまで……絵面がヤバいからやめよう!? ねぇ! ねぇ!? ってか朝香さん見てねぇで止めてくんない!?」
「良いじゃない。たまにはこういうのも。ふふっ。可愛がり甲斐のある後輩で良かったわ」
「何呑気に笑ってんだアンタ!?
周りの人がクスクス笑いながらこっちを見てくるのでそろそろここから飛び降りたくなってきた。顔が熱い。カフェの喧騒をかき消すくらいの俺の叫びも虚しく、しばらくこのまま3年生ズの可愛がりという名の拷問を受けた。でも姉貴を思い出したことによる胸糞悪さが、朝香さん達のおかげでいつのまにかどこか彼方へ消え去っていた。