虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
「つむぎさん! 先日話した『鬼殺のツルギ』のアニメDVDを持ってきました!! 是非見てみてください!!」
「あ、ああ……ありがと……」
生徒会の仕事を終わらせて同好会の部室に入ってくるなり、優木さんは前に俺が少し興味があると伝えていたアニメのDVD(おそらく全巻)が入った袋を差し出した。予想はしてたがやっぱ重てぇ……時間がある時にちょこちょこ見るようにしてるレイワンも残り数話ってところに差し掛かってるし、それが見終わったらこれも見るとしよう。
『鬼殺のツルギ』ってアニメがすげぇ流行ってるしニュースにも取り上げられるくらい人気なので優木さんに聞いてみたら、案の定漫画もDVDも両方持ってるとのことで、まだこっちが何も言ってないにも関わらず「貸します! 見てください!!」と半ば強引に布教が始まって今日に至る。優木さんってほんと自分の好きなものの紹介を事欠かないよなぁ。知ってもらいたい! っていう気持ちや熱意がすごく伝わってくる。それでいて説明もわかりやすいってんだから凄ぇ。
「『仮面リーダー』が好きなら、『鬼殺のツルギ』にも絶対ハマると思います! 話が面白いだけでなく、主題歌もすごく良いんですよ! 今大注目されている歌手の『
「えっ?」
一瞬、耳を疑った。は? 歌手の『りんく』だぁ……? いやまさか。『アイツ』が今流行りのアニメ……しかも主題歌のアーティストに抜擢されるなんてあり得ないだろ。名前が一緒なだけだろ、多分……。
「……その歌手さ、なんて調べたら出てくる?」
「アルファベットでL、i、n、kと打てばすぐに出てきます! 歌手としてもモデルとしてもかなり知名度が上がっているので!!」
「へぇ……そうなんだぁ……す、すごいねー……」
ギリギリ平静を保って相槌を打ちつつ、俺はポケットからスマホを取り出し、検索サイトに『Link』と打ち込み、画像を検索した。うわ、ガチですぐ出てきた……この長い黒髪、俺と同じ瞳の色、この笑ってんだか笑ってないんだかわからねぇこの表情……これほぼ確で『アイツ』じゃね? はぁぁぁぁ嘘だろぉぉぉぉ……。待てよ、落ち着け。もしかしたら人違いって可能性もある。よし、一応聞いてみよう。
「……この人?」
「そうです! その人が『Link』さんです! 私、『Link』さんの大ファンなんですよ!! 私が追っているアニメのOPやEDを数多く歌っていて、有名になる前からずっと大好きで……」
ですよねぇぇぇぇぇぇぇ!! 正真正銘俺が知ってる人……っていうか身内でしたわ!! まじで勘弁してくれ……しかも優木さん、『アイツ』の昔からのファン? 名前が同じの人違いであってほしかったわ!! まぁじで言ってる? 近くにいた歩夢にも恐る恐るスマホで『Link』の画像を見せたら、一瞬目を見開いて驚いたような表情で俺を見てきた。あの野郎……しばらく見ねぇうちにいつのまにこんな有名になりやがった……?
「……つむぎさん?」
「え! は、はい! なんでしょう!?」
「呼びかけても返事がなかったので……どうか、したんですか?」
「ううん! なんでもねーよ! DVD、ありがとな。今日も頑張ろうぜ、優木さん!」
「は、はい……頑張り、ましょう!」
なんとか明るい言葉と作り笑いで誤魔化し、皆と同好会の活動を再開した。『アイツ』が俺の姉だってことは皆には知られたくない。俺は『アイツ』と違って何も無い。音楽の才能も、何もかも。だから見切りをつけて習っていたピアノを辞めた。ピアノにしても歌にしても、追いつける気がしなかった。出来の良い姉と出来の悪い弟の俺。比べるにはもってこいだ。でももうこれ以上比べられんのは……うんざりだ。
活動が終わった帰り道。俺と歩夢は歩いて家に向かっていた。いつもはおしゃべりに花が咲くんだけど、今日はお互いに無言が続いた。何か話せる話題を考えてるうちにどんどん時間が経ち、もう少しで家に着くってタイミングで歩夢が口を開いた。
「
「歩夢は、知ってたのか? アイツが人気になってたこと」
「テレビにたまに出てたりするから、知ってたよ。
「歩夢が謝ることなんて無ぇよ。できる限り見ないようにしてたけど、こうも簡単に目に入っちまうとはなぁ」
「
「……驚きはしたけど、ひとまずは大丈夫だ。前みてぇに泣いたりはしねぇから。安心してくれ」
歩夢は勿論俺の姉のことを知ってる。面識あるし姉と話したことだってある。そんでもって、俺の悩みの種でもあったからおそらく俺と同じであんまり良いイメージは抱いてはなさそうだ。
歩夢は今にも泣き出しそうな顔をしていた。俺のことを1番よく知ってると同時に、俺の痛みや苦しみも分かっている。言葉では言わなくとも、歩夢が心配してくれていることはすぐにわかった。
「そんな顔すんなって。ホントに大丈夫だから」
「うん……でも、1人で悩まないでね。何かあったらいつでも話して。私が
「歩夢……」
歩夢は俺の左手を優しく握って励ましてくれた。ガキの頃から世話になりっぱなしで、情けねぇなぁ俺……一生足向けて寝れねぇなこりゃ。
「さんきゅー。……今日も走ったからハラ減ったし、帰ろうぜ、歩夢」
「……うん!」
「っし。あっ、手……」
歩き出そうとした時に歩夢とまだ手が繋がってることに気付き、そっと離そうとしたら俺の手がより一層強く握られた。
「繋いで帰りたい……ちっちゃい頃みたいに」
「なんだそりゃ。ま、いいけど」
ガキの頃は毎日こうして手繋いで帰ってたっけ。懐かしい。昔は俺が歩夢に手繋ごうって言ってた側なんだけど、今思うとけっこう恥ずいな……歩夢と手を繋ぐことに今更恥ずかしさはないけど、昔の俺はやっぱり少し黒歴史。嫌な記憶、忘れたい記憶ほど何故か鮮明に頭の中に残ってるもんだよな。昔の俺も、アイツや母親のことも。ぜーんぶ忘れてリセットしてぇ気分だ。そうすりゃ、ちょっとはマシな奴になれたかもしれんのに。
家に入って部屋に鞄を置いて、俺はベッドにダイブして溜め息を吐いた。疲れて制服から部屋着に変える気力が湧かず、しばらく天井を見ながらボーッとしていると、ポケットに入っているスマホが何度も振動した。スマホをポケットから出して画面を開くと、あるメッセージが届いていた。
「中須……?」
メッセージの内容を見て、俺が明日早起きすることになるのが決定したのだった。