虹×夢カラフルデイズ   作: 龍也

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読んでいただきありがとうございます。感想、評価お待ちしています。番外編も投稿しておりますので、こちらもぜひ読んでいただけると嬉しいです。https://syosetu.org/novel/247482/


第8話 曇り、ときどき霞

 次の日の朝。俺は中須から送られてきたメッセージ通り、待ち合わせ場所に向かっていた。中須から遊ぼうって連絡が来るなんて思ってなかったし、意外だった。普段は1年生ズと遊びに出掛けてるって言ってたからてっきりその3人の中に俺も混ざる感じなのかなって思いきや来るのは中須1人だけ。一体何企んでんだか……。奢られ目的か? それなりに財布は潤ってるからバカ高ぇ高級レストラン的なとこでなければ奢れるけども。

 

 中須が俺を誘ってきた理由を考えながら歩いていたら、待ち合わせ場所のショッピングモール入り口に近付いてきた。遠くを見つめると、中須らしき女の人がいたので歩く距離を早めて近付いてみたら……ビンゴ。やっぱ中須だったんだが……何してんだあいつ? なんかショーウィンドウの前に立って両手を駆使してポーズ決めてるんだけど。一応公共の場なんですけどねぇここ……見てて面白いからあえて声掛けずにいようかと思ったら、横を向かれてすぐに気付かれた。

 

「おはようございます! つむぎ先輩!」

 

「よっ。ってか気付くの早えよお前。俺が来るまでそこで何してたんだ?」

 

「可愛く見える角度の研究です! かわいいかわいいかすみんが、もーっと可愛くなる為に必要なことなんですよ!」

 

「あ、あー……なるほど? すごいすごい。すごいよ中須。えらいえらい」

 

「すっごい棒読みじゃないですか!? ま、まぁとにかく! 今日はとことんかすみんに付き合ってもらいますからね! つむぎ先輩!」

 

「へいへい」

 

 こうして俺と中須はショッピングモールに入り、色々物色することに。最初は雑貨屋を見に行って、次は服屋に行ってかわいい服探し。そしてお次はゲームセンターへ。レースゲームやリズムゲームを一緒に遊んで、ちょっと疲れたから一旦休憩。

 

 昼飯をどうするかと聞いたら、中須が手作りコッペパンを持ってきていたのでそれをありがたくいただいた。なんか……意外と楽しいな? いつもデパートとかショッピングモールには歩夢と一緒に行くんだけど、歩夢と行くのとはまた違う楽しさ。中須は純粋にゲーム楽しんでたし、特に何かある訳でもなくただ遊びたかっただけなんかな。いやでもまだ怖さが残るから単刀直入に聞いてみるか。

 

「ごちそーさん。んで、今日は何で俺誘ったの? いつもは1年生ズと遊びに行ってるじゃん?」

 

「先輩とこうして出掛けることってなかったじゃないですか。だから1度遊んでみたかったんです!」

 

「たしかに。同好会ではほぼ毎日顔合わせてるけど、プライベートでは初だよな」

 

「先輩もそろそろかわいいかわいいかすみんと遊びたい頃合いかなーと思いましたしね!」

 

「うわ出たそのフレーズ。お前、なんでもそれ付ければいいって思ってるだろ」

 

 1日に2、3回は『かわいいかわいいかすみん』って言うからそろそろ耳にタコできそう。自分が可愛いことを自覚してる故の言葉なんだろうけど何度も聞かされるこっちの身にもなっておくれ中須さんよぉ……。

 

「だってかわいいことに変わりないんですもん! つむぎ先輩も、かすみんのことかわいいと思いますよね!? ねっ!?」

 

「まぁ……ウザかわいいな」

 

「ちょっとぉ! ウザは余計ですよぉ!!」

 

「ウザが付かなくなるように努力するこった。さ、もっかいゲーセンで遊ぼうぜ」

 

 

 他愛ないやり取りを交わしつつゲームセンターに戻ると、中須がクレーンゲームの中に入っているぬいぐるみを凝視していた。クマなのか犬なのかよくわからんデザインしてるぬいぐるみだなこれ……中須的には好みに引っ掛かったっぽいけど。

 

「これ、欲しいのか?」

 

「欲しいです……! でもこの子、先週行った時取れなかったんですよぉ……」

 

「俺が取ってやろうか? 金も出す」

 

「えっ!? 良いんですか!?」

 

「欲しいモンは手に入るうちに手に入れといた方が良いだろ? そしたら後悔しなくて済むだろうし」

 

「つむぎ先輩……! ありがとうございますっ!!」

 

 あれ、今日は珍しく素直にお礼言うじゃん。「カッコつけてるんですかぁ?」とか言われるんじゃねぇかと内心ビクビクしてたけど杞憂だったみたいだな。後輩の前なんだ、ちゃちゃっと取ってぬいぐるみをプレゼントしよう。見てろよ中須……ぬいぐるみの1つや2つくらい余裕で取れるっつーことを教えてやる!! 

 

 ……なーんて意気込んでは見たものの、さすがに2回や3回で取れるはずもなく。この数分間で100円玉がすげぇ勢いでどんどん吸われてく。何度も何度もアームのスカり具合を目の当たりにし、もどかしさや焦り、緊張でテンションがおかしくなってるのも災いし、あるぶっ飛んだ結論に至った。

 

「……詐欺だろこれ!! 詐欺でしょ? 詐欺だよな? 詐欺だよね? 詐欺だよこれ!! 全っ然取れねぇんだけど!? アーム弱いなんてレベルじゃねぇよこいつ!! こんな取れないことある!?」

 

「と、取れます! 取れると思ったら取れるんです! ここが正念場ですよつむぎ先輩!」

 

「もういっちょやってみるかぁ。よォォォし……」

 

 もうかれこれ20回……いやそれ以上だな、100円玉をクレーンゲームに投入してレバーを動かしてボタンを押す作業を繰り返しているものの……全然取れる気配がない。マジで。最近のクレーンゲームってこんな取れないもんなの? 俺聞いてないよ? 昔はもっと楽に取れてなかった? ……いや。そんなこと考えたって無駄だ、今はこのぬいぐるみに全ての集中を注げ!! 

 

 中須に励まされながらもう数回トライしてみたものの、さっきと一緒で微妙にぬいぐるみの位置が変わるだけ。うーん……どうしよ。取れるのかなぁ……でも取るしかあるめぇ。ここまででお金をいくら使ったか財布の中身を覗いて確認してみたら、ゲーセンで使うにしてはけっこうな額が減っていた。

 

「これでもう3000円くらい使ってんな……」

 

「せ、先輩! もう良いですよっ! 諦めましょう!」

 

「おいおい、取れると思ったら取れるんじゃなかったのか?」

 

「これ以上先輩のお金が減るのが嫌なんです! 3000円ってかすみんの月のお小遣いですよ!? そんな大金使っても取れないならもう……」

 

「大金の基準が若干おかしい気がするけど……大丈夫だ、金ならある。自慢じゃないが、最近親に振り込まれる小遣いが何故か増えたんでね。貯金もあるし、中須に心配される要素はどこにもねぇよ」

 

「でも……」

 

「取るって言ったんだ。約束は守る」

 

 自分で言ったことですら実行できないでどうする。この際何円使おうと構わねぇ。財布がスッカラカンになったっていい。絶対こいつを取ってやる。「取れませんでしたごめんなさい」って中須に謝って諦めるよか100倍マシだね! 俺は諦めねぇぞ……中須よ、たまには俺にカッコつけさせてくれや!! 

 

「じゃ、じゃあ! あと5回! あと5回で取れなかったら諦めてください!! 約束、守るんですよね!?」

 

「えぇ5回……? 5回でいけるのかな……あと10数回やんなきゃ取れなさそ……いや待てよ? これ……中須、ワンチャンあるぞ。5回以内でいけるかも」

 

「ホントですか!?」

 

「ああ。さっきまではずっとアームで頭を掴んで取ろうとしてたけど、ぬいぐるみのタグをアームで引っかけるやり方で取るのもありなんじゃねぇかなって」

 

「たしかに……! それなら取れる可能性が高まります! それでいきましょう!」

 

 何枚もの100円玉と引き換えに何度もぬいぐるみを動かし続けていたら、タグがアームに引っ掛かる良いポジションにぬいぐるみが位置していることに気付いたので、少々ズルいがタグに引っ掛ける作戦を実行してみる。財布から残り少ない100円玉を入れ、レバーを握ると、中須が俺の左手に手を重ねてきた。

 

「えっ、何……?」

 

「一緒にやりましょう! 一緒に動かしたら取れる気がするんです!」

 

「ズラしたら泣かす。集中しろよ?」

 

「わかってます! 神様……っ! かすみんにこのぬいぐるみをっ!!」

 

「神様、どうかこいつを取れますように……やるぞ中須っ!」

 

 俺と中須でクレーンゲームに一点集中。2人でレバーを動かしてアームを操作し、良い感じの位置でアームを止めた。これなら上手く引っ掛かるんじゃねぇかな。あとはもう祈るしかない。神様、仏様、ぬいぐるみ様、中須にお慈悲を。そう願いつつ、アームの降下ボタンを押した。

 

「引っ掛かりますかねぇ……?」

 

「良い位置で止めたから引っ掛かってくれると嬉し……おっ? 行ったわこれ。良かったな中須。勝ったぞ」

 

「へっ!? あっ! ぬいぐるみが!!」

 

 俺の読み通り、上手いことアームがタグを引っ掛け、ぬいぐるみをゆっくりと持ち上げた。グラグラ揺られながらぬいぐるみが落とし穴の場所に運ばれていき、アームが定位置に戻った瞬間、それはいとも簡単にストンとあっさり落ちてきた。

 

「やったぁ!! 取れた! 取れましたよ先輩!! 奇跡です!!」

 

「もうちょい早く気付きたかったけどなこのやり方……まぁ、結果オーライだな。ほら、お目当てのぬいぐるみだぞ」

 

 取り出し口から救出したぬいぐるみを中須に渡すと、何度もお礼を言いながらそいつをぎゅっと抱きしめていた。よっぽど欲しかったんだなぁ。けっこうお金かかっちまったけど、喜んでくれたっぽいし、良しとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩! 今日はありがとうございました! この子、かすみんの宝物にしますっ!!」

 

「何回お礼言うんだよ。俺がやりたくてやったことなんだから気にすんなって」

 

 あの後もカフェや本屋、玩具屋に行って過ごし、偶然入荷してた『鬼殺のツルギ』の単行本を買ったり、『仮面リーダーレイワン』のガチャガチャをやったり。色々楽しめた。中須もファッション関係の本買ったりしてたし、退屈はしてなかったみたいで安心したわ。そろそろお開きってことでデパートから出るともう外は暗く、周囲の看板や建物に灯りが点灯している。外の風が心地良く、室内の熱気を良い感じに冷ましてくれた。

 

「今日、楽しかった。誘ってくれてありがとな、中須。また行こうぜ」

 

「もちろんです! これからもたーっくさん遊びましょう! かすみんとの約束ですよ?」

 

「……うん、そうな」

 

 こいつ、俺が約束守るって言ったのを引きずってんのか、妙に約束って単語使うようになったな。そういえば前に朝香さんが言ってた、『中須のイタズラは好意の現れ』だかなんだかって言ってたけど、多分そういうのじゃねぇな。普通に友達として、俺をいじりやすい対象として見てるような気がする。今日1日こいつと過ごしてはっきりした。全然意識してる感じしなかったし。まぁその方が俺としても助かる。気楽に絡める関係が1番良い。

 

 

「あっ! 先輩、あれ見てください! 『Link』さんですよ!」

 

「あん?」

 

 外に映し出されてる電光掲示板に、できる限り視界に入れたくない奴がデカデカと映っていて俺は思わず顔を顰めた。明るい声で新曲とアルバムのコマーシャルをする『アイツ』の声を聞きたくねぇ。耳障りすぎて今すぐにでも耳を塞ぎたい気分だ。なんなんだよ最近……こんだけ知名度上げて何になるっていうんだよ。俺への嫌がらせか? なぁおい。

 

「最近ほんとによく見るようになりましたよねぇ『Link』さん。この前せつ菜先輩と話してる時に、『Link』さんの顔が誰かにそっくりって話題になったんですけど、多分気のせいですよね……って、先輩? つむぎ先輩……?」

 

「……俺、帰るわ。たくさん遊んで疲れちまったし。バイバイ中須。同好会で会おうな!」

 

「え……ちょっ、先輩!? せんぱ…… ……い……」

 

 この場を離れたい。そんな気持ちで脳内を埋め尽くされた俺は、軽く中須に別れを告げてすぐに走った。中須が何か言ってるのも、距離が遠くなってどんどん聞こえなくなっていき、中須の声がしなくなったと同時に、耳障りな声も消え去った。

 

 息を切らしながらふと空を見上げると、雨雲が辺り一面に広がっていた。まるで、最近の拭い切れない不穏な予感を現実に持ってきたかのように、灰色の暗い雲が月明かりを遮っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 




霞む心を晴らすのは




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