夢女子が性転換して推しを救う話   作:ギャングスタ

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邂逅

「キューちゃん可愛い!」

『そう?ありがと』

 

 あれから、僕にはちゃんとした式神ができた。霊狐であるキューちゃん。姫さんに詠び出してもらった存在だけど、式神契約をしたのは僕だ。

 キューちゃんは標準的な狐で、尻尾も一本。凄い狐だったとかそういうことは一切ない。

 けど霊気を与えればかなり活躍してくれる式神だ。身体も大きくできるし、幻術も使える。火と金の技も使える。

 やだ、ウチのキューちゃん有能すぎ?

 

 まあ、それを遥かに超えるゴンちゃんという化け物狐がいるんだけど。陰陽師としてもやっていける五行全てを収めた神様。あの安倍晴明の弟子だった天狐という式神で良いのかという存在。難波という主人公の家がおかしいだけだと思う。

 そういえば姫さんも式神なんだよね。この人は人間だからあんまり式神って感じがしないけど。

 

 キューちゃんはメスです。尻尾がとてもキューティクル。

 キューちゃんは面倒だったので両親に説明した。偶然会って、契約を結んでしまったと。両親が狐に反抗的ではないと知っていたので、問題なかった。土御門と賀茂家が過剰に嫌ってるだけだと思うけど。一般家庭はこんなものだ。

 それから二年ほど姫さんの元で修行に明け暮れた。法師にもたまに見てもらいながら、修行の内容は段々とハードになっていった。

 

 だって、時間がないから。

 祐介を助けるタイムリミットは大体十歳。十歳を過ぎた辺りで全てを諦める。土御門の道具であることを認めてしまう。そんなことは許せないために、手遅れになる前に行動する必要がある。となれば十歳になる前、九歳の時が最終リミットだ。

 だから九歳になってすぐ襲撃できるように、霊気の量を増やしたり使えそうな術式を調べたり、法師のしごきに耐えたり。

 

 キューちゃんを常時実体化させることで霊気の消費を促して霊気の総量を増やしたり。茨木童子と酒呑童子に近接戦闘を教えるという名の遊びのていをしたいじめに遭っていた。逃げるという癖ができただけで、あんまり役に立たないと思う。

 そうしてある程度陰陽師として実力をつけた頃。とうとう法師に直接言われた。

 

「そろそろ攻めるか。もう九歳になったのだし、お前の場合は未来視というわけでもないだろう。ズレはあると考えた方がいい」

「えっと。法師はどこまで力を貸してくださるのでしょうか?」

「外道丸と伊吹は貸す。私自身はお前たちの退路を確保するだけだ。姫も姿を見せるなよ。お前は明たちのための隠し玉だ。こんな些事で出す存在じゃない」

「わかってます。でも、姿を見せなええんですよね?」

「まあ、そうだな」

 

 それから土御門の家について調べながら作戦を考える。祐介と祐介のお母さんについては確認した。祐介のお母さんはひどく衰弱していたし、祐介は同じ土御門の人間に虐待を受けていた。あれは躾を超えている。

 一刻も早く助けたかったけど、ここでミスったら全てが水の泡。慎重にいかないと。焦っても意味がない。

 この監視のために簡易式神を姫さんが放ったけど、誰にも察知されていないのは流石すぎる。安倍晴明に匹敵する現代の麒麟児というのは伊達じゃないみたい。

 

 唯一屋敷に通じる門の前には警備をしている陰陽師がいるし、屋敷全体にも方陣が仕掛けられているけど、それに引っかかることなく進入させるんだもんなあ。これが日本で一番の陰陽師の家の警備状況だと言われて愕然としたけど。

 姫さん曰く、堕落してるから自分たちより上の存在を想定していないらしい。確かに原作でもそんな感じで失態を重ねてたなあ。

 この屋敷にだって隠しておかないとマズイこといっぱいあるのに、こんな警備体制でいいんだろうか。

 

 そして今回。祐介と同じような状況の子、祐介のお母さんである亜里沙さんのような女性について。他の人たちは全員見捨てることになった。

 全員を助けることなんて僕にはできない。中学に入るまでの期間なら裏・天海家で祐介たちを保護してくれることになったが、その二人が限界だということ。

 何人も助けたら隠蔽をしようとして土御門が躍起になって本気で捜索をしかねない。今でさえ日本はグズグズになっているのに、これで土御門が別のことをやり始めたら法師が日本人の九割を殺さざるを得なくなるそうだ。

 

 そんなこと、神様と話し合ってたなあ。

 逆にいえば、数十人いる人間の内、たった二人を攫うなら問題ないだろうと。それに目当ては土御門の資料である風に装って襲撃するので、それに巻き込まれて二人には死んでもらうつもりだ。

 遺体を簡易式神と幻術で作って、それを置いて僕たちは逃げるという。この式神を作ってくれるのも姫さん。法師は姫さんを働かせすぎだと思う。たとえ式神だとしても。

 

「では、作戦を告げるぞ。方陣の要となっている石をまず私が破壊する。それと同時に外道丸とミチルが潜入。外道丸は適当に暴れろ。ミチルは目的の二人を確保。どうにか連れ出せ」

「はい」

「私の幻術と伊吹が書庫へ進む。伊吹も書庫以外で暴れろ。そうして書庫の資料を燃やし、撤退する。姫はミチルのサポートだ」

 

 なんていうか、僕以外正面からのゴリ押しという作戦だ。それができる実力があるからだろうけど。法師に勝てる人って今だと先代麒麟くらいかな。いや、現麒麟か。最近就任したらしい。明くんはまだまだだろうし。

 そうして決行当日。この日はどんよりとした曇りの日だった。

 法師が方陣の要を壊す前に、隠形を用いて姫さんに確認を取る。

 

「うん、大丈夫やろ。二人を見付けたらすぐに眠らせること。まずは母親の方を先にすれば、子どもも説得できるんやない?母親を大事にしてる子なんやろ?」

「うん。母親に最後の手紙を送るくらいには」

「なら説得できるやろ」

 

 法師が方陣を崩したのと同時に、外道丸が実体化する。そして一瞬で門番としていた二人の男の首をひねり回して捻り切った。

 グロい。

 感想を抱きながらも、外道丸の横を通って敷地内に侵入する。

 

『オラオラ!雑魚どもがかかってこいや!』

『書庫の場所はどこだ?吐け』

 

 あの鬼、本当に鬼だなあ。本当は書庫の場所知ってるくせに、尋問して吐かせるつもりだ。本当のことを言ったら助かると思ったところを頭潰す気だ。

 なんでわかるかって?そういう鬼だもの、あれ。原作でも接した感じでも。

 僕たちは姿を隠しながら亜里沙さんがいる離れへ向かう。土御門棟梁の愛人、側室として隔離されている。もちろん側室なんて制度はこの日本にもない。呪術省という表の権力を握って好き勝手やった結果だ。

 

 他の離れに目もくれず、亜里沙さんがいる離れに一直線で向かう。近くにいた人間は「オン」の一言で催眠の呪術を発動させて眠らせた。移動する時に邪魔になるために。

 離れの中には亜里沙さんしかいなかった。ここを訪れるのは使用人と晴道くらいだ。今日は誰も来なかったのだろう。

 即座に襖を開けて侵入。亜里沙さんは突然空いた襖に驚いてたけど、即座に無力化。あと監視カメラがいっぱいあるようなので離れに火をつける。隠形とはいえ、機械までは誤魔化せない。

 

 キューちゃんを実体化させてカメラの確認をしてもらう。表面を全部焼いたためにもう大丈夫と判断が出て、姫さんが偽物の死体を作り出す。焼死体になるだろう。誰かの陰陽術がここに当たって着火。衰弱していた亜里沙さんは逃げられなかったという筋書きになると思う。

 亜里沙さんは簡易式神に抱えさせようとしたら誰かがこっちにやってきた。いくら鬼二匹が暴れているとはいえ、建物の一つが燃えていたら誰かしらがやってくるのもおかしな話じゃない。鬼を止められたとしても、敷地内が全焼するかもしれないんだから。

 

「急々如律令!」

 

 子どもの声。というか、この声は。

 火へ水をかけたらしい。陰陽術でこの建物全体に水をかけて鎮火させていた。やっぱりこの歳で考えると彼は神童だ。土御門の中でも一番の才能があった人物。殺生石に呼応した天才。

 産まれが異なれば土御門を継ぐのはきっと彼だっただろうと推測できるほどの傑物。

 住吉祐介が、そこにはいた。

 

「母上!ご無事ですか、母上っ⁉︎」

 

 ああ、だから救いたくなるんだ。たとえ会ってはいけないと命令されていても。実際十年近く会えなくても。彼は母を慕っていた。愛していた。

 そんな普通の、歪まされた少年。

 祐介が陰陽術で水を出しながら建物に入ってくる。熱や炎なんて関係なく、彼はこちらへやってくる。

 天海薫に会っていない彼は、明や珠希にも会っていない住吉祐介という人間には。母親以上に大事な存在はいないから。

 

 キューちゃんが僕の側に控える。姫さんは姿を隠したまま。

 僕はこのまま、祐介を説得する。亜里沙さんを人質にしたまま。

 僕は黒い全身マントを頭から被って、顔には狐の仮面をしている。身分を明かす訳にはいかない。大層なものじゃないけど。

 両親に迷惑をかけるわけにはいかないからね。

 祐介と対面する。白い肌に痛々しい叩かれた赤い痕。今も火傷を気にせず煤がかかっているけど、母を救うために命も投げ出している真剣な眼差し。

 

「狐の仮面に、狐の式神……⁉︎母上を離せ!」

「いいえ、離しません。ここにいたらこの人は死んでしまう。心も砕けてしまう。だから、一緒に逃げませんか?住吉祐介」

 

 僕はそうするためだけに、頑張ってきたんだから。

 




明日、最終話投稿します。
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