「怪鳥は三歩歩くと物を忘れる」という逸話から生まれたことわざ。直ぐに物を忘れること。
「はい、これで『脅威!火山の鉄槌!』のクエストクリアです」
明るい橙色の制服を着た紫髪の受付嬢、ローサが、蝋燭の灯りを頼り、湿気った依頼書にクエスト達成のスタンプを押す。
「いやぁ、今回も大変だった。あ、聞いてくれよローサ。折角の火山だったから鉱石採掘をしようと思ったんだけど、ピッケル持ってくの忘れちゃってさー」
対するのは使い込まれたフロギィSシリーズを着込んだ茶髪のハンター、ロギィだ。
「……またですか……?全く、ロギィさんは駆け出しじゃないんですから、あほみたいなミスしないでくださいよ。この間も凍土に行ったは良いものの、ホットドリンクを忘れたと言ってすぐに帰って来ましたよね?そろそろその忘れ物癖、直してくださいよ」
クエストの達成の手続きを終え、仕事モードを解除したロギィがだらんと脱力し、カウンターにもたれかかる。
ここは水没林の近くにあるイズデという村のクエストカウンター。あくまでも出張所であり規模は小さく受付嬢も一人しかいないが、この村に常駐しているハンターも同じく一人しかいないために特に問題はない。
「分かってるよー……」
さながら軟体動物であるかのようになってしまっている肉体と同様気の抜け切った言葉を吐くロギィに対し、文句を言うローサ。過去に何十回と投げかけられたそれに、ロギィは飽きたとでも言わんばかりに欠伸をする。
ㅤ3回クエストを受けたならば、そのうち2度は行われるこのやりとり。もはやローサ側も改善される事は期待していないだろう。
「それはそうと、いつものやつ食べますか?」
ㅤいつものやつ、とはスネークサーモンの海鮮親子丼の事だ。ロギィがクエストから帰還するとローサが作ってくれるもので、ローサがイズデ村に赴任して来てからずっと作ってくれている。
「勿論頂こう。あれがなけりゃあ俺のクエストは終らないからな」
ㅤそれが人に物を頼む態度ですかね……などとぼやきなつつ、既に用意してあったのかカウンターの下から海鮮親子丼を取り出した。
「はい、召し上がれ」
「いただきまーす!」
ㅤ普段は何かしら話かけてくるローサも、深夜だからか口を開かない。
沈黙という物が余り好きではないロギィは、以前から疑問に思っていたことを思い出し、口にする。
「そういえばなんだが、クエスト名ってどうやってつけられてるか分かるか?」
ㅤ大半のクエストは「○○の狩猟」や「○○の採集」など、メインターゲットがそのままクエスト名になっている事が多い。しかし、いくつかのクエストには固有の名称がつけられている。先程ロギィが達成した「黒虎咆哮」もその内の1つだ。
「クエスト名についてですか」
「そうそう、なんであんな詩的な名前が付けられてたりするんだろうなぁ って」
ㅤ口の中のスネークサーモンを飲み込み補足を入れる。
「えっとですね。そもそもどうしてクエスト名がつけられるか知っていますか?」
「そうだな……」
ㅤ言われてみれば確かに、クエストに特殊な名前を付ける理由も分からない。暫く考えてみるも、録な事は浮かばなかった。
「えっと……ギルドの上層部にそういう趣味の人がいるからとか?」
「そんなことある訳ないですよね。真面目に考えて下さい。いいですか、クエスト名と言うのはハンターの目に止まりやすくするための物なんですよ」
ㅤ存外辛辣に否定され若干傷つく。それは良いとして、ハンターの目に止まりやすくするためとはどういうことだろうか。
「訳が分からないという顔をしていますね。では例を挙げて説明しましょうか。今貴方が依頼書を纏めた書類を読んでいると思って考えてください」
「分かった」
「そのとき、ただ『ラギアクルスの狩猟』と書いてあるものと、『大海の王』というクエスト名が付けられているもの。どちらの方が目を引きますか?」
「おお、確かに『大海の王』ってクエスト名が付けられてる方が気になるな」
納得した、というように掌をぽんとたたく。
「でしょう?同じモンスターがターゲットのクエストでも、クエスト名が付いている方がハンターさんが受けてくれる可能性が高かったりします。だから、緊急、とまでは行かずとも、ほかのクエストよりかは若干優先度が高いクエストに特殊な名前があたえられるんです」
「なるほどねぇ、結構考えられてんのな」
ㅤそう言って、もう話は聞き終わったとばかりに海鮮親子丼に再び手をつけ始めたロギィ。
その様子に溜息を零すローサを不思議そうに見ていたが、すぐに本題を聞いていないことに気が付いたのか、あっ、と声をあげた。
「はぁ、貴方はとんだ怪鳥(トリ)頭ですね?いや、一歩も歩いていないのに忘れている分、怪鳥より悪いですかね……」
なんと酷い評価だろうか。
「いやしかし、怪鳥の頭のフロギィが居るのなら見てみたいものだな」
イャンクックの頭が着いたフロギィを思い浮かべて呑気に笑みを浮かべるロギィ。
「そんな話してませんけど……まあ良いです。話を続けましょう。クエスト名の由来ですね、あれの元には色々ありますが、一番多いのは伝記や唄などの物語ですね」
「伝記や唄か……確かに、考えてみれば『水没林愚連隊』とかって聞いたことあるな。昔じっちゃんが聞かせてくれた物語にそんな話があったような気がする」
ㅤ古い記憶を思い出す。確か、水没林に居座ったならず者のハンター達を、どうにかして村人が追い出す。という話だったと思う。当時はギルドの出張所もなく、大変苦労したと伝わっている。
「ギルドは各地にありますからね。地方に伝わるお話がクエスト名になったりもします。他にも、諺なんかが由来のクエストもありますよ」
「諺?例えばどんなの?」
「『砂上のテーブルマナー』というクエスト名がありますよね。あれは砂漠付近の村などに伝わる諺で、意地汚い事や行き過ぎたマナーなどを表します」
「へえ、そうだったんだ。面白いな」
ㅤ諺の元となったのはクエストのターゲットにもなっているハプルボッカだろうか。自身の目の前にあるもの全てを飲み込むハプルボッカは、まさに意地汚いと言えよう。行き過ぎたマナーという方はよく分からないが、恐らくそちらもモンスターに関係するものだろう。
「本当に面白いですよね。あと、余り関係はありませんが、砂上のテーブルマナーはハンターさんからの評判が最も良いクエスト名の1つだそうですよ」
「あー、分かるわ。俺も最初見た時、なんて粋なネーミングセンスかと驚いたもん……やっぱり上層部にそういう趣味の人いるでしょ?じゃなきゃこんな良い名前はそうそう付かないだろ」
「……なんだか、私もそんな気がしてきましたね……今度聞いてみます」
ㅤ先程一蹴された意見だったが、今度はローサも賛成していた。そう思えるほどに秀逸なクエスト名なのだ。
「とまあこんな感じですね。改めてクエスト名を見てみると知ってる物も意外と多いかも知れないですね」
「そうだな、また今度暇な時にでも見てみるかね」
「そうしてください。私は眠いので、今日はもう寝ます」
「おやすみ〜」
ふわあ、と欠伸をして帰宅するローサを見送ると、ロギィも同様に家路につく。
ㅤ暫くの謎も解け、今日はよく寝れそうな夜である。
LeaFです。モンハン噂話の改装版です。よろしくお願いします。