モンハン噂話   作:LeaF_Esra

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水獣を追え!

 水の流れに沿って歩みを進める。

 洞窟の中はエリア14に区分されており、入り口から差し込んだ光が、水面やら壁面やらに反射して、青く、幻想的とも言えるような景色であった。

 

 幾ばくの鍾乳石が伸びる中、水獣は佇んでいた。

 

「ルドロスが増えてるニャ」

 

 別のエリアにいたものが合流したのだろう。一頭まで減らしたルドロスが三頭へと数を戻している。

 

「さっきと同じように、おれがロアルドロスを相手する。だから、リーフはルドロスを頼む」

 

「了解!」

 

 ヒズミ達が立ち回りを確認すると同時に、水獣もこちらの存在に気付く。「また来たのか」とでも言わんばかりにロアルドロスが吠える。それを合図に戦いの火蓋は切られた。

 

 両者は駆け出し、みるみるうちに距離が詰まって行く。目と鼻の先まで迫ったところで、ヒズミは【豺牙(さいが)】を抜き放った。

 勢いを得た牙は水獣の顔面に食らいつく。数枚の鱗を削り取るが、その程度で怯むロアルドロスではない。すぐさま噛みつこうと牙を剥く。しかし水獣の口に収まったのは湿気た空気のみ。反撃を予想していたヒズミは、【豺牙】を振った直後右方向へ回避していたのだ。

 

「はあぁッ!」

 

 気合いの篭った声と共に【豺牙】を振り下ろす。タテガミに刃が沈んで行くのと同時に、染み込んでいた水分が足元に流れて波紋を生み出す。

 

 ロアルドロスの前脚が動く。それを視界の端に捉えたヒズミはすぐに回避行動に移り、お陰でインゴットグリーヴと水獣の爪が耳障りな金属音をたてるだけに留まる。

 

「今まで通りにしてたらやばかったな」

 

 先程爪が当たった箇所を触ると、(ほそ)い切り傷が確認できた。掠っただけでこれなのだから、まともに受けていたらどうなるかは想像に難くない。ドンドルマにいた頃のように、攻撃を防具で受けようなどとは考えない方が良さそうだ。

 

「ニャあっ!ヒズミ危ニャいっ!」

 

 鬼気迫るリーフの声に振り向くと、いつのまにか接近していたルドロスがヒズミへと飛びかかって来ていた。

 

「うおっ!?l

「すまんニャ、三頭を相手にするのは無理だったニャ……」

 

 間一髪、身を捩って直撃を回避すると、リーフが駆け寄り謝罪する。

 

 彼も奮戦したのだろう。致命傷とはならないまでも、ルドロス達は全身につけられた傷を赤く滲ませていた。

 

「大丈夫、十分だ」

 

 リーフが相手をできる数を超えたルドロスを任せてしまったのはヒズミの失態だ。むしろ、よくぞ今まで引き寄せていてくれたものである。

 

「ここからは支援を頼む」

「んニャ、了解。突っ込みすぎるニャよ?」

「分かってる、よッ!」

 

 短く言葉を交わすとヒズミは、先程自分を通り過ぎて着地し、今度は嚙み付かんと再び迫るルドロスに斬撃をお見舞いする。怯んだところにもう一撃。もともと手負いだった事もあってか、それでルドロスは倒れた。

 すぐさま身を翻すと、再び水獣に接近する。今度は後方、狙いは尻尾だ。

 

「こっち向け!オレを見ろ!」

 

 回り込もうとするハンターを追って首を動かす水獣の横面をブーメランが切り裂く。

 

「グゥ?」

「まだまだっ!」

 

 ヒズミからリーフへ視線を移動させたところを、今度はズワロネコリーフを叩きつける。

 

「ついでニィ!」

 

 武器を仕舞い、自前の爪で水獣の瞼を引っ掻く。薄皮に傷をつけるだけだったが、水獣の怒りを燃やすには十分で。

 

「グワアァァッ!」

 

 白い息を吐き、血走った目でリーフを睨む。怒りに身を任せて腕を振るうが、鋭い爪が捉えるのは空ばかり。

 

「グアッ!グアァァ!」

「ヒィっ!?ギリッギリだったニャ!」

 

 うろちょろと目障りな邪魔者を排除しようと躍起になっているからか、尻尾への意識が疎かになっているようだ。先程からヒズミが斬りつけているが一切の反応を見せない。

 

「代わりにお前らが相手か」

 

 アイルーに執心している主人に代わり、二頭の従者が背後に迫った不届き者に牙を剥く。

 

「ガァァッ!」

 

 襲い来るルドロスの噛みつきを横に転がって回避。開いてしまった距離を、踏み込んで縮めつつ一太刀。背骨に受け止められたそれを引き抜き、続いて斬り下し。さらに突きへと繋げるが、上手く狙いが定まらず、刃は虚空に突き刺さった。

 

「ヒズミ、後ろに逃げるニャ!」

「え!?」

 

 顔を顰めた所にリーフの声が飛ぶ。何事かとそちらを向くと、そこには迫り来る人の頭程の水の塊。

 

「うわっ!」

 

 避けようとするが時既に遅し。隣にいたルドロス諸共水弾の餌食となる。

 

「ぐあっ!」

「グウゥ……」

 

 再び直撃。しかし今度は衝撃に備えていたため、受け身を取ることはできた事は幸運か。

 

「クソっ、仲間がいてもお構い無しかよ」

 

 ヒズミと共に水弾を喰らったルドロスは、飛ばされてこそいないものの、先ほどまでの傷と併せてかなりの痛手となっているようだ。

 

「酷い奴ニャ!」

「全くだ」

 

 悪態を吐きながら立ち上がり、二つ目のウチケシの実を齧る。ロアルドロスはと言えば、変わらず白い息を吐きながら鋭い牙を剥き出しにしていた。

 

「グアァッ!」

 

 傷ついたルドロスが跳躍する。満身創痍の体に鞭打った捨て身の一撃とでも言うべきその飛びかかりはハンターを捉えることは出来ず。着地と同時に振り下ろされた刃に身を斬られて息絶えた。

 

「……お疲れ様」

 

 主人に見殺しにされた事に同情でもしたのだろうか。不意にそんな言葉が漏れる。

 

「来るニャっ!」

 

 どこか感傷的になっていた心がリーフの叫びによって狩場へと引き戻された。視線を上げれば、強靭な四肢で水を蹴散らし、口からは水弾を撒き散らす水獣の姿。

 留まれば当然巨体の下敷き。下手に避ければ水弾の餌食。背後には壁が聳え立ち、両者の距離はどんどん狭まってゆく。この危機的状況を脱するには……

 

「これだ!リーフ、目ェ(つむ)れ!」

 

 ポーチから球状のアイテムを取り出し、投擲。見事ロアルドロスの鼻先に当たったそれは、弾けて洞窟内を真白に染める。

 

「当たった!見た?ねえ見た‼︎⁇」

 

 上手く投げられた事が余程嬉しかったのか、目を眩ませたロアルドロスをよそ目に歓喜するヒズミ。目を(つむ)れ、と言ったのだから当然見ているはずもない。

 

「見てる訳ニャいだろ!そんな事より、このチャンスを逃す気ニャ?」

 

 ひとりでに盛り上がるヒズミとは反対に至って冷静なリーフ。当然のツッコミを入れつつも、手は止めずにブーメランを投げつけている。

 

「そんな訳っ!」

 

 リーフに応じつつロアルドロスの真正面へと躍り出る。

 

「無いッッ!」

 

 言葉の続きに気合を乗せて、水獣の顔面を一閃。

 

「グアァァッ!?」

 

 鱗を飛ばし肉を断つ。先ほどは弾かれた刃だったが、今度は確かに、水獣の顔へと傷跡を残した。

 

「まだまだっ!」

 

 突き、引き抜いて斬り上げ、そこから更に真向斬りへ。タテガミを裂き、鱗を弾く。目を眩ませ動けない水獣に何度も【豺牙】を振れば、その度に水獣は赤に染まって行った。

 

「行ける!」

 

 そんな好感触は、ヒズミの心へ慢心と言う名の隙を生み出した。

 

 不意に目の前が開ける。消えた?否、ロアルドロスが上半身がもたげたのだ。この動作はボディプレスの前兆。あの重量に押し潰されたのなら、インゴットシリーズと言えど用をなさないだろう。逃げようと思えども、斬撃に注力していたヒズミの立ち位置は、完全に逃れるには余りにも近過ぎる。

 

「え、死っ……」

「ヒズミ!」

 

 避けなければ。その一心で真横に飛び出す。リーフの声をかき消して水獣は上半身を叩きつけた。

 

 気がついたのは衝撃が背中を襲ってからだった。奴の体勢を見れば分かったはずだ。横に避けようとも、左右に広げた腕が襲い来る事は。

 

「ぐあ゛っ!」

 

 ばぎり。背部で何かが折れる音がした。背中が痛む。肺から地を転がり仰向けに倒れると、ロアルドロスと目が合った。相手方が何を考えているかなどは分からないが、少なくとも好意的なもので無いのは確かだろう。先の斬撃によって流れ出した赤が、その恐ろしさを強めていた。

 

「くっ……ぅ……」

 

 ここまでかと腹を括ったヒズミの耳に激しい音が聞こえる。

 

「ニャー!お待たせニャー!」

 

 ガラガラと車輪を唸らせて現れたのはネコタク。到着するや否や、荷車を駆る二匹のアイルーがヒズミを荷台に放り投げる。

 

「!?」

 

 アイルーにしては筋骨隆々とした体躯の彼らは、ヒズミが乗った荷車を驚くほどの速さでで押し進む。

 

「ちょ、落ちる!」

「喋る元気があるなら捕まってろニャ!」

 

 無責任な指示に困惑するヒズミを待たず、荷車は坂道に突入した。

 

「〜〜っ!」

 

 痛む体に鞭打って、なんとか荷台にしがみついていると、どうやらベースキャンプに着いたようだ。アイルー達は荷車をひっくり返してヒズミを放り投げた。

 

「うっ、いたた……」

「ニャ!またのご利用をお待ちしてるニャー!」

 

 二匹は揃ってお辞儀をすると、来た時と同じく目にも止まらぬ速さで去っていった。

 

 

続く

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