「なかなか帰ってきませんね……」
クエストカウンターの中をぐるぐると歩きながら、ローサが心配そうに呟く。今朝出発した弟の事を憂いての言葉だが、彼女がそれを口にするのはもう五回目だ。一度であれば優しい言葉を掛けようとも思うが、五度も聞かされれば素っ気ない返事になるのも仕方あるまい。
「心配のし過ぎだよ」
そもそもドンドルマにいた頃はヒズミとリーフの二人で狩りをしていたのだ。相手が鳥竜種から海竜種になった事による戸惑いはあれど、全く手も足も出ないなどということは無いだろう。
「気長に待ってればそのうち帰ってくるさ」
楽天的な考え方をするロギィは持ち出した椅子に深く腰掛けるが、ローサはまだ不安が拭いきれていない様子だった。
「分かってはいますが心配ですね……まあでも、ロギィさんに指導してもらったんですから、大丈夫に決まってますよね」
「随分と信頼してくれるんだな」
「ロギィさんの実力は良く知っていますから」
指導が確かかは分かりませんけどね。と付け加えてローサは口を閉じる。
しばらくの無言が続いた。
ローサは書類の整理を始め、ロギィはお茶を飲んで時間を潰していた。
ロギィが二杯目を注ごうとした時、カチャカチャと金属同士がぶつかる音が近づいてきた。音のする方へ振り向けば、待ち人が。
「ただいま!」
「戻ったニャ!」
インゴットヘルムを外し、右手を挙げて帰還を告げるヒズミとリーフ。
ポーチに入り切らなかったのであろう。ヘルムと共に抱えた水獣の素材を見れば、狩猟の結果は一目瞭然だ。
「おかえりなさい!」
「お疲れ様。良くやったな」
二人がクエストカウンターまで来れば、暖かく出迎え、労いの言葉を掛ける。
「言いたいことは色々ありますが、先ずはクエスト完了の手続きをしちゃいましょうか」
無事を祝いたい気持ちを抑え、ローサは書類を取り出す。慣れた手つきで必要事項を記入すれば、クエスト達成の判を押して手続き終了だ。
「報酬金はどうする?」
「預かっておいて欲しいな」
ギルドはハンターのゼニーを預かる役割も持っている。
大量のゼニーを持ち歩くのは面倒な上、家に保管しておくとしても、ハンターは職業柄家を空ける事が多いために安全とは言い難い。
そのため、ギルドが預かったゼニーを管理し、ハンターが必要な時に引き落とせる様ば仕組みがあるのだ。
因みに、ギルドストアやギルドと提携している加工屋ではギルドに預けたゼニーから代金を払う事も出来るので、この制度の評判はとても良い。
「じゃあ……はい!これで手続きは終わり。ロアルドロス討伐お疲れ様!」
書類を仕舞いニコリと笑う。
「ありがとう」
「ホントに疲れたニャ……」
「二人ともしばらくは休むと良い。良く頑張ったな」
へたりと座り込んでしまうリーフを笑いながら、ロギィは二人の分のお茶を淹れる。
「なあロギィ、モンスターから剥ぎ取ったり報酬で貰った素材なんだけどさ。要らない物は持っててもボックスの肥やしになるだけだし、かと言って売るのも勿体ないし……どうしたらいいと思う?」
お茶で喉を潤したヒズミが言う。
モンスターの素材は貴重な研究材料のため、ギルドを通して売却すればそれなりの額が手に入るし、現在必要としていない素材でも思わぬところで必要になるかも知れない。保管場所が有るならば所持しておくに越した事はない。
とはいえ、「使うかも知れない」というあやふやな目的で大量に保持しておくのは現実的ではないため、多くの場合2~3個程度を残して他は処分してしまう。ヒズミはその処分するものについて言っているのだろう。
「勿体ないって……無駄になる訳じゃないんだし」
「ヒズミは昔っから物を捨てられなかったからね〜」
ローサ曰く、ヒズミの部屋は捨てられなかったもので一杯らしい。
「折角狩猟して剥ぎ取った素材なんだから、全く使わないのもモンスターに申し訳ないというか……」
「まあ気持ちは分かる」
素材とはモンスターの命を頂いて得た物だ。ヒズミの言う「モンスターに申し訳ない」という気持ちも分かる。
「でも、素材を売って手に入れたゼニーで生活したり、武具を強化したりすれば、それはそれで糧にできていると思うぞ」
「まあそうなるよなぁ……」
ヒズミが溜息をつく。換金するのが嫌、という事だろうか。
「眠らせて置くのも売るのも嫌なら、別の形にして取っておくって選択肢もあるぞ」
「別の形って?」
「モンスターの素材はそれぞれの特性を持ってるだろ?ロアルドロスなら水を良く吸ったりとかな」
それと今の話になんの関係があるのだとでも言いたげなヒズミの視線を無視してロギィは続ける。
「それらの特性を利用すれば、色んな物として使えるんだ。ほら、これとか」
そう言ってロギィが取り出した手帳にはフロギィの革で作られたカバーがかけられていた。
「へぇ、何かオシャレだな」
「こういう風に日用品にすれば、取っておけるし使えて良いだろ?」
「なるほどなぁ。因みに他のやつとかあるのか?」
その質問を待っていたかのようにロギィは目を輝かせ、何が始まるのかが分かったのであろう、ローサはその場を離れた。
「勿論あるぞ!これはフロギィ革の手袋で、こっちはフロギィの頬袋から作った巾着と、上位のドスフロギィ革の財布だろ。ここにはないけどフロギィ革のジャケットも……」
「いやフロギィ多いな!?もっと他に何か無いのかよ!」
「えー、良いじゃんフロギィ」
残念そうに口を尖らせるロギィは、今も狩りに行くわけでも無しにフロギィシリーズを着ている。
「ロギィさんに聞くのが間違ってるのよ。この人はフロギィの事しか頭に無いんだから」
戻って来たローサが呆れたような口調で言う。
「失礼な。フロギィ以外の事も考えてるぞ?」
「どうせドスフロギィの事ですよね」
「なぬっ」
反論を試みるも一瞬で見破られたロギィの頭を軽く叩くと、代わりにローサが話を始める。
「ロギィさんのようにお洒落目的の使い方もあるけれど、実用的な物にもなるのよ。ロアルドロスならタテガミを掃除用のスポンジにできるわ」
「おお、いいなこれ」
ヒズミはわしゃわしゃとスポンジを揉む。
ローサが持ってきた物はそれだけではなく、垂皮竜の革のレインコート、石鹸。
「石鹸?」
「これはロアルドロスの脂から作った石鹸ね」
ローサが説明を続けようとするとロギィが口を挟む。
「ロアルドロスは全身隈無く利用できる。タテガミや皮はスポンジに、脂は石鹸、身は食肉、爪やトサカは装飾品として使われるんだ」
と、得意げに胸をはるロギィ。
「ロアルドロスの肉って食えるのか」
「まあな。ただ、一般にはあまり出回らないかな」
「それまたどうして?」
「普通に草食竜の方が安くて美味いから。味に関しては人の好みにもよるとは思うけど、草食竜の方が手に入りやすいし、大勢の好みに合うからな」
「加えて言うなら、ロアルドロスの脂よりも垂皮油で作った石鹸の方が質が良いわね」
ローサが付け加えた事により、ヒズミの中で上がりかけていたロアルドロスの評価がガクッと下がった。
「えぇ……じゃあ何でならズワロポスに勝てるんだよロアルドロス……」
「まあモンスターの素材は、そもそもモンスター達が生き延びる為に獲得した物であって、人間に利用される為の物では無いからな。その中で、たまたま人間の生活と相性が良いのがズワポロスの素材だったってだけだよ」
「それに、ロアルドロスの素材は装備を作るのに使われているから、比べられる物では無いわね」
「それもそうだな。その通りだ」
ヒズミは納得したように頷く。
「この村なら、明日にでもロアルドロスの肉が出回るだろうから、食べてみるといい。もしかしたらズワポロスよりも美味いと思うかもしれないぞ?」
クエスト終了時に信号弾を出したなら、今頃ギルドが解体を終わらせているだろう。必要な分だけ素材を持って行き、余分は村に流れてくるハズだ。
どの食べ方がおすすめか、などという話をしようとしたところ、ヒズミが大きく欠伸をする。
「ふぁ……ごめん、疲れたから今日はもう帰るよ」
「ああ、お疲れ様」
「ゆっくり休んでね」
ロギィとローサの労いを受け、ヒズミはリーフを連れて帰ろうとする。
「帰るぞリーフ……って、起きろ。こんな所で寝てたらカゼ引くぞ?」
しばらく喋っていないと思ったら、床で眠ってしまっていたのだ。
ヒズミに起こされたリーフはまだ眠そうな目を擦りながら、ヒズミに連れられて帰って行った。
「ロアルドロスってロギィさんどうやって食べてます?」
ヒズミの残したお茶を片付けてローサが聞く。
「そうだなぁ、焼く揚げる……が多いかな」
普段の調理を思い出しながらロギィが答える。塊で手に入った時などは、ステーキにすると胸が踊るのだ。
「あー、ステーキとか良いですよねぇ。私は煮込みが一番好きです。調味料の味が染み込むんですよ!」
今すぐにでも食べたい!と力説するがロギィはその調理の仕方は初耳だったようだ。
「煮込み?聞いた事無いな」
「あれ、ロギィさん知りませんか?ユクモ地方の調理法だったんですかね」
「ともあれ気になるな。ちょっと教えてくれないか?」
「勿論です!」
ロギィとローサは料理の話題で暫く盛り上がっていた。
後日、ロアルドロスの肉を食べたヒズミは余りの美味しさに感動したとかしなかったとか。
フロギィ革の日用品
ロギィが手作りした自慢の品々。予備も大量にある。
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あけましておめでとうございます。LeaFです。
今話もお読みいただきありがとうございます。
ロアルドロスは水獣ですので、水棲哺乳類的な感じかなぁと思い、クジラを参考にして書きました。
次話もよろしくお願いします。
先月(12/16)に噂話連載一周年を迎えました。
その記念にローサを描いたので、是非御覧ください!
【挿絵表示】
これからもよろしくお願いします。