「そうだヒズミ、そろそろイズデを離れてもやっていけそうだと思うんだが、どうする?」
水没林からの帰り道、唐突にロギィが言った。
「え……どういうことだ?」
頭の整理が追いついていないヒズミは急いで思考を巡らせる。
「そろそろイズデを離れてもやっていけそう」?それはつまりヒズミが一人前のハンターと認められたという事だろうか?ロアルドロスを狩猟することもできたし、きっとそうだろう。ヒズミの顔が明るくなる。
しかしドンドルマの事を考えると喜んでもいられない。ドンドルマで張り出される依頼でロアルドロスを例えるならば、恐らくドスガレオスぐらいだ。ではドスガレオスを狩猟できる腕があったとして、今度こそドンドルマで前よりも良い生活を遅れるかといえば微妙だ。ヒズミの顔が翳る。
コロコロと表情を変えるヒズミを笑いながらロギィが続ける。
「クオル村って知ってるか?」
聞いたことの無い名前にヒズミは首を横に振る。
「山間に作られた中規模の村で、長い歴史を持つ村だ。最近、専属のハンターが引退して、その後進を探しているそうだ」
「へぇ……って、もしかして……」
何となく聞き流しかけたが、話の関連性に気付きロギィを見ると、ロギィは「その通り」とでも言いたげな表情で頷いた。
「クオル村に行ってみないか?」
ヒズミは悩む、行きたいという気持ちはあるが、余所者がいきなり専属ハンターになるというのはあまりに荷が重い。
「うーん……クオル村には、おれ以外にもハンターはいるのか?」
「いる。クオル村で育ったハンターが一人と、他から来るハンターが一人だ」
自分一人では荷が重いと思ったが、他にもハンターがいるなら大丈夫だ。
「うん?待ってくれ、クオル村出身のハンターがいるなら、どうして後進を探す必要があるんだ?」
ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「そりゃあ、ハンターが一人しかいなかったら何かあった時に対応しきれないからな。専属ハンターの役割はクエストを達成することじゃなくて、モンスターの脅威から村を守る事だ」
当然ながら、狩場に指定されていない場所にもモンスターは生息している。それは村の近辺も例外ではない。
村の多くはモンスターに気付かれにくい、または侵入されにくい場所に存在するが、それでも村に近づいてきてしまうモンスターはいるものだ。そうした危険から村を守ることこそ専属ハンターの仕事なのだ。
「でもイズデ村の専属ハンターはロギィだけだよな」
「イズデ村は近くに水没林があるからな。狩場付近の村は狩場に行く途中か帰る途中でハンターが寄る事も多いし、ハンターの行き来が多いから、専属ハンターが少なくてもどうにかなるんだ」
ロギィはよく遠出をするが、それも他のハンターがイズデ村に留まっている事が多いからだそうだ。
「そうか、じゃあクオル村の専属ハンターになるって事は、クオル村の存続を背負うって事になるのか……?」
「そうとも言えるが、そんなに気負うことは無いさ。ヒズミの他にもハンターはいるんだし、そもそも村にモンスターが近づくこともそう多くはない」
ヒズミは暫く黙り込んでいたが、諦めたように口を開いた。
「ダメだ、すぐには答えを出せそうにない。リーフにも聞いてみたいし、もうちょっと考えさせて貰えないか?」
「お前のハンター人生を左右する話だ。存分に悩むと良い」
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ロギィの提案から三日後。ヒズミは借家を引き払う準備をしていた。
「うーん……この辺の素材は売るべきかなぁ」
ドンドルマからイズデ村に引っ越してきた時も悩んだことだが、持っていく素材の選別は非常に難しい。
鉱石類は引越し先でも採集可能だ。だが手間を考えるとある程度残しておくべきでもある。モンスターの素材はいつ必要になるか分からない上次はいつ入手出来るかも分からないのであまり手放したくないが、とてもかさばるので多くは持って行けない。
「ドス系のモンスターの素材は売っても……いや、太刀の強化に使うか。じゃあ……衣類を削る……?」
選別に苦難するヒズミとは対称的に、リーフは既に準備を終えていた。
「そこまで悩む事はないニャ。今のところ使う予定のないものは全部売るか捨てるかすれば良いのニャ」
そう言うリーフの装備は先日狩猟したロアルドロスの素材を用いて作られたルドロスネコシリーズだ。
「そんな簡単な事じゃないだろ。じゃあそういうリーフはどうなんだよ」
「オレの荷物はこれニャ」
差し出されたのは一つのバッグ。中身は財布と、リーフが集めている、「月刊狩りに生きる」の番外編でニャンター特集がされている物が数冊……
「他は?」
「ない。これだけニャ」
「いや少な過ぎだろ!他の物は要らないのか?」
「装備は身につけてるし、財布もあるし、「狩りに生きる」もあるから大丈夫ニャ。後のものは大抵引越し先でも買えるニャ」
リーフの潔さに感心すると同時に自分にはできないなとヒズミは思う。
「凄いなリーフ……荷造りができないおれは諦めてこの村に残るよ……」
「バカなこと言って無いで、オレも手伝ってやるからとっとと準備するニャ。まずは売るものの選別からニャ。鉱石類は向こうでも採れるから売っちゃうニャ~」
「待て、せめてマカライトとドラグライトは残してくれ!」
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「お、準備出来たかヒズミ」
結局、ヒズミの荷物はリュック一つと、大きめの木箱一つに収まった。
「随分とコンパクトじゃない。どうしたの?」
ヒズミの捨てられなさを知っているローサは驚いたような不思議そうな様子で聞く。
「オレが全部捨ててやったニャ」
「名残惜しい……」
リーフが自慢げに胸を張る。全部とは言うものの、捨てたのはヒズミが「もしかしたら何かに使えるかも……」と言って手放せなかった素材や明らかに要らない雑貨の類だ。
ヒズミは残った荷物であるリュックと木箱を「これだけは離さない」とばかりに気を張っている。
「まあ準備も整ったところで、竜車が到着したぞ」
ドンドルマまで乗せていってくれる商人のものだ。ドンドルマから別の竜車に乗り継ぎクオル村へと向かう。
「にしても、これでお別れっていうのも寂しいな」
ヒズミが感傷的に呟く。
「この半年間、色々あったしね」
「まあでも、永遠の別れって訳じゃないんだ。またそう遠くないうちに会えるさ」
手紙は寄越せよ。とロギィは言う。
「その通りニャ。暇がある時にまた帰ってくるニャ!」
最近は飛行船による移動も一般化して来ており、素早く、かつある程度安全に移動ができるようになっている。離れた村同士の移動も容易だ。
「そうだな……うん。ロギィ、姉さん、半年間ありがとう。クオル村に行っても頑張るよ」
決心が着いた。ヒズミとリーフは竜車に乗り込む。
「元気でね!」
「土産には期待してるぞ」
ロギィとローサに見送られ、一人と一匹はクオル村へと旅立った。
「行ってしまいましたね」
「寂しくなるな」
ヒズミとリーフがいた半年間は、二人にとっても充実したものだった。ローサは久々の弟との生活だったし、ロギィにとっても数少ない他人と共に狩りを出来る日々だった。
「まあ普段の日々が戻って来ただけさ」
二人はいつものクエストカウンターへ向かう。
入れたてのお茶で喉を潤し、ロギィはいつものように話し始める。
「そうだ、聞いてくれよローサ、この間水没林でさぁ……」
おわり
LeaFです。
モンハン噂話、これにて完結です。長らくお読みいただきありがとうございました。
完結とは言いつつも、今後もネタが浮かび次第更新しようと思いますので頭の片隅にでも覚えていて頂けると幸いです。
しかしなぜ唐突に完結を迎えたかといいますと、一度噂話に区切りを付け、次回作を書きたいと思ったからです。
話の流れ的にお察しの方もいるかと思いますが、次回作はヒズミが主人公となります。なるべく間を開けずに投稿するつもりですので、そちらもよろしくお願いします。
ご愛読頂き本当にありがとうございました。