「大丈夫ですか!?」
ㅤバァンと勢いよく自宅の扉が開け放たれる。
ㅤ逆光に目を細めながら、我が家の扉を破壊せんとする不埒者を確かめようとすると、そこに立っていたのは良く知った人物だった。
「おいおい、ウチの扉を壊してくれるなよローサ。この家も割と古いから、あんまり乱暴にすると壊れちまう」
ㅤ普段の制服姿とは異なり私服姿のローサが、今度は優しく扉を閉めてロギィの元まで歩いてくる。
「あら、意外と元気そうですね。てっきり余りの苦しみにのたうち回っているものかと思っていましたよ」
「生憎だが今は元気だよ。文字通り腹の虫の機嫌も良いみたいでな。それよりもローサが見舞いに来てくれるとは驚きだよ」
ㅤ部屋の隅にあった椅子を持ってきて座るローサに、ロギィはベッドの上から対応する。
「村で唯一のハンターであるロギィさんが倒れたとあれば、私だって駆けつけますよ。……ええと、確かキセイチュウとか言いましたっけ。魚の中に住むなんて変な生き物ですね」
ㅤローサが態々駆けつけた理由。それは、先日水没林での採集ツアー中にが釣り上げたドス大食いマグロをロギィが食したところ、見事寄生虫にあたったからであった。
「フルフルとかも似たようなもんだよな。あいつの幼体は他のモンスターの体内に寄生していて、成長すると寄生したモンスターを食い破って出てくるって聞いたことがある」
「アイツですか……見た目と言い生態といい、とんだ化け物ですよね……」
ㅤローサが明らかに嫌そうな顔をして言う。フルフルは女性を中心として多くの人々に嫌われており、中にはかわいいと言う人もいるそうだが、基本はローサのような反応を示すだろう。
ㅤ余談だが、一部の特殊な人間の間ではフルフル派とギギネブラ派で激しい争いが繰り広げられているとか。
「まあそうだな。話を戻すが、ハンターからすれば寄生虫ってのは結構見慣れたもんだったりするんだ」
「ロギィさんみたいにあたるからですか?」
「いや違う。寄生虫はなにも魚にだけついてる物じゃあなくてな。モンスターの腹の中にも潜んでるんだ」
ローサが意外そうな顔で聞く。
「へえ、そうなんですね。じゃあ剥ぎ取り中に見つけたりするんですか?」
「そうだな。鱗や甲殻を剥ぐだけじゃ出てこないが、中身に手をつけたときにはよく見かける。ああ、アオアシラとかには体毛に紛れてくっ付いてたりもするな」
ㅤこの辺に……と呟くとロギィは本棚にあった一冊の本を手に取る。
「なんですか、その本」
「これは寄生虫について書いてある本だ。ドンドルマに行った時に見つけてな、これが結構役に立つんだ」
パラパラとページを捲ると、半分ほど捲った辺りでローサに渡す。
「ここから先にモンスターに寄生する奴が載ってる」
「はえー、宿主が倒されると襲ってくる奴なんかもいるんですね。これは確かに役に立ちますね」
「訓練所でも寄生虫について少し教わるが、そいつみたいに襲ってくるような奴ぐらいしか教えて貰えないからな。それがあると凄い助かる」
「危険なやつを教えて貰えれば十分なんじゃないですか?」
「まあそれでも十分といえば十分なんだけどな。
例えば水没林で倒したモンスターに 渓流に棲息する寄生虫がついてたとしたら、 そのモンスターは渓流から来たと考えられるだろう?
それが分かると モンスターの動きが見えてきて、渓流に何かあったのかな とか、情報を手に入れるきっかけになったりするんだ。
まあ俺の場合は単純に面白いからって言うのが大きいけどな」
「へえ、そうなんですね。寄生虫から得られる情報も有用であると。なんかロギィさん 凄いハンターみたいですね」
「みたい ってなんだよ みたい って。俺はれっきとした上位ハンターだ。それと、この本を愛読してるのもそんな立派な理由だけじゃない。一番の理由は……」
ㅤロギィは満面の笑みで、瞳を輝かせつつ続ける。
「この本ではな、美味い寄生虫の食べ方が紹介されてるからだ」
ㅤ強い嫌悪感を隠せないローサを傍目に、ロギィは本のページを見せながら寄生虫食について熱く語る。
「いやさ、俺も最初はちょっと抵抗あったけどさ、この本の通りにやってみたら美味いのなんの。例えばこのアオアシラとかにくっ付いてるシッチマダニは宿主から吸った血が溜まってる腹袋を取ってレモンと一緒にハチミツに漬けておけば甘くて美味しいおやつになる。こっちのスイリュウカイチュウは刺身も良いが蒲焼きにすると……」
「待ってください、もういいです。寄生虫食とかちょっとアレなので……」
ㅤ
「ああ、そうか。すまんすまん」
ㅤ指摘されてようやくローサが嫌そうな顔をしていることに気がついたようで、話を止めて本を仕舞う。
「そんな、気持ち悪い元の姿を見せながら熱弁されても『美味しそう!』とはなりませんよ……」
「そりゃあそうか。ちょっと配慮が足りて無かったな、悪い」
「そうですよ。それと、私そろそろ帰りますね。お昼もまだなので」
「あ、ちょっと待て。それだったらウチで食ってくか? 丁度今から飯にしようと思ってた所だし」
空腹を訴えながら立ち上がるローサを引き止め、ロギィは食事に誘う。
「あら、良いんですか?それならお言葉に甘えさせて貰いますね」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
ㅤベッドから起き上がり、ロギィが奥に引っ込んでから少しして。丼を持ったロギィが現れる。
「お待たせ。俺特製蒲焼き丼だ」
ㅤ俺特製蒲焼き丼 とロギィが称する丼には、たっぷりとタレの塗られた肉が白米を覆うように乗っており、湯気と立ち上る香ばしい匂いが非常に食欲をそそる。
「これは美味しそうですね」
「だろ?結構頑張ったんだよこれ作るの。だからさ、早く食って感想聞かせてくれよ」
「そんな急かさないでくださいよ……ん!おいしい!」
「美味いか!?それは良かった。作るの初めてだから不安だったけど、いやあ良かった」
「ウナギの蒲焼きって初めて食べたんですけど、凄く美味しいですね」
「……ああ、そうか。ウン。それは、良かった。そう言ってくれると作った甲斐があるな」
微妙に歯切れの悪い反応を不思議に思っていると、あること気が付き思わず食べる手が止まってしまった。
__こっちのスイリュウカイチュウは刺身も良いが蒲焼きにすると__
ローサの脳内に先程の会話が蘇り思わず手で口を押さえる。ロギィに視線をやると、明後日の方向を向いて下手くそな口笛を吹き始めた。これでローサの嫌な予想は当たってしまっていることが分かった。
「~~~!!!!!」
ローサの言葉にならない叫びが響いた。
スイリュウカイチュウ(水竜回虫)
巨大な寄生虫。魚類から水竜まで多様な生物に寄生し、大きいものは一メートル程にもなるという。食べられるが、水竜回虫の中に寄生虫が潜んでいる可能性があるので注意が必要。
シッチマダニ(湿地真蜱)
獣竜種等の皮膚に張り付く五センチ程度のダニ。剥ぎ取りの際皮膚が露出していると噛まれる可能性もあるため要注意。