モンハン噂話   作:LeaF_Esra

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未熟者の苦難

 ドンドルマは巨大な街である。

 人と物に溢れ、様々な情報が行き交うその街に憧れを抱く者は多い。

 そしてそれはハンターとて例外ではない。

 人が多ければ依頼も増え、仲間も見つかる。素材の流通量も多く腕の立つ職人も集まるため、質の良い装備も手に入りやすい。

 

『ドンドルマに行けば素晴らしいハンター生活を送れる!』

 

 そう考えて、多くのハンターが故郷を飛び出した。

 

「でも、現実はそんなに甘くないんだよなぁ」

 

 ドンドルマの大酒場で独り言ちるのは、ランポスシリーズを身に纏ったハンター、ヒズミ。

 彼の視線の先では、駆け出しと思しきハンターが受付嬢と話しているところだった。

 

「突然どうしたニャ……ああ……」

 

 悟ったように呟いたのは同じテーブルを囲む緑の毛並みのアイルー、リーフ。ヒズミの幼い頃からの相棒だ。装備はヒズミと同様ランポスの物だ。

 ヒズミの見ているもの気付いて、同様苦い顔をする。

 

 彼らは2年ほど前に故郷の村を飛び出し、多くの若者と同様、ハンターになるべくドンドルマへとやってきた。しかし、そこでの生活は想像に反して厳しく、現在は狩場で焼くこんがり肉が一番のご馳走になるような生活を送ることとなっていた。

 

 例の駆け出しハンターは発行してもらったギルドカードを受け取って嬉しそうにしている。

 おれにもあんな時期があった、などと年寄りぶるつもりは無いが、それでもドンドルマに来たばかりの自分と重なってしまう。

 

「ため息なんてついて、どうした二人とも」

 

 背後から声をかけられて驚き振り返ると、フロギィSシリーズのオレンジ色が目に飛び込んできた。

 

「なんだロギィか」

 

 ロギィはイズデ村を中心に活動している上位ハンターで、一応、ヒズミの師匠的な存在であると言えなくもない。謎の木箱を抱えているが、中身は何だろうか。

 

「なんだとは酷いなヒズミ。せっかく恩師に会えたんだから、感動の言葉の一つぐらい有っても良いんじゃないか?」

 

 随分と偉そうな事をロギィは言うが、恩師と言うほどヒズミが教えて貰った事はあまりない。

 

「感動も何も。数回一緒にクエストへ行って肉焼いただけだし」

 

 ヒズミはハンターになったばかりの頃、姉であるローサの計らいを受け、ロギィと共にクエストへ行った事がある。

 ただ、そこで教えて貰った事といえば、草食竜ごとの旨い部位とその上手な剥ぎ取り方、寄生虫の取り除き方と調理の仕方、湿気の多い土地で肉焼き器の火を素早く点ける方法など。

 なぜか食事に関する事ばかりで、狩猟に直接的に役立つ知識などを教えて貰った記憶は無かった。

 

「まあでも役には立ってるだろ?」

 

 確かに、ロギィに教わったことのお陰で金のない今でも食い繋ぐことが出来ているのは事実だ。

 ヒズミの現在の状況を見越しての教えだとしたら、ロギィは中々の慧眼の持ち主という事になる。

 

「まあな」

 

 ロギィは抱えていた木箱を床に置き、ヒズミの正面に座る。

 

「その箱は何ニャ?」

 

 料理を食べ終わったリーフが問いかける。

 

「これか?これはな……」

 

 よくぞ聞いてくれたとばかりに顔を明るくするロギィ。この表情はロギィがフロギィ関連の話をする時の顔だ。フロギィの話となったらロギィは止まらない。

 話を振ったリーフも、申し訳ないとばかりにヒズミを見ていた。

 

「いや、その話はまた今度聞かせてくれ!それより今日は何の用だ?突然訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」

 

 ロギィの開けた木箱の蓋の隙間から、ロギィ着ている装備と同じオレンジ色が覗いたのをヒズミは見逃さない。あの箱については話題に出してはいけないとリーフに視線で訴えかけた。

 

「えー、凄い物なのに……まあ良い、今日はクエストの帰りでな。久々に様子を見てやろうと思ったんだ。最近どうだ、ちゃんと飯食ってるか?」

 

 どうやらロギィなりにヒズミ達のことを心配しているようだった。

 

「ちゃんと食べてはいるニャ。でももっと美味しい物が食べたいニャァ……」

 

「ふむ」

 

 リーフの心情に呼応するようにへたりと耳が倒れる。リーフの前にあるのは最安値のプレートだし、飲み物もただの水だ。

 

「割の良いクエストはみんな他のハンターに持ってかれるからな。数をこなして、ついでに精算アイテムをしこたま集めてようやく食い扶持を稼げる」

 

 ドンドルマはハンターが多い。これは仲間が見つかり易いというだけでなく、競争相手が多いという事でもある。

 その分多くのクエストが張り出される為、それらを受注すれば食いっぱぐれる事は無いかもしれないが、「素晴らしいハンター生活」を夢見ていた若者がそんな日銭を稼ぐかのような生活を求めていた訳もない。

 

 理想のハンター像からかけ離れた自分に気がついた時の彼らの行動は大きく二つ。さまざまな理由からそのままハンターを辞められず、そのままずるずると続けるか、さっぱり諦めて別の道を歩むかだ。

 

 ヒズミの場合は前者だった。

 

 『一人前のハンターになってやる!』と啖呵を切って家を飛び出した手前『やっぱり無理だった』と泣きつくことなど恥ずかしくて出来ないが、何か打開策があるという訳でも無い。

 ヒズミが悩みを打ち明けると、ロギィは少し考えてから口を開いた。

 

「じゃあイズデ村に来るか?」

 

 不意を疲れたかのようにヒズミは顔を上げる。

 

「丁度良いだろ?ローサも居るし、俺が狩りの面倒を見てやる事も出来るし」

 

 ドンドルマに居続けるか故郷に帰るかの二択しか頭に無かったヒズミは、自分の視野の狭さに気がついた。

 

「そうか、そういう選択肢もあるのか……」

 

 このままドンドルマにいても状況が好転する事は無いだろう。さらにロギィは狩りの指導をしてくれるというのだ。これ程ありがたい話は無い。

 

「行きたい。今度こそ狩りについても教えて欲しいしな」

 

「よし、じゃあ決まりだな。明日の朝には出発するから、今日の内に荷物は纏めておけよ」

 

「分かった」

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「ここがイズデ村か」

 

 数日後、ヒズミはロギィと共にアプトノスの引く荷車に揺られてイズデ村に到着した。ジメジメとした空気、湿った地面。建ち並ぶ家々は地面から数十センチ程高い位置に床があり、ドンドルマや故郷とは異なる雰囲気をヒズミは感じた。

 

「取り敢えずローサの所に行くか。お前が来ることも伝えて無いし、俺もしばらく空けてたし」

 

 荷車から降りてロギィが向かったのは、村の入口からそう遠くない位置にある、「クエストカウンターイズデ出張所」の掲示がなされた建物だった。

 

「ただいまー」

 

「あ、ロギィさんおかえりなさ……ってヒズミ!?どうしてここにいるの?」

 

 帰ってきたロギィに返事をしたかと思えば、その後ろに続くヒズミの姿を見て驚くローサ。

 すかさずロギィが説明を入れる。

 

「かくかくしかじかあってだな……」

 

「なるほど、そういう事なんですね。分かりました、後で村長さんに空き家を使わせて貰えないか聞いてみましょう」

 

「それが良い」

 

 ヒズミの話が纏まると、ローサの視線が例の木箱へと移ったのがヒズミには分かった。

 

「待っ……」

「ロギィさん、その木箱はなんですか?」

 

「よくぞ聞いてくれた!これは今回のクエストの報酬として貰ったもので……」

 

 止められなかった。

 ローサには悪いがここは生贄になってもらうしかないか……そう考えたヒズミとリーフはこっそりとその場を離れようとする。

 

「お前らも見てくれよ、この精巧な作りを!」

 

 ロギィが木箱から取り出したのはドスフロギィの模型。サイズこそ違えど確かに精巧で、今にも動き出しそうだ。

 

「すごいな……」

 

 思わずヒズミが呟く。

 

「だろ?これは本物のドスフロギィの素材を使ってるから……」

 

 結局ロギィの熱弁は日が傾くまで続き、ヒズミの借家探しが始まったのは夕方からだった。

 

 こうしてヒズミのイズデ村での生活が幕を開けた。

 




ヒズミ
 ローサの弟。親元を離れてドンドルマでハンターになるも、困窮した生活を送っていた。好きな肉はアプケロス。

リーフ
 ヒズミの幼少期からの相棒。少し口が悪いがヒズミの事は誰よりも信頼している。好きな肉はアプトノス。
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