回復薬、砥石、ペイントボールにウチケシの実。ボックスの中から必要なアイテムを取り出し、ポーチに入れる。
「ヒズミー、とっとと準備するニャー」
一通り必要なアイテムを入れ終えた所で背後からリーフが声を掛けてきた。
「確認するからちょっと待ってろ」
必要なものがすべてそろっていることを確認し、アイテムボックスから顔を上げる。
「ようやく終わったのかニャ」
悪態をつくリーフの装備はランポスネコシリーズからズワロネコシリーズへと変わっている。雨合羽のような可愛らしい見た目だが、れっきとした装備である。
「アイテム確認は慎重に、って教わっただろ?」
対するヒズミの防具はインゴットシリーズ。背負っていた骨刀【
イズデに来てから新調したそれらは、二人がこの地に十分に馴染んだことを示していた。
「まあいいニャ。ロアルドロスについて確認するニャ」
今回のクエストはロアルドロス一頭の狩猟。
イズデに来てから数か月間、ロギィとローサによってみっちりと訓練され、ようやく今日、イズデに来てから初めてロギィ抜きで大型モンスターと対峙することとなった。
「ロアルドロスがどんなモンスターかは知ってるよな?」
村の外へとつながる門を通り、水没林へ向かう道すがら今回の目標について話す。
「当然ニャ。 ルドロスを従えてる水獣で、スポンジ状のタテガミが特徴的。高いスタミナを持っていて、水ブレスを吐きながら走り回る攻撃には注意が必要。だニャ」
水没林近辺のモンスターは、イズデに来てすぐにローサに叩き込まれており、実際に戦った事は無いものの知識だけならば両者とも十分にある。
「知識だけでモンスターは狩れないが、知識が無ければ戦う事すらできない」というのはロギィの言葉だ。
注意すべき点や作戦について話してるうちに、水没林のベースキャンプへたどり着く。
支給品ボックスから応急薬や携帯食料といったアイテムをポーチに放り込み、続いて地図を広げてリーフと眺める。
「まずは居場所からだな。奴は水辺にいるだろうから......まずはエリア2を目指してみよう」
「ニャ。足元には気を付けるのニャ」
ロアルドロスの居場所に目星をつけ、軽く装備に異常がないかを確認し、ベースキャンプからエリア1へと続く小道を進む。
地面のほとんどは水に浸っている。
防水加工のお陰で防具内にまで浸水してくる事は無いが、水底の泥がグリーヴにまとわりつく感覚は伝わる。一歩踏み出すたびに泥に足が沈み、リーフの言う通り見えない障害物に足を取られる可能性も高そうだ。
エリア1に出た。ズワロポスが水を飲む光景が目に入る。何度も踏み入れたはずの狩場だったが、頼れるハンターがいないというだけで自然と緊張感は高まった。
「ヒズミ、オマエ何をそんニャに緊張してるのニャ。そんなんだとロアルドロスに会った瞬間水浸しニャよ」
「き、緊張なんかしてねーよ。武者震いだ、武者震い」
少し口は悪いが、彼なりに緊張を解そうとしてくれているであろう事は直ぐに分かった。その心遣いが非常に有難かった。
「まあなんでも良いニャ。採集だけしてから行くニャ」
水没林は植生が豊かで、鉱脈も多く特有の鉱石が採れるなど、資源が豊富なのだ。いつでも来れる狩場ではあるものの、武具の強化やアイテムの調合に必要な素材も多いため、できるときに採集しておくに越した事はない。
「大漁大漁!武具の強化が捗りそうだ!」
「こ、これだけあればアイテムもいっぱい作れるのニャ!」
ヒズミは重くなったポーチを覗いて満足そうに笑う。鉱脈からは鉄鉱石やマカライト鉱石、シーブライト鉱石を採掘できた。更に木陰で光蟲を、倒木の上で不死虫を入手した。どれもこれもハンター生活に入用の物で、リーフもまた大喜びだ。
「ふふふ、よし。次だ。ロアルドロスを探しに行くぞ」
当初の予定通りエリア2へと向かう。先ほどのことがあってか、ヒズミの足取りは軽やかだった。
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エリア2には巨大な建造物が隣接していた。四角錐状であり、内部には通路のようなものがあることが分かっている。しかし何のため、そしてどうやってこんな巨大な物を作ることができたのかは謎だ。
「とんでもニャいニャ」
リーフがその大きさに見とれているその時だった。
──ゴオォォッ──
エリア6の方向から、低く唸るような叫び声が聞こえてきた。
「これはっ」
間違いない、モンスターの声だ。リーフと顔を見合わせ、直ぐに駆け出す。
エリア5を通り抜け、エリア6へと繋がる角を曲がると、目立つオレンジ色に焦げ茶の斑模様が散る表皮を持った巨体が蠢いていた。
「ドスフロギィかニャ……?」
毒狗竜と呼ばれるそのモンスターは、水没林に出没するモンスターの中では弱い部類に入る。しかし、だからと言って侮って良い相手ではない。
奴らの吐く毒をまともに喰らえば、狩りに支障が出るのは当然、最悪死に至る。
ドスフロギィが狩猟対象ならばともかく、ロアルドロスを相手取る前に遭遇したい相手ではなかった。
「ヒズミ、相手はまだオレたちに気が付いてないニャ。別のエリアを探すニャ」
リーフは提案する。わざわざドスフロギィに戦いを挑む必要はない。懸命な判断だ。
「……待て、奥に何か居るみたいだぞ」
ドスフロギィをよく見てみると、エリアの奥の方に向かって威嚇しているようだ。
「本当だニャ、見に行ってみるニャ?」
「ああ、気づかれないようにゆっくりな」
なにも興味本位で覗いてみようと言うわけではない。ドスフロギィが威嚇しているという事は、相手はドスフロギィと同格かそれ以上の脅威という事だ。
もしかしたらロアルドロスかも知れない。そうでなくても、狩場にいるモンスターの情報は把握しておきたい。そういった考えによる行動だ。
流れる水の音が足音を隠し、難なく近づくことができた。
岩壁の陰に身を潜めて様子を伺う。ドスフロギィはこちらに背中を向けており、その奥には黄色い巨体。
「ロアルドロスだ!」
狩猟目標を容易に見つけられたのは幸いだった。が、ドスフロギィと相対している最中に飛び込む訳にも行かない。ここはしばらく様子を見る事にする。
まずは威嚇。両者とも相手を睨みつけ、牙を剥き出しにして吠える。
周囲のルドロスも揃ってドスフロギィを威嚇する水獣達に対してドスフロギィ。狩りの予定は入っていなかったのだろうか、取り巻きが居らず、若干劣勢のようにも見えた。
ドスフロギィが動いた。身を屈め、喉袋を膨らませ、そして身体を伸ばすと共に毒霧を吐き出す。放たれた紫色の気体はロアルドロスの頭部を覆うようにして漂い、それをまともに吸い込んだロアルドロスはよろめく。
「グオォッ グオォッ」
ドスフロギィはその様子を見て、煽るように一声鳴くとその場を去って行った。
「チャンスだな、行こう」
そうリーフに声をかけて岩陰を飛び出す。バシャバシャと水を踏む音が響き、水獣たちの視線がヒズミに集まる。矢継ぎ早に表れた不埒ものに腹を立てたのか、ドスフロギィに対してよりも大きく叫ぶロアルドロス。
「ルドロスの数が多い、気をつけろニャ!」
「分ってるさ!」
リーフの言う通り五頭ものルドロスがロアルドロスを囲っている。
走り出したヒズミと水獣たちの距離はどんどん縮まって行く。ヒズミはあと数十歩というところでスピードを緩めると、右手に握っていたものを投げつけた。
「まずはこれをくらえっ!」
球状のそれは、黄色い表皮をピンク色に染めつつ弾ける。
ペイントボールだ。ペイントの実と素材玉を調合することで作られるそれは、弾けると強い匂いを発し、エリアの垣根を越えてその場所を主張し続ける。
通常は大型モンスターに匂いを付着させ、エリア移動した後でも追跡できるようにするためのものだ。が……
「バッカお前ルドロスにペイントボールぶつけてどうするのニャ!?」
ヒズミはボールを投げるのが下手糞だった。
「おれだってルドロスに当てるつもりは無かったよ!」
狩りは待ってはくれない。
不安が二人を取り巻く中、水獣たちは襲いくる。
続く
ペイントボールは当たりません。
一度の狩猟で四回外した私が言うのだから間違いはありません。