『………良かった。間に合った。』
彼は静かに殺気と怒気を帯びていた。
『君、そっち側にいるべきはずじゃないと思うんだけどな。なんで頑なに鬼になろうと思わないわけ?』
『……俺の大切な人に手を出した。それだけで理由は十分だ。』
きっと大切な人は私のことじゃない。彼にとって全ての人は大切なものなのだから。でも
『お前が無事でよかった。しのぶ。後は俺に任せろ。』
少しだけ。ほんの少しだけこの『大切な人』という言葉に希望を抱いてもいいのではないかと私は思ってしまった。
蝶の少女と日の少年
「良し!!みんなお疲れ様。縁側におにぎりを置いておいたからそれを食べて今日は戻ってもいいぞ。」
日柱『竈門炭治郎』。
全ての始まりの呼吸『日の呼吸』の唯一の使い手であり、過去に鬼舞辻を1人で追い込んだ『最強』と呼ばれる柱。しかしその強さの反面、切った鬼に情けをかけたり、訓練に来る隊士には帰り際におにぎりを振る舞うなどとても優しい。料理もとても上手く、彼と親しい関係を持つ人から『おかん』と呼ばれることもしばしば。
「師匠。鬼倒してきたよ。」
「おい!無一郎。いま炭治郎さんは忙しいだろ!」
「良いんだよ良いんだよ。ちょうど鍛錬が終わったところだから。2人ともお疲れ様。あと、2人はもう柱なんだから敬語とか師匠呼びじゃなくていいんだよ。」
「師匠は師匠。」
「炭治郎さんはもっと柱としての自覚を持ってください…。ってお前にも言ってるんだぞ、無一郎。」
「いや。ちゃんと持ってるよ?」
「俺だって持ってるよ。」
ふたりは元々、彼の継子で両親死亡後に彼が引き取った。初めは懐いてくれなかったものの、接していく事に2人は心を開いて今では柱になるまでに成長した。普段は冷静だが炭治郎が絡んだ途端に気が緩むなどまだ師匠離れが出来ていないこともあった。
「……はうぁぁ。眠たいです。」
炭治郎が楽しげに周りの人と話していると、後ろから女性の欠伸が聞こえてきた。またかと炭治郎は頭を抱えて声のする方に向く。
「……お前、また寝てないだろ?」
「寝ましたよ?ちゃんと。」
「嘘ついてるだろ……しのぶ。鼻がいいのはお前が一番知ってるはずだが?で、何徹目だ?」
「……四徹目ですかね。」
「カナエさんに止められてるんじゃなかったっけ?努力家なのは「……すいません炭治郎。背中借ります。」おい!人の話を……ってまた……はぁ。」
「「「蟲柱様!?」」」
「良いんだ。いつもこんなんだから。」
またこのパターンかと半分諦めた表情で空を見上げる。
蟲柱『胡蝶しのぶ』
鬼の首を斬ることは出来ないが、毒で鬼を殺すことが出来る。本人曰く『毒で鬼をころせちゃうちょっと凄い人』2人は同期であり同時に年齢が近いということから、仲はとても良く大抵いつも一緒にいる。それは柱になっても変わらなかった。
性格は真反対と思えば別にそうでも無い。こんなやり取りはしょっちゅうで、最近はもう言葉を発しなくても相手が何を求めているのか大体わかるらしい。見た目的にしのぶの方がちゃんとしているかと思えば別にそうでもなくて、どちらかと言えば炭治郎の方がしっかりしている。
「ごめんな。ちょっと屋敷まで連れていくわ。」
「今日、柱合会議あるけど。」
「………少し寝かせて行く。」
「……頑張ってください。」
蝶屋敷に向けて歩き始める。彼女は細く華奢で体重は軽い。それにいつも彼は彼女を担いでいるためもはや鬼殺隊の中では見慣れた光景になっていた。
「……よもや。」
「またか。」
「あらまぁ……。」
「あ、煉獄さんと伊黒さんと甘露寺さん。凄く珍しい組み合わせですね。あ、声はいつも通り控えめでお願いします。」
「努力家なのはいいことだ。でも、頑張りすぎるのも良くないな。」
「お前が思っている以上にこの光景なんかいも見てるぞ。」
「あ、炭治郎君としのぶちゃん!!いつ見ても本当の兄妹みたい!」
「それ毎回会う度言ってますね。」
煉獄とは稽古をつけてもらった時に仲良くなり、伊黒と甘露寺とは4人で調査に行った時に打ち解けた。今ではお互いに意見交換を交わすほどになっている。
「柱合会議には遅れないようにな。」
「しのぶに言っておけ。これ以上徹夜すると体壊すぞと。」
「でも幸せそうに寝てるわね。可愛い。」
「幸せそうに寝るからまた起こしに起こせないんですよね……。」
「お前は優しすぎる。少しは厳しくなれ。会議には遅れるなよ。」
「しのぶちゃんを頼んだよ!!」
彼は優しい。最大の弱点で最大の長所で自分もそれを理解していた。
「お前は俺の背中でそんなに幸せそうに寝るんだ。そんなに俺の背中気持ちいいものじゃないだろ。……起きてないよな。」
「Zzz……。」
「……まぁ。寝かせとくか。蝶屋敷着くまで。」
周りによく言われるが、何だかんだでやっぱり自分はこいつに甘いなと自分に対し苦笑する。
「あ、猫。」
「ごめんなさい!!炭治郎君!!」
「しのぶ苦手ですからね……全体的に毛がある生き物。」
「屋敷に入り込んじゃって。驚きすぎて炭治郎君にしがみついた時あったわね。懐かしい。」
胡蝶カナエは名前の通りしのぶの姉で、しのぶとあとの3人を除けば1番付き合いが長い。今は柱を引退しており医療に徹している。
「だから錆兎達がいるんですね。」
錆兎、真菰、義勇は彼にとって兄弟子と姉弟子にあたる人達だ。4人は同じ「水の呼吸」の育手に教え込まれた。
「いてて。」
「錆兎っておっちょこちょいだよね。」
「……お前、おっちょこちょいなのか?」
「おい。お前ら。って炭治郎来たのか。」
「猫退治に呼び出されたのか。」
「退治じゃなくて元いた場所に返すだけどね。」
「また胡蝶は寝たのか。」
「あはは……。」
「まぁ会議には遅れるなよ。先に行っとくぞ。」
「じゃあね!!」
「またあとでな。」
3人に手を振りながら屋敷の中に入っていく。カナエは用事があるからと外の方に出ていった。
屋敷の中は本当にさっきまで人がいたのかと疑うくらいに静かでいつもいる子供たちも姿は無かった。
「着いたぞ。しのぶ。」
「着きました?」
「あぁ。降ろすぞ。」
縁側の近くでしのぶを下ろす。
縁側で炭治郎が腰を下ろして正座をすると膝にしのぶの頭が膝を枕代わりにするように下ろしてきた。
「まだ眠たかったのか?俺の膝硬いと思うが。」
「全く。あなたは本当に周りには鋭いのに自分には疎いですよね。」
「……?(嫉妬と甘い匂い?)」
「少しは甘えさせてくださいよ。私、これでも頑張ったんですよ?頑張り屋さんなんですよ?」
「……なるほど。そういう事か。」
そっと頭を撫で始める。
炭治郎は兄弟が多かった。
そのため、褒めるのも上手い。
歳は確かに同じだが、年上に甘えているように感じた。
「ふふっ。本当に褒めるのが上手いですね。」
「なんなら歌でも「遠慮しておきます」なんで!?」
「歌が下手で聞くにも聞けません。」
「俺、そんなに下手なのか?」
本当に彼は自分に疎い。
その自身はどこから湧き出てくるんだと内心思うが、それも彼のいい所でありそれと同時に彼を【好き】になった要因でもあった。
「……私、あなたのこと大好きなんですよ。本当に。」
「俺もだ。お前がいてくれたら本当に助かるし頼りになる。」
「そう意味じゃない!!」
ポカポカと膝を軽く叩いてそっぽを向く。
「……どういう意味だ??」
「…そっちの意味じゃなくて…私が言ってるのはい…あ、いやなんでもないです。」
「?」
「本当に鈍いですね。まぁ良いです。私はこの関係も好きですし。」
「そうか…(?)」
本当はこの関係が壊れるのが嫌だから。このガラス細工のように綺麗な関係を壊したくないから。そんな言葉は言えなかった。
(あなたが本当は愛おしいほど好きなんですよ。)
聞こえないほどに小さな声でそう呟く。この思いはきっと彼には伝わらない。匂いでわかるのかもしれないがきっとそれでも彼には伝わらない。
「柱合会議までには起きますから少し寝ます。」
「……分かった。」
この思いはまだ密かに秘めておこう。いつか大きな声で言える日が来るまで。そう彼女は思ったのだった。
(少しでも、あなたの気持ちがわかって良かったです。)
その後、柱合会議には2人の姿がなく蝶屋敷に様子を見に行けば2人は仲良くすーすーと寝息を立てながら寝ていたらしい。
「……こりゃ怒りに怒れねぇな。」
「またかよ。」
「柱合会議は明日にするか。みんな疲れてそうだしな。」
ほかの柱のみんなとか五感組と絡ませたかった(´・ω・`)ひっさしぶりに糖度高いの書いて糖尿病になりそう。最近はブラックコーヒー並にブラックな話しか書いてなかったもんで。