それは突然の出来事だった。日本に短期留学中にまさかこんなことが起きるなんて。
本国でもあまり見られない荘厳な神殿のような建物に自分は立っていた。
「おお、勇者様、アナタをお待ちしておりました。アナタのお名前をお聞かせください」
偉そうな格好の、王様?の様なモノがそう言いながら手を広げた。
「レンですが、この状況は?」
そう、家でくつろいでいたら、何故か眩しい光で妙な紋様が床に浮かび上がり、眩しさに目を瞑ったらこの有様である。今日日マジックショーやドッキリの類ではないとは言い切れないが、明らかに空気感が違うのだ。しかも、王様(暫定)だけでなく、騎士やローブを着た怪しげな奴ら、そして明らかに人間じゃない奴らが少し離れた場所で倒れ伏しているのだから。
「それはですな」
ザッと纏めると、ここは異世界であり、突如別大陸にて魔王を名乗るモノが台頭。大小様々な大陸や島国が侵略され、残るはこの国のある大陸のみであり、魔王を倒しうる存在を求めて禁忌の召喚術を使ったとの事。なおこの術式は現在魔王が台頭した別大陸からの避難民が持ち合わせていた書物の中に紛れ込んでいた怪しげな本に書かれており、蜘蛛の糸を掴むように行ったとの事。
「じゃあ、俺は戻れないと?」
「はい、現時点ではそうなります。ですが侵略された他の国々や魔王のいると思われる別大陸に帰還用の技術があるかもしれません」
そう言われて、帰還目的のためにこの世界を巡ることになったわけだが、その間に色々と紆余曲折があった。まず性別を間違えられたまま物事が進んで、途中で明かすも、勇者として喧伝した後だったためそのままにされ、身分制度に奴隷階級があり戸惑ったり、魔王信奉の人々と出会ったり、ファンタジー特有の様々な出来事があったりで、どうにかこうにか
「魔王様、またです」
「え~、今年に入って何人目?」
魔王に就任している。
「四人目の勇者軍団で、人数は一人です」
「え?珍しいね。私の時ですらお供に数人ついたのに」
「監視に数人の間違いでは?」
「そこはほら、捉え方次第だから、荷物持ってもらったり、野営の準備だったり、解放後の交渉だったりで必要な人材ではあったと思うし」
「物は言いようですね。まあ確かに貴女が就任してからも常に数人から数十人でご来場になられておりましたが、たまに本物が混じる事もおありでしょう」
「今回はその本物?」
「いえ、血生臭い感じではなく、物騒とも程遠い方かと」
「あ~、暗殺者じゃなくて、また召喚しちゃったパターンか」
そう、薄々というか、後々完全に解ったことだが、あの胡散臭い本による私の召喚。アレは魔王に対抗する存在を呼び出す召還陣ではなく、魔王と同等の力を持つことが出来る存在を呼び出すための召喚術あり、この側近になったモノ(元・魔王)も別大陸で奴隷階級の子供達が贄となり、呼び出されたとの事。
私の時も召喚場所に倒れ伏していたのも、後々思い返せば奴隷階級のモノたちだった。まあ私の時は衰弱は激しかったがあの時点では死んではいなかった、と思われる。多分大人と子供の差や人数の差じゃないかとは思うが、検証する気にはなれない。
「それでどうします?排除しますか?」
「う~ん、いきなり召喚されたのなら再考の余地はあるけど、被害とかは出てないんでしょ」
「強盗殺傷の類は全く報告などはないかと、というか召喚元の大陸のすぐ隣にこの城を作ったのなら起きようは無いかと」
「そりゃ、奥の方に引っ込んでたら、また奴隷階級の人々が出来ちゃうでしょ」
「本音は?」
「育ちきるまで待つなんてとんでもない。玄関開けたらそこに立っていたのは魔王でした、が一番効率良いでしょ。何より、あの大陸に押し留められるなら、楽だし」
「はぁ~、何でこんな変な奴がトップに立つんだか」
「え~、だって君負けたら、好きにしろって言ったから、生殺与奪権を手放したら、有能なら手に入れるでしょ」
「過去の自分を怨めばいいのか、喜べばいいのか。判断が分かれますね」
「ま、来客を待たせたままってのもいい加減あれだし、そろそろ通しちゃって」
そうして、魔王として君臨し続ける暴君(名君)は今日も感情豊かに平凡な王生を過ごしているのだった。