Fate/Grand Order -AMAZON NEO REVISE-   作:古鉄の夜

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ネオジャングレイダー

馬力 187ps (127.5kw)
最高時速 437km/h

野座間製薬が実験体『アマゾン』駆除作戦の『足』として開発したアマゾン専用ビークル


特異点F 炎上汚染都市 冬木
第一節 驚愕


「――ォウ……フー、フォーウ……」

 

 動物の鳴き声らしきものが聞こえてくる――頬を何かにチロチロと舐められていると感じながら千翼は瞼を開いた。

 目の前にいたのは白い毛並みの小型犬ともリスとも見える不思議な生き物だった。誰かに飼われていたのか、服飾品も纏っている。

 

「お前は……いや、それよりもここはどこなんだ……?」

 

 千翼は仰向けに倒れていた身体を起こしながら周囲を見回した。見渡す限りの瓦礫の山とあちこちで燻る炎、ただ今までと違うのはここは意識を失う前までにいた施設内ではなく、屋外だという事。元はそれなりの街であったという面影が崩れかけた建物の棟数から窺えた。どういう事だ? 誰かが俺を外に運び出したのか?

 

「――そうだ! あの子はどこだ!? 俺がここにいるって事は……」

 

 意識を失う直前まで話をしていた少女を探してそこらを見回すが姿は見えない。あの怪我では見つけられたとしても助かる見込みはほぼ無いだろう。それでも見つけてやりたかった。千翼は白い小動物の前に屈みこみ、声を掛けた。

 

「なあ、この辺りに誰かいなかったか? 眼鏡をかけた女の子を見なかった?」

「キューウ……」

 

 しかし小動物は耳をぺたりと畳んで顔をうつむかせるのみ。その仕草から自分一人しか見つけられなかったのだろうと千翼は察すると、今一度、立ち上がった。

 

「……あの子を探してみよう。何があったのか、確かめないと」

「フォウ!」

 

 そして一人と一匹は瓦礫と化した街を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 あの少女を探す傍ら、千翼は自分の身に起きた異常に気付き始めていた。

 

(おかしい……俺はいつの間に服を着替えたんだ?)

 

 そう、千翼が現在着ている服は父である『鷹山仁』とあの緑のアマゾン……『水澤悠』の二人と戦い、敗れた時まで身に付けていた服とは明らかに違う物。非常にしっかりした作りの……何かの制服? と思しき物だった。以前、街中で見かけた学校に通う学生が着ていた服を千翼に連想させた。

 

(それに……あの時は夢中で分からなかったけど、俺、血だらけのあの子を見ても『喰いたい』って思わなかった……)

 

 千翼は人食生物『アマゾン』だ。あれだけ濃い血臭が放たれていたら――忌々しいことだが――人食い衝動が出てしまってもおかしくない。だが、そんな気は全く起こらなかった。あの時は一刻を争う状況だったが、それでも衝動が発生しなかったというのは千翼には信じ難い。アマゾンにとって人食は生理現象だ。抑えようと思って抑えられるものではない。千翼はその恐ろしさを身を持って知っている。

 そしてもう一つの異常。千翼は自分の掌に目を落とした。

 

(傷の治りが遅い……こんなに治りが遅いなんて事これまでなかったよな……?)

 

 そこにはあの少女を助ける為に瓦礫を持ち上げようとした時に傷だらけになった掌があった。いつもならこの程度の傷、すぐに治っていたはずだ。アマゾン特有の驚異的な再生能力。それがなりを潜めていた。それこそ銃弾を雨あられと全身に撃ち込まれても、すぐさま再生してしまう程だというのに。

 

(もしかして……俺は……)

 

 ありえない。まさかそんな事が。そんな言葉が頭を埋めつくしそうになっていた所、視界に映った崩れたレストランの割れたガラス。そこに反射された人影に千翼は息を飲み、近寄った。

 

「俺……なのか? これは?」

 

 毛先がはねた黒髪のショートカット。湖水を思わせる蒼い瞳。若干、童顔に見える少年の姿がそこにあった。明らかに元の自分とは違う容姿だ。千翼は信じられないとガラスに写る自分に手を伸ばした。ガラスの中の自分も同じ様に手を伸ばしてくるのを見て千翼は確信した。

 間違いない。俺は別人になっている。では『アレ』を持っていなかったのもこの身体の異常も……

 千翼が困惑しながらも納得しかけていたその時

 

「フォウ! フォウ、フォーウ!!」

 

 突然、小動物が彼方を見て鳴き声を上げ始めた。千翼はハッとして顔をそちらに向けて見た。

 遠くから異形の集団が近付いてきている。赤い骸骨がこちらにカラカラと骨の鳴る乾いた音を立てながら駆けてくるのが見えた。物騒な事に誰が持たせたのか剣、槍、弓矢がその手に握られていた。

 

「なんなんだ、あいつら!?」

 

 アマゾンではない。骨のみで動く化物などアマゾンにもいなかった。では奴らは何者なのか? 何も分からないながらもこのままでは命が危ないと本能で悟った千翼は小動物を抱え上げると骸骨とは反対の方向へと遁走した。

 

「逃げるぞ!」

「フォウ!」

 

 千翼の言葉にひと鳴きして答える小動物と共に、瓦礫を蹴飛ばしながら街中を走り抜ける。

 やはりそうだ。俺は多分、人間の身体になっている。全力で走っているというのに少しずつ、骸骨に追いつかれてきている事実が千翼にそれを悟らせた。いくらアマゾン態に変身していないにしても、この程度の速度の全力疾走で息が上がってしまうというのはおかしい。アマゾンの身体能力は人間とは比べ物にならない。人間の姿のままであっても、以前ならばもっと早く走れていた。別人になったからか? ずっとアマゾンではなく、人間として生きたいと願っていた千翼にとってそれは望外の喜びであった筈だ。こんな状況でなければ。

 今はあの忌わしい力が無い事が自分達の寿命を縮めている。骸骨達に囲まれてしまい、足を止めざる得なくなってしまった千翼はこの身体の力の無さを呪うしか無かった。

 

「くそっ! どうすりゃいいんだよ!?」

 

 一か八か戦ってみるか? いや、この数の骸骨共を相手にもみ合いになったら、コイツを絶対に巻き添えにしてしまう。

 胸に抱えている小動物に目をちらりと向けて千翼は憔悴する。じりじりと距離を詰めてくる骸骨に万事休すかと千翼が諦めかけたその時

 

 

 

 

 

 

 ――突如、獣の咆哮に似た機械の駆動音が鳴り響いた。千翼達を取り囲んでいた骸骨達の包囲の一角。骸骨を粉々に吹き飛ばしながら『ソレ』は千翼の前に飛び出した。

 

「うわッ!」

 

 小動物を抱えながら千翼は避けるように地面に転がる。飛び込んできたものの正体を確かめようとそちらに顔を向けた千翼の目が大きく見開かれた。

 

「……な、なんでコイツがここに……」

 

 赤いボディに黄色の複眼。まるでそれ自体が一頭の生き物のような有機的なラインで構成された異形のバイク。

 

 ――ネオジャングレイダー。かつて千翼が乗騎していた愛車が異様な存在感を持ってそこに存在していた。

 呆けてしまっていた千翼を促すようにネオジャングレイダーがエンジンをひと噴かし、千翼に機首を向けると複眼型ヘッドライト――ジャンサーチャーを何度か明滅させた。

 

「乗れっていうのか……?」

 

 千翼の言葉に応じてエンジンをもう一度噴かす。それを見て千翼は決心した。即座にシートに跨ると上着のジッパーを下げて、その中に小動物を放り込み、落ちないようにジッパーを上げた。

 

「ゴメン! ちょっと我慢してて!!」

 

 窮屈な上着の中に押し込められてゴソゴソと暴れまわる小動物に声を掛けると千翼はハンドルを握り、エンジンの回転を確かめた。ネオジャングレイダーに戸惑っているように見える骸骨達の包囲網。比較的、数が少ない方角に向けて、千翼はネオジャングレイダーを猛然と発進させた。

 前方に立ち塞がる骸骨を前輪を上げたウィリー走行で轢き潰す。前輪が再び地上に接地。同時に機体後部に翼の様に伸びる加速ユニット、ブーストウィンガーからエンジンに送り込まれたエネルギーが噴射された。ネオジャングレイダーは弾丸の如く急加速。群がってくる骸骨を体当たりで粉砕しながら突き進む。

 後を追おうとする骸骨達を無視して千翼を乗せたネオジャングレイダーは街中を疾走していった……

 

 

 

 

 

 

「――ここまで離れれば大丈夫かな……」

 

 千翼は後方から骸骨の姿が完全に見えなくなってある程度距離を稼いだ所でネオジャングレイダーを道路の路肩に寄せて停車させた。

 そして停車したと同時に再びガサゴソと動き始めた小動物を外に出してやる為に上着の前を開けた。

 

「プフォーウ! フゥゥゥッ! フォウフォーウ!!」

「わ、悪かったって! で、でもこれで逃げきれただろ! 許してくれよ!」

 

 小動物が上着の中から車体の上に転がり出る。窮屈な思いをさせられたためか千翼を見上げると抗議の鳴き声を上げた。

 千翼はその剣幕? に両手を顔の前に上げて必死に謝罪する。それでも怒りが収まらないのか、後ろ脚で器用に立ち上がり「フォウッ! フォウッ! フォウッ!」と、前脚で千翼の両手にパンチを繰り出す小動物。てしっ! てしっ! という感触を両手で受けながら千翼は改めてネオジャングレイダーを見回した。

 

「――それにしても、どうしてコイツがここに? 俺達を助けに来た……いや、探してたのか?」

 

 恐らく元の自分が騎乗していたものとは違うだろう。ネオジャングレイダーにはアマゾンの脳波を探知してある程度、オートで走行する機能が備わっているが、今の自分はアマゾンではない。そもそもこのバイクは自己判断で千翼に騎乗を促してきたのだ。――なんらかのAI、人工知能でも搭載されたのたろうか? では何者かがコイツを自分に差し向けたという事だが……

 

 その時、小動物の後ろから電子音が響き始めた。「フォッ!?」と小動物が仰天し、千翼の肩によじ登ると首の後ろに退避した。千翼も音が響いてきたネオジャングレイダーの速度計付近を注視しているとその一部が開き、レンズが覗いたと同時に千翼の目前に画面が写し出された。

 

「これは……地図……か?」

 

 虚空に突如、出現した画面に千翼は驚き、確かめる為にレンズ部に手を翳して見た所、画面が掻き消えた。どうやらこのレンズから画面が出力されているらしい。以前のネオジャングレイダーには無かった機能だ。

 地図にはここから10km程先のある地点が示されている。ここに何かがあるということか? あるいはコイツを俺の元に寄越した何者かがそこにいるのかもしれない……

 誰かはわからないが少なくともそいつは俺の事を知っているのだろう。でなければわざわざネオジャングレイダーを俺の元に向かわせるはずがない。この街の状況に関する情報をその誰かから聞き出せる可能性もある。

 千翼は一瞬、何かの罠かもと考えたが他にアテもない。あの少女の事も気になるが、この街の状況が分からないままでは、探す事すら難しい。

 

「行くだけ行ってみよう……ヤバけりゃ逃げればいい」

「フ〜、フォウフォ? キャーウ!」

 

 本気か? という様に千翼の肩から小動物が鳴き声を上げる。

 

「言ったろ? ヤバけりゃ逃げるって。危ないから、お前はもう一度この中に入って」

「フォ〜〜?」

 

 開けた上着の中を指差しする千翼に対して、またここに入るのか〜? と嫌そうな雰囲気を見せる小動物。しかし、走行中に肩等の不安定な場所に捕まらせておくのは危険すぎる。先程の骸骨等に遭遇して逃げなければならなくなったら、急加速した時にでも振り落としてしまうかもしれない。千翼は少し考えた末、妥協案を口にした。

 

「分かった。なら顔は出していていいからさ。流石に外に剥き出しのままじゃ危なすぎるよ」

「フォウ……」

 

 仕方ない……と言うように小動物は千翼の肩から下りると上着の中に潜り込んだ。千翼は上着のジッパーを小動物が頭を出せる程度まで上げる。すぐに小動物が顔だけを出してきた。ジッパーが下がって来ないように金具を服に引っ掛けて何とか固定する。そして千翼は、改めてネオジャングレイダーのハンドルに手をかけると確かめるようにエンジンを何度か噴かした。

 

「行くぞ!」

「フォウ!」

 

 そのポジション、結構気に入ってるじゃないか……胸元で力強く返事をする小さな相棒に千翼は少し苦笑すると、ネオジャングレイダーを目的地にむけて発進させた。獣の唸り声に似たエンジン音を周囲に響かせながら……

 

 

 

 

 

 途中、特に妨害も無く千翼達は目的地まで辿り着く事ができていた。

 目の前には研究所らしき建物がある。地図はこの建物の中にある地点を指し示している。

 

「ここだな……」

「フォーウ!」

 

 千翼の胸元でまたもやガサゴソと動く小動物。お望み通り上着から出してやると、小動物は飛び出るように地面に降り立ち、体をブルブルと震わせて耳裏を後ろ脚でカリカリと掻きはじめた。千翼もバイクのスタンドを立ててから降りると改めて建物を見回す。外壁があちこち崩れており全体的にボロボロになっている。火の手は上がっていないようだが、中に人がいそうな気配は感じられない。不気味だがこうして観察しているだけでは何も始まらない。

 千翼と小動物は入り口付近まで慎重に歩を進めていく。自動ドアは電気が来ていないのか、作動しなかったが手で押すと横にスライドして開いた。鍵はかかっていないようだ。

 

「入るぞ……」

「フォウ!」

 

 

 足元の小動物に一言、声をかけると千翼は中に侵入する。頭の中で地図にあった目的地を思い浮かべながら薄暗い廊下を歩いていく。他の部屋の様子を見てみたがどこも荒れに荒れていた。ひっくり返ったデスクに椅子、モニターの割れたパソコンが床に散乱している。やはり人の気配は無い。途中の部屋で見つけた懐中電灯の明かりを頼りに目的の部屋にたどり着いた。ドアをゆっくりと開けてライトで部屋を照らしていく。そして、部屋の中央にあるデスクの上、そこにアタッシュケースが置いてあるのが見えた。千翼はそれを見た瞬間、ある予感を抱いた。早歩きでそのデスクに近づくと、ケースのロックを解除して中身を確かめる。

 

「こ、これはっ!?」

 

 中に収納されていた物は、大振りのベルトと注射器型ユニットが一本。腕輪が一つ、ケースの中に納められた注射器。そして手紙が一枚同封されていた。

 ――それはこれまでずっと求めていた物。あの少女が危機に陥っていた時、骸骨の怪物に襲われた時、これさえあればと思った力を与えてくれる物。

 オオトカゲの眼を左から見たと思しき形状。メタリックレッドのバックル。眼球に当たる黄色のコアユニット。

 

 

 

 ――ネオアマゾンズドライバー――

 

 

 

 

 野座間製薬が開発したアマゾン専用強化装備。

 千翼は震える手で手紙を取り上げ、懐中電灯の光を当てると走り書きされた文章を読み始めた。

 

『これを読んでいるという事はなんとかここまで辿り着く事が出来たという事だな。この世界に干渉する事が難しかった為、これらとあのバイクしか用意できなかった。ケースの中にある注射器にはある細胞が入っている。闘争本能『のみ』を高めるタイプのモノだ。この細胞を体内に取り込まなければドライバーは使えない。腕輪は増大した闘争本能を鎮静化する薬液を封入したレジスターだ。本能に振り回されそうならばこれを腕に付けろ。

 これらを使うかどうかはお前の判断に任せる。使えば今までのお前ではいられなくなる。自分の意志で決めろ』

 

 

 

 

 千翼は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった……




やはり仮面ライダーはバイクで現場に急行してこそだと思うのでネオジャングレイダーには千翼の相棒として活躍してもらう予定です
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