Fate/Grand Order -AMAZON NEO REVISE- 作:古鉄の夜
仮面ライダーアマゾンネオの知覚アンテナ。
周囲の音や敵の気配を敏感に察知し、危険を回避することができる。
脳波を増幅し、高性能バイク・ネオジャングレイダーを呼び出すことも可能。
アマゾン・アイ
仮面ライダーアマゾンネオの眼。
視野やピントを自在に変化させる能力を持ち、1,000m離れた物体のわずかな動きや高速移動する敵などを確実に捕捉することが可能。
木から降りてきた男がゆっくりと歩きながらこちらに近づいてくる。千翼――アマゾンネオはシグルドと共に並び立ち、油断する事無く警戒の目を光らせる。
「……そんなにおっかない顔で睨まないでくれよ。さっきも言ったが、俺はあんたらに敵対するつもりはないぜ?」
「なら、貴方が何者なのか教えてもらえるかしら? 敵ではない、というなら先の戦闘。私達に加勢してくれても良かったでしょうに」
おどける様に杖を持ちながら降参とばかりに両手を上げてくる男。伸ばした蒼い頭髪、獣の様な鋭い目付きをした導師風の服を纏った男。それに油断することなく、厳しい視線を注ぐオルガマリー。敵ではないが味方でも無かった。ならば敵だと考えた方が安全だからだ。
「ああ、アレはあんたらが組むに値する力を持っているか、見極めたかったからだ。流石に明らかに実力不足だったら俺も考えなきゃならなかったからな」
「で、こうして姿を見せたということは、俺達があんたのお眼鏡に叶ったと……?」
気に入らない、と千翼も険の籠った口調で目の前の男を問いただす。
「試すような真似をしたのは謝る。ただ、あんたらの戦いぶり見てたら下手に手出しする必要もないな、とも思ったんだよ。いや、見事なモンだったぜ、そっちの風変わりな鎧の兄ちゃんと黒服のセイバーも」
「……皆、警戒を解いても大丈夫だ。彼の言動に嘘はない。共に戦える味方を探すのに慎重になるのは当然のこと。
貴殿はどうやらこの街の現状について深く理解している様子。身分の説明と情報共有を要請したい」
信用できかねる様子のオルガマリーと千翼の機先を制するよう、シグルドが平静に発言する。どうやら目の前の男から自分と同じ戦士としての匂いを……そして、それとは別の何かを嗅ぎ取ったらしい。
「ああ、構わねぇぜ。俺はキャスター。この冬木で起こった聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの内、一騎だ。信用の証としてこちらの真名を明かそう。俺の名はクー・フーリン。ちょいと飾った言い方になるが、アルスターの光の御子の方が聞こえがいいかね」
『クー・フーリン……! これはまたビッグネームの英霊だ。シグルドに次いで彼が味方として加わってくれれば心強いぞ!』
「ん? 姿は見えんが、なんか優男っぽいにーちゃんの声が聞こえるな? あんたらの使う通信系魔術か何かかい?」
『や、優男……いえ、クー・フーリン。どうか私達に力添えをお願いしたいのです。此方もサーヴァント・セイバーの召喚に成功したのですが、俄然、厳しい状況には変わりなく……』
「待ちな。積もる話はあるだろうが、ひとまず場所を変えようや。ここにいたらまたぞろ、死に損ない共がやってきかねないぜ。態々、体力磨り減らすことはないだろ?」
キャスターの物言いに若干、ショックを受けつつも協力を取り付けようとするロマニ。
だがキャスターは手を上げて制すると場所の変更を提案してきた。
確かに敵の第一波は退けたが、このまま
「そうね、二度の戦闘で泉もマシュも疲労が溜まっているでしょうし、一先ず休息できる拠点を探しましょう。皆、いいわね?」
「承諾した」
「はい」
「ああ。……来い!」
シグルド、マシュがまず返答。千翼も頷くと彼方へと声を放った。そして、聞こえてくる獣の鳴き声にも似たマシンの駆動音。ネオジャングレイダーがアマゾンネオ頭部の感覚器官、ネオヘッダーから増幅された脳波を車体『フロントアンテナ』でキャッチ。オート走行で千翼の元に駆けつけてきた。
千翼、ドライバーのスロットを水平位置に戻してからインジェクターを引き抜く。冷たい蒸気を全身から発しながらアマゾンネオは人間、泉千翼の姿へと戻っていく。
「兄ちゃん、その鎧は自前だったのかい……それにそいつは、お前さんが呼べば自分からやってくるのか?
俺も聖杯から得た知識で当世の乗り物の知識はあるにはあるが……確かバイク、だっけか?
馬と違って生きてる訳じゃねぇから呼べば来るってモンじゃないと知識にはあるんだが……」
「後で説明します、キャスター。泉、一先ず住宅街に向かうわよ。そこで拠点とする家屋を見つけましょう」
「分かった」
オルガマリーと再びタンデムでバイクに跨りながら、千翼は空中投影型のマップデータを呼び出した。
「……マップ機能まで付いてるの。このバイク?」
「ウインドは操作できるから運転してる時もそこまで邪魔にならないな……。じゃぁ、出すぞ」
今のネオジャングレイダーは千翼のアマゾン細胞とシンクロし、車体の機能を思考のみで使用する事が可能となっていた。
因みに運転もシンクロにより、意識しなくても理想的な走行が行えるという至れり尽くせりな高性能ぶりである。
その機能充実ぶりにオルガマリーは若干、引いていたが千翼は構わずネオジャングレイダーを発進させた。
マシュにシグルド。それにキャスターもそれぞれの身体強化魔術、ルーン魔術を行使すると遅れる事なく千翼達を追っていくのだった……。
「そういや兄ちゃん。あんた、どうやって俺を見つけたんだ? 一応、俺も隠行のルーンを刻んでいたんだがね?」
「確かに、エネミーの接近にも先輩は誰よりも早く気付いておられましたね。ドクターの反応からして、カルデアの観測機器より早く察知していたような……」
「ああ……あれはただ分かったんだ。
キャスターのことは途中から気付いてたんだけど、動く気配がなかったから、一先ず目の前の敵を倒すのを優先した。下手に刺激して、後方のマシュ達を狙われたらマズいし……」
ネオジャングレイダーで街中を駆けていく。
その最中、キャスターが疑問を投げてきた。マシュも先の魔物の襲来に誰よりも早く勘づいて警告を発してくれた時の事を思い出していた。
千翼はあの気配察知能力に心当たりがあった。アレは……前世でアマゾンであった時に備わっていた能力だろう。
まさか、アマゾン以外の気配も探知できるとは千翼も思わなかったが……恐らく、身体にアマゾン細胞を取り込んだことで発現したのだろう。
その可能性に気付いたのか、オルガマリーが神妙に尋ねてくる。
「例の細胞の影響……?」
「……多分……」
ほぼ確信に近いが、このアマゾン細胞は『溶原性アマゾン細胞』ではない。千翼は曖昧に頷いた。
「提案。そろそろ目的地である住宅街が見えてくる。まずは拠点を見繕うべきではないだろうか」
深刻な空気を感じたのか、シグルドが本来の目的を優先するべきだと声を掛けてきた。込み入った話は落ち着いてからの方がいいだろう。
千翼達はそこで一旦、会話を切り上げると拠点とするべき家屋を探す事にした……。
「なるほど……あんた達、カルデアの事情は分かった。まさか、俺達がやってた聖杯戦争が捻じれた裏でそこまでの大事になってたとはな」
「……聖杯戦争? なんなんだ、それは。戦争って……もの凄く物騒な響きだけど」
聖杯戦争。その単語に眉を顰めながら千翼はその詳細の説明を求めた。
ここは拠点に選んだ武家屋敷。その居間だ。千翼達はテーブルを囲む様にして五人、それぞれ座っていた。先程までオルガマリー、キャスター、シグルドがこの屋敷周辺に侵入者探知、妨害を行う魔術結界を施して漸く落ち着いて話し合える状況になったのだ。
シグルドは仮面――当人が言うには“叡智の結晶”つまり、掛けている当人に莫大な情報を与える魔導具だとか――を現在は仮面からフレーム付き眼鏡に変えており、素顔を晒していた。武人らしい非常に精悍な顔付きの青年だ。
……ただ、あの仮面が突然
ジャキッ! ガキンッ! バシャッッ!!
と、音を立てて格納されていき、眼鏡へと可変した時はオルガマリーとマシュは目を点にしていたが。
千翼は自分が細胞変化でアマゾンネオに変身するのでそこまで驚かずに
「へぇ、その仮面……いや、眼鏡も俺と同じ様な事が出来るんだな」
「ふむ、確かに当方の叡智の変形機構では千翼には及ばんな」
主従揃っておかしな問答をしており、オルガマリーから「なにトンチキなことで通じ合ってんのあんた達は!」と盛大に突っ込まれていた。
「聖杯戦争というのは、平たく言えばマスターとなる魔術師とそのサーヴァントたる英霊。計七組で争うバトルロワイヤルよ。勝者となった一組が聖杯を手に入れる事ができるの。
聖杯というのは、どんな願いでも叶えられる万能の願望器と言われているわ。
2006年の冬木市で行われていたのね。特異点発生の原因は聖杯戦争だったか……」
「ね、願いを叶える為に殺し合いを強制させるのか!? 一体誰がそんなこと考えつきやがったんだ!」
まともじゃない、千翼はオルガマリーの説明を聞いて目を剥いて問いかけた。
「落ち着きなさい、泉。この聖杯戦争という魔術儀式を考案したのは、この冬木に根を張る魔術師の名家。遠坂、間桐、アインツベルンの御三家の一族よ。
なんで戦争という体裁を取ったのかは……その創始者にしか分からないわ。御三家の人間ならば伝承などで聞かされているかもしれないけど……」
恐らく……いや、間違いなくこの冬木の聖杯戦争には御三家の一族も参戦しているはず。
オルガマリーは何か知っているのでは? とキャスターに目配せした。
「残念だが、俺は何も知らない。召喚された以上は戦うのがサーヴァントだ。現世の在り方に触れない、というのがルールでな。
俺達サーヴァントは所詮、過去に生きた人間の影法師。時代を背負うのは、あくまで、そこで生きている人間の役目だ」
では、俺が召喚したシグルドも『聖杯戦争』とやらで、もしも他のマスターに喚ばれていれば願いを叶える為にそのマスターと相手方のサーヴァントと殺し合うというのか?
シグルドに目を向ける。彼はマスターの考えを悟ったのか、静かに頷いた。
千翼はそういうものか……? 顔を俯かせて考え込んでしまった。
まだ、魔術に詳しくない自分では分からない道理があるのかもしれない。
同時にもし生前、自分と『イユ』の身体をその聖杯とやらで人間に変えられる機会を与えられたらどうするかを考えてしまった。
……多分、俺は聖杯戦争に参戦してしまっただろう。例え参加者と戦うとしても自身の望みの為に。イユと二人でアマゾンとしてではなく、人間として生きたいという願いを叶える為に。
そうした是が非でも叶えたい願いを持った人達――ヒトの欲望がある限り、聖杯戦争は行われてしまうのかもしれない。
……嫌な儀式だ。人間が持つ――ある意味、一番の弱みに付け込んでくる。
キャスターは今度は自身の身に起きた事を語り始めた。
「……俺達、サーヴァントはそれぞれ召喚されたマスターと共に聖杯戦争に参戦した。ところがある時、戦争の有り様がガラリと変わった。街は一夜にして炎に包まれ、そこで暮らしていた人間はほとんど姿を消しちまった。俺のマスターも含めてな」
「消えた……? その炎のせいで……みんな、死んでしまった、のか?」
考えたくない予想に千翼は言葉を詰まらせながら、キャスターに尋ねる。
しかし、キャスターは首を緩く横に振ると話を続けた。
「いや、そういうんじゃねぇな。言葉通り皆、霞のように消えちまったんだよ。
世界が切り替わったというのか……本来、俺達サーヴァントは要石となるマスターの存在無しでは現界していられない筈なんだが……今の俺は別の力で留まっていられるみてぇだな。
その上、街はあの魔物共が我がもの顔で闊歩するクソみてぇな状況になっちまった。
どうしたものか、と考えてた矢先、いの一番に戦争を再開したのはセイバーだ。
奴さん、まるで水を得た魚のように暴れ始めてな。俺以外のサーヴァント、ランサー、アーチャー、アサシン、ライダー、バーサーカーは皆セイバーにやられちまった。その上、得体の知れねぇ黒い泥に犯されて、無差別に周囲にあるモノ全てを破壊して回るバケモノ……
最早、英霊じゃねぇな。泥で理性を、誇りを無理矢理剥ぎ取られたその残り滓だ……」
「そんな……」
マシュは沈痛な面持ちで俯いた。自分もまた英霊の誇りと献身によって命を繋いでもらった身だ。その様な有り様となってしまった彼らの現状に胸が痛んだ。
「ライダーは俺が倒した。バーサーカーは街の外れにある城から動く気配がねぇ。理性無くしてる以上、コッチから仕掛けない限り襲ってはこないだろ。残るは……」
「ちょっと待って、キャスター。もしかしてランサーってフード被った鎌持ちの女?」
「ん? ああ、その通りだ。なんだ、気の強い嬢ちゃん。あんたランサーと遭遇したのかい? ……てこたぁなんとか生き延びたのか、サーヴァント相手に。中々やるねぇ」
ニヤリと男臭い笑みを浮かべてオルガマリーを見つめるキャスター。どうやらこの男、気が強く、さらに実力のある女が好みらしい。
しかしオルガマリーは首を横に振ると、千翼とマシュに目をやった……少し誇らしそうに。
「違うわ。そのランサーを倒したのが泉とマシュの二人よ」
「何! そっちの兄ちゃんと盾の嬢ちゃんが!? しかもセイバー抜きでかい!? へぇぇ、影とは言えサーヴァントをぶっ倒すたぁ二人とも大したモンだ! まだ若ぇのによ。こりゃあんた達と組んだのはますます正解だったな!」
「いや、必死だっただけで……」
「あ、改めて他の方から言われると恥ずかしいです……」
「謙遜する事はない、千翼、マシュ。いくら戦う術があったとはいえ現代に生きる人間が、英霊相手に勝利するのは並大抵のことではない。……胸を張って良い」
キャスターだけでなくシグルドからも称賛されてしまい、千翼とマシュは縮こまってしまった。
……すごく居心地が悪い。
オルガマリーはそうでしょうそうでしょう、私の部下は有能なのよ。と顔を上気させて千翼達とは逆に胸を張って喜んでいた。
千翼は話を先に進めようと先程、気になった事を口にしてみた。
「そ、それより! キャスターの話だとこの街がおかしくなった原因……その真相に近いのは真っ先に暴れ始めたセイバーなんじゃないか? 誰かに唆されて戦争を再開したとか、そういう可能性はないか?」
「唆されたかは知らんが……奴がこの異常の中核に位置してるのは間違いないな。それは奴の居場所からしてそうだろう」
『では、セイバーを排除すればこの時代の特異点Fは修正される、と?』
管制室から通信で聞いていたロマニが解決の糸口が見えたかと尋ねてくる。オルガマリーも続けてキャスターに目を向けた。
「セイバーは何処にいるの?」
「この冬木の心臓とも呼べる場所。竜脈の中心、大聖杯がある洞窟の最深部。そこに奴はいる」
残る障害はこの街の何処かにいるアサシン。そして洞窟前にある寺の山門付近でどういうわけかセイバーを守護しているアーチャーらしい。最後に本命のセイバーを倒す。それで特異点は修正される。
千翼はこの街に、異常が起こる前からいたというキャスターに聞きたいことがあった。
「キャスター。俺が使っている……アマゾンネオに変身するドライバー、それにあのバイク。あれらを街に持ち込んだ誰かに心当たりはないか?
もしくは俺達を見つける前に何かあったとか。オルガマリー、俺が渡した手紙持ってるよな?」
「ええ、でも見せて何か分かるかしら?」
「キャスターは恐らくアレらが外部から持ち込まれる前からこの街にいる。手紙の文面から分かることがあるかも……なんでもいい、手掛かりが欲しい」
「分かったわ。キャスター、これを見てくれる」
「なんだなんだ? なんか面白いモン書いてあるのかい?」
オルガマリーが懐から紙を取り出し……一瞬、間を置くとクシャクシャになったソレをテーブルの上でしっかりと伸ばしてからキャスターに手渡した。
「どら……」
「あのバイクは俺が骸骨に襲われた時、助けに来てくれた。どうもオートで街を走ってたみたいだ。
その後、マップに登録してあった研究所にそのドライバー一式が手紙と一緒に置いてあったんだ」
「ほう……そういうわけだったのかい。ふぅ〜む」
キャスターは眉に皺を寄せて手紙の内容に目を走らせる。魔術的な痕跡やら、筆跡やらから何かしら分からないか見てみたが……
「いや……この手紙の主には心当たりがねぇな。手掛かりらしきもんも感じられねぇ。もし、コイツに接触出来ていたら、俺も話に一枚噛ませてもらってたとこなんだがな……」
「当方にも手紙の内容を見せてもらえるだろうか?」
「おう、盾の嬢ちゃん。渡してやってくれ」
「はい。先輩、構いませんよね?」
「もちろん」
シグルドの隣に座るマシュにキャスターが紙を渡した。マシュは一度、千翼に確認してからシグルドに紙を手渡した。
シグルドも顎に手をやりながら手紙の内容に目を通していく。
「しかし、そいつはタダモンじゃねぇのは確かだな。わざわざおかしくなった世界、あんたらの言う特異点に来れる手段を短時間とはいえ持ってるコトといい、そんな道具を用意できたコトといい……
そもそも、どうやってそいつは異常を察知したのかねえ? カルデアとは関係してないんだろ?」
「ええ、私達は全く感知していないわ。あったらとっくにコンタクトを取っているわよ……」
やはり分からないか、とオルガマリーは額に手を当てて溜め息を吐いた。
「……ちょいと疑問なんだが、兄ちゃん達はどうやってランサーを仕留めたんだ? ……やっぱあの大盾持った嬢ちゃんかい。あれは相当な年代物、神秘が備わった代物だしなぁ」
「いえ、ランサーを倒したのは先輩です。アマゾンネオの腕から生成された剣で見事に斬り伏せてみせたのです」
「マ、マシュ。自慢げに言わなくていいから……」
「でも! 本当のことですから」
「……この手紙に書かれてるのが事実なら、あれはあくまで生身の人間の肉体を細胞変化させたものって事だ。
神秘の塊であるサーヴァントは同じ神秘を持つサーヴァント、もしくはそれに準じる武器やら魔術でないと倒すのはおろか、傷一つ付けられない筈なんだが?」
「神秘がないと傷つけられない……?」
「あっ……!?」
「そういえば……」
マシュとオルガマリーは今、気づいたとばかりに声を上げた。あまりに自然にアマゾンネオとなった千翼がサーヴァントと戦えていたので忘れていた。
……千翼は初めて聞く話で頭に疑問符が散っていた。
そこへロマニが口を挟んできた。
『カルデアの観測機器で解析してみたのですが……アマゾンネオとなった千翼くんから正体不明のエネルギーが発生しています。それがサーヴァントに攻撃が通じた理由かもしれません』
「しょ、正体不明って……一体なんなのよ、ロマニ!?」
『我々の知る魔術を基盤としたものとは全く違う神秘のようなモノ――としか言い様がありません。いや、そもそも起源からして違うのか……? 千翼くん、何か知ってるかい?』
「いや、サーヴァントにはその神秘……? とやらがないと攻撃が通らないなんて話、今初めて知ったんだけど?」
『“神秘”というのは現代の物理法則では計り知れない、というか物理法則に拠らない神秘的な力かな、大雑把に言うと。魔術はみな、既存の物理法則から外れた神秘、奇跡を引き起こすものの総称なんだよ』
「……ネオには神秘を破る力があるのか……? この俺はそのエネルギーを発しているんですか?」
『いや、今の千翼くんからは発生していないね』
「じゃあ、人間の姿のままじゃただ、殴りかかってもサーヴァントは倒せないのか……」
『いやいやいやいや! そもサーヴァントに生身で挑むのは無謀すぎるよ!? 魔術世界に置ける武力の頂点とも呼べる存在なんだから! 絶対にやっちゃ駄目だからね! 命がいくつあっても足りないよ!!?』
「根性座った兄ちゃんだなぁ~~。いざとなったら拳でサーヴァントに挑む気だったのかい……」
キャスターの顔にでかい汗が浮かんでいた。
マシュとオルガマリーも千翼の言葉に鼻白んでいる。
「せ、先輩……」
「泉……あんたねぇ……」
「い、いや、俺も生身でサーヴァントと戦うのは無謀だというのは分かってるよ。ただ、敵対したサーヴァントを追い詰めて、あと一息で倒せるってとこまできて……でも俺も疲労でネオへの変身が解除されてしまったとするだろ?
そうなったら、もう俺にはサーヴァントに対する攻撃手段が無くなるのかってさ……」
「ふむ、その場合の対策も考えておいた方が良いのかもしれないが……だが、千翼。勇気と蛮勇は紙一重だ。深追いせず、潔く撤退するのも戦略の一つ。生きて反撃の機会を窺うも勇気だ。
何より千翼には当方とマシュ。サーヴァントが二騎もついているのだ。自分一人の力に拘る必要はない」
「……ああ、分かっている。それに今の俺はマシュとシグルドの命まで預かっているんだしな。先走り過ぎないよう気を付けるよ」
「そうです! 先輩にはわたし達がついています。わ、わたしもまだまだ未熟なデミ・サーヴァントですが……先輩のお力になれるよう頑張りますから!」
両拳を胸の前に持ってきて力説するマシュ。千翼もシグルドもオルガマリーも苦笑してしまう。
キャスターはマスターとサーヴァントが良い関係を築けているその様子に安心していた。聖杯戦争においてサーヴァントと良好な関係を保たなかったばかりに敗退していくマスターは数多い。
魔術師は皆、総じて自己中心的の極みとも呼べる性格の持ち主だ。
召喚された英霊を所詮は使い魔。マスターである「自分の方が上だ」と、増長した挙句、サーヴァントの言葉に耳も傾けない者。サーヴァントの強大な力を自分の物と勘違いして破綻した行いに走る者もいるのだから。
この少年は魔術師として、マスターとしては確かに余りにも未熟だが……それを自覚し、自身のサーヴァントや他者の忠言に耳を傾け、それを克服しようとする心がある。
……何より自身もサーヴァントと共に並び立ち、共に戦う覚悟を持っているのが『ケルトの戦士』クー・フーリンとして気に入った。先が楽しみな奴だ。
キャスターは顎に手をやりながら千翼を面白そうに見やった。
「それで、この手紙の人物……この世界に干渉するのが難しいと書いてあるが、それは誰かの妨害があったからではないだろうか? そして、それが出来る者がいるとすれば――」
「……この特異点発生の原因であるセイバーね!」
「肯定。セイバーならばあるいはこの人物が何者か知っているやもしれん。敵である当方らに話してくれる可能性は低いだろうが……」
「どの道、セイバーとぶつかるのは避けられない。なら、ズバリ聞いてしまおう。白を切られたらその時はその時だ……」
その後、千翼は魔術に関するレクチャーを改めてオルガマリーから受け、左手の令呪――サーヴァントに対して三回まで使える絶対命令権についても説明を受けた。サーヴァントの中には召喚した魔術師を場合によっては殺害しようとする者、そもそもマスターの命令を受け付けない者もいる。そういったサーヴァントに指示を聞かせる為に令呪を用いる。
つまり、制御の難しいサーヴァントに指示を聞かせる為に令呪を使用する。
だが、千翼のサーヴァントであるマシュ、シグルドは意思疎通に問題が無く、戦闘時の連携も取れるので、その類で令呪を使う必要は無い。
令呪は単純な魔力リソースとしてサーヴァントに付加する事で強化ブーストアップを計る事も可能だ。
また、遠隔地にいるサーヴァントをすぐさま呼び寄せるという使い方もできるらしく、作戦上の理由で別行動していたり、はぐれてしまった時でも令呪による転移でマスターの元へと速やかに合流する事が出来る。
様々な意味で切り札として使えるがそれも三画のみ。使う局面を慎重に見極める必要がある代物だと聞かされた。
また、シグルドから改めて念話のやり方についても教わった。言葉を使わずに会話が出来るのはかなり便利だ。
サーヴァントと距離が離れていてもレイラインが通じている範囲内であれば会話が可能。さらに戦闘中、敵に知られることなく作戦の打ち合わせも出来る。ただ、敵によっては念話によるやり取りを妨害される場合もあるので常に使えるという訳ではないらしい。
その他諸々の話が終わった後、生身の人間である千翼とオルガマリー、サーヴァントとはいえ半分人間であるマシュは睡眠を取って疲労を抜く、ということとなった。
居間の机を退けて三人分の布団を敷いて、それぞれ眠る事となった。
女の子と同じ部屋で寝るのに千翼は抵抗があったが、自分達が眠っている間、寝ずの番をしてくれるというシグルドとキャスターの負担を考えて口には出さなかった。この二人はサーヴァントである為、現界に必要な魔力さえあれば、寝食は必要無いらしい。
「……二人とも、こんな状況だから眠気が中々来ないかもしれないけど、せめて目を瞑って身体を横にしてなさい。それだけでも疲れはある程度、取れるわ」
「ああ、分かった。おやすみ。オルガマリー、マシュ」
「はい、お休みなさい。先輩、所長」
「……おやすみ」
全員で布団を被って目を閉じてなんとか眠ろうとする。ちなみにフォウはマシュの顔の横辺りで既に丸くなり眠っていた。
神経が高ぶって、やはり眠れないかと思ったが、ここまで信じられない事態の連続で身体が睡眠を求めていたのだろう。
意外と早く居間にはスースー、と三人分の寝息が響き始めたのだった。