呪術廻戦14巻買えなくて泣いてました。
……もちろんこの事態は想定していないわけではなかった。
だから、教会の中には様々な仕掛けを施し、万が一の時に祈本里香を一時的にでも封じ込められる用意はしていた。
していた上で、
『ゆ、ゆ、ゆ"ゔだを"ぉぉお"、いじめ"るなぁぁあ"あ"あ"!!!』
「──ははっ、なんだこれ。冗談でしょ?」
盾も刃も槍も弾丸も、全てが等しく薙ぎ払われる。
足止めすることすら出来ない。私の洗練された術式の全てを、溢れ出る呪力でただ真正面から押し潰す。ただそれだけで、本当に全てを圧倒してしまう底なしの呪力。
考えていた12個のプランが腕の一振で消し飛ばされる。思考する余裕が咆哮一つで掻き消される。
所詮1級程度では勝負にすらならない。
「……仕方ない。諦めるか」
祈本里香の拳が、私の肉体を捉える。
拳、そうそれは拳の筈だった。
「聞いたか……街の外れの教会の話」
「あぁ、いい人だったのにな……犯人はまだ見つかってねぇんだとさ」
「酷ぇことするやつもいるもんだ……」
昨日まで変人ではあるけれど、信頼はできるシスターが住んでいたその教会があった場所には、焼け落ちた木材の残骸が転がっているだけだった。
何が起きたかなんて分からない。
ただそこには、シスター・ミヤコという人間がいた証が、乙骨憂太がそこに通っていた証が、全て燃えて消えたあとの残骸だけが残っていた。
『犯人は呪われただとか何とかでシスターを逆恨みしていた奴らしい』
耳を削ぎ落としたくなるような言葉が噂として流れてくる。
『私は私の好きなこの世界を守りたい。その為には、この世界全ての『人間』を救わなきゃいけない。そんな自分勝手な理由だよ』
助けを求めるように呟いていたその言葉が耳にこびり付いている。
シスターの言葉に嘘なんてひとつもなかった。
本気の本気で世界全ての人間を救おうとしていて、とんでもない厄介を抱えた中学生をずっと面倒見てくれた、冗談でもなんでもなく、心の底から尊敬できるような憧れの人だった。
そんな人が、助けようとした人の悪意に飲み込まれたのだとしたら────。
「なんで、そんな奴らを助けようと思ったんですか」
その言葉を聞いてくれるものは、もう何処にもいない。
教会が全焼してからというもの、祈本里香は以前にも増して攻撃的となり、以前以上の孤独が乙骨を包み込むこととなった。
「────ぁ、……はぁ……」
何度も何度も呼吸を繰り返す。
「すぅ……はぁ……」
何度も何度も、バカみたいに。そうしていないと自分が生きていることすら忘れてしまいそう。
「────生きてる。私、生きてる! やったぁぁぁ! 生き延びた!」
本当に本当に、心の底から生きている心地がしなかった。
呪霊に両親が殺された時よりも。術師殺しに襲われた時よりも。初めて特級呪霊と出会ったあの夜よりも。何倍も何倍も恐ろしかった。純粋に生きた心地が全くしなかった。
私が生きているのは本当に奇跡、と言うか作戦が上手くいった。
祈本里香の行動指針は『乙骨憂太を守ること』であり、彼女の目に私が完全に乙骨憂太に害を加えるものとして映ったゆえに今回は攻撃された。
……呪いとして歪んだ彼女は、乙骨憂太に近づく全てをそう捉えるようになっていたので、その部分は乙骨に呪力操作の基礎を教えてある程度祈本里香の行動を制限できるようにしていたのだが。
だから『駒』を用意した。
祈本里香による攻撃が私へ行われる。
その場合のみに発動するという『縛り』を設けた、私の血を飲んだ者たちへの操作術式。
強盗殺人、男児強姦、殺人。それらの異常行動を取っても社会的におかしくないと考えられるようなイカれた信者の猿を乙骨の家に時間差で向かわせる。当然、祈本里香の第一は乙骨憂太の守護であるために私への意識は一瞬だけ緩む。
その隙に逃げた。
もう何もかもを投げ捨てて、教会も自らの手で爆破して、それでも追ってくる祈本里香から正直泣きそうになりながら全身全霊で走って逃げた。
数日間山の中に隠れたり、人混みの中に隠れたり、色々なところを駆け巡ったがそれでも追われ続け、一週間。ようやく祈本里香の呪力が私に向けられなくなっていた。
「クソッ、本当に特級クラスってのは化け物しかいない。なんなんだあの呪力量……ねぇ、天翔さ────」
誰もいない空間に、
私は、愛しいあの人の名を語りかけていた。
胃液がせり上がってくるのを止められず、地面にぶちまける。
もしも祈本里香の力が『あの時』あれば、天翔さんは死なずに済んだ。
なんて、都合の良い妄想をした自分に、天翔さんが死んだ事を誰よりも深く知っている筈なのに彼の死を忘れようとした自分自身に、嫌悪感が湧いてきて腹を裂いてしまいたくなった。
忘れるな。何の為に私がこの生き方を選んだかを。祈本里香の力を手に入れたいのは天翔さんを助けるためなんかじゃない。あの人の死を受けて、自分が選んだ道を進むための手段だ。
人の寄り付かない山奥。
澄んだ川の水で口の中の酸っぱさを消してから、私はこれからのことについて思案する。
とりあえず乙骨に仕掛けた『爆弾』は、恐らく上手く起動してくれただろう。
あの辺りの猿共は幾人か洗脳してあるし、そもそも信者の猿を工作員として忍び込ませて『逆恨みした
普通に彼が里香がやったと気が付く可能性だってあるが、まぁ五割の可能性で爆発してくれるならば十分だろう。
一度心に付けられた負の亀裂は何があっても埋まらない。彼がこの先平穏な人生を送ろうと、里香のせいでまともな人生を送れず呪術師の世界に踏み込もうと、彼の傷が癒えることはない。
呪術師として生きることになれば、彼のような優しい人間はいつか必ずその亀裂に再び向き合うこととなる。
そうなった時、彼がどんな選択をするか────それは分からない。
「でもそれでいい」
十年後、二十年後の猿共のいない世の中で、非術師と言う束縛から解き放たれるのが、私である必要が無いのだから。
傑でもいいし、乙骨でもいい。その他大勢の呪術師達、私の後輩でも先輩でもいい。
呪術師と言う歯車に囚われた人達が、解放される世の中が来ればいい。
何とかなったぜ。
いやーこちらも生きた心地がしませんでしたね。都市内で逃げ回るミヤコちゃんをひたすら追いかける里香ちゃんとかもうただのホラーでしたよ。
ですが乙骨にスキル『玉折』のフラグを立てられたのはデカいですねぇ。
あ、ちなみにスキル『玉折』は負の感情強化によって結んでいる繋がりの一部が消失し、確実に呪詛師となる代わりにステータスが上昇する呪詛師ルートの必須スキルです。当然、ミヤコちゃんも持ってますというか、精神偏重の無駄な強メンタルガールであるミヤコちゃんをぶっ壊すには、『玉折』獲得させるのが一番手っ取り早いですしね。
……しかし弱りましたねぇ。
乙骨の方とはイベントこなせましたが、まさか『彼』の方とフラグが一切建てられないとは。
ぶっちゃけこのまま対五条悟イベントに突っ込んだら確実に負けるのがなぁ……。条件は満たしているから訪ねてきてくれる確率はあったんですがねぇ。作戦準備と成長振り分けが出来なくなるのは惜しいですが、自分から探しに行った方が……と?
おぉ、ここで来ましたねイベントフラグ。
こんな山奥に呪術師がわざわざ来る可能性は低いですし、十中八九ミヤコちゃんの行動に気が付いたあの人でしょう。
よっしゃ! 五条悟討伐に向けて一気に前進だ!
「────嘘でしょ?」
目の前の光景を、私は現実のものだと認識することが出来なかった。
────いや、違う!
本能が、
「なんだ、花御と似た呪力を辿ってみれば……人間か?」
老人のようであり、力強さを感じるその声。
脳がその音を聴覚情報として処理した瞬間、勝手にイメージを練り上げる。
例えば、一夜にして灰の中に沈んだ都市があった。
例えば、燃える石に飲み込まれて跡形もなく溶けた人々が人類の歴史にどれほどいた事か。
例えば、数年前に起きた地球という巨大な
人は大地なくして生きられない。
しかして大地は人の手では決して制御することが出来ない。
広大な大地の小さな動きに飲み込まれ、溶岩の中へと溶けていった怨念の集合体。人類という生き物のDNAにまで刻まれた根源的な恐怖が、意志とは別に身体を震わせる。
「……なるほど。花御の奴め。気まぐれに人を助けおったか。本当に奴は訳が分からぬ」
火山を模した頭部に単眼、黒曜石の様な歯を持つその呪いは、私の事なんて全く気にもとめずに何かをブツブツと呟いて、再び私へと目を向ける。
ただそれだけの動作で血液が沸騰したかのような熱さを感じる。
呼吸を、していいのかすら分からない。今呼吸をすれば、それだけで肺の奥からじっくりと焦がされる様な予感が、妄想が、恐怖が止まらない。
「そこの人間」
気が付けば勝手に体が這いつくばっている。
呪言、という言葉に呪いを載せる術式を操る者もいるが、それとは違う。こうしなければ死ぬかもしれないと、恐怖が自然と体を動かした。
「全く……近頃は軽く焼いただけで呪術師が蟲の様に際限なく湧き出てくる。傷一つ付けられんくせに数だけは多いものだから気が疲れる。故に、失せれば見逃す」
慈悲などではない。
あの火山頭の呪霊と私の間には埋められない力量差がある。火山頭もそれがわかっていて、私を見逃すと言っているのだ。
下を見ずに歩いていたら、死にかけの虫が転がっていた。
踏み殺してもいいが、靴が汚れて洗うのが面倒くさそうだ。
火山頭の呪いにとって、私は正しく死にかけの虫なのだろう。意識を割く程の力も、先を危惧して殺しておくほどの将来性も無い。心底どうでもいい存在。
だが、これはラッキーだ。
逃げれる、本気で追いかけてこなければ、全力で逃げれば逃げ切れることが出来るだろう。幸いにも相手は完全にこちらとの力量差を理解してくれている。
こんな勝ち目のない勝負に意味は無い。ここで死んでは今までの苦労が水の泡だ。何としてもこの場は逃げ切らなければ!
────と言うのが、合理的な思考と言うやつだろう。
「硫黄臭い口を閉じろ、呪霊」
「…………ほう?」
「
でも、嫌だ。
だって私、呪霊の事がこの世で一番嫌いだからだ。特にコイツは間違いなく特級呪霊。かつて天翔さんを殺した呪霊よりもずっと強くても、同じ等級に分類される呪いであろう。
猿共は嫌いだが、呪霊はもっと嫌いだ。こんなものが生まれるからそもそも呪術師の皆は命を削って任務に明け暮れなければいけないのだから。
「つまり、儂と戦うということでいいのだな?」
「耳栓してて聞こえて無いの? そう以外、どう捉えるの? それとも……
「カカッ、偽りの人間らしく、上辺の言葉だけは達者。だが、面白い。久方ぶりに骨のある……」
火山頭の呪いの手の内に呪力が迸り、とある形を練り上げる。
それは人類が最初に自然から得た文明の力。二足歩行にようやく進化した頃に使い始め、そこから何千年と経た今ですら使いこなせないエネルギーの総称。
────炎。
4000年対46億年。
人間と大地では、その扱いにはあまりにも隔絶したモノが存在している。
「いや、骨の残る相手になりそうだな」
ファー!?
ファァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!???
ナンデ、漏瑚ナンデェェェェェェ!?
嘘でしょ、ここまで頑張ったミヤコちゃんにその仕打ちはないよ! 流石に漏瑚は無理、マジでどうしようもないないから!
逃げたいけどミヤコちゃんはしっかり呪霊への憎しみ抱えちゃってるので自発的な逃亡行為は基本的に出来ないんですよねぇ。乙骨&里香ちゃんみたいに利用するつもりでもない限りは呪霊とそれを生み出す猿をぶち殺すマシーンが今のミヤコちゃんですから。
え、それはそうと勝率?
あるわけねぇじゃんそんなもん。皆さん漏瑚の事、五条悟レベルで評価してません? 宿儺の指8か9本分の呪霊よ? ナナミンを一瞬で焦げ焦げにしちゃうし、五条悟相手に策略込みとはいえ花御死亡後に実質単騎で20分程足止めをした呪いよ? ミヤコちゃんのステでは絶対に勝てません。
例えミヤコちゃんが無限にこの戦闘を繰り返せるとしても、そもそも漏瑚に勝てる程の最低ステータスがないので勝てない的な、そもそも『勝つ』という選択肢が存在しない的な、とにかくもう無理です。
残念ながら次回でミヤコちゃんの冒険はおしまいですね。漏瑚は骨の残る相手とか言ってましたが、ぶっちゃけ骨まで灰にされて消滅ですよ。意外と漏瑚ってば油断しないから別プランへ移行も無理だろうし、本格的に詰みですね。
では次回最終回、今までありがとうございましたー。
VS里香ちゃんはマジで勝負にならないのでカットです。
VS漏瑚は蹂躙になるけれどミヤコちゃんが戦意があるのでノーカットです。