呪術抗戦 呪霊殲滅ルート   作:ちぇんそー娘

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ネタバレをすると、都子が延々とボコられる話です。






蹂躙/漏瑚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ。しかしこれほど練られた呪力。このレベルとやり合うのは久方ぶりだな。加減というものが分からぬな」

 

 ポン、と。

 火山頭の呪霊の頭部。つまりは火山口にあたる部分から何か丸いものが飛び出してきた。

 

「加減? そんなものする余裕があるとでも思ってるの?」

 

 この呪霊と私の力関係は、絶対的な隔たりがある。

 全ての能力が向こうの方が高く、まともにやっては私は数秒で消し炭だ。だが勝ち目がないという訳では無い。それがほんの数%のものであろうとも、あくまでコイツは『勝てる相手』だ。

 

 無限に広がる可能性の中から、自らに有利な選択を繰り返し須臾にも満たない勝利を掴む。天翔さんから教わった戦闘の基本は決して忘れることは無い。

 

 確かに驚異的な呪力量の火山頭ではあるが、体表に当たる部位を見るとそこまで耐久を伴っている様には見えない。恐らくは硬度自体は天翔さんを殺した特級呪霊の方が硬い。ならば、一撃で急所を貫けば殺せる確率が──

 

 

 

「『火礫蟲』」

 

 

 

 言葉には呪いが宿る。

 最も原始的な呪術の一つに『呪言』という、発言に呪いを込めるというものがあるが、言葉というものは物質に『意味』を与える。

 情報開示の『縛り』とも似ているが、自らの術式や技に『名前』を付けることで術式を強化する、というやり方は呪術師の間では珍しくない。

 

 だから火山頭がその言葉を言った瞬間、私はそこに込められている呪いを知り、自らの末路を想像して全力で横に跳んだ。

 

 

 腹部に激痛。

 何かが私の腹を削ぎながら物凄い速度で通り過ぎていったのだ。

 

 

 呪力と術式で動体視力をも強化した瞳が捉えたのは、気持ちの悪い姿をした握り拳よりも幾らか大きいサイズの虫だった。

 先程火山頭の頭部から出てきたのは恐らくこれであろう。式神程度でこの速さを実現させるのは驚きではあるが、決して対処出来ない速度ではない。

 

「『赤縛』」

 

 再び突っ込んできた虫を、血液の網で捕らえてその場に転がしておく。とりあえずはこの技の対処はこれで良い……

 

 

「成程。では、次だな」

 

 

 いつの間にか、火山頭の周りには何匹もの虫が飛び回っていた。

 だいたい30匹くらいだろうか? そいつらが今から先程と同じ速度で、様々な軌道を描きながら私に突っ込んでくるのか? 

 

 

 …………。

 

 

 

 

「無理!」

 

「逃がすな、追え」

 

 

 とにかくまずは逃げる。

 まともに受けたら全身削られて死ぬだけだ。なんにしても、あの数を捌ける状況を作らなければ話にならない。

 

 背後から迫り来る虫共をどうにか森林という地形を活かして散らそうとするが、それなりの知能まで持ち合わせているのか上手く木々を避けて数が減らせない。

 正直、見るからに手加減されている技に対して血液をあまり消費したくないが、このままではそもそも殺される。

 

「っぅ……私の術式、赤血操術はその名の通り自分の血液とそれが付着した物質を操作する術式!」

 

「術式の開示か。続けろ」

 

 逃げ惑いながら自らの手の内を晒し、その『縛り』により呪力を迸らせる。火山頭は自らが有利なのを知っている為に、それを邪魔しようとはしてこない。依然として虫を放ちながら私の動きを眺めているだけだ。

 

「血液は状態から成分まで変化可能。応用範囲は広いが、弱点は自分の血液を操るという性質上、失血死の恐れがあること」

 

 上方、背後、左右同時に地面の下。

 神出鬼没に突っ込んでくる虫を避けたり縛ったりして回避しながら何とか捌き続ける。

 

「その代わり、血液を使った攻撃は遠近中、攻防の全てに秀でた万能の術式。────こんな風にね」

 

 木々の合間に血液で網を仕込み、何匹かの虫の動きを止める。

 そして、それを見た別の虫たちは軌道を変えて私に向かってきて、更にそれを捕らえればまた別の軌道から。

 

 それを繰り返せば、自ずと接近してくるルートを一つに絞ることが出来る。

 

「弾けろ、『超新星』!」

 

 向かってくる虫の大軍に向かって『百斂』を投げつけ、解放する。

 圧力から解放された血液は散弾銃のように周囲を撃ち抜き、虫の大軍を内側から食い破る。

 とりあえずは、虫の大群は片付けることが出来たと考えていいだろう。

 

「ほぅ、思ったよりはやるな」

 

「余裕ぶってないで近づいてきなよ。それとも、殴られる方が趣味?」

 

「安い挑発だ。……ところで、儂も一つ、術式を開示してやろう」

 

 一瞬躊躇。

 格上の術式の開示は恐ろしくはあるが、正体不明の術式と戦うのはもっと恐ろしい。

 

 この火山頭の術式、恐らくは『炎』と関係深いものであるだろうが、それにしては先程の虫の攻撃にはその要素が見当たらなかった。とにかく、今は初見殺しによる一撃死を防ぐ為に情報を集めた方が得策。そう判断して、腰を落としながら呪霊の言葉に耳を傾ける。

 

「火礫蟲はただ突撃するだけが脳の式神では無い。攻撃と撹乱が────」

 

 突然、火山頭の声が聞こえなくなる。

 何が起きたかなんて、そんなものは確認しなくても理解が出来た。

 

 

 

『ギ、ギィィィィィィィィィィィィャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 

 

 串刺しにした虫達が、一斉に奇声を放ち始めたのだ。

 それも物凄い音量。咄嗟に耳を呪力で守ってなければ鼓膜が破れていたかもしれない程の音量に、ほんの一瞬だが私の動きが止まる、止められてしまう。

 

 そして感じる身の毛がよだつ呪力の迸り。

 虫達に込められた呪力が、行き場を無くして渦巻いているようなこの感じは間違いない。

 こいつら、自爆するつもりだ! 

 

 

『ァァァァァァァァァァァァァァァ────』

 

 

 

 熱と爆風が私の体を焼き飛ばす。

 無重力感の後に全身を引き裂かれたかのような激痛。肌が引き攣り、動かそうとすることそのものに痛みが伴う。

 

 まともに受けた、骨や内臓、粘膜は無事であるがダメージは大きい。すぐに体勢を立て直さなければ。転がりながら何とか受け身を取り、近くの岩肌に手を突いて立ち上がろうと────。

 

 

「……え、なにこれ?」

 

 

 岩肌に何かが生えてきた。

 その形は火山頭の頭部と似ていて、つまりは火山口のように見える。

 

 ──迸る呪力と、肌が焼けて喉が渇く感覚。

 まずい、と思って身を捻ると同時に吹き出した炎は火炎放射器なんてレベルではない。斜線上にあった木々を一瞬で炭化させる程の高エネルギーが放たれた。

 

「さて。これは避けられるか、呪術師?」

 

 視界の端で火山頭が空中に指で何かを描く様な仕草をしているのが目に留まる。

 そして、それに合わせるかのように岩肌、地面、木からボコリと火山口が隆起する。

 

 

「避けてみろ。貴様の呪力ではまともに当たれば即死だ」

 

 

 その言葉と同時に、私は自分の手足に血を塗りたくった。

 赤血操術で操れるのは、何度も言うが自身の血と()()()()()()()()()

 

「赤血操術、『血絵座』」

 

 本来の私ならば例え呪力で身体能力を強化しても、ドーピングである『赤鱗躍動』を最大まで使っても避けられるはずのない多方向からの同時熱線。

 

 それを受けるために、私は軽く跳んで宙に浮かぶ。

 足場の無い空中では踏み込むことが出来ず、当然ながら身動きは取れない。

 

 

 ……だが私は知っている。

 空中で身の捻りだけで攻撃を避けるような馬鹿げた身体能力をした人間を。

 

 

 その瞬間、私の肉体は私の意識とは別の動きを始める。

 関節の可動域、筋肉の柔軟性、内臓の保護。そんなものを全て無視した急激な動き。曲がらない方向に曲がり、動かない方向に動く。まるで一瞬だけ液体化したかのようなその動きは()()()()()()()()()()()()()()()()()を避けるには十分過ぎるほどに奇怪な動きだった。

 

 

 

 まぁ、タネを言ってしまえば自分の体を無理やり動かしただけの事。

 もちろん本来動かないような速度と方向に動かされた為に身体中のあちこちが痛む。

 そこまでしても避けきれず、左手から鈍い痛みを感じてみて見れば、小指と薬指があった部分が根こそぎ焼き切られていた。

 

 だが、こうでもしなければ火山頭に隙を作ることはできなかった。

 

「──! 今のを、避けるか」

 

 事実、確実に今の攻撃で仕留めるつもりであったろう火山頭は私が避けたことに驚き、ほんの一瞬ではあるが動きに迷いが生まれた。

 

 ────そこを狩る! 

 

 着地と同時に全力で踏み込んで距離を詰める。

 狙うは胸部。呪力の流れからして、この呪霊の弱点は胸。そこを貫けば一撃で殺せる可能性がある。

 

 

 一直線に、火山頭の胸に向けて走る最中、私は天翔さんの言葉を思い出した。

 

 

『いいかい都子ちゃん。人間でも呪霊でも同じだけれどね────』

 

 

 

 

 

 

「勝機を見つけた者は、動きが単調になる。わかりやすい隙を見せれば尚更よな」

 

 

 

 

 

 呪霊の腕に炎が宿る。

 間違いなく、まともに受ければ灰になるような火力。しかも事前に準備されていたであろうそれは私が呪霊を殺すよりも確実に早く放たれる。

 

 コイツ、誘いやがった! 

 圧倒的有利な立場で、自らには相手を試すほどの余裕がある。その立場そのものを利用して、私を確実に殺せる瞬間を作り出したのだ。

 

 私の作戦はコイツが私を格下と捉えて油断していることが前提。

 しかしこの呪霊は、私のことを格下と捉えていようとも決して油断はしていなかった。

 

 

 確実に私を、人間を殺すという意思。

 

 

 

「終わりだ。燃え尽きろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんなものか。そこそこ動ける者ではあったが、所詮はこの程度」

 

 落胆。

 火山頭の呪霊、漏瑚の中に満ちていた感情は、人間はそう名付けたものに近かった。

 元から期待などはしていなかった。現代の人間にしてはよく練られた呪力と術式ではあったが、自分に傷を付けられるようなものでは無い。

 

 この程度の存在が万物の霊長を、人間を名乗り繁栄するその事実。

 

 あまりにも醜悪。

 苛立ちを消し去る為に名も知らぬ炭のことを忘れ、その場を立ち去ろうとした時だった。

 

 

 

 

「勝機を見つけた者は、動きが単調になる」

 

 

 

 

 地面が融解し、周囲の木々が発火するほどの高熱を帯びたそこから声が聞こえた。

 聞き間違いか? いや、違う。だが有り得ない。間違いなく、防ぐ手段の無い攻撃だったはずだ。

 

 では、煙の中から立ち上がるあの影は一体──。

 

 

 

「愚かな猿共から生まれた呪い(オマエ)が油断をしないなんて、土台無理な話だったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 領域展開を身につけた辺りから、私の術式の解釈は少しだけ拡がった。

 その一つに、『血液の内側』というものがある。

 

 単純に話すと血液の内側に空間を作り出すということ。要は四次元ポケットだ。もちろん収容できる物の大きさや重さは制限があるが、これによって私は比較的多くの血液を常に持ち歩けるようになっていた。

 

 今回は更にそれの応用。

 血液の中に血液を収納し、更にその血液の中にも血液を収納し、更に血液を収納し……それを繰り返して保管していた血液。

 

 その全てを、()()()使()()()()

 

 そうでもしなければ防げない一撃。

 正確に言えばそこまでしても防ぎ切る事はできなかった。肌は爛れ、左半身はまともに動かず呼吸が上手くいかない。

 高熱を纏った呪力放射は一撃で私の肉体を瀕死まで追い込んだが、即死には至らなかった。

 

 それで十分。

 生まれた隙。敢えて不意打ちではなく声をかけてから攻撃することで、最大まで術式の威力を強化する。

 

 この戦闘が始まった時からずっと圧縮していた『百斂』を手に収め、照準を定める。

 

 私の技で最高威力、最高速度。

 数多の『縛り』と長時間の圧縮により繰り出されるは擬似光速の血液の矢。

 放出口を極限まで絞り、面の破壊力を捨てて点の貫通力を重視。例え咄嗟に防御しようとも全てを貫いて急所のみを穿つ。

 

 

 

「────『穿血』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫色の血が数滴、滴り落ちた。

 

 

「成程……考えたな、人間」

 

 

 火山頭の呪霊は滴る血に目を向けて一歩、二歩と後退し……

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに、儂が血を流すことになるとはな」

 

 

 

 

 

 

 

 ……掌に付いた僅かな傷を一瞬にして塞いでみせた。

 

 防がれた。

 全身全霊、タイミングも威力も完璧だった。間違いなく、私の攻撃は今用意出来る最高の攻撃だった。

 

 だが、作戦では埋まらない圧倒的な差が私とコイツの間には存在していた。

 

「貴様が急所を一点狙いしてくることは読めていた。ならば、儂は急所の一点のみを守れば良い。……さて、もう一度言っておいてやろう。勝機を見つけた者は、動きが単調になる。そして……常日頃から嘘で塗り固められた人間達(きさま)では、真実を生きる我々、本物の人間(呪い)を騙すことなぞ叶わん」

 

 私の穿血は完璧に火山頭の急所へと放たれた。

 そう、完璧に。あまりに完璧すぎた。

 だから火山頭は自らの急所に重ねるように、掌のほんの一部、大きさにして1cm四方にも満たないであろう面積に呪力を集中させて防御したのだ。

 

 反応速度、呪力操作、その両方が優れていなければ到底不可能な神業。偶然などではなく、必然的に私はこの呪霊に敗れた。

 

 

「さて、貴様の実力は大体わかった。──死ね」

 

 

 再び炎が向けられる。

 今度のそれは、避ける手段も防ぐ手段もない。

 

 領域展開を行えばもしかしたら、とも考えたがダメだ。呪力を消費しすぎてる上に、そもそも恐らくこの呪霊も領域展開を会得している。領域の押し合いになれば勝てないのは明白だ。

 

 でも何か、何かあるはずだ。

 この状況を打開する何かが。見つけないと、こんなところで終わってしまう。こんな巫山戯た呪いが蔓延る世界を続けてしまうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いづまでぇぇぇぇぇぇぇぇ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の思考を切り裂いたのは、風船の空気が抜けるような間の抜けた、あまりにこの場の張り詰めた空気とは合わない声だった。

 

『いつまでぇ』

 

「え、なに、キャッ!?」

 

「ッ、式神か? いや、この呪力は……」

 

 突如私の体が宙に浮かぶ。

 蛇の体に人の顔、鳥の羽と手足を持つ怪鳥としか言いようのない姿をした呪霊が私の体を掴んだのだ。

 

 だが、飛行速度がそこまで速くはない。

 このままでは纏めて火山頭に焼き払われるだけ、そう思った直後に火山頭の動きが止まる。

 

 

「これは、術式!?」

 

 

 正確に言うならば、突然火山頭の立っていた地面に穴が空いてそこに落ちそうになる。

 咄嗟に腕から火を放ってその勢いで落ちるのを避けた火山頭を、今度は百足のような姿をした呪霊が口から粘着質な液体を吐いて攻撃を始めた。

 

 

「複数体の、それも術式を持つ呪霊が群れる、か。儂の呪力を見て徒党を組んで潰しに来た……はずも無いか」

 

 

 

 火山頭の呪霊を襲ったのは間違いなく呪霊だ。

 しかも、等級換算で言えば一級に分類されるような強力な、本来は群れる必要もなければ徒党を組むようなこともない。それこそ()()()()()()()()()()

 

 

 

「出てこい。烏合では儂は殺せんぞ」

 

「あぁ。では、出てこさせてもらうよ」

 

 

 

 火山頭に返答したその声を聞いて、私は自分の耳を疑った。

 

 物陰から何かが飛び出す。

 手に携えるは赤色と禍々しい呪力を帯びた三節棍。避けようとする火山頭の逃げ道を呪霊が塞ぎ、一瞬にして焼き払われながらもその役目を完遂して僅かな隙を生み出した。

 

 そしてその隙を見て、影は三節棍を火山頭の腹部に叩き込む。

 数十m吹き飛びながら体勢を立て直した火山頭の口元から、私が傷をつけた時よりも確実に量の多い血液が滴った。

 

 

 ほんの一瞬、だが私が先程までしていた勝負……いや、されていた蹂躙なんかとはレベルが違う。

 ほんの一瞬の攻防で、既に私とは次元の違う『戦い』が巻き起こされていた。

 

 

「……貴様、何者だ」

 

 

 明らかに私に向けていたものとは違う、強敵に対する意識を向ける火山頭。

 だが飛び出してきた影は、五条袈裟を身に纏った男はそれを完全に無視して、怪鳥の呪霊に掴まれている私の方へと顔を向けて一言。

 

 

 

 

「久しぶり。助けてあげようか、都子?」

 

 

 

 

 特級呪詛師、夏油傑は旅行先で友人に会ったかのような気軽さで、数年ぶりに私の前に顔を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 








・割と強いけど周りがバケモノ過ぎてやられ役になってる
・沸点が割と低い
・精神性が似てる

割と共通点の多い漏瑚と都子ちゃん。同じ陣営なら仲良くなってたかもしれない。




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