劇場版呪術廻戦見たので久しぶりに書きました。
「……ミヤコ?」
火山頭の呪霊、漏瑚は突然現れた五条袈裟の男の言葉が理解出来ずに少し思案した。
名を問うて帰ってきたのがその返答ならば、それはつまり五条袈裟の男の名前が『ミヤコ』ということだろう。
だが、違う。
今目の前の男の意識の中に自分は存在しない。あろうことか、無視しているのだ。
腸が煮えくり返るような激情が湧くが、それを全て呪力に変換する。意識を向けていないならば結構。その選択を後悔する暇も与えずに焼き尽くすのみ──。
「すまない、旧友との久しぶりの再会だったんだ。時間を取らせたね」
全力、とは言わずとも殺す気で放った熱線。
それが土気色の四角形の呪霊に防がれたことで漏瑚は相手の情報を分析することが叶った。
「呪霊操術、か」
「ご明察。私の術式は呪霊操術。取り込んだ呪霊を使役することが出来る……なんてことの無い術式だ」
男の言う通り、呪霊操術
呪霊を取り込むことで無制限に強くなることこそ可能であり、理論上は無限の伸び代が存在する……が、それだけ多くの、かつ強力な呪霊を取り込むとなればそれらを捕まえ、操作する者に相応の力量がなければ意味が無い。強力であるが、無下限呪術のようにあまりに使い手に左右される術式。
……では、それがあったならば?
相応の呪霊をねじ伏せるだけの力量も、大量の呪霊を操作する精密性も、術式の持ち主が持っていたとしたら?
「じゃあ、再開しようか」
文字通りの、文字以上の百鬼夜行。
元高専最強コンビ、もう一つの『無限』が人の澱を祓う。
「……うっそ、何あれ」
目の前に広がる光景が現実のものだと思えなかった。
安いB級映画の怪獣の大暴れシーンみたいな、ストレス解消のためだけに見る雑な破壊の光景ではない。
火山頭の手の一振と共に放たれる獄炎で地表が溶けながら抉れ、それに対抗する為に放たれた傑の操る呪霊の、グロテスクなまでに極彩色の術式の数々。
あの火山頭、私との戦いは本当に遊びだったんだ。
もしも都市部で二人の戦いが起きればどれだけの被害が出るのだろうか。火山頭の熱放射を傑が持っている三節棍の呪具で逸らし、斜線上の山の一部が消滅する光景を見て脳の中で現実と空想の境目が曖昧になっていくのを感じる。
『都子、聞こえるかい?』
「うわっ、え、傑!? どこから?」
『耳元。ほら、以前にも見せたことがあるだろう?』
いつの間にか肩に小さな呪霊が乗っかっていて、そこから傑の声が聞こえてきていた。
……あまり思い出したくはないが、確かこれは木霊の呪霊。通信を可能とする便利な呪霊だ。術師殺しとの戦いの時にも利用した。
『色々言いたいことはあるけど……まずは何とか間に合ったね。生きてる?』
「ギリギリ、ね。全身結構焼かれて殆ど動けないけど」
『生きてるならいいだろう。それにしても……本当に運が無いね。こんなレベルの呪霊、特級の任務でも見たことがない』
「そっちこそ相変わらずなようで安心したよ。天翔さんがいなかったら惚れていたかも」
『……あー、うん。とりあえずそれは置いておいて』
「おい待ちやがれ。私結構美人だろ。もう火傷で面影ないかもだけど」
一瞬、気持ちが学生時代に戻って他愛のない会話に花を咲かせてしまったが、すぐに噴火の轟音によって現実に引き戻される。
こんな話している場合ではない。傑は今、あの呪霊と真っ向勝負をしているのだった。
「大丈夫? 大したことできないだろうけど、加勢しようか?」
『いいよ。都子弱いし、巻き込んで殺してしまいかねない』
「事実だけどさ……もっとオブラートに包んでよ」
『怪我も酷いだろうって言う私なりの優しさだよ。それに、確かにこの呪霊は化け物だが
それは危機感の欠如や過信から出た言葉ではない。
冷静に状況を分析した上での言葉だと私は感じた。既にかなり遠くにいる私ですら熱波を感じ、夜の空が明るくなるほどに燃え盛っている山々という地獄のような光景の中でも、そう断言する傑。
これが特級術師。
改めて、私の同級生はバケモノばかりだ。
『けれど、一つ問題がある』
「問題?」
『ああ。今だいたい5000匹くらい呪霊を持ってるんだけど、コイツに勝って捕らえるとなると半分以上殺される』
「それで仲間の命が救えるなら安くない?」
『ところが問題だ。私としては今事情があって呪霊の数を減らしたくない。具体的に言うと、都子を見捨てて逃げ出したいくらいにはね』
「あら、私の命は傑がこの世から根絶させたい呪霊よりも軽かったか」
『残念ながら今はね。それに、あまり長期戦になると呪術師側に私の動きを悟られる。残穢は呪霊の呪力が焼き払ってくれるから問題ないだろうが、だとしても長居はしたくない』
「わかった。じゃあ早く私を置いて帰って」
『…………潔いいね。その心は?』
正直に言えばまぁ命乞いしたいし、こんなところで死にたくないってところではある。
だが、傑がいるならばある程度は安心出来る。確証はないけれど、彼が見ている世界は私の望む所と似ている予感がするのだ。
私がここで死んだとしても、傑なら私の理想をきっと為してくれる。ならここで傑の足を引っ張るくらいならば潔く死んでやろう、というのが私の気持ちだ。
「という訳で、じゃあね傑。せいぜい上手くやってね」
『あぁ、そうさせてもらうよ。じゃあね都子』
木霊が私の耳元から離れて、同時に遠くで大爆発が起きて瓦礫が私の近くにまで飛んできた。
……強がってはいたが、そろそろ意識を保っているのも限界だ。喉が焼けたせいか呼吸も辛いし、異常な乾きと全身の痛みが段々と鈍くなっていく。
でも傑に任せるのなら心配はいらないなと、私は安心して目を閉じた。
いつまで経っても視界が晴れない。
焼いた呪霊の数は100は下らない。幾ら烏合と言えどもそれだけの数を焼き払えば呪力が減っていくのがはっきりと感じられる。
それなのに、底が見えない。終わりが見えない。漏瑚はそんな不安をこの景色ごと焼き払うように、炎を放射した。
「さっきから行動が一辺倒だね。特級といえど所詮は呪霊。知能はあまり高くないのかな?」
「貴様こそ、ちまちまと雑魚の群れを放つ以外脳がないのか? それとも、
三節棍を携え接近しようとした夏油の脚が、ほんの一瞬止まる。
それは生物の本能に、タンパク質を主な構成要素として選び進化してしまった故に刻まれてしまった危険信号。
炎は怖い。
炎は恐ろしい。
炎には、勝てない。
本人の認識とは無意識に湧き出す恐怖が、体の動きを阻害する。恐れてすくんだ隙は余りに大き過ぎる。漏瑚の手から放たれる火焔を真正面から夏油は叩きつけられた。
「チッ、本当に手数だけは多い」
「生憎、この手数が私の強みでね。羨ましいなら加えてあげようか?」
「ぬかせ。上下関係は
「そうかい。あーあ、やっぱり上級の呪霊は調伏が面倒だ」
そう言いながら夏油はまた呪霊を放つ。だが今度は『質』が違う。いずれも一級以上、術式を持つ高等呪霊達。ただそれだけでは大地への畏れを一身に受けた特級呪霊、漏瑚に及ぶような呪いではない。
それ、
方向感覚をひっくり返す術式。
自身の受けた傷を半分相手に返す術式。
鬱陶しい糸を出す術式。
水を大量に出す術式。
木葉を爆発させる術式。
術式、術式、術式。そこに加えて低級の呪霊達が己の肉体の損傷を完全に無視して捨て駒のように突っ込んでくる。
それを焼いて焼いて焼いて。
「はぁ……はぁ……」
そんな中で誰かの荒い呼吸が耳に入る。耳障りな声だ、焼き払ってしまおうと音の元を探して、気が付く。
「……儂が、疲労しているのか?」
それが疲れであると気がつくことに時間を要するほど、漏瑚にとってそれは無縁なものであった。延々と終わらない敵の攻撃。休む暇も考える暇もなく、機械のように対応しなければあっという間に何もかも貪られる。
何も感じられない、何も進展を感じられない。
いや、より正確に言えばこの空間、この間合いの何もかもを感じ取れる、何もかもが敵であるというその事実だけが漏瑚に延々と襲いかかる。
「まるで『無限』だな、これが呪霊操術……ッ!」
このままでは負けないにしてもお互い呪力と手駒を消費し続ける無意味な戦いになる。相手がその気になれば呪霊を盾に逃げられるはずなのに
「領域展開は、悪手か」
領域展開で相手を閉じこめ、必中の術式で焼くのは悪くない手にも感じられるが、相手の手札の底が見えない。領域の対策手段、あるいは領域展開を持つ呪霊が複数いたとしたら一撃では仕留めきれずそうなると領域展開での大量の呪力消費が仇となり押し負ける可能性がある。
「ならば、これだな」
「……そこらの特級とは次元が違うと思ったが。ここまでとはね」
夏油が見たものは、大地の咆哮だった。
あちらこちらの地面が隆起し、逃げ道を塞ぐと同時に熱水やマグマを吹き出している。その熱に焼かれた木々や生き物、果ては岩石までもの成れの果てが上空に集まり、漏瑚によって一箇所に固められていく。
「貴様が如何に無限の手札を持ち、貴様本人がどれだけ強くとも、所詮は数の力。究極的な『個』の力には勝てぬ」
1つの術式を極めたその先にある、術式の奥義。
特級呪霊のそれを前にして夏油傑は焦る訳でもなく呪霊を解き放ち、まるで真似をするように一箇所に集め始める。
「無駄だ。幾ら烏合の術式を束ねたところで、儂の火力を防ぐ手段には…………何ッ、貴様、何を……」
「その通りだ呪霊。私は究極の『個』には勝てない」
呪霊操術の強みはその手札の多さ。
まず、その強みを捨てる。この縛りが術式を強化する。
これに使用した呪霊は、二度と戻ってこない。命を賭けた縛りと言い換えても良いだろう。それを夏油傑が操る無数の呪霊に強制させ、呪力で編まれたその肉体を純粋なエネルギーに変換する。
「だが、生き方は決めた。あとは自分に出来ることを精一杯するだけさ」
懐かしそうに、無限の術師は目の前の敵ではなく遠い友人を見るようにそう呟い。
「大盤振る舞いだ。2000、くれてやる。呪霊操術──────『極ノ番』」
「──────『極ノ番』」
特級に分類される人間と呪霊。その術式を窮めた末に辿り着いた奥義。
「『うずまき』」
「『隕』」
天からの火球と、地からの魍魎。
その衝突はほんの一瞬世界から何もかもを消し去った。
「あの術師、逃げたか」
何もかも消し飛んだ荒野で、漏瑚は呪力の残穢を探しながらそう呟いた。
逃げた、と口にしたが実際は条件が整ったから撤退した、が正解だろう。だが、それを認めることは敗北よりも漏瑚にとって認めがたいものだった。
こちらは全身全霊で敵を打ち砕くつもりで挑んだ。領域展開は使わなかったが、極ノ番まで使った。その上で、逃げられた。相手は最初から逃げるつもりだった。
それを示すように、先のぶつかり合いの余波で術師は己の残穢を消し飛ばしつつ、ついでとばかりに先程まで相手をしていた女の術師を回収して姿を消した。
あのまま戦っていればどうなっただろうか。極ノ番のぶつかり合い自体は相殺……やや漏瑚が押される形で終わったがその後は正直分からない。負けていたかもしれないと思う気持ちもある。
そしてそれ以上に、相手に出し抜かれたという、戦略的に敗北したという事実が漏瑚の誇りを傷つけた。
「呪力は覚えた。次会った時が貴様の最後だ。今度こそ、全霊を以て貴様を呪い殺す」
「いやー、さすがにやばかった。特級呪霊。玉藻前と言い楽に済む相手では無いね」
全身に負った火傷を引き摺りながら、夏油は脇に構える呪霊に都子を抱えさせて逃げていた。あのまま戦っていれば負けはしないにしろ、だいぶ痛手を負わされていた上に都子は殺されていただろう。トータルで言えば間違いなく損ではあるが、この選択に後悔はなかった。
「まったく、弱いのにいつも飛び出してきて、学生の時から変わらないな都子は。私達と違って」
都子の呼吸はだいぶ弱い。一刻も早く治療しなければ命に関わることになるだろう。元々長居する理由も無し。特級に追いつかれても面倒。夏油はあの特級呪霊を手駒にできていればと言う少々後ろ髪を引かれる理由を思い出しながらもその場を後にした。
……うん。
次元、違うね。
これが特級ですよ。はい。はぁ〜。呪霊殲滅ルートは最低でもこれレベルのを何人も倒さなきゃいけないんですね。ここらで振り返ってみましょうか。
最低でも殺す必要があるのは今日も出た漏瑚、そして花御、陀艮。術師は乙骨、そして五条悟です。
無理だよね。都子ちゃんですらモブですよモブ。
でもやらなきゃならない時があるって言うもの。それを可能にする唯一の冴えたやり方こそ、夏油傑と合流出来た時のみに発生する『百鬼夜行』での共闘! これを成功させて五条悟と乙骨憂太を殺すことこそ、呪霊殲滅ルートの第一目標!
さぁ都子ちゃん、猿のいない世界はすぐそこだ!!!
ちなみに現時点は成功率1割くらい?
夏油傑と漏瑚に因縁作ったのは……別プランではめちゃくちゃ痛手ですが、現状ならどうにかなるでしょう。別プランの時も多分あの人ならまぁ、上手くやるだろうし。