今回は実況要素なし。
正しい人間でありたいといつも思っていた。
アニメの世界の正義のヒーローに憧れていた。誰かを助けられるような人になりたいと思っていた。両親もそんな私の願いを否定したりしなかったし、誰かを助けたいと思うことは善であると皆から肯定された。
人が喜んでいる顔は好きだし、誰かから感謝されるのも好き。誰かを救えればたとえ感謝されなくても自分を肯定できるから人助けは好き。
……でも、それが否定されたとしたら?
「──────」
昔の夢を見ていた。
呪術師になるより前、7歳よりも前の記憶。
これは誰にも、それこそこの世で最も信頼できる天翔さんにすら言っていないことなのだが、私には7歳以前の記憶が存在しない。
正確に言えば記憶自体はあるのだ。
父親の名前は悠人。母親の名前は早苗。小学校に入学した時のことから家族で遊園地に遊びに行ったことまで全て記憶にある。
だが、
記憶に色がない、モノクロの記録。
そのような事象や記録を知っているが、それが自分が経験したことかと言われるとどうしても首を傾げてしまう。
取って付けられたかのような違和感。この違和感が無くなるのは、ちょうど呪霊によって両親が殺された現場に居合わせたあの日におつかいに行っている道の途中。まるで
こんなことを言うと、天翔さんに心配されてしまう。
ただでさえ私は血を操る術式のくせに体が小さくて、簡単に貧血を起こしてしまい心配をかけているのに、特に天翔さんは私の両親を助けられなかったことを気に病んでいる。その時に私が心に傷を負っていないかもだ。
きっと、強いショックで脳が記憶をどうのこうのとか理由付けされてしまうに決まっている。
自分でだって頭がおかしいことを言っている自覚はある。
でも、呪術師としての直感がどうしようもないほどに告げているのだ。
私は呪術師になる為に生まれてきたこと。
そして、呪術師になる以前、以外の『私の人生』何てものは存在しないこと。
でも私はもしそうだとしてもそれが悲しいことだとは思わない。
だって私は自分が何か大きな歯車の1つでしかないことなんて、今まで散々思い知らされてきたし、呪術師になりたいという気持ちに嘘はない。
どんな理由があろうと、私の命を救ってくれたのは天翔さんで私は天翔さんに憧れている。天翔さんのように誰かを助けられる人間になりたいし、それが間違いだとも思わない。
きっと私が生きているのは天翔さんが私にそうしたように、多くの人を救う為なんだ。それならまぁ、別に難しく考えるようなことは無いんじゃないかなって。
「1級術師への昇格おめでとう、都子ちゃん。怪我とかはしていないかい?」
3ヶ月の家出から帰ってきた私に対して、最初に天翔さんが言った言葉はそれだけだった。
もっとこう、家出娘に対して怒ったりするのが普通なのではないだろうか。私は普通の家出娘への対応とか分からないけれど。
「その、怒ったりしないんですか?」
「なんで?」
「高専に行きたくないなんて言って家を飛び出して、しかも理由が五条悟と会いたくないからだなんて……」
「いやいや、あんな人間性を無限の外側に置いてきた人格がまつ毛に吸収されたクソ野郎となんて誰だって学生生活は送りたくないだろうから仕方ないさ」
温厚なはずの天翔さんの口から今まで聞いた事のないような罵詈雑言が飛び出してきて思考が一瞬止まるけれど、別に否定するようなポイントはない。むしろ頷く点しかない。
「でも、通うんだろう?」
「まぁ、高専で学べるものも多いと思いますし、さすがにあの人格モノクロ男も1級呪術師になった私ならバカに出来ないと思いますからね」
1級呪術師は事実上の最高位の呪術師だ。
特級呪術師なんてものは理の枠から外れた化け物であり、人間の理解の出来ないものでしかない。特に五条悟は。
故に1級呪術師にかかる責務は1級未満の呪術師とは比べ物にならない。入学時点でその1級に到達している呪術師なんて、長い呪術高専の歴史の中でもほとんど存在しない。
「これで私と、私を育てた天翔さんをバカにはさせませんよ」
「はは、頼もしいね。……そうだ、高専から制服が届いてたけど試着してみるかい?」
天翔さんが取りだしたのは、呪術高専の制服である黒の学ランだった。
多少の改造は認められているが別に私はそういうのはあまり気にしない。制服にまでデザイン性を求めるなら、お気に入りの私服を買う派の人間だ。
「じゃあ早速着てみますね」
「待って。ここで脱がないで、部屋で着替えて都子ちゃん」
……流れで成長した私の体を見せつけて天翔さんを誘惑する作戦は失敗した。
「…………すごいピッタリ過ぎて気持ち悪い」
制服は私の体に少し余裕を持たせながら、動きを阻害しないまさにジャストフィットの出来だった。
体のサイズを測ったり、その情報を送ったりなんてしていないはずなのに、一体どうやってこんなものを用意したのだろうか?
ズボンとスカートの2種類があるはずなのに、私がスカートを好まないことをデザインの人は知っていたのかちゃんとズボンスタイルだし。
「その制服ね、悟が持ってきてくれたんだよ」
「悟? 誰ですかそいつ?」
悟、そんな名前の知り合いは私に居ないはずだ。
正確には五条悟とかいうクソ野郎がいるけれど、アイツが私のところに制服をわざわざ持ってくるなんてありえないし……。
「誰って、悟だよ。五条悟」
心臓が止まり、全身の毛が逆立った。
五条悟が、私に? わざわざ持ってきた?
何かの暗号か? アイツがわざわざ手間をかけてまで私の家まで制服を届けに来たのか?
「サイズは前に勝手に一発芸の女装用の服を拝借した時と3ヶ月前に六眼で見たって」
キッッッッッッッッッッモチワルッッッ!!!
え、アイツ私の服勝手に持ってってたの?
そういえば下着の数が少なくなってる気がしたけど、それ以前に六眼って3サイズまで見えるの!?
じゃあもしかして、天翔さんは私の身体を隅々まで知り尽くして……。
「安心して。六眼にそんな効果はない。悟が目視で都子ちゃんのサイズを読み取っただけだ」
え、キモイ。
普通にキモすぎて一周まわってキモイ。というか女の子の下着持ってくの普通に犯罪じゃん。窃盗罪じゃん。
「あと、これはその時ついでに持ってきたらしい菓子折り」
──────今度こそ、本当に時間が止まった。
五条悟が、菓子折りを持ってきた?
あの自己中心の化身、他人の家の冷蔵庫から勝手に料理を作って食って帰る五条悟が、菓子折りを!?
「なんでも友人にお世話になってる人に会いに行くなら何か持ってけって言われたらしいよ。僕も驚いたね」
「ええ。アイツに他人にお世話になってると思うような理性と、他人の言うことを聞くという選択肢が存在したなんて……」
基本的に人に何を指図されても無視するし、何度も言われたらキレてなら俺を従わせてみろとか言いながら殴ってくるのが五条悟と言う人間のはずだ。
その五条悟にいうことを聞かせるような存在が、高専にはいるというのだろうか。
「確かその友人は高専1年生の……そうだ、夏油だ。
夏油傑。
あの五条悟が他人の話を楽しそうに語り、言うことを聞くような人物。一体何者なんだ……? 釈迦かキリストの生まれ変わりか? それとも魔王か悪魔か破壊神か?
それくらいの存在でなければ五条悟をそうさせることなんて出来ないはずだ。
……夏油傑。
恐らくは五条悟を超える限りなく神に近い存在だろう。注意しなければ。
「都子ちゃんは悟をなんだと思っているのかな?」
「強さ以外の人間に必要なものを全て取り除いたクソ野郎」
「間違ってはいないけどね?」
天翔さんは私の言ったことは否定はせずに、口を湿らすためかお茶を一口だけ飲んだ。
「悟だって人間なんだよ。生まれつきの力故に孤独を感じたりもすれば、気の合う友達に影響されることだってある。若者の青春は、そういう人生の価値観を変える経験のある場所だ。だから、都子ちゃんにも高専に通って欲しいんだ」
私の記憶にある五条悟は、人間と言うよりは人の形をした災害だった。
でも、そう語る天翔さんの目がとても楽しそうで、それでいてどこか寂しそうで、それ以上何かを言うことができなかった。
赤坂 都子という少女を端的に表すならば『異常』だ。
両親が殺された現場で救助された時も、現場の状況を事細やかに自分の口で説明した時は窓の何人かは自分が呪霊に幻覚を見せられていると錯覚したほどだ。
両親の遺体の損傷から飛び出したりしている臓器の名前まで全て説明された後は、もう笑うしかないとばかりに曖昧な笑みを浮かべるものまでいた。
加えて、恐ろしい程に呪術師としての成長も早い。
飲み込みが早いと言うよりは、まるで最高効率の道を真っ直ぐ突き進んでいるかのような、迷いのない成長。彼女の訓練を見た呪術師はまるで機械が動いているようだとも言っていた。
もう一つ特筆すべきは、その人間性の
彼女の保護者であり、命の恩人で常に尊敬していると口にしている清岡天翔。彼に対しての彼女はそれはそれで親愛や敬愛を超えた、20歳近い歳の差を全く考慮していない恋愛感情を向けていてそれはそれで異常であるが、問題はそれ以外。
それ以外の人間を、まるで駒か何かとしか見ていないかのよう。
冷たいとか、下に見ているとかではない。ただただ淡白。単純作業を繰り返すように言葉を並べ、終わらせる。
彼女が人間らしい会話をしていた相手は清岡天翔と、常に大嫌いと公言している五条悟くらいだろう。それ以外の人間に対しては感情を向けすらしないのだから。
一部の呪術師の間ではこんな噂すら存在している。
赤坂都子は人間ではない。
赤坂都子は呪術師になる為に作られた呪骸である。
赤坂都子は────呪霊を殺す為に作られた機械である、と。
五条悟は暇な時、清岡家にちょっかい出しに言ってるんで都子はそれなりに面識があり、そのせいで余計嫌悪感を増大させています。
傍から見たら五条悟への感情は同族嫌悪。