「フーン、フーン。フフフフフーン!」
ドアが開く。
「フーン、フフーン、フフフフ、フーン♪」
一人の少女が鼻歌を歌いながら軽やかに歩いている。
謳っているのはアイネ・クライネ・ナハトムジーク。
廊下を歩いて、一つの部屋に入る。
会議室のような外観に、大きな液晶。
「フッフーン、フフフ、フフフーン!フフフ、フフフーン!フフフ、フーン!」
中には書類を持った職員らしき人が話していたが、彼らは彼女が部屋に入ってきたことに気づくと露骨に嫌な顔をする。
確かに彼女の鼻歌はリズムはあっているが、お世辞にも上手い物とは言えない。
それに人目も気にせずに鼻歌を歌いながら歩いているのは異様に映るだろう。
しかしそれだけでなく、その目には彼女に対しての疎ましさが滲み出ていた。
彼女は全く気にせずに液晶の前まで歩いていく。
「フッフ....フフフフ、フーン!!」
液晶に向けて両手を広げて不敵な笑みを浮かべた。
その手の中には液晶に写っている人物の顔画像が収まっていた。
織斑一夏。
ーーーーー世界で唯一の男性操縦者。
◇
「....貴様の所属は国連となっている。くれぐれも勝手な真似は許さん。行け。」
大きな門、IS学園の前。
護送車に載せられた俺は、黒服と共に車から降りる。
そして黒服は釘を刺すと、返事を待たずに車に乗り込み、発進していった。
.....正直、俺も自分でなんとか出来るならやっているんだけどな。
まぁ今更そんなことを言ったってしょうがない。
配られた手札でしか勝負出来ないというのならなるようになれって感じだ。
それに場合によっては勝手な真似をしなきゃいけなくなるしな。
IS学園の門をくぐって、校舎へと走っていく。
流石は今一番力が入れられている兵器、ISを扱う少女達を世界中から集めて養成する施設だ。
生前では縁がないような綺麗な校舎。
広い庭先とかも揃ってやがる。
お嬢様学校の極限進化版みたいな物だから当たり前なんだが。
校舎に入る。
辺りは生徒の気配もなく、静かだ。
それもそのはず現在は既に授業が始まっている時刻だ。
まぁ諸事情によって俺がこの時間に着くのは彼等が学園の人間に伝えているようだから、叱られることはないのだが。
それにしたって自分が高校に通うのは生前含めれば2回目。
しかもこんな良好な環境と来れば少しは見回りたいものだ。
しかしそれでもあまり遅れるのは俺の立場的にもよろしくないだろう。
黙って歩いていると、とあるクラスの前で足を止める。
1年1組。
織斑一夏だけでなく、世紀の天災である篠ノ之束の妹である篠ノ之箒。
それだけでなくまるで一夏を取り囲むようにイギリス代表候補生だったり、男装美少女だったり、眼帯ロリっ子だったりが、まるで天命が一夏のハーレムを築かんとせんばかりに集まることになるクラス。
2組の子?知らない子だなぁ。
俺はそこで扉を開ける。
すると黒髪の怖そうな美女が教壇に立ち、生徒たちに何かを話している。
...うわぁ見事に男一人だけだ。
でも、俺にはどうしようもないからこれからも一夏君にはその特別感?っていうのを感じてもらうことになるが。
「...ちょうどいい時に来た。彼女も諸君らとこの学園で三年間過ごすことになる仲間だ。皆に挨拶しろ。」
そう言って担任教師である織斑千冬は教壇から退く。
彼女はこの世界において最強の名を欲しいままにしている人だ。
そして一夏の姉でもある。
もう明らかにキーパーソンってはっきり分かんだね。
言われるがままに教壇の前に立つ。
クラスメイトの女子たちはこの“女”が何を言うのかと言わんばかりに注目している。
対して一番前の真ん中の席である一夏は居づらそうな表情で今を耐え忍んでいた。
強く生きて...。
まぁ俺に関してはそこまで注目度もないだろうし、無難に名前とか言えば良いでしょ。
俺の目的を鑑みても、クラスメイトとは仲良くしておきたいしな!
そう思いつつ、口を開く。
「おはよう諸君、俺はゾルタン・アッカネン。諸君らと仲良しこよしな学園生活を送らされることになった。未熟者共と出来損ない、精々仲良くしようぜ。」
目を見開き、不敵な笑みを浮かべて挑発的に挨拶をした。
口が勝手に動いたのだ。
あーあ、もう滅茶苦茶だよ....。
今の俺には、無難に名前を言う事すら出来なかったのだ....。
俺は一度死んだ人間だ。
一度死んで、この世界に転生した所謂転生者。
例にもよらず特典を持っている。
IS適正Sランク。
織斑千冬など数少ない人間しか至ることの出来ない極致。
それに俺はズルをして至った。
しかし、その分代償もある。
機動戦士ガンダムNT。
それに出てくる敵キャラ、ゾルタン・アッカネン。
言動も行動も己の意思に反して彼風の物になってしまう呪いが俺には掛けられているのだ。
これは人とのコミュニケーションにおいては致命的な呪いだ。
配られた手札で勝負するしかないと言ったものの、配られた手札全部ゾルタンとか誰が思うだろうか?
これ普通にカードゲームならゴミゲーだぞ。
なるようになれって言ったけど、どう足掻いてもゾルタンにしかならんやんけ。
そして次に問題なのは俺が目を覚ますと、自分がクローンの少女と化していたことだ。
どうにも適正ランクSにする方法が、典型的な才能与える形でなく、そのような才能を持ちうる者に憑依すると言った形だったのである。
つまりは男なのに、女の体で第二の人生を送らないといけないのだ。
しかもよりにもよって織斑千冬の再現をする計画、それの失敗作と断じられ、廃棄された少女に憑依したというのだから初っ端からハードモードこの上ない。
右目はラウラと似たような物を埋め込まれているのか左とは色が違う。
奇しくも境遇や見た目すらもゾルタン・アッカネンに類似することになってしまったのだ。
唯一の救いは目を覚ました後にすぐ国連に保護されたことだろう。
ま、その後この言動のせいで結局国連の人とも馴染めていないんですけどね。
まっ、良いんだ。
それは良い。
なぜ俺がここに居るのか。
国連に渡された任務としては織斑一夏の監視と調査。
唯一の男性操縦者である一夏を調べることで、男性操縦者を人工的にでも作ろうというのだろうか?
やはり人間は愚かだよ。
....ダメだ、思考が引っ張られた。
まぁそんな風に考える連中が居てもおかしくはないな。
女性に傾いてしまった世界のバランスを男性に戻すにはそのくらいしなければいけないだろう。
...だが、正直この任務を大真面目にやるつもりはない。
俺の目的は、他にある。
それはこの世界に来た理由でもあるのだ。
俺は、織斑一夏を誰か一人ヒロインとくっつける。
俺はISが好きだ。
だからこそ新刊発売も止まり、ヒロインの中で誰を選ぶかなどがあやふやになってしまっている現状は胸が痛むものがある。
それならば、俺が明確にくっつけてやろうというのだ。
台詞を借りるならさっぱりさせようぜ!!ってことだ。
だからこそクラスメイトと仲良くなり、キューピッド役をしてやろうと思ったのに....。
周りのクラスメイトはこちらを白い目で見ている。
そりゃ初っ端で未熟者とか同学年の奴に言われたら嫌だわ。
てか癖強くて面倒くさい子かなってなるに決まっている。
初っ端から失敗してしまったのだ...。
正直、すぐに一時限目が始まって助かった。
...いや死んでることに変わりはないが。
現在は休み時間。
出会ったばかりの彼女達は友人を作ろうと隣の席の人と話したりして親睦を深めている。
話していないのは挨拶でやらかした俺と、
「....」
俺の前の席に座り、周りに話しかけるなオーラを発している金髪少女だけだろう。
セシリア・オルコット。
簡単に言えば自身の背景から男は認めん!的なこと言って一夏と激突し、倒されると同時に落とされた少女だ。
この作品のヒロインの一人である。
だがヒロインとはいえ、今すぐくっつけようとすることは不可能だろう。
クラス代表決定戦が起きるまで彼女はプライドから人と仲良くなろうとはしないだろうからな。
そんでもって窓際では男性操縦者を一目見ようと他クラス他学年から少女達が集まっていた。
うわぁ...沢山いるな。
こんなの一夏の立場だったら耐え切れないわ。
「うじゃうじゃと....よくもまぁあそこまで集まれるものだねぇ....」
おい、なんだその言い草は。
勝手に話すのやめろや。
今のは思ってたことなんだから。
しかもゾルタン訳するのやめろ!
明らかに喧嘩売ってる言い方になっちゃってるだろ!!
「...えぇ、まったく嘆かわしいですわ。」
セシリアが俺に同意するように呟く。
...え、今この子俺に話しかけた?
この時期のこの子が?
「意外じゃないか。...君、喋れるんだ。」
「...馬鹿にしてますの?」
してないよ。
なんなら発言すらしようとしてないんだけど。
思っている事と口が直結してない?
しかも口が勝手に内容を捻じ曲げるんだけど。
俺は馬鹿にしてないけど、俺の口は馬鹿にしている。
うん、これ俺悪くないよ。
俺は悪くねぇ!
と、とにかくヒロイン候補に嫌われるのはまずい。
クラス代表選でセシリアがみんなに謝っていたのはセシリアが皆に対して喧嘩を売るような発言してたからだ。
俺から言うのとは話が違う!
なんとか弁解しないと!
「べつに馬鹿にしちゃいないさ、お嬢様?(別に馬鹿にしていないよ。オルコットさん)」
翻訳ガバガバじゃねぇか。
個人名で呼んでるんだから個人名で呼んで、どうぞ?
俺の言葉を聞いてセシリアは俺を訝し気な目で見つめる。
「あなた...私の何を知っていますの?」
俺は、何を知っているんだろうな....。
考えてみれば読者だった俺はセシリアが名門貴族のお嬢様ということは知っているが、今の俺は知る由もない。
親交がないからな。
彼女は両親が事故で亡くなった後に金の亡者たちから両親の遺産を守るために尽力していた。
言ってもない初対面の人間が自分の身分を知っていたら誰だって怪しむ、俺だって怪しむ。
やべぇよやべぇよ.....。
これ余計なこと喋らない方が良いんじゃないか?
喋ったらまた面倒なことになりそうだ。
「あんま話したくないんだよねぇ....面倒なことになりそうだから。」
「....そうですの。言いたくないなら構いませんわ。貴方は信用ならない。それが分かれば充分ですの。」
ちっげぇーよ馬鹿!
喋らなかったら喋らないで脳内意訳して出力すんのマジで止めて!
もうなんかすげぇ怪しい奴みたいになってるじゃん。
何も知らない何も知らないから!
なんか変な濁し方してるけどマジで何も知らないから!
なんか害する意思もないから!!マジで!!!
しかし心中で叫んでもなぜかこういう声は拾わずに、セシリアはそのまま前を向く。
駄目だ!このままじゃもしセシリアと一夏が良い感じになった時に手助け出来ない!
待て!待ってくれ!
弁解しようとするも、直後にチャイムが鳴る。
そして織斑先生たちが入ってきた。
無情にも弁解の機会は失われてしまったのだった。
◇
遡ること数日。
千冬は手元にある書類を持っていた。
それは履歴書のような物。
一人の少女の顔写真が載っている。
ヴォーダン・オージェによって色の違う左右の目。
目元には左右両方傷が付いている。
そして剃り込みの入った黒髪のショートヘアに勝気な目が特徴的な少女。
国連所属の操縦者、ゾルタン・アッカネン。
『ヴァルキリーの出来損ない』
自分に似せる為に作られて、一度は自我が崩壊して廃棄された少女。
自分という存在があったからこそ生まれてしまった被害者だ。
「ままならないな....この世界は。」
国連がどのようなつもりで彼女を学園に入学させたかは分からない。
だが、彼女が使われた理由は明確だ。
彼女は他のクローンとは違う特異性を持つ。
彼女は今は無きハンガリーの研究所において秘密裏に進められていた第二の織斑千冬を作る計画の産物だ。
ドイツからヴォーダン・オージェの技術でも盗んできたのかそれを活用し、遺伝子調整などを用いて技術的にも人格的な面においても織斑千冬に等しい兵士でも作ろうとしたのだろうが、頓挫。
研究所は隠蔽するかのように潰され、少女たちは廃棄された。
拘束した技術者が持っていた書類から断片的にしか情報を得ることは出来なかったようで、その中で彼女に当たる人物の記述があったのだ。
『適合失敗ー会話不能、思考を認められず自我崩壊と診断。廃棄処分とする。』
人として扱われておらず、怒りを覚えるような文言だ。
そうやって廃棄処分を待っていた彼女を連れていくはずもなく、餓死すると分かった上で放置したのだろうか?
国際連合が調査を行った際に保護された。
その際に、彼女は自我を持って行動しているのだ。
しかも彼女の人格は研究資料に評されているような消極的さとはまったく異なるものであった。
そして更に不思議なのは名前すら与えられなかった彼女が自分をゾルタン・アッカネンと名乗っていることだ。
まるで別人が乗り移ったかのような変化。
IS適正の高さからも国連は利用価値があると思って操縦者として起用したのだろう。
専ら一夏関連か、それとも彼女の性能調査か。
もしくは可能性は低いが、千冬自身に対する当てつけもあるのかもしれなかった。
...なんにせよ、自分の受け持つクラスの生徒であることに変わりはない。
周囲に失敗作、出来損ないと断じられた彼女。
それは在りし日のラウラを見ているようで、見過ごせない。
「...まったく仕事は増えていくばかりだな。」
国連が何を考えてるか分からないが、彼女には注意を向けておこう。
コーヒーを飲みながらも千冬はそう決断した。
TSゾルタンは貧乳、間違いない。
髪型的にはポケモンのマリーの剃り込みを深くした感じだと僕は思いますねぇ!!
このゾル子は呪いの影響で鼻歌を歌うときは何を歌おうとしてもアイネ・クライネ・ナハトムジークに変換されます。
なんなら突発的に鼻歌を歌わされます。
好きな時に好きな曲も歌えないとか悲しいなぁ....。
連載が溜まっているので、気が向いた時に更新する感じになると思います。
なので更新が頻度が高い時と低い時でムラが出てくるでしょう。
それでも見て頂けたら幸いです。