ラーガの中は暗く、冷たい。それを飛鳥了……いや、サタンはまるで宇宙のようだと思った。
人類が生まれるより遥か昔。サタンは、宇宙を旅する放浪者だった。正確には、サタンだけではない。サタンの側には、シグマ文明と呼ばれる文明を築いた数多くの仲間達がいた。ハーデス、ヘラ、アポロン、ゼウス……。仲間達或いは、神々とでも呼ぶべき者達と共に旅を続けたサタンは、この青い星即ち地球へと降り立った。そして、そこで種子を芽吹かせ、育み、地球へと帰化していった。
神々の子孫が生まれると、サタンを含めた神々は眠りについた。無理もない。虚無の軍勢に敗れた神々は疲弊していたのだから。
「しかし、目覚めた我々を待っていたのは子孫達の枝分かれと、殺し合いだった」
それは、地球という星の神秘だった。ある子孫は、爬虫類と交わり独自の文化を発達させた。ある子孫は、他の種を取り込み合体することで自己進化する力を身につけていた。それは、醜い進化と言わざるを得なかった。
神々は悲しみ、激怒した。故に自らの子孫達を滅ぼし、もう一度文明の開発をやり直すことに決めた。
それに叛旗を翻したのが、サタンだった。
たとえ異常な進化をしたデーモン達とはいえ、既に生まれた命なのだ。身勝手で殺すことなど許されるはずがない。私はデーモンを率いて、神々と戦い……勝利した。神々はバードス島や僅かな場所にその痕跡を残すのみとなり、ハーデスや多くの神々が、それを信奉するミケーネの子らと、闇の奥で眠りについた。
そして、サタンとデーモン達もまた、次なる戦いに備えて氷獄の世界にて眠りについたのだ。
「だが……」
再びサタンは、そしてデーモン達は目を覚ました。声を、聞いたのだ。それは虚無よりの声だった。何千何万という神々の軍団が、それと戦っていた。しかし、それは宇宙よりも巨大なそれは、神々の軍勢が力を尽くしても勝つことの叶わぬものだった。
時を司り、天を戴き、空に至る虚無。それが、サタンたちの故郷を……古代シグマ宇宙を飲み込んだ虚無だった。
虚無が、迫っている。
虚無の到来。それは神の時代と人の時代を諸共に消し去る無の到来。
全ての命を消し去るビックバン。
その時が近づいていることをサタンは自らの超能力で感じ取り、目覚めた。
そして、見てしまった。
この地球にまで、ゲッター線が降り注いでいることを。
神々の末裔である人類はゲッター線に選ばれた見返りにその神秘を剥奪され、そして争いの歴史を持って進化と淘汰を繰り返してきたことを。
虚無の時は、すぐそこまで迫ってしまっていることを。
「僕は、許せなかった……。ゲッター線が、人類が。あの美しかった地球を汚染し、多くの生き物を滅ぼしてしまった全てが」
だから、人類を滅ぼすための作戦を敢行することにした。
手始めに恐竜人類を目覚めさせ、地球侵攻の尖兵とした。次にミケーネ人の遺跡で人間の科学者に夢を見せた。世界征服という果てなき夢を。その科学者は極めて優秀だったが故に、こちらの存在にまで気づきかけていた。果ては隣接次元の存在まで確信してしまったのだからこれはサタンにとっても大きな誤算を孕んだ結果になった。さらに神々の末裔であるハーデスとの停戦協定。そして、宇宙の果てよりギルギルガンやドラゴノザウルス、ピグドロンを送り込んだ。
その全ては、失敗した。人類は、それらサタンの送り込んだ脅威の悉くを退け強くなっていった。だから、サタンは最後の手段に出るしかなかった。
人間作戦。自らの記憶をサイコジェニーによって消去させ、人間・飛鳥了として暮らすことで人間の弱点を知る作戦だった。
人間の弱点。即ちそれは恐怖心。飛鳥了は、極度の怖がりであり、それゆえに計算高い性格の人間として成長し……そして、その時が来るのを待った。即ち、裁きの時を。
その時がくるまで、長い年月を要した。しかし、ブライの帰還が合図だった。
ついに、始まったのだ。世界最後の日が。
デーモンは動き出した。ゲッタードラゴンを手に入れるために。人類を抹殺するために。飛鳥了の恐れることをデーモン達は行った。飛鳥了の思念をサイコジェニーがキャッチし、その通りに行動する。それは効率のいい作戦だったが、故に不幸な事故が起きた。
不動明。飛鳥了の親友である彼を喪うことが何よりも、飛鳥了にとって恐ろしいことだった。だから了は明を軍へ所属させることで側に置き……デーモン達は不動明の搭乗していた光子力空母・剣蔵を襲ったのだ。
そして、もう一つデーモンにとって不運な事故があった。それは、不動明という人間が飛鳥了が思うよりも遥かに強い心を持っていたこと。その結果、不動明はあの勇者アモンの心を侵略し……デーモンの天敵・デビルマンとなった。
デビルマンの存在は、結果としてデーモン族を敗北へと導いた。マジンカイザーというイレギュラーと、真ゲッターロボの帰還とそれは重なり……シレーヌやゼノンは敗れた。もはや、デーモン族に未来はなかった。
そして、飛鳥了の下にサイコジェニーが現れたことでサタンの記憶が蘇り……飛鳥了は全てを思い出した。
「だからこそ、私は今ここにいる……」
ラーガの中でサタンは、感じていた。
——ゲッタードラゴン。その胎動を。
世界最後の日の、はじまりを。
「サタン様」
ラーガを格納するドラゴンの姿をした要塞……シグマ文明の母艦・ガルラの封印を解いたサイコジェニーは今、ガルラの心臓と化していた。
「サイコジェニー、大義だった」
こうしている間にも、サイコジェニーの思念を受けたデーモン達が次々と集まっている。決戦の時なのだ。
世界最後の日。それは聖書には黙示録と記されている。人は滅び、神の使いと悪魔の軍勢の一大決戦が起こる。その始まりの儀式。それが今まさにバードス島で起ころうとしている。
「デーモンが生き延びる方法はただ一つ……ゲッターを滅ぼし、黙示録を阻止することのみ。早乙女研究所は滅びた。もう新なゲッターが生まれることはないだろう。しかし、ゲッターの大元を、進化の根源を絶たねば我々に未来はない!」
——デーモン軍団を結成し、ゲッターの血脈を滅ぼすのだ!
それは、サタンが現世に……この宇宙に戻ってきた理由に他ならないのだ。
デーモンだけではない。全ての命のために必要な決戦なのだ。そうサタンは自らを鼓舞する。ゲッターと、人類を滅ぼすことでのみこの宇宙は守られる。もう、その段階にまできてしまったのだ。
「明……」
しかし、明は……デビルマンは、人間を守るために戦うだろう。たとえ人間が守るに値しなかったとしても、だ。
それだけが、サタンの……飛鳥了の心残りであり、未練だった。
…………
…………
…………
一方、新光子力研究所は混乱の只中にあった。
「何が起こったの!?」
さやかが所員の報告を聞く。ミチルの発掘したラーガが突如として動き出し、そしてウザーラに似た巨竜型の巨大兵器と共に飛び立ったという内容は、俄かには信じられなかった。しかし現にラーガは消え、そして研究所のモニタは確かに捉えていた。ラーガに乗り込む飛鳥了大佐と、黒いウザーラの姿を。
既にマジンガー、ゲッターロボ乗組員達は招集を受けてブリーフィングルームに集まっていた。特にウザーラの恐ろしさを体感している竜馬と隼人は、その黒いウザーラの存在に険しい顔をしている。
「……そんなにすごいのか、ウザーラって?」
甲児が訊く。
「……正直、フルパワーの真ゲッターでも勝てるかわからねえ」
それが、隼人の回答だった。
——ウザーラ。かつて竜馬達ゲッターチームと百鬼帝国の戦いの最中に現れたアトランティス帝国の守護神とも言うべき存在。高度な文明を持っていたアトランティスを一夜のうちに海へ沈めた恐ろしい機体だった。
ゲッタードラゴンですら、ウザーラに傷一つつけることはできなかった。黒いウザーラがあのウザーラと同一の存在だとすれば、真ゲッターを持ってしても苦戦は必至だろう。そう隼人は分析する。
「そもそも、その黒いウザーラはどこから出てきたんだ?」
当然の疑問を、鉄也が口にする。
「ウザーラは、伝説のアトランティス文明の遺産だったわ。もし、黒いウザーラも同じようなルーツを持っているとすれば……」
ミチルが呟く。
「……例えば、ムー大陸とか」
それはあり得そうだが、断定はできない。という風な口調だった。
「いずれにしても、わからないことが多すぎますね」
セーラが、付け加えた。
「私の体験した歴史にも、黒いウザーラに該当する記録はありませんでした」
そう、リサ。つまり、現時点では何の情報もないに等しいということだ。
「目標の監視は続けてるのか?」
大介が所員に確認する。
「はい、黒いウザーラはデーモンの生き残りを集めて、バードス島へ向かっているようです」
「バードス島!?」
「おい、どうしたシロー?」
「……明が、デビルマンが向かったんだ。残る敵は、早乙女博士はきっとバードス島にいるって」
「本当かっ!?」
竜馬が、身を乗り出した。
「あ、ああ……」
その勢いに、シローは気圧される。
「シロー、てめえどうしてそれを言わなかった!?」
しかし竜馬の勢いは止まらず、シローの胸ぐらを掴む。
「よせ、リョウ!」
それを必死に止める弁慶。と、その時だった。ブリーフィングルームの扉が開く音とともに、少年が一人、包帯を顔に巻いた状態で立っていた。
「行こうぜ、リョウさん」
早乙女元気。早乙女博士の息子であり、ミチルの弟でもある少年。ゼノンとの戦いで重傷を負い、今は医務室で眠っているはずだった。
「元気、お前……!」
「そこに行けば、父さんがいるんだろ。父さんが何を考えているのか、俺は知らなきゃいけない」
身体の怪我は、ゲッターの操縦に耐えられるものではない。だが、それでも。その目は真っ直ぐに竜馬を見据えていた。
「元気……」
ミチルが、何かを言おうとする。しかし、できない。
元気の目は、死を覚悟する男の目だった。ミチルは、その瞳を何度も見てきた。
研究所と仲間達を守るために、一人で特攻しようとした竜馬の、隼人の、武蔵の目だ。
その武者達に、ミチルは守られてきたのだ。
だけど、今その目をしているのは他ならぬ……弟なのだ。
「わかったわ、元気」
だから、ミチルはそれを許すことしかできない。
「ありがとう、姉ちゃん」
「でも、条件があるわ」
「条件?」
ミチルはひとつ頷くと、それを口にする。
「私もゲッターに乗る」
「なっ、姉ちゃん!?」
「ミチルさんっ!?」
早乙女ミチルも、ゲッターの操縦訓練は受けている。しかし、現役を引退してもう長い。元気達の反応は、当然のものだった。
「あら、『早乙女の血』は元気だけのものじゃないわよ?」
不敵に笑うミチル。そう、早乙女ミチルもまた早乙女博士の血を引く者なのだ。興味の対象がゲッターロボから違うものに変わっていたが、それでも。
「ったく、血は争えないな……」
元気がそう言って、渋々承諾する程度にはミチルも、早乙女家の一員だったのだ。
「……おそらく、総力戦だな」
研究所のラーガと黒いウザーラ。デーモンの残党。そして早乙女博士。それが何を意味することかはわからない。しかし、最終決戦であることだけは、全員が理解できている。
「…………昔、早乙女のジジイに言われたことを思い出すな」
竜馬が、ボヤく。
「……ああ」
隼人が、ニヤリと笑みを作って頷いた。
「……愛する人がいる限り、そのためだけにでも戦うべき。か」
そして、今がその時だということを3人は嫌でも感じていた。だからこそ、
「よしっ! ゲッターチーム、出撃だ!」
5人は走り出す。ゲッターチームに、作戦など存在しなかった。敵がメカならぶっ壊す、有機体なら、ぶっ殺す。そして、早乙女博士の真意を聞き出す。それが、彼らの戦いだった。
「……俺たちも、負けてられねえな」
ゲッターチームの5人が走り去った方を見ながら、甲児が呟く。
「さやか、研究所の全モニタでバードス島と周辺の観察と報告を頼む」
「任せて。思いっきり、暴れてきていいわよ甲児くん」
甲児の全てを信じている。そう、言外にさやかは言って、所員達に指示を出していく。それをこそばゆく思いながら、甲児は「へっ」と笑い、リサも幸せな気持ちだった。
「……おと、ご主人様」
「ああ……」
帰る場所を守るために戦う。それが、甲児達の戦いだった。帰ることを考えないゲッターチームの戦いとは違う。甲児にも、鉄也にも、大介にも、帰るべき場所があった。
そして、シローにも。
「……ねえ、セーラ」
「……なあに?」
シローは、セーラの青い瞳を見つめようとして、だけど恥ずかしそうに視線を僅かに外して、また再びセーラの顔へと向き直り、囁いた。
「……この戦いが終わったら、2人でローレライの墓参りに行きたいんだ。その、いいかな?」
それは、兜シローという男にとって必要な儀式だった。ローレライの面影を持つ少女と、これからも共に生きるために。
心の中に今もいるローレライの幻影に、別れを告げに行く。それをしてはじめて、シローはセーラと共に生きる資格を得られる。そう、思っていた。
セーラは一瞬、びっくりしたように目を丸くして、それからシローの目が真剣なことを読み取り、
「……うん」
と、そう小さく頷くのだった。
「へっ、シローにも死ねない理由ができたな」
茶化すように、甲児が言う。
「うるせえ、とにかく……出撃だろ!」
「ああ、そうだな!」
かくして、ゲッターチームに続いてマジンガーチームもブリーフィングルームを飛び出していった。
真ゲッターロボ、ブラックゲッター、マジンカイザー、マジンガーZ、グレートマジンガー、グレンダイザー。最強のスーパーロボット達の出撃を見送りながら、弓さやかは少し膨らみ始めているお腹をさすりながら見送った。
若い頃は、自分も甲児と一緒に戦った。若さを,命を燃やしていた。しかし、今は。
(あの時ジュンさんが無理にでもビューナスで出撃しようとした気持ち、今なら少しだけわかるわね……)
あの時、自分には所長としての責任があった。それが、最後まで大人としての責務を果たすことに終始させてくれた。だけど、今はそれだけじゃない。
お腹の子が生まれた時に、甲児がいなかったら。それを想像するだけで怖い。
できることなら、今すぐにでも甲児達の戦列に加わりたい。一緒に戦って死ぬのなら、本望だ。
だけど、さやかの戦場はここなのだ。
「みんな、映像は常にチェックして、光子力カメラ、コマンドドローン、全部使いなさい!」
ここで、甲児の帰る場所を守る。甲児は並行世界からリサを連れてきていた。それに関してはある程度の説明を貰ったが、このあとリサがどうするのかだって考えなければならないのだ。だから、
(絶対、帰ってきてね。甲児君……!)
お腹の子が、父と姉を喪うなんてことだけは避けたかった。
…………
…………
…………
バードス島と日本には時差がある。甲児達が出撃した頃、丁度バードス島は夕焼けが世界を覆っていた。その黄昏を呼ぶ光を、ゲッタードラゴンの上で早乙女博士は見つめている。
『早乙女博士』
博士の耳元で、声がする。
「……ゴールか」
それは、帝王ゴール。かつて早乙女博士が、ゲッターロボが滅ぼした恐竜帝国の皇帝。その人の声だった。
『竜馬達が動き出しました。いよいよ、あなたの計画が最終局面を迎える時です』
「うむ……」
帝王ゴールが早乙女博士の前に現れたのは、ドラゴン復活計画を立てている最中のことだった。ゴールは、計画の修正案を持ち込み早乙女博士の計画に大きく貢献したのだ。
「しかし、わからぬ。ワシは貴様らを滅ぼした張本人だ。それがなぜ、ワシに手を貸す?」
『さて、なぜでしょう』
自分でもわからない。そう言いたげにゴールは返す。
『ただ、あなたの側が心地よいのです。仇敵であるゲッターの側が』
『左様。あなたのそばに居ると心が和む』
早乙女博士の背後に、気配がもうひとつ。
「ブライ……」
ブライ大帝。早乙女博士が、ゲッターロボが滅ぼしたもう一つの敵。百鬼帝国の長。今、ゴールとブライ。二人の霊が早乙女博士の傍で力を貸していた。
「ならば、精々ワシの為に戦うがいい」
そう、早乙女博士が言い、夕陽に影を映す深紅の羽根を、深緑の体躯を睨む。
——デビルマン。人間・不動明とデーモン・アモンが合体し、融合した姿。それが今、早乙女博士の眼前に迫っていた。
「早乙女博士! このデビルマンが、貴様に引導を渡しに来たぞ!」
デビルマンがその翼をはためかせ、飛び込んでいく。早乙女博士目掛けて。しかし、その眼前に海を割って現れるのは、双頭の竜。デビルマンの中にあるアモンの記憶は、それを見たことがあった。かつて、デーモンが氷獄の中に眠る以前のこと。恐竜と呼ばれた、巨大爬虫類だ。それを機械化したサイボーグ兵器……それは不動明の記憶の中では、メカザウルスと呼ばれていた。
『久しいな勇者アモン……。まさかこのような形で再会することになるとは』
その声も、アモンの記憶の中にあった。
「貴様は、ゴールッ!?」
帝王ゴール。恐竜帝国を総べし偉大な王。巨大なメカザウルス・無敵戦艦ダイからその声が木霊した。無敵戦艦ダイは、背中に格納されたミサイルを放ちデビルマンを牽制する。ミサイルの雨にデビルマンは足を止め、デビルファイヤーでそれを焼き払う。しかし、その間にも無敵戦艦ダイはデビルマンの懐へ突撃していた。炎が止んだ瞬間、デビルマンの眼前に広がるダイの巨体。
『デビルマン、今はまだ早乙女博士をやらせるわけにはいかん!』
「ほざけっ、亡霊がっ!?」
デビルマンがその鋭利な爪を研ぎ澄ませ、ダイの、帝王ゴールの心臓目掛けてその拳を突き出す。デビルカッター。岩をも砕くその一撃はたしかに無敵戦艦の装甲を貫き、生体部分を抉る。そして、その心臓を握り潰す。
「ゴール、俺の相手はお前じゃねえ!」
絶叫を上げて絶命する無敵戦艦。デビルマンは、それに振り返りもせず早乙女博士へと向かう。しかし、その時だった。背後から放たれた稲妻が、デビルマンを撃つ。
「グァァァァッ!?」
絶叫し、デビルマンはその翼を焼かれ地へ堕ちていく。それを見つめる瞳があった。
「グ……貴様は……」
巨大な竜と、赤褐色のグレンダイザー。そして、それを守るように陣形を組むデーモン達。
「来たか、サタン……」
早乙女博士の声。サタン。まるで全てを知っているとでも言うかのように、早乙女博士はそう呟いた。
「サタン……だと」
ゼノンを越える、デーモンの神。実在すら疑わしかった存在。それが、今デビルマンの前にいる。
「明……」
そして、その赤褐色のグレンダイザー……ラーガから聞こえるサタンの声。それは。
「う…………」
「明……。私達が戦う必要はない」
不動明のよく知る声。牧村美樹を最愛とするならば、その声は不動明にとって親愛を意味する声。彼はいつもと変わらぬ口調で、デビルマンへ、不動明へ語りかける。
「明、デビルマンとなった君は人間の世界で生きることはできない。さあ、明。私と共に新しい世界に生きてくれ!」
飛鳥了。不動明にとって牧村美樹同様の、愛する人間。その象徴だった。
「りょ、了……。お前は……」
だが、だがしかし。デビルマンとなった不動明の心の奥底にある闘争心は、了の言葉を跳ね除ける。
「お前は最初からサタンだったんだな。俺を……俺達を騙していたんだな!」
「騙したわけじゃない。私は記憶を失い、人間として暮らしていたんだ明。だが……全てを思い出した今、私はサタンとしてやるべきことがある!」
そうサタンが宣告すると同時。巨竜……ガルラの周囲のデーモン達がゲッタードラゴン、その繭へと突撃していく。しかし、デーモン達はすべからくゲッタードラゴンが逆に同化していく。何をしているのか、デビルマンには理解できない。
「……何を、している?」
「世界最後の日だよ、明」
「……何?」
世界最後の日。それは、早乙女博士やコーウェンとスティンガー……バアル・ゼブルの言っていた言葉だ。
「どういうつもりだ了。なぜデーモンが早乙女博士の手助けをする?」
「それが、黙示録の始まりだからさ」
サタンは、冷たく宣告した。終末を告げるラッパのように重いその一言は、群れることを嫌い闘争に明け暮れる悪魔達を統率し、ゲッタードラゴンにその命を焼べさせていく。
「明,人類に未来はないんだ。だからこそ私は目覚め、ドラゴンも覚醒する。君がデビルマンになったのは、私と共に黙示録の先の世界を生きる為に他ならない」
「ふざ……けるなっ!」
そんなことのために、デビルマンになったわけじゃない。デビルマンは立ち上がり、サタンを睨む。しかし次の瞬間、ラーガから投げ放たれたハーケンがデビルマンの両手を潰す。まるで聖者のような、或いは火刑に処される魔女のような体勢で磔にされたデビルマン。超能力と怪力でそれを退けようとするも、サタンの超能力かハーケンはピクリとも動かない。
「クソッ……!」
「明、そこで見ているといい。世界最後の日が訪れるのを」
サタンが冷たく笑う。それがさらにデビルマンの闘争心を煽る。しかし、どうすることもできない。
万事休す。そんな時だった。
突如伸びたゲッター線の光が、デーモンの軍勢を滅ぼしていく。
「ゲッタァァァァビィィィィィムッ!!」
バードス島を、いやこの星を震わせるその叫び声と共に、巨大な翼と大きな斧を持つ真紅のマシン・真ゲッター1。それに続いて光子の光を放つマジンカイザー、マジンガーZ、グレートマジンガー。さらにグレンダイザーと、ブラックゲッター。スーパーロボット軍団が、バードス島に到着したのだ。
「来たか竜馬、隼人、弁慶!」
サタンとデビルマンの問答には黙していた早乙女博士は、真ゲッターロボの存在を認めると歓喜の声を上げる。
「ジジイ! てめえ何を考えてやがる!?」
竜馬の声を聞き、早乙女博士はクツクツと嗤う。
「世界最後の日だ。その日が近づいているのだ。そして今、全ての因子が揃った!」
「訳のわからねえことを言ってるんじゃねえ! 俺にわかるよう説明しろ!」
真ゲッターは高速でドラゴンへ近づく。ドラゴンの頭上に立つ早乙女博士を守るように、薄らと、しかしはっきりと影が立つ。
『久しいな、流竜馬』
「ブライ大帝……!?」
隼人が驚愕の声を上げる。ブライ大帝。ゲッターチームの仇敵。そして……
「早乙女博士! そいつは……そいつは……!」
弁慶が、戸惑いの表情を見せる。なぜならば、
「てめえ……ブライは武蔵の仇だぞ!?」
そう、武蔵の仇であるブライが早乙女博士の傍らに存在している。それは、ゲッターチームにとって認め難いことだった。
「武蔵は、生きている」
しかし、早乙女博士は血走った眼でそう答える。
「何……?」
「武蔵だけでない。達人も……剣蔵、十蔵。みんな、生きているのだ」
それは、明らかに正気を失った人間の言葉だった。
「リョウ、全てを説明しようとすれば人間の一生では到底叶わないのだよ。だが、夢を見たはずだ」
「夢……だと?」
狂気に堕ちた老人の戯言はしかし、確かな現実感を持って竜馬に、皆に伝わる。
「そうだ、夢だよ竜馬。ゲッターエンペラーの夢を!」
早乙女博士が叫ぶと同時、ドラゴンの繭がドクン、と脈打った。そして、ドラゴンが咆哮する。その地を割り空を割く叫びは、竜馬を……ここにいた全員を、虚無の世界へと誘った。
…………
…………
…………
夢。夢を見ていた。宇宙を埋め尽くす無数のゲットマシン。そして、ゲットマシンを展開する巨大な、一つ一つが惑星すら凌駕する巨大なゲットマシンが、3つ。彼らを迎え撃つのは、昆虫のような姿をした機動兵器群。それは、遥かな未来で起こる戦争だった。
『ゲッタァァァァァッビィィィィィッムッ!!』
宇宙を震撼させる流竜馬の声。そして、一条の光が走ると同時、次々と撃滅していく昆虫兵器達。
『惑星ダウィーン消滅!』
『なんとしても、なんとしてもここで食い止めるんだ! ゲッターを、この宇宙に残してはいかん!?』
そんな言葉を断末魔に消えていく命を喰らうように、ゲッター艦隊は進む。その先にあるものは、果てなき闘い。進化。繰り返す輪廻。進化。更なる強敵。進化。宇宙を超えし魔神。進化。それはヒトの想像力が生み出したもの。進化。それとも機械仕掛けの神か。進化。星を喰らう魔物か。進化。意思を持つ空間か。進化。それは、それこそは大いなる意志なのだろうか。進化。命を喰らうことで命は生きる。進化。それは即ち、生命の一生とは喰い合い、殺し合いの中にしか存在しないということになる。進化。生き残った生命だけが、進化の先へと旅立つことができる。進化。そう、進化だ。進化こそが、生命が生まれた意味であり、生命が尽きる意味である。だとしたら、この闘いとは何だろう。進化の過程。それに過ぎないのだろうか。
「この戦いの意味は、何だ?」
微睡の中、竜馬は虚空に問うた。それに応えるように、声がした。聞き覚えのある声だ。誰だろう、と竜馬は思案する。
『進化だよ、竜馬』
誰だ。ずっと近くで聞いていた気がするのに、思い出せない。
『進化とは、命の先にあるものだ。そして今、人類は滅亡の危機に立たされている』
そんなことは、させない。そう強く念じながら、竜馬は声を聞いていた。
『竜馬、時間がない。人類は滅亡の危機に瀕している。そのために全ては、ここに集ったのだ。それは植物の実が熟し、種子を飛ばすのと似ている。しかし……このままでは人類は種子を散らす前に全てを滅ぼそうとするだろう』
それは、それがこの光景なのか。ゲッター艦隊があらゆる宇宙の命を刈り取り、喰らう、この地獄のような光景が。竜馬はそう口を開こうとしたが、できなかった。
何か、強大な力が竜馬に働いていた。
『それを……意思を持つもの達は許さない。リョウ……俺達は、新たなる旅立ちを迎えねばならん』
リョウ。そう呼んだ声は、その声色は。
まさしく…………。
「ムサシ!?」
巴武蔵。その人だった。
「ムサシ! そこにいるのか、武蔵!?」
『リョウ……恐れることはない。俺達は、みんな、ここにいるんだ』
…………
…………
…………
その空間に、不動明は一人だった。それは、全ての滅んだ世界だった。赤い海、赤い空、瓦礫の街。
「これは……」
そこに、命は残っていなかった。ただ、人類という種がかつて存在していた証。コンクリートや鉄の風化した残骸と、骸の骨があちこちに転がっていた。
『ここは、もうひとつの未来だ』
明の脳内に、声が響く。了の声だ。
「了、お前がこれを見せているのか?」
『違う。我々の中にある記憶……あえて呼ぶのならば虚憶とでも呼ぶべき偽りの、しかし真実の記憶だ』
どういうことだ。意味がわからない。しかし、たしかにこの映像には夢と呼ぶにはそぐわない生々しさがあるように明は感じていた。
瓦礫の街を、明は了の声を頼りに歩く。歩き続ける。まるで地獄。いや、地獄と呼ぶのも生ぬるい光景が続いていた。歩いていて、ゴロンとした何かを明は蹴った。
「ん?」
蹴ったものに視線を落とす明。それは、丸いものだった。丸くて、黒くて、白い。それが何かを認めた明の血の気が引いていく。
「あ……あああ……」
牧村美樹。明の愛する女性。
その頭部だけが、ゴロンと転がっていたのだ。
「嗚呼呼呼呼呼呼喚喚喚喚喚喚荒荒荒荒荒婀婀婀婀婀婀婀婀婀婀婀ッッッッ!?」
ただ、叫ぶことしかできなかった。
その光景は、たとえ現実ではなかったとしても、明の……デビルマンの心を砕くには十分過ぎた。
「美樹……そんな……」
『明、これが人間だ。人間は人間同士で殺し合い、いずれ自滅する。この世界では、そのきっかけがデーモンだった。だが、たとえデーモンが現れなかったとしても、遅かれ早かれ人類は自らを滅ぼす。それは、人類がこの惑星に生まれた命である以上変えられない』
何を、言っているんだ。そう、口にする気力も明にはなかった。
『全ての命は、繋がっているんだ。そして、そのために人類は滅びの時を迎える。お前が守ろうとしているのは、無駄なんだ』
だが、しかし。
その言葉だけは認めるわけにはいかなかった。
「無駄、だと……。ふざけるなよサタン」
お前は、間違っている。本能的にそれだけは理解できた。
「無駄かどうかなんて、関係ねえ。俺が人間を守るのは、俺が守りたい人がいるからだ!」
たとえ、自分が彼女の隣にいられなかったとしても。明にも、デビルマンにもわかっている。これは自己満足に他ならないと。その結果として自分の戦いが徒労に終わるのならば、構わない。しかし、だとしても。
『明、わからないのか。大いなる意思はこの結果を望まない。だからこそ、目覚めの時が来ている。僕と君に虚憶を与えてくれた。これは、天命なんだ。私と共に、あたらしい世界を生きることこそが!』
「ははっ、天命か。サタン……お前からそんな言葉が聞けるとはな。だが、だがな!」
明の背中から、翼が生える。悍ましい悪魔の姿へ、みるみるうちに変化していく。
「俺はデビルマンだ! 人の心を守るために戦う、悪魔の使者だ! 大いなる意思も天の意志も関係ねえ!」
その絶叫が、不動明として最期の言葉だった。
「不動明も、勇者アモンも、あの時死んだっ!
俺は……デビルマンだっ!」
…………
…………
…………
その夢の中で、兜甲児は幼かった。幼い頃に両親と死別し、祖父の下で過ごした記憶。記憶の中の祖父は優しかった。甲児とシローは祖父の下で暮らし、そして祖父を看取った。
「マジンガーZは、おじいちゃんの形見でもある……」
だからこそ、今シローがマジンガーZに乗っているのはある種の縁だと思っている。そして、並行世界の変貌したマジンガーZ……マジンカイザーに自分が乗っていることも。
そんな現実に意識を向けた瞬間、夢は姿を変えた。虚無の宇宙。真空の暗闇の中に甲児はひとり。それが何を意味しているのかはわからない。ただ、暗闇の奥にマジンガーがいた。
あった。ではない。その存在が生きているように甲児は感じたのだから。
『甲児……マジンガーは神にも悪魔にもなれる』
マジンガーから声がする。円環の翼を持つ魔神。その言葉は、祖父からマジンガーZを託された時に聞いた言葉だ。
神にも悪魔にもなれる力。マジンガーは所詮器でしかない。マジンガーを神や悪魔にするのは人間なのだ。
だとすれば、目の前にいる魔神はなんだろう、と甲児は思った。そして、すぐ答えに行きあたる。
「おじいちゃん……」
兜十蔵。マジンガーZの開発者である天才科学者にして、甲児の祖父その人だ。あの円環の魔神は、十蔵の心を宿している。そう、甲児は感じていた。
『甲児……今私は円環の世界にいる。遍く、あらゆる世界を、隣接するあらゆる可能性を観測した。そしてその全てでお前は……マジンガーを託された。しかし、お前は神にも、悪魔にもならなかった』
それは。それは……。
「おじいちゃん、俺は人間だ。人間でたくさんだよ! 人間として飯食って、眠って、好きな人の隣にいて、笑って、泣いて、愛して……そんな幸せを手放せなかった。だから、マジンガーを神にも悪魔にもしなかった」
円環の魔神は、零の魔神は甲児の言葉を受けて沈黙する。続きを、答えを促すように。
「俺は、人間がいいんだおじいちゃん! どうして、どうしてマジンガーを生み出しちまったんだよ! どうして、俺やシローにこんな責任を押し付けたんだよ!」
甲児が叫ぶ。魔神は、祖父は、それを受けて言葉を紡いだ。
『甲児。全て大いなる意思だ。今ならわかる。なぜ私がマジンガーZを作り上げたか。なぜお前達を遺し逝くことになったか。なぜヘルが世界征服に王手をかけ、しかしお前に倒されたか。なぜあの時私の祖母は死んだのか。なぜ1+1は2なのか……時間と空間と私たちの関係。全てはこんなにも簡単なことだったのだ……』
「おじいちゃん……?」
後半になるにつれ、その言葉は詩的なものを帯び、意味不明になっていく。
『これを人間の言葉に変換すると、運命というものになるのだろう。全ての命が、その時のために生まれたのだ』
「それが、世界最後の日だってのか……!」
甲児の叫びに、魔神は応えない。しかし、しばらくの後、零は口を開いた。
『甲児、今から24分42秒後に、ロシアの核ミサイルがバードス島に投下される』
「な…………っ!?」
『この危機を回避できるのは、お前達だけだ……』
そう、零の魔神が囁くと同時、甲児の意識は現実へと引き戻されていく。それはつまり、祖父との2度目の別れを意味していた。
「待ってくれおじいちゃん! まだ、話し足りないよ! 俺、結婚したんだ! 娘もできるんだよ! シローにも、彼女ができてさぁっ! 鉄也もジュンさんも、ボスもヌケもムチャも、大介さんもひかるさんも、マリアちゃんも、リサも、みんな、みんないい奴でさ! おじいちゃんにも会ってもらいたかったんだよ! なあっ!?」
しかし、甲児の叫びも虚無の中に消えていく。やがて意識は完全に覚醒し…………
…………
…………
…………
「今のは…………?」
甲児は、目を覚ました瞬間に時計を確認する。時間は、あれから1分も立っていない。体感した時間は何時間もあの空間にいた気がするのに、だ。
「ウ……お父さん……?」
後部座席で、リサが目を覚ます。どうやら自分だけでなく、全員が眠っていたらしい。
「リサ……何を見た?」
「……別の私。お父さんがインフィニティの中で発見した私と、会いました」
「そうか……」
どうやら、全員が全員違うものを見ていたらしい。それがどういう理屈で起きたものなのか、甲児にもわからなかった。しかしその直後、さやかからの通信であれが幻覚の類ではないことを思い知る。
『甲児君、みんなっ! たった今入った情報よ。ロシア政府がバードス島への核攻撃を決定したわ。今から25分後、ミサイルが発射される!』
「何だとっ!?」
驚愕の声を上げる鉄也。
「ククク……」
サタンの笑い声がクツクツと響く。
「明! これがお前の守ろうとした人間の正体だ! 人間は守る価値はあったかぁっ!?」
「…………サタンッ!?」
「愚かな……今のゲッタードラゴンに核などを浴びせてしまえば、それこそ地球はゲッター線に汚染される!」
「ッ!?」
ゲッター線の汚染。あの世界を見た者たちには、地獄の光景がリフレインする。
「そんな……この世界まで……」
リサが、絶望の声を上げる。
「そんなこと、させるわけにはいかない!」
しかしグレンダイザーの大介は、毅然と言い放った。
「ああ、その通りだ!」
シローが続く。
「シロー……」
「アニキ……俺、おじいちゃんに会ったんだ。夢の中でおじいちゃんは、金色の巨人の姿をしてた。あれはたぶん、マジンガーだと思う」
金色の魔神。それは甲児が見た円環の魔神とは違う姿だった。しかし、それでも祖父なのだろう。甲児はそう確信する。きっと、それもまた魔神のひとつの姿なのだろう、と。
「おじいちゃんは、マジンガーは神にも悪魔にもなれるといった。だけど、俺は愛する人を守れるなら神も悪魔も関係ない。なあ、そうだろ明!」
シローの言葉を受けたデビルマンは、磔になりながらもニヤリと笑う。
「ああ。人の心がある限り、神も悪魔も関係ねえ!」
デビルマンの叫びと共に、磔にしていたハーケンが砕け散る。
「明ッ!?」
サタンの超能力を、デビルマンが上回ったのだ。翼を作り出し、デビルマンは飛ぶ。既に満身創痍の悪魔人間が。
「核をどうにかできるのは、俺たちだけだ。なら、やるしかないなっ!」
元気が叫び、指の骨をポキポキ鳴らす。
「できるかな元気、ミチル。この父を倒せるか!?」
「お父様……」
ジャガー号のミチルが、逡巡を見せる。それを振り切るようにイーグル号の元気が叫ぶ。
「うるせえ! 親父、あんたが人類を滅ぼそうって言うなら、俺はあんたを倒す! それが早乙女の、血のケジメだっ!」
「へっ、元気のやつ言うようになったじゃねえか」
弁慶が少し嬉しそうに、しかし寂しそうに口元を歪める。いつの間にか、元気もゲッターロボ乗組員として一人前になっていたのだ。
「竜馬……お前も、見たのか?」
隼人が、竜馬へ訊く。それが何を意味しているのか、竜馬はわかっていた。
「ああ……」
「そうか。竜馬、俺達はゲッターロボに……ゲッター線に生かされてきた。もし、あれが運命だというのなら……」
「ふざけんな、俺はゲッターに生かされた覚えもないし、運命だからって何もかも受け入れるつもりはねえよ。誰かが言ってたぜ、運命に逆らうのもまた、運命だってな!」
そうだ、お前はそういう奴だったな。そう隼人は笑う。“ゲッターに勝つ”そう豪語した以上竜馬は必ず、ゲッターに、運命に勝つ。そう、信じられる。
「さあ、仕切り直しだ。行くぜジジイ!」
トマホークをスピアへ変化させ構える真ゲッター。それに並び、トマホークを構えるブラックゲッター。
「来るがいい、竜馬!」
早乙女博士が叫ぶと同時、ブライの亡霊とゴールの亡霊がドラゴンへ吸い込まれていく。そして、繭がぐにゃりと歪み、それを産み落とした。
それは、ゲッタードラゴンだ。しかし、細部が禍々しく変形している。悪魔。そう形容するのがふさわしいゲッタードラゴン。
『ククク……これがゲッター線の力か。素晴らしい!』
ゴールの声。
「ゴールっ!? 早乙女、てめえブライだけでなくゴールまで!」
「竜馬、このドラゴンはデーモンどもを取り込み進化したメタルビースト・ドラゴンだ。パワーは真ゲッターと同等以上。そしてワシとゴール、ブライの3つの力が一つになっておる!」
「へっ、言うだけならただだがな!」
真ゲッターのスピアが振り下ろされたのが、決戦の合図だった。
…………
…………
…………
「明、どうしても戦うのだな……」
ラーガの中で涙を流しながら、サタンはデビルマンへ問いかける。
「サタン、答えはこの戦いの果てにある。そうだな?」
デビルマンがその爪を構えるのを認めたサタンは、デビルマンを中心に集まるグレートマジンガー、グレンダイザー、マジンガーZ、そしてマジンカイザーを一瞥する。そこにいるのは、サタンにとって個人的な因縁のある者達だった。
「明……それに魔神たち。滅びを受け入れないのならば、見せてやろう!」
ラーガが、ウザーラに似た巨大な竜……ガルラから飛び上がる。そして、
「スペイザー、オン!」
そう、叫んだ。
「何っ!?」
デューク・フリードが驚愕の声を上げる。
「まさか、あの竜は……スペイザーなのかっ!?」
グレンダイザーと同じ姿をしたマシンであるならば、そういう可能性は考慮すべきだった。そうデューク・フリードは己の迂闊さを呪った。そして次の瞬間、赤褐色の魔神と、黒い巨竜は一つの姿になっていた。
かつて、ゲッタードラゴンと戦ったアトランティス帝国のウザーラのように、ラーガの上半身を持ち、下半身を竜……ガルラスペイザーとした魔神。言うなれば、ガルラ・ラーガが、魔神達の前に立ち塞がる。
「かつての同胞……ゼウスの腕より生まれし魔神達よ! その神なる力を神たる我に返すときが来た!」
まるで、裁きのラッパを鳴らす天使のように、サタンは叫ぶ。
「人間どもに、その力は不要。お前達の世界は、歴史は、今否定される!」
「黙れっ!?」
しかし、その宣告を遮ったのは、兜甲児だった。
「サタン……! たしかにお前が言うように、人間はろくでもない生き物さ。だけど、俺はこの世界を肯定する!」
それは、兜甲児の宣誓だった。
「お父さん……」
「……聞け、サタン。かつて、お前と同じように人間に失望した奴がいた。そいつは、この世界を否定し、作り替えようとした」
「…………」
「俺は、それを否定し、この世界を肯定した。あいつは、俺にとって相容れない敵だが……ある意味もう一人の俺だった。俺は、あいつを否定した責任がある。だから!」
マジンカイザーの胸の「Z」が輝き始める。光子力エネルギーが、フル回転しているのだ。それは、神を超え、悪魔すら斃す力。光子力。人間の可能性そのものであるその力の申し子であるマジンカイザーが、更なる覚醒をはじめていることを意味していた。
「俺は、この世界を肯定するっ!」
今、最後の戦いの火蓋が切って落とされた!