雷鳴が轟き、火炎が逆巻く。バードス島は既に、地獄と化していた。集結したスーパーロボット軍団と、それに立ちはだかる2つの戦鬼。決して広くはないこのミケーネ文明の遺跡が残る島で、世界最後の戦いが始まっていたのだ。
「喰らえっサンダーブレークッ!!」
剣鉄也の乗る偉大な勇者・グレートマジンガーが巨大な竜神と化したラーガに、稲妻を放った。しかし、龍神……ガルラ・ラーガはその一撃をものともせず、その竜口が開かれ、幾重にも重なった雷が放たれる。それはかつて、一撃でゲッタードラゴンを戦闘不能にまで追い込んだウザーラの雷と同様の力を持つ神の怒りだった。受ければひとたまりもない。グレートマジンガー、グレンダイザーら頑強なスーパーロボット達が咄嗟にラーガから離れる。その雷を避けながら、マジンカイザーとデビルマンはガルラを抜けてラーガへと迫っていた。
「サタン! こいつを喰らえ!」
マジンカイザーの中で、兜甲児が叫ぶ。魔神皇帝のその剛腕が、回転しその腕から離れていく。
「ターボスマッシャーパァァァンチッ!」
ターボスマッシャーパンチ。マジンガーZのロケットパンチをさらに強化した超重量質量兵器が、ラーガを襲う。しかし、ラーガもまた両手を掲げると、両手を回転させ発射する。
「こちらにも、同じ兵器があるぞ兜甲児! スクリュークラッシャーパンチ!」
飛び出した剛腕同士がぶつかり合い、反発する。その衝撃で2体の魔神は大きくよろめくが、マジンカイザーは既に回り込んでターボスマッシャーパンチを回収すると、そのままラーガの頭上へ躍り出ていた。
「それなら、こいつはどうだっ!」
そのまま、剛腕をラーガへと叩きつける。そして拳よりもさらに重い脚でラーガの頭を蹴り飛ばす。
「クッ……!」
しかし、ラーガを操る神……サタンもただ受けたわけではなかった。ラーガの胴体の放熱版から放たれる反重力ストーム。それが、マジンカイザーを狙っていた。そして、重力場がマジンカイザーを飲み込んでいく。
「くっ、コントロールが効かねえっ!?」
「お父さんっ!」
周囲の重力を奪う反重力ストームを受けたマジンカイザーは、たちまちコントロールを失い動けなくなる。しかし、その反重力光線に対してグレンダイザーから放たれた反重力ストームが。二つの反重力ストームが反発し合い、その力が打ち消される一瞬の隙にマジンカイザーは脱出する。
「大丈夫か、甲児くん!」
「ああ、すまねえ大介さん!」
そして、最大級の攻撃力を持つマジンカイザーを無力化するために放った反重力ストーム。その一瞬が、サタンの隙となった。
「了ォォォォォォォッ!」
ラーガの背後を取ったデビルマンが、その口から業火を放つ。デビルファイヤー。溶岩すら溶かすその灼熱を浴びたラーガはしかし、怯むことなくデビルマンへとスクリュークラッシャーパンチを放つ。
「明ぁぁぁァァァァッッ!」
それは、宿命としか形容できない壮絶なぶつかり合いだった。デビルマンが拳を掲げラーガへと迫るも、ラーガの衝角から放たれる雷・スペースサンダーがそれを阻む。そして、ラーガの下半身……スペイザーとなっているガルラの側面から放たれる無数のミサイルが、デビルマンへ降り注いだ。
「ぐぅぁぁっ!?」
「明、デビルマンの力などそんなものだ! 勇者アモンの武勇も、光子力の力も、この神の器の前には及ばないと、なぜわからない!」
怒れる大魔神は、デビルマンの力を凌駕する。だが、それでも。
爆炎の中から立ち上がり、デビルマンが空を駆ける。それに続くように、マジンガーZ、グレートマジンガー、グレンダイザーの3機が、サタンの……ラーガの前に躍り出る。
「愚かなっ! 神の力に逆らうなっ!」
了の、サタンの叫びと共にラーガの頭部が輝く。スペースサンダー、グレンダイザー同様の必殺武器がラーガにも搭載されている。それをガルラの力とサタンの超能力で増幅した、言わばスペースサンダー・ギガ。それを塵芥目掛けて放とうとした次の瞬間、物凄い握力にラーガの頭部が抑え付けられる。
「さっきは、よくもやってくれたな! こいつは……お返しだ!」
マジンカイザー。地上最強の魔神皇帝が、ラーガの背後を取ったのだ。
「兜…………甲児ッ!?」
「みんな、今だっ! 俺たち人間の、全力をお見舞いしてやれっ!」
甲児が叫ぶよりも早く、英雄達がそれぞれの体制に入っていた。即ち、必殺技の。
「アニキ、ちゃんと避けてくれよっ!」
マジンガーZのシローが、その両腕をブンブンと回す。その助走のついた勢いで放たれたロケットパンチ、大車輪ロケットパンチ。
超合金ニューZの剛腕をまともに受けてはまずい。そう判断したサタンは、ラーガの両腕を飛ばしそれを受け止める。
「今だっ鉄也さんっ!」
しかし、それはシローの作戦のうち。厄介なクラッシャーパンチを無力化するために、先手を打ったのだ。その結果今、目の前のラーガは丸腰に近い。
「よくやったシロー! 命を燃やす時が来た。行くぞっ!」
そう言って、マジンガーブレードを投擲するグレートの鉄也。魔神の剣は、大魔神の胸に深く突き刺さる。そして、
「これが、俺とグレートのとっておきだっ! 食らえ、サンダーブレードっ!」
本来、グレートの指に集める雷エネルギー。それが、マジンガーブレードへと集まっていく。サンダーブレード。本来、雷エネルギーを撃ち放つサンダーブレークをマジンガーブレードに集約することで、突き刺さった部分に直接電撃を浴びせるグレートマジンガーの必殺攻撃だ。
「こちらからも行くぞっ!」
続けてグレンダイザーの宇門大介。スペイザーと合体した状態からすかさずグレンダイザーへモードチェンジし、肩から展開されたハーケンを一つに合体させる。そして、ブーメランのようにそれを投げる。
空中で回転することでキレを増したハーケンが、ラーガの腹に突き刺さった。
「デューク・フリード……なぜ貴様は人間の味方をする!」
「人間の味方、か。僕は確かに、ゲッターの行き着く先を危惧していた。場合によっては、彼らと戦わなければならないと覚悟も決めていた。しかし、違ったんだサタン。僕達がするべき事……それは、友を信じることだ!」
グレンダイザーの頭部から放たれたスペースサンダーが、サンダーブレードに上乗せされ更に攻撃力を高めていく。
「友を、信じる事……だと?」
「そうだ。僕は、彼らになら……危険な力を持つゲッター線を託してもいいと信じることにした。お前は、飛鳥了という人間だったんだろうサタン。ならば、信じるに足る友がいたんじゃないのか!」
「友などいない。友など…………っ!?」
信じるに足る友。それは今サタンの目の前にいる。しかし、その友をサタンは、飛鳥了は。
「俺は……僕は……私は……」
デビルマンから放たれた火炎。デビルファイヤーが迫る。そこに、言葉はない。
「明……」
友ではない。愛していたのだ。この時サタンは、それを自覚してしまっていた。
サタンは両性生物である。サタンは男性にも女性にもなることができる。いや、そんなことは言い訳に過ぎない。サタンが不動明を愛したのではないのだから。
飛鳥了が、不動明を愛してしまったのだから。
たとえサタンとしての意識が、力が、記憶が蘇ったからと言って、飛鳥了のそれが消えるわけではない。デビルマン不動明の中にデーモンの勇者アモンと、人間不動明の記憶と意識と感情が存在しているのと同じことだ。
そして、だからこそ。
サタンは、明と共に新しい世界を生きたかったのだ。
明が美樹という女性を愛しているのを、了も知っている。だから、全ての人間が死に絶えた後の世界なら……美樹と共に生きられないことを自覚しているデビルマンなら。そんな一抹の期待があったことを今、サタンははじめて自覚したのだ。
友という言葉によって。
それを否定してしまった時に。
愛する者の炎に焼かれながら、ラーガの中でサタンはそれを自覚して、涙した。
そして、思い出した。別の世界。虚憶の世界。或いは隣接次元。あり得たかもしれない可能性の中で起きた、黙示録の一頁を。
…………
…………
…………
それは、赤い月の下で語り合う自分と明の姿だった。いや、語り合っているのではない。一方的に、サタンは明に悔恨を吐露していた。しかし、明は答えない。返事はない。肯定の言葉も、否定の言葉もない。
なぜなら、隣で横たわる明はもう、生きていないのだから。
…………
…………
…………
「明……殺してくれ」
「了……?」
それは、サタンからの本心の言葉だった。それが、デビルマンには、明にはわかる。
だからこそ、明から出たのは戸惑いの言葉だった。
「僕は、取り返しのつかない過ちをしてしまったことに気付いてしまったんだ……」
自分達の手を離れて増殖してしまったから、ゲッター線に選ばれたから人類を滅ぼそうなどと。それはかつて、デーモンを滅ぼそうとした神々と同じではないか。
「僕は、お前に討たれることでこの命を終えたい。頼む、明!」
それが、せめてもの情けだと。サタンは贖罪の炎の中、胸に剣を突き立てられた大魔神の中でそう懇願する。しかし、デビルマン……いや、不動明はそんなサタンの言葉を聞き入れなかった。
「ふざけるなよ、了。お前の裏切りがそんなことで帳消しになると思うな!」
「明……」
デビルマンが炎を消し、ラーガの下まで舞い降りる。そして、その腕を突き出した。
「了、すぐにラーガから降りろ。そして俺のところに来い!」
「明……?」
それは、了の予想だにしない言葉だった。戸惑う了を他所に、明は続ける。
「了、お前が裏切りの、この戦いの責任を取りたいというならばやることはひとつしかない。生きろ! 生きて、その力を……サタンの力を愛する人々のために使うんだ!」
たとえ、人類の中に生きる場所がなかったとしても。
「お前には、俺がいる! 俺一人を阿修羅地獄に置いていくなんて、許さんぞ!」
「明……」
その言葉のままに、サタンは、了はラーガを支配する指輪を外す。そして、外へ出ようとした。その時だった。
「サタン様。そのようなことは許しませんよ」
声が、聞こえた。女のような声だ。
「サイコジェニー……?」
ガルラの中で、自らをコアユニットにしているはずのサタンの腹心が、声を上げたのだ。
「あなたには、まだ役割があるのです。サタン様。いや……嗟嘆」
その声は、機械のように冷たかった。そして、突如として了は、激しい頭痛に襲われる。
「グッ……ウワァァァァァッッ!?」
それは、立っているのもままならない激痛だった。神とでもいうべき存在であるサタンを持ってしても抑えることのできない激痛。頭を砕くような痛みと、嘔吐感と、目眩に襲われながら了は、力なく倒れてしまう。
「了!?」
そして、今までガルラと合体していたラーガが突如として、ガルラの中へ飲み込まれていく。
「な、何だっ!?」
「放射能、ゲッター線、虚無指数飛躍的に上昇! お父さん、何かが起こります!」
咄嗟にラーガから離れたマジンカイザー。ラーガはみるみるうちに、ガルラの中へと取り込まれていく。
「了ッ! 了ッ!」
明がいくら叫んでも、返事はない。そして、
ガルラの遥か上空……それは、起きた。
…………
…………
…………
「早乙女ェェェェェッ!?」
ゲッタースピアとダブルトマホークが、激しくぶつかり合う。真ゲッターとメタルビースト・ドラゴンの戦いは、全くの互角と言って差し支えなかった。
「竜馬! 感情任せの攻撃などこのワシには通用せんと何度言った!」
真ゲッターの獲物はゲッタートマホーク、ゲッターサイト、ゲッタースピアと自在に変化しリーチを変えている。しかし、メタルビースト・ドラゴンは二本のトマホークでそれをいとも容易く弾いていたのだ。
「早乙女の野郎、耄碌したジジイの割にやりやがる……!」
「ハハハハハ! リョウ、メタルビースト・
ドラゴンのゲットマシン内部は通常の40倍ゲッター線が増幅されておる。おかげですこぶる体調もいい。身体が自分のものではないかのように軽いし、勘も冴えておる!」
「素晴らしい……これが、ゲッター線……」
「我々はこの力の中に肉の器を失った……そして!」
瞬間、オープンゲットしたメタルビースト・ドラゴンは次の瞬間にポセイドンへと変化し、ミサイルの雨を降らせる。そのミサイル一つ一つがゲッターポセイドンのそれよりも火力が高く、数も多い。
「っ! ブライの奴……!?」
しかし、そのミサイルは目眩し。次の瞬間にはライガーに変形合体し、真ゲッターの懐に飛び込んでいた。
「これが、進化の力。なるほど面白い……ハチュウ人類が敗れたわけだ」
ライガーの速度についていくように、真ゲッターもゲッター2へチェンジし、音速の世界の中で激しくぶつかり合った。
「情けないなゴールさんよ、あんなに恨み心頭だったゲッター線に惚れ惚れとはね!」
「隼人くん、全ては小さなことなのだよ。我々が敗北したことすら、この日のための必然だった。そう思えば、安いものよ!」
二つのドリルが、機体の端を掠めて過る。それを十繰り返したところで、埒が開かないと判断した隼人はコントロールを弁慶に移した。真ゲッター2の身体がぐにゃりと曲がり、みるみるうちにゲッター3の巨体へ変化。ゲッターミサイルを乱射し、ライガーを引き離す。その瞬間に再び真ゲッター1に変化し、上空へ羽撃く。
「元気! ミチルさん!」
異次元の戦いに圧倒されていたブラックゲッターが竜馬の声で戦場へ引き戻される。
「2つのゲッタービームを収束させる、行くぞッ!」
「お、おうっ!」
真紅のゲッターと漆黒のゲッター。2体のゲッターから放たれるゲッタービームが、螺旋を描いていく。そして、ミサイルの中から抜け出したメタルビースト・ドラゴン。その眼前には螺旋のゲッタービームが飛び込んだ。
「何とっ!?」
「受けろジジイ! スパイラル・ゲッタァァァァァビィィィィィッムッ!?」
しかし、咄嗟にオープンゲットすることでそれを躱し、メタルビースト・ドラゴンに再び合体。そしてドラゴンもゲッタービームで2体のゲッターを迎撃する。それを躱しながら、隼人はある事に気付いた。
「…………竜馬」
「ああ、わかってる」
改めて、ゲッタートマホークを構えてメタルビースト・ドラゴンと向き直る真ゲッター。その隣でミサイルマシンガンを構えるブラックゲッターの元気とミチル。
「…………っ」
元気は、コクピットの中にしまっていたアンプル剤を開けて、注射する。ゼノンとの戦いで負傷していた元気は、この戦いについていくのでやっとだった。
「…………ハッ、ハッ」
それは、長らくゲッター操縦から遠ざかっていたミチルも同じである。ただでさえ旧式のゲッター1を改造したブラックゲッターは、パワー、スピード、全てにおいて真ゲッターにも、ドラゴンにも劣っていた。それでも、2機の戦いについていくために必死で操縦桿を握り、スロットルを踏み続けていたのである。それは、負傷兵と現役を引退した女性にとって非常に厳しいものだった。それでも、足手まといにだけはなるまいと必死で真ゲッターの援護のために、ミサイルマシンガンを撃ち続けていた。
このミサイルマシンガンも、元々は恐竜帝国との戦いでゲッター1が使用していた旧式の兵器である。それでも威力は折り紙付き。下手な武器よりも使えると判断してブラックゲッターに持たせたのだが、メタルビーストと化したドラゴン相手では分が悪い。
「……竜馬さん、俺たちが先に行く」
だから、ここで元気が動いたのは少しでも、一矢でも報いたいと思ったからだった。ミサイルマシンガンでは埒があかない。それならば、とマシンガンを投げ捨てて、ゲッタートマホークを持ちドラゴンへ迫る。
「元気! ミチル! この父に歯向かうのか!」
「喋るなァァァァッッ!?」
それは、特攻と言っても過言ではない捨て鉢の戦い方だった。最大出力でも、最大パワーでもブラックゲッターはメタルビースト・ドラゴンに勝てない。それでも、やらなければならないことだった。
「お父様、覚悟!」
ミチルが叫ぶ。それと同時に、ゲッターエネルギーがブラックゲッターの腹部に集中する。ゲッタービーム。それのリミッターを超えた出力をチャージしていることは、ゲッターロボ開発者である早乙女博士にはすぐにわかる。
「愚か者が!」
迫るブラックゲッターを蹴り飛ばし、ドラゴンはさらに迫る。しかし、ブラックゲッターはそのドラゴンに拳を突き立てる。
ゲッターレザー。格闘戦のための刃がついた腕はたしかに、ドラゴンの装甲を抉る確かな手応えを感じていた。
「何とっ!?」
「親父ィィィィィィッ!?」
ゲッター炉心がメルトダウンを迎えるまでの残り時間ギリギリまで、殴り続ける。それが、元気とミチルの見出した、活。
ゲッターエネルギーのチャージが溜まれば溜まるほど、ブラックゲッターの出力も増す。その力で、拳が砕けるまで殴る。右手を、左手を、交互に突き出す。ステゴロとしか言いようがない。しかし、ようやく肉薄しチャンスを得たのだ。絶対にこのチャンスは離さない。元気は、ミチルは、殴り続ける。早乙女博士を、父を。
「親父が思い詰めてたのは知ってるよ! ゲッター線だって、本当は宇宙開発の、平和利用のために研究してたことも!」
「グゥッ……!」
「だけど、恐竜帝国が来て、百鬼帝国が来て、ミケーネも、ベガ連合も! それにデーモンの奴らもいて! 達人兄ちゃんや、武蔵さんが死んで……責任感じてたのも知ってたよ!」
漆黒のゲッターの拳が、異形のゲッターの顔面を潰す。
「だけど……だったら! せめて俺たちに相談してくれてもよかっただろ! 俺たち、親子なのに!」
自分でも何を叫んでいるのか、元気にはわからなかった。ただ、だからこそ目の前にいる父を殴らなければ気が済まなかった。
しかし、早乙女博士はただ黙って息子の拳を受けているような男ではない。それは、元気自身が一番知っていることだった。
「元気よ……ならば、お前から世界最後の日の贄となれ!」
今度はドラゴンの拳が、ブラックゲッターの腹部を大きく打撃した。
「ガッ…………!」
衝撃で大きく機体が揺れ、元気の腹にできていた傷口も開く。
「元気!?」
ミチルの悲鳴。ブラックゲッターはコントロールを失い、ゲッター炉心を暴走させたまま落ちていく。ミチルが必死でコントロールしようとするが、それまでの戦いで既にミチルの視界も霞み始めていた。
「元気! ミチル! 父自ら引導を渡してやる!」
そう叫び、オープンゲットするドラゴン。ゲットマシンの状態で落下するブラックゲッターを追う。
「今だ、リョウ!」
「任せろ! いくぞ隼人、弁慶!」
その時だった。真ゲッターロボが動いたのは。ブラックゲッターに追いついたゲットマシンが、再び合体しようとしたその瞬間。その一瞬が、この戦いの勝敗を分かつものとあの時、竜馬と隼人は見切っていた。
瞬間、ブラックゲッターとメタルビースト・ドラゴンの間に割り込んだ真ゲッターが、メタルビースト・ドラゴンの上半身を掴んでいた。そして、真ゲッターの腹部からぐにゃりと曲がり現れた真ゲッター3の腕が、メタルビースト・ドラゴンの下半身を掴んでいる。
「こ、これはっ!?」
愕然とする早乙女博士。
「へっ、悪いなジジイ。俺たちは目を瞑りながらでも合体できるんだ」
「そんな俺たちからしたら、あんたらの合体にはコンマ3秒のズレがあった」
竜馬と弁慶が、それぞれに言う。
「博士、あんたの負けだ!」
そう、隼人。
「フ、フフフ……」
不気味に笑うゴールの声。
「どうやら、我々の負けのようですな博士」
そして、ブライ。
「何だ、てめえら。負けておきながらヤケに嬉しそうじゃねえか」
「嬉しいのだよリョウ。人類はここまで来たのだ。そう、お前達は命を燃やして実践したのだから」
ゴールと、ブライの気配が消えかかっていくのを竜馬は感じていた。姿が見えなくても、わかる、伝わるのだ。命の形が変わっていく瞬間を。
「お前達……」
「リョウ、地球上の生物はすべて滅ぶ」
「な、何……?」
「地球上の生物はようやくここまで来たのだ。滅んではならぬ」
それは、竜馬達の知るブライ大帝という存在からは決して聞くことのできない言葉だった。
「全ての生命を救うために我々はきた……ハチュウ類も。全ての命は、滅んではならぬ」
ゴールの言葉もまた、地上の王者となるべく全ての生命を淘汰しようとした独裁者の言葉ではなかった。
ならば、ここにいるブライとゴールは何だ?
そう、竜馬の中で何かが揺らいだ時だった。
ラーガが飲み込まれていき、ガルラの頭上、遥か上空で……それは、起きた。
…………
…………
…………
それは、大いなる虚無だった。全てを呑み込む虚無。上空の空は、空洞だった。そして、その空洞から降りていくるものがある。異形の姿だった。左右非対称の巨人。そう、巨人。片目が潰れ、そこから昆虫の脚のようなものが生えている。触角が生えている。背中から8本の脚が生えている。しかし、それのシルエットは人型に見える。そんな醜い異形の巨人だった。その巨人の頭部には、空洞があった。それは空にできた虚無とは違う。あえて表現するならば、マジンガーのパイルダー装着口のような穴だ。ガルラが飛び、その穴に入り込む。そして、触手のようなものが伸びて巨人の中にパイルダー・オンするのだった。
「嘘……だろ……」
シローが呻く。
「…………バカな」
鉄也は言葉もない。
「…………どうして」
甲児は、ようやくその言葉を吐く。
「…………みんな?」
大介は知らない。それが何かを。しかし、その異様な姿を見て警戒しないわけにはいかない。それでも、仲間達のその反応の理由は、わからなかった。無理もない。大介はその時唯一、地球にいなかったのだから。
「…………どうして、お前がそこにいる!」
甲児が叫ぶ。目の前の、巨大な魔神に向かって。
「お前は、確かにあの時俺たちが倒したはずだ! マジンガーインフィニティ!? ドクターヘルッ!?!?」
マジンガーインフィニティ。古代ミケーネの残した世界改変装置。半年前、兜甲児とマジンガーZが倒したはずの巨悪が、虚無の淵から姿を現したのだ。
「…………兜甲児、そして地球の戦士達」
インフィニティから、声がする。それは紛れもなく、ドクターヘルの声だ。しかし、その姿は見えない。以前の戦いでは、ドクターヘル自身が乗り込む戦闘獣・地獄大元帥をインフィニティのコアとしていた。しかし、今その場所にはガルラが収まっている。
甲児は、目を凝らす。宿敵が必ず、いるはずなのだ。そして、インフィニティの欠けた右目に埋め込まれた甲虫の脚のようなものが、ぐるりと回転する。
そこに、いた。
自らの貌を醜い蟲の甲に改造された、哀れな天才科学者の成れの果てが。
その才智を人のため、地球のために使えばきっと、人類の発展は今頃一世紀分ほど先まで行っていたであろう男が。
しかしその頭脳故に人間に失望し、果てなき野望にその才能を費やした人類の敵が。
ドクターヘル。兜十蔵の友であり、兜甲児にとって宿命の敵が、そこに埋め込まれていたのだ。
「ウッ……!」
セーラが、思わず口を塞ぐ。リサも、目を逸らす。そのくらいに、その姿は悍ましく、恐ろしい。
「…………どうやら、全ての舞台は整ったようだな」
ヘルが、ポツリと呟く。
「そうだヘルよ。宇宙の果てでお前を拾い上げた恩に、今こそ報いよ」
サイコジェニーの声が、その場にいた全員に響く。
「サイコジェニー……お前はっ!?」
デビルマンが叫ぶ。サイコジェニーは、デーモンの諜報員だった。その強力な超能力で、デーモン側を有利に導く存在のはずだった。しかし、サイコジェニーはサタンに背き、ドクターヘルを従えている。
「お前は、何者だっ!?」
「…………我は遥かな宇宙よりの端末に過ぎぬ。この宇宙ではない別の宇宙から、使命を帯びたもの」
「何だと……!」
既に機能を停止しているメタルビースト・ドラゴンを放り投げ、真ゲッターも飛ぶ。ゲッターが、あれを撃てと叫んでいるのを竜馬は感じていた。
「我々の宇宙での我の名は、ラ=グースと呼ばれていた」
「ラ=グース……?」
竜馬にとって、はじめて聞いた気のしない名前だった。まるでDNAに刻まれているかのような響き。懐かしさと……決してその存在を許してはいけないと感じる強い衝動が、沸き上がっていた。
「名前など、どうでもいい。サタンを取り込んだガルラと、繭と化したドラゴン。そしてこのインフィニティ。全てが揃っているのだ」
ドクターヘルが遮り、宣言する。
「はじめようか。ゴラーゴンの続きを」