ドクターヘル。かつて世界征服に王手をかけた、兜甲児最大のライバル。それが今、悍ましい姿で甲児達の前に立ち塞がっている。異形の姿に変貌したマジンガー・インフィニティとひとつになったヘルが告げる。
『ゴラーゴンの続き』
それが何を意味しているのか、甲児達はその肌で体験することになる。マジンガー・インフィニティの胸部が輝くと同時、意識が遠のいていく。その感覚を、甲児は知っていた。
「こ、これは……!」
ゴラーゴン。マジンガー・インフィニティという世界改変装置の持つ“機能”。隣接次元と呼ばれる“あり得たかもしれない可能性”へ世界を分解し、再構築する言わば“可能性の編纂”それが、インフィニティの持つ力。
甲児はかつて、それを一度受けたことがある。だから、知っている。それがとても、心地よいということを。
“可能性“単位に分解されていく世界。その中に溶けていく感覚。一度は否定したそれが、再び襲ってくる。
世界と自分が切り離されていく感覚を覚える中で、デビルマンが飛ぶのを甲児は見た。
「ふざけるなよド外道が! 了を、俺の親友を返しやがれ!?」
デビルマンの拳はしかし、巨大な魔神に届くことはなかった。インフィニティの胸部から放たれた光……ブレストファイヤー。かつて富士山一帯を壊滅状態にまで陥れたその熱が、デビルマンに襲いかかる。
「なっ……!?」
それを全身に、モロに受けたデビルマンは全身が焼け爛れ……大地へ墜ちた。
「明ッ!?」
「……………………」
シローが叫ぶ。しかし返事はない。まだ辛うじてデビルマンの姿を保っているので、死んではいないのだろう。だが、既に立ち上がる力も失いつつあるブラックゲッターと並び倒れ伏すデビルマンから、生気は感じられない。
「この野郎ッ!」
竜馬の真ゲッターが吼えた。しかし、その直後……それは起こった。
ゲッタードラゴン。巨大な繭と化したドラゴンが、ゲッター線の触手を伸ばして真ゲッターを掴む。
「なっ……!?」
「リョウ!」
変化し、回避しようとする。しかし、真ゲッターが竜馬の、隼人の、弁慶のコントロールを受け付けない。
「……恐るなリョウ、ハヤト、ベンケイ」
メタルビースト・ドラゴンの残骸の中で、早乙女博士が呟いた。そのメタルビースト・ドラゴンもまた、ゲッター線の触手に絡め取られ、繭の中へ引きずり込まれていく。
「ジジイ、てめえ…………!?」
「……これは、始まりに過ぎん」
何かを悟っているかのように、まるで子供に語りかける父のように、早乙女博士は言葉を紡ぐ。
「全てを受け入れるのだ、竜馬」
その言葉と同時に、早乙女博士はドラゴンの中へ取り込まれていった。そして、真ゲッターロボも。
「クソッ、コントロールが効かねえ!」
「どうするんだ、竜馬!」
弁慶が唸り、隼人が叫ぶ。そして、竜馬は。
「こうなったら、行ってやろうじゃねえか……。ドラゴンの内部とやらに!」
覚悟を決める。
「フッ……そうだな。こうなればゲッターと一蓮托生だ」
竜馬の言葉を聞き、隼人もまた。
「お前ら……。ああクソ! どうなってもしらねえぞ!」
覚悟を決めた竜馬と隼人に気圧されながら、弁慶は合掌する。
「南無三!」
それは、チームとして弁慶も、竜馬達と運命を共にする覚悟を決めたという合図だった。
「ヘッ……。気合い入れろ隼人、弁慶!」
「おうっ!」
「おうっ!」
全てをドラゴンに任せ……真ゲッターロボもまた呑み込まれていった。
「竜馬! 隼人! 弁慶!?」
その一部始終を見届けて……インフィニティの異様を前にマジンカイザーに乗りながら兜甲児は、真ゲッターが呑み込まれるのを、デビルマンが焼き墜とされるのを見届けるしかできなかった。グレートマジンガーも、グレンダイザーも、マジンガーZも同様に。
こうしている今もゴラーゴンが起きている。現実感すら薄れていくこの情景を前に戦士達は、動くことができなかったのだ。
「クソ……。ここまで来て、こんなのアリかよ……」
マジンガーの操縦桿を握る手から、握力が消えていくのを感じる。鉄也や大介、竜馬達も同じだろうか。甲児は一瞬、仲間達のことを思った。なんとかして、ゴラーゴンを止めなければ。歯を食いしばりながら、インフィニティを睨め付ける。しかし、視界が霞んでよく見えない。
「兜甲児よ」
薄れゆく意識の中で、ドクターヘルの声が聞こえる。
「お前が肯定した世界は今、消える。そして、新たな世界が生まれる」
「ヘル……」
ヘルの顔は見えない。しかし、醜く歪むヘルの嘲笑は、イメージできた。
「冥土の土産に、教えてやろう。この宇宙の真実を!」
ヘルの思念が、強くなる。今のヘルは、バードスの杖を持っていない。それでもインフィニティを制御できているのは、ラ=グースとやらの力なのだろうか。
或いは、ヘル自身が制御装置とされているのか。
そして、ヘルの思念が甲児を侵蝕していく……。
…………
…………
…………
「…………こ、これは?」
甲児の視界に広がっていたのは、暗黒の宇宙だった。暗黒、そう表現したのは星の輝きすらも覆い隠すほどの暗く、虚ろな気配が甲児の五感に張り付いていたからであり、宇宙、であるとわかったのはそんな闇の中でも生きようとする命の気配を感じたからだ。
そして、その命が次々と燃えていく光景が、甲児の前にあった。
昆虫のような姿形の軍団と、神々しい巨人達が戦っていた。昆虫達はまるで一つ一つが細胞のように寄り集まり、組み合わさり、巨人達よりも更に巨大に進化していく。
「あれは……!」
あの世界。ゲッターの地獄で甲児達と、真ゲッターロボを襲った巨蟲を思い出した。それとそっくりな昆虫軍団に立ち向かう神々しい巨人達……言わば神の軍団とでも呼ぶべき翼を持つ巨人達の激突。それは、マジンガーという神にも悪魔にもなれる力を持つ甲児の目から見ても規模の違う戦いだった。
巨人の放つ光が、無数の蟲を焼く。それと同時に、数々の惑星が消滅していく。しかし蟲はその牙で巨人を喰らい尽くしていく。呻き、絶叫する巨人は忽ち絶命し、蟲の餌食となっていく。
悪夢のような殺し合いを繰り広げる宇宙を、甲児は見ていた。
「なんだよ……。これ、なんだよ……」
目の前で起きていることが、信じられない。
『これが、宇宙だ。甲児』
ドクターヘルの声がする。
『お前に倒された儂の亡骸とマジンガー・インフィニティは、宇宙を彷徨っていた。そして、意志を持つ者に拾われた』
「意志を持つ者……だと?」
何を言っているのか、わからない。ドクターヘルは甲児にとって決して相容れぬ存在だが、それ故にヘルの言葉が理解できないということは甲児には今までなかった。しかし、今のヘルは違う。理路整然とした科学者の顔でも、獰猛な野獣の顔でもないヘルに甲児は、怖気が走った。
『甲児よ……全ては運命なのだ。このマジンガーも、ゲッターも、全ては運命の時を超えるために生まれたのだ。そう、インフィニティも』
運命の時。意志を持つ者。世界最後の日。デーモン。ミケーネ。光子力。ゲッター線。グレンダイザーとラーガ。空中元素固定装置。リサ。サタン。ラ=グース。ゲッターエンペラー。ZERO。それらの断片的な情報が甲児の中で氾濫する。
『この宇宙を作り、全ての命の運命を弄ぶ者がいる』
「それが……ラ=グース?」
『ラ=グースにとって、宇宙の創造とは積み木を積み上げるようなものだ。儂をこのような姿にして、弄ぶのもラ=グースならば容易いこと。ブライも然り』
醜い甲虫のような姿にされたヘルを、思い出す。あれが、ラ=グースの力によるものだというのだろうか。
『ラ=グースは、宇宙を創り、壊す。それを繰り返すことを喜びとしているのだ。全ての命を弄ぶ、創造主であり破壊神。それが……』
意志を持つ者。ラ=グース。それらは同じものを指しているのだろうか。いや、違う。ヘルを拾い上げた“意志を持つ者”と、ヘルを弄ぶ“ラ=グース”は違う存在だ。宇宙に出て鋭敏になった甲児の第六感が、そう告げていた。
「ヘル……! お前は……!」
兜甲児は、理解した。これは、人生最大の好敵手(ドクターヘル)の、人間としての意識が伝えようとしている遺言なのだと。
『甲児よ、全ての命は……弄ばれるために生まれたのだ……。ワシの野望も、或いは……』
「違う! お前が世界征服の野望を抱いたのも、俺がお前と戦ったのも、全部……俺達の意志だ!」
そうでなければ、全ての命は報われない。
たとえこの日のために、全ての運命が仕組まれていたとしても。
それまでの歴史を作ってきたのは、あまねく人々の意志と決断と、命だ。
なぜなら、そういう世界を兜甲児は、肯定したのだから。
『フッフッ、フハハハハハ…………』
甲児の叫びに、ドクターヘルは不敵な……しかしどこか嬉しそうな笑い声で返した。それは甲児にとっても、悪い気のしない返事だった。
『……ならば、甲児よ。再び奇跡を……起こしてみよ……』
次第に、ヘルの声が小さくなっていく。甲児は、かつての宿敵の声に小さく頷いて、地獄の宇宙を見据えていた。
「わかった。お前の命も……無駄にはしねえぜ。ドクターヘル!」
何をすればいいのか、甲児は理解していた。隣接次元。“可能性”という単位に分断された世界。きっとラ=グースはそんな世界でも自己を保てるのだろう。だからこそ、インフィニティを新たな玩具に選んだのだ。
しかし、ここは“可能性”の世界。それを知っているからこそ、甲児は念じる。念じれば、“可能性”は答えてくれる。
全身の神経を集中させる。合言葉は、決まっていた。深く深呼吸するような動作をし、甲児は叫んだ。
「マジーン・ゴー!!」
…………
…………
…………
「なんだ……これは……?」
インフィニティの頭脳となったガルラを支配する意志・サイコジェニー……正確にはラ=グース細胞の一部から生まれた個体は、その現象を見てそう、呟いた。
マジンカイザーから溢れる光子力の光。それが、“可能性”単位に分裂した世界を、繋ぎ合わせていく。それは、言わば全てを“可能性”に分解するゴラーゴンと真逆の現象。
インフィニティによって分解された“可能性”が、マジンカイザーによって“再構築”されていく。そんな機能は、マジンガーには存在しないはずだ。それが突然変異で生まれた魔神皇帝であったとしても、それは変わらない。
「いや……マジンカイザーは、まさか!」
ある、一つの仮説にサイコジェニーは思い立った。
マジンガーのルーツには、ミケーネの神々が関わっている。そして、今ドクターヘルとガルラを介してラ=グースの媒介としているこのインフィニティもまた、ミケーネ文明の遺産である。
「マジンカイザー……貴様は、神の領域に届いたというのか!?」
ミケーネの生み出した神の力・インフィニティと対を為す人の生み出した神の力・それこそが、マジンカイザー。マジンカイザーにもインフィニティ同様にゴラーゴンを起こす力が存在するとしたら。
「そいつは……違うぜ!」
カイザーから、声が響く。兜甲児。マジンガーZで戦い続け、今マジンカイザーの魂となっている戦士。
「マジンカイザーは、神をも越え、悪魔すら斃す力! こいつは……人が神や悪魔に立ち向かう為に存在する力! そして、光子力とは……どんなにちっぽけな“可能性”をも現実にする、人間の力だ!?」
甲児の叫びに、呼応するように、立ち上がる者がいた。マジンガーZ。兜甲児と共に戦い続け、今その弟シローと共にある鉄の城。
マジンガーZもまた、無尽蔵の光子力を放出し
ながら、マジンカイザーに並び立っている。
「オレを忘れんなよ、兄貴……!」
「シロー……!」
今のマジンガーZは、前回のインフィニティとの戦いの後巨大な光子力炉心となっている。その光子力の放流をコ・パイとなっているセーラが空中元素固定装置で制御することで、その暴走を止め、力に変換している状態だった。
しかし、マジンカイザーとマジンガーZ。2つの巨大な光子力炉心が並び立ち、そして2つの空中元素固定装置がフル回転することで、光子力は次のステージを迎えようとしていた。
即ち、“可能性”の具現化。
今やインフィニティによって“可能性”単位へ分解された世界は完全に元に戻っていた。しかし、それだけではない。
マジンガーZが、グレートマジンガーが、グレンダイザーが、そしてマジンカイザーが、光子力の光の中に包まれていく。
それは、まるで“可能性“の中に包まれているような光景だった。“可能性”は、四柱の魔神に新たな姿を与えていく。
かつて、インフィニティとの戦いでマジンガーZが起こした奇跡と同じだった。
「…………すげえ、何が起こってるのか。まるでわかんねえ」
シローが呟く。
「でも……温かくて、優しい。この光の中にいると、とても落ち着くわシロー」
後部座席のセーラの囁きが、シローの耳には心地よかった。
「ん…………」
リサが目を覚ましたのは、そのタイミングだった。父の背中は、既に精神力でマジンカイザーを制御している。圧倒的な光子力の本流。それを、リサもまたその肌で感じていた。
状況を確認する。ドラゴンの繭に取り込まれた真ゲッターロボは未だ繭の中。デビルマンも、インフィニティのブレストファイヤーで焼かれたまま斃れている。
現状、立っているのはマジンカイザーとマジンガーZ。それにグレートマジンガーとグレンダイザーだが、グレートとグレンダイザーは中のパイロットに意識があるか確認できない。
甲児は、マジンカイザーの制御で手一杯になっている。この光子力の流れを制御しなければ、どれだけ強力な力だったとしても戦うことはできない。
「お父さん……」
父の助けをする方法を、リサは知っている。“可能性”の世界で、リサはそれを拾い上げていたのだから。今リサの右手には、禍々しい杖が握られている。
——バードスの杖。ミケーネの機械獣を操る力を持つ、ドクターヘルの遺品。
本来この世界では、失われたもの。
それをリサへ渡したリサは、笑っていた。
『私が生まれてくる世界を、よろしくね』
という言葉を残して。
リサはその杖を握り、高々と掲げた。それと同時、マジンカイザーの放出する無限の光子力が、志向性を持って形になっていく。
空中元素固定装置。リサの世界で如月ハニーが齎し、マジンカイザーに取り付けられた賢者の石とでも呼ぶべき代物は、この時のためにあったのだ。リサは確信していた。
即ち、この無尽蔵の光子力を制御するために。そのためにリサはバードスの杖を受け取り、そして今その力を振るう。
カイザーの内部に存在する空中元素固定装置が、バードスの杖に呼応するように回転する。
「光子力、転換完了! 光子出力、56億7000万パーセント!」
リサが叫ぶと同時、光子力の奔流が爆発し……それは起きた。
…………
…………
…………
「これは…………!」
宇門大介が意識を取り戻した時、既にグレンダイザーにそれは起こっていた。光子力が、グレンダイザーに光のマントを纏わせている。そもそも光子力マシンではないグレンダイザーになぜこのような変化が起こったのかは、わからない。しかし、それは決して悪い変化ではないことは、魂で理解できた。
(あの時……)
大介もまた、“可能性”の世界にいた。そこで見たものは、ゲッターロボ。いや、あれはゲッターロボといっていいのだろうか。
異形の怪物と化したゲッターを駆逐していく、ゲッターを狩るゲッター。言わば、アンチ・ゲッターとでも呼ぶべきモノ。
(あれもまた、“可能性”というのか……)
アンチ・ゲッターを垣間見たことで、大介は確信した。未来は、一つではないと。そして、未来を決定するものは無限の“可能性”の中にこそあると。
光子力のマントを翻し、グレンダイザーが立ち上がる。それと同時に、グレートマジンガーも。
「鉄也君……」
「どうやら、俺たちのマシンはカイザーとZの光子力の共鳴して……“可能性”の力を身に纏っているらしいな」
グレートもまた、光子力の光でできた巨大なマントを羽織っていた。それが、グレートマジンガーの“可能性”の姿ということだろうか。そして、このグレンダイザーの姿もまた。
大介は、グレンダイザーの拳を巨大なマジンガー……インフィニティへ構えた。スクリュークラッシャーパンチ。それが光子力を纏い、光の拳となってインフィニティ目掛けて飛び出す。
その拳の名前を、大介は無意識に叫んでいた。
「スクリューブロワ・クラッシャー!」
光子力を纏った拳が、インフィニティに炸裂する。グレンダイザーよりも遥かに巨体なインフィニティが、その拳によろめいた。
「大介さん!」
「すまない甲児君、少しばかり、長く眠っていたようだ……」
グレンダイザーに続くように、グレートマジンガーが往く。光子力を纏い、グレートの身の丈よりも遥かに巨大化したマジンガーブレードを振り上げ、インフィニティの頭上へ迫った。
狙うは、パイルダーとなったガルラ。ガルラ目掛けて、巨大な魔神皇帝の剣は振り上げられる。
「エンペラーソードッ!」
ガルラは雷を起こし、それを壁にするようにしてエンペラーソードと名付けられた巨大な剣を受け止める。しかし、それを雷を突き破りグレートマジンガーは肉薄する。
「まさかっ!?」
皇帝の剣が、巨竜の頭を切り裂いた。
「鉄也!」
「礼を言うぞ甲児、シロー……。お前達のおかげで、この化け物と戦う力が……俺達にも魔神皇帝の力が宿ったらしい」
魔神皇帝の力。即ちマジンカイザーの持つ無限の光子力が齎した奇跡。それが、マジンカイザーとマジンガーZだけでなく、グレートとグレンダイザーにも無尽蔵の力を与えている。
それは、かつてインフィニティとの戦いの折、マジンガーZに起きた奇跡。それと同じ現象が魔神に起きているということだった。
あの時、マジンガーZは世界中の光子力を身に纏い、インフィニティと同等の体積を手に入れていた。しかし、グレートとグレンダイザーに、そして今マジンカイザーとマジンガーZに起きているそれは、巨大化現象ではない。
無限の光子力が、魔神達に“可能性”を具現した武器を与えていたのだ。
それが、グレンダイザーのスクリューブロワ・クラッシャーや、グレートマジンガーのエンペラーソードとして顕現している。
今や、全ての魔神がマジンカイザーであると言っても過言ではない。
だが、それでもマジンガー・インフィニティの巨体は健在だった。
…………
…………
…………
「なるほどな……これが人間の“可能性”か」
サイコジェニー……ラ=グースの尖兵はしかし、それに驚かされたものの、驚愕するには至らない。
なぜなら、“可能性”とは突き詰めれば因果率の収束過程に過ぎず、因果率への干渉などはラ=グースの一部に過ぎないサイコジェニーにも多少心得のある超能力だからだ。
ゴラーゴンなど、ラ=グースの力の一端にすれば取るに足らぬ誤差である。
ラ=グースにとって、宇宙とは積み木である。それを積み上げるのも、崩すののも、娯楽以上でもなければ以下でもない。
ただ、この宇宙は今までとは様子が違った。今までにない成長を遂げる生物があった。幾億繰り返した宇宙の生誕と終焉の中で、今まで生まれ得なかったものが生まれた。
それがゲッター線であり、光子力だ。
それらは、ひとつの宇宙という狭い箱庭の中で生まれた生物に、創造主たるラ=グースに迫る力を与えるものだった。
故に、ラ=グースはただこの宇宙を消滅させるのではなく……育てて刈り取ることを選び、推移を観察した。そして、時には未知の宇宙から情報を……虚憶という形でサタンに与えもした。
サタン。ラ=グースの尖兵でもある神の軍団に叛いた愚か者。神の軍団に叛いた罰として、サタンには随分と働いて貰っている。
例えば、今もラーガごとインフィニティのコアになっているサタンの記憶から、情報を引き出すことでラ=グースの因果律操作を応用すれば……。
「このようなことも、可能だ」
インフィニティの頭上に、時空の裂け目が広がっていく。それは、かつて『ゲッターの地獄』とでも呼ぶべき世界で見たものとよく似た現象だった。ラ=グース細胞は、因果律に干渉しこのような現象を起こす事ができる。まして裂け目より、配下を呼び寄せることなどラ=グース細胞には造作もない。
それは、血のような赤色の怪物だった。怪獣。という表現が正確かもしれない。
その怪獣を、鉄也は知っている。
「ギルギルガン……だと!?」
ギルギルガン。かつて甲児達が倒した成長する宇宙怪獣。その成体が姿を現す。
「まさか、あの宇宙怪獣も貴様の手先だったのか!」
鉄也が叫ぶ。それにラ=グース細胞……サイコジェニーは人間を嘲笑うような不気味な笑みで返す。それに呼応するようにギルギルガンが吼え、その鍵爪でグレートへ襲いかかった。
「今更、ギルギルガンごときに!?」
魔神皇帝の剣、エンペラーソードでそれを薙ぎ払うも、ギルギルガンは口から破壊光線を放つ。
「鉄也さん!」
動いたのは、マジンガーZ……兜シローだった。マジンガーZもまた、ジェットスクランダーに光子力の光を纏っている。“可能性”の翼で飛んだマジンガーZは、ギルギルガンとグレートマジンガーの前に割り込んだ。
「セーラ!」
「うん!」
セーラの空中元素固定装置が、光子力の翼に実体を与えていく。巨大な翼は背中にもう一つの拳を背負っていた。そして、真紅の翼はまるで本物の鳥か、或いは天使の翼のように可変し、魔神を守る盾となる。
その盾に阻まれた破壊光線は、光子力の中に霧散するように掻き消された。
「見たか! これが俺とセーラのマジンガー……全てを守る鉄の盾だ!」
その光景を、インフィニティは静観していた。しかし、そのインフィニティにも変化が訪れる。ガルラから伸びたラ=グース細胞の触手が、インフィニティの全身を取り込み、そしてインフィニティは変貌をはじめたのだ。
「ウッ」
シローと鉄也に、悪寒が走る。それは、よくないものだという悪寒。世界を地獄へと変貌させていく悪魔の姿に見えたのだ。
魔神に選ばれた男達が、最も忌避すべき姿。悪魔と化した……いや、悪魔など生温い。
邪神。悪魔が傅くこの世全ての邪悪の権化。
変貌していくインフィニティは、そういうものだった。
それこそ今、インフィニティの一部になっているドクターヘルの頭脳を解析してラ=グースが用意した言わば第二形態。
「させるかよ……!」
シローが叫び、セーラは空中元素固定装置をさらに回転させマジンガーZの周囲に浮遊する光子力を超合金Zの塊へと変換させていく。そして、マジンガーZが自身の右手を掲げる。
「ロケットパンチ……ひゃぁぁぁぁく連発!」
シローの合図とともに超合金Zの塊……マジンガーZの剛腕と同じ質量を持つ百の拳が、インフィニティ目掛けて飛び出していった。
「無駄なことを……」
しかし、その質量を持ってしてもラ=グース細胞と融合していくインフィニティには傷ひとつつかない。ならば、と鉄也はグレートマジンガーでインフィニティの背後へと回り込む。
その胴体の放熱板……ブレストバーンも、光子力の力でパワーアップしている。
「グレート・ブラスター!」
その光子力の加護を受けた熱線は、マジンカイザーのファイヤーブラスターに匹敵するパワーを有していた。しかし、そのグレート・ブラスターに飛び込むものがいた。宇宙怪獣ギルギルガン……!
「何……!?」
ギルギルガンは、まるで主を守るようにグレート・ブラスターを受けながら巨大化していく。皮膚を溶かされながら、膨張を続けていく。その様子に只ならぬものを感じた鉄也は、咄嗟にグレート・ブラスターを中断する。自由になったギルギルガンはまるで仲間の仇とでも言わんばかりにグレートマジンガー目掛けて迫り、その鎌爪を振り回す。グレートは、エンペラーソードでそれを受けに回る。
「鉄也君!」
グレンダイザーとマジンカイザーも、動いた。しかし、その時だった。
全身にラ=グース細胞を移植されたインフィニティの隻眼に、瞳が生まれる。
「お、お、おぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
義眼として埋め込まれてたドクターヘルが、断末魔の悲鳴を上げた。
「ドクターヘル!?」
「か、兜甲児……。このインフィニティ。いや、ゴッドマジンガー・インフィニティは、ワシの夢だった……」
「…………」
かつて、兜甲児はこう推測した。ドクターヘルが世界征服に手を出した理由。それは好奇心にあったと。そして、インフィニティの世界改変装置ゴラーゴンにより、つまらないこの世界を否定するのも、世界への好奇心が失せた証拠であると。
しかし、ドクターヘルは広大な宇宙で、ラ=グースに触れることで新たな好奇心とそして……初期衝動を思い出したのだろう。
なぜ、世界を手に入れたいと思ったのか。
「このゴッドマジンガー・インフィニティは、無限の闘争と殺戮に彩られた宇宙から、この星を守るためにラ=グースを利用して手に入れようとした力だった……。この機体は、ラ=グースとこの星を繋ぐ機能を有している。お前達が負ければ、この宇宙はラ=グースの手で滅ぼされるだろう……」
「ヘル……どうして……」
「勘違いするな……ワシも、この星が……天然自然が好きだったのを、思い出しただけだ」
ヘルの瞳から、生気が消えていく。ラ=グースによって延命させられていた機能が、死んでいくのをヘルは理解していた。
「よいか兜甲児。全ての命は滅んではならぬ……。ラ=グースにも、ゲッター線にも、滅ぼさせては……」
それが、最期の言葉だった。ドクターヘルはついに、死んだのだ。
しかし、それで兜甲児に齎されたものは……。
甲児は、キッと眼前のマジンガーインフィニティ……いや、ゴッドマジンガー・インフィニティを見やる。神と名乗るには、随分と醜悪な姿だった。マジンカイザーは、ゴッドマジンガー・インフィニティを前に一歩を踏み出す。
「ラ=グース……! てめえが何のためにここへきたのかは知らねえ。でもな、この星には兜甲児様がいることを、教えてやるぜ!」
マジンカイザーの胸部に、光子力の光が集まっていく。その無尽蔵の光子力が剣の姿を形作っていく。
「リサ!」
「了解! 光子力収束確認。空中元素固定装置、フルドライブ。カイザーブレード、リアライズ!」
マジンカイザーが、胸部の「Z」から皇帝の剣を引き抜いた。グレートのエンペラーソードと違い、空中元素固定装置の力で実体化した巨大な剣・カイザーブレードを構え、真紅の翼を広げ飛翔した。
…………
…………
…………
一方、剣鉄也は目の前に相対する敵……ギルギルガンに異様なものを感じていた。ギルギルガン、鉄を喰らい成長する宇宙怪獣。かつて自分とゲッターチームの連携で倒したそれよりも、目の前のギルギルガンは遥かに強力になっている。無尽蔵の光子力で魔神皇帝の力を得た今のグレートと互角……いや、それ以上の力を発揮している。その怪力だけでもグレートを圧倒していると言えた。エンペラーソードで叩き斬ろうとするも、それを受け止めたまま力を込め、光子力の熱に焼かれながらも巨大化していく。
「こいつ……まさか光子力を喰ってるのか!?」
咄嗟にエンペラーソードの光子力を吸い上げながら巨大化していくギルギルガン。危険を感じた鉄也は、剣から手を離してギルギルガンの下へ回り込む。
「これならどうだ、ルスト・タイフーンッ!」
グレートの口から、巨大な竜巻が巻き起こる。グレートタイフーンよりも遥かに巨大な竜巻に飲み込まれ、ギルギルガンはエンペラーソードから引き離される。グレートはそれを拾い、ギルギルガンを睨め付ける。
嵐の中から飛び出したギルギルガンはさらに巨大化し、既に全長は100mを越えており、25mのグレートではパワーで太刀打ちできない。しかし、何よりも異常だったのはその巨大ではなく……嵐に吹き飛ばされて露出した、皮膚の中身だった。
銀色の機械が、骨と筋肉を作っている。成長する機械生命。果たしてそれは、かつて戦ったギルギルガンだろうか。
「鉄也君!」
グレンダイザーと、マジンガーZがグレートに並ぶ。
「大介、シロー! この化け物は、光子力を食べてパワーアップしてやがる……」
鉄也が叫ぶと同時、ギルギルガンの真紅の皮膚全てが吹き飛んだ。中から出てきたのは機械怪獣…………言わば、メカギルギルガン!
「光子力を喰う怪物……。ならば、僕が相手だ!」
真っ先に飛び出したのは、グレンダイザーだった、グレンダイザーの胸部から放たれた光線が、メカギルギルガンを捉える。
「反重力ストーム!」
フリード星の守護神であるグレンダイザーは、本来光子力マシンではない。その加護を受けながらも、その本質を失ってはいなかった。
反重力ストーム。相手を無重力状態にし動きを止めるグレンダイザーの必殺技のひとつ。メカギルギルガンはそれを浴びて一瞬、動きが止まった。
「今だっ!」
ダブルハーケンを構え、メカギルギルガンへ肉薄する。反重力状態で身動きの取れない宇宙怪獣の、鉄の皮膚にハーケンが食いこんだ。
悲鳴のような絶叫を上げるメカギルギルガン。
「シロー、俺たちも続くぞ!」
「おう!」
グレートと、マジンガーZもありったけのネーブルミサイルと、ドリルを撃ち込んでいく。光子力なしでも、魔神の全身には一国の軍隊に匹敵する火力が眠っていた。しかし、今マジンカイザーと戦っているラ=グースを相手にする際には、力不足が否めない兵器。それを、ここぞとばかりに叩き込む。
メカギルギルガンの絶叫と共に、爆炎が巻き起こった。
「やったか!?」
「いや……まだだ!」
鉄也が言った、その直後だった。突如として強力な重力場が発生し、マジンガーZとグレート、グレンダイザーに襲いかかる。
「きゃぁっ!?」
「セーラッ!?」
超重力の渦に、叩き落とされるマジンガー達。それは、メガ・グラビトン・ウェーブ。メカギルギルガンの放つ強力な重力光線は、グレンダイザーの反重力ストームを解析しさらに強力になっていた。
「クッ…………!」
目を開けているのも困難な重力の渦の中で、鉄也は霞む目を凝らしながら必死にメカギルギルガンを見つめていた。
光子力を吸収し巨大化する機械の怪物。光子力どころか反重力すらも自らの力にできるというのならば、どう戦うべきか。
「何か……弱点はないのか?」
そう考え、鉄也はあることに思い至る。
敵の力を吸収し、それを喰らう怪物。それはデーモンに似ている。そして、デーモンの合体能力も決して無尽蔵ではなかった。
「イチかバチか……やるしかない。グレート・ブースター射出!」
鉄也の叫びに呼応し、『承認』の文字がグレートのコクピットに映し出された。それから数秒もしないうちに、銀色のグレート・ブースターがバードス島に飛来し、重力場の中のグレート目掛けて突っ込んでいく。グレートブースターならば、この重力場を突破することが可能。そう考えて鉄也は賭けに出た。いつも以上のGがかかっているこの状態での合体は、困難を極める。もし失敗すれば、グレートマジンガーとて粉々に砕けるだろう。
しかし、それでも。
「装着、完了!」
戦闘のプロ・剣鉄也はできないことは言わないのだ。鉄也が言ったのだから、確実にできる。それが、偉大な勇者。
グレートブースターの最大出力で、重力場を抜けたグレートマジンガー。光子力でできた見えないマントが形を変え、グレートブースターに集約されていく。
次第に、グレートブースターはさらに巨大な左右4対の、8枚の翼へ変化し、その翼を授かったグレートは再びメカギルギルガンへ肉薄する。
「まだだ、もっと加速しろ! グレート!」
それは、魔神皇帝となったグレートの限界を超えたスピードだった。そのスピードのまま、魔神帝王は加速する。そして、グレートブースターと同じ要領で合体を解除し、光子力の翼を直接メカギルギルガン目掛けてぶつける。
「行けっ、オレオール・ブースター!」
メカギルギルガンの胴体を、魔神皇帝の翼は突き抜けた。メカギルギルガンは絶叫のままに破壊光線を吐き迎撃するが、グレートマジンガーはそれをひらりとかわし、再びブースターと合体する。
それが合図となりマジンガーZ、グレンダイザーも重力場を抜け出し、グレートと並んだ。
「シロー、大介。俺達のありったけの光子力を、奴にぶつけるんだ」
鉄也が言う。
「ても、あの化け物は光子力を喰っちまうんだろ?」
「いや……そういうことか!」
シローが疑問を口にするが、大介はその真意を理解したらしい。すぐ様スペイザー・クロスして、巨大なメカギルギルガンへと迫っていくグレンダイザー。
「大介さん!」
「説明してる時間はない! シロー、俺に合わせろ!」
グレートに合わせるように、マジンガーZも飛翔する。そして、エンペラーソードを投げて先ほどオレオールブースターによってつけられた傷に刺し込んだ。さらに、グレートは全身に漲る光子力を一点に集中させ、それを雷エネルギーに変換していく。圧縮されたエネルギーの多層構造を持った光子力の雷を、グレートは全身から吐き出した。
「サンダーボルト・ブレーカー!」
グレートのサンダーブレークと同じ、しかしさらに強力な稲妻が、皇帝の剣を避雷針としてギルギルガンの一点へ集まっていく。
「シロー!」
「ああ、セーラは光子力の制御を頼む!」
それと同時に、マジンガーZも。
「光子力、ビィィィィィッム!」
魔神の目から、超密度の光子力の光が放たれる。光子力の光が螺旋を描き、メカギルギルガンを飲み込んでいく。
「次は、コイツだ!」
さらに、スペイザーで頭上まで飛んだグレンダイザーが、その王冠とも言うべき二本のツノに全てのエネルギーを集中していた。そして、ギルギルガンの頭部目掛けて突撃し、ツノを突き刺す。そこから自身に与えられた光子力の全てを解放。
「ゴッド・サンダー!」
グレンダイザーの全エネルギーが、メカギルギルガンの全身を駆け巡っていく。トリプルマジンガーの力を結集した攻撃。それを受けてメカギルギルガンはさらに巨大化……膨張していた。
「ダメだ! これじゃ奴にパワーを与えただけじゃないか!」
シローが叫ぶ。しかし、それを聞いて鉄也はニヤリと口元を歪めた。
「よく見ろシロー。あのメカギルギルガンを……」
言われて、シローは目を凝らす。巨大化するメカギルギルガン。その体躯は風船のように膨らんでいるように見えた。
「今の奴の体内は、光子力を急速に与えられてエネルギーへ変換しきれなくなっている。今が、チャンスだ!」
それを聞き、シローは無言でマジンガーZを動かしていた。空中元素固定装置で進化したスクランダーが、全てを護る鉄の盾が、姿を変えていく。
「だったら、その風船を突き破る!……セーラ!」
「うん! 光子出力、空中元素固定装置、全て正常。いけるわ、シロー!」
瞬間、マジンガーZがフラッシュした。それと同時、スクランダーがその形状を変えていく。
それは。
その姿は!
その勇姿は!!
「これこそが、オレとセーラの望んだ姿!」
「私とシローが、未来を掴むための、鉄の拳!」
「全ての可能性を掴み取り!」
「全てを原子へ撃ち砕く!」
巨大な拳骨が、メカギルギルガンへ迫る。それがマジンガーZであるなど、誰が信じられようか。
否。
その漆黒の拳は紛れもなく、マジンガーZなのだ。その威容。その存在感。その拳が、“可能性”を切り拓いた元祖スーパーロボットのものでなければ、なんだというのだ!
「飛ばせ、鉄拳!」
「ビッグバン・パァァァァァンチッ!?」
シローと、セーラの叫び声が響く。そして、メカギルギルガンはその神をも砕く人の“可能性”の拳を前に、木っ端微塵に弾け飛んだ。
光子力の大爆発の中、マジンガーZはその威光を浴びて輝いていた。
「見たか! これがお爺ちゃんからアニキ、そしてオレへと受け継がれた……マジンガーZの力だ!」
それこそが、人の“可能性”であると。シローは、後部座席で自分を支えてくれた女性へ視線を送る。
「うん……。カッコいいよ、シロー」
その透明な金髪が靡き、青い瞳は真っ直ぐにシローを見つめて、微笑んでいた。