マジンカイザーVS真ゲッターロボ!   作:元ゴリラ

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最終話『夢幻!!!!』Cパート

 鉄也と大介、そしてシローがメカギルギルガンと死闘を演じているその頃、マジンカイザーと兜甲児はゴッドマジンガー・インフィニティと死闘を繰り広げていた。インフィニティの巨体に挑むマジンカイザーは、まるで一寸法師のようでもある。カイザーブレードを振り回し、ゴッドマジンガーの指先から放たれる無数のドリルミサイルを斬り伏せながら、進んでいく。

 しかし、いかに最強の魔神皇帝であるマジンカイザーとて、ゴッドマジンガーの巨体と、そこから繰り出される火力をまともに受ければただでは済まない。甲児は神経を研ぎ澄ませ、精神力でカイザーを操っていた。

 

「そこだ、ギガントミサイル!」

 

 カイザーの腹部から放たれたミサイルはしかし、ゴッドマジンガー・インフィニティの腹部から放たれた光に相殺される。

 

「無駄だ。兜甲児、終焉を受け入れろ」

 

 サイコジェニーの声と共に、頭部のガルラ……グレートのエンペラーソードで頭を失いながらも、まだ生きている太古の巨竜から、再び頭が生えた。しかし、それは今までのそれとは違う。昆虫のような複眼を持つ、異形の頭部。それが、ラ=グース細胞で生まれたものであることは、甲児は理解した。その異形の口から、業火が放たれる。灼熱に晒されながらも直撃を避け、マジンカイザーはゴッドマジンガー・インフィニティの頭部……ガルラへ迫った。

 そして、皇帝の剣を一閃。

 

「これで、どうだ!」

 

 再び、ガルラの頭を斬った。しかし、細胞が細胞を呼ぶようにして再び再生していくガルラの頭部。

 

「こいつの回復能力は、デビルマン並かよ!」

 

「お父さん、解析完了しました。ガルラの内部に、生体コアユニットが存在します。それが、ガルラに無限の再生能力を与えているようです!」

 

 リサが言う。しかし、マジンカイザーに内部の生体コアを取り除く方法はない。

 

「どうする……?」

 

 甲児が一瞬、逡巡したのをゴッドマジンガー・インフィニティは見逃さなかった。カイザーの目の前で、胸の赤が光り輝いていく。

 

「消えろ、兜甲児……インフェルノ・ブラスター」

 

「やべえっ!?」

 

 咄嗟にパイルダーをオフにして、カイザーパイルダーが空高く飛び上がる。それと同時にコントロールを失い、落ちていく魔神皇帝。しかしそのおかげで、パイルダーもマジンカイザーも、インフェルノ・ブラスターの射線を逸れることができた。2機の間を、全てを溶かす熱光線が通り過ぎていく。超合金ニューZαのカイザーはそれでも無事かもしれないが、中の人間は無事では済まない熱だった。

 熱を避けながら、カイザーパイルダーは急降下しカイザーを追う。大地に激突する直前に再びパイルダーオンし、人の頭脳を取り戻した魔神皇帝は、人の心を失った魔神を見上げた。

 

「……とにかく、あの再生能力の核になってるものをどうにかしなきゃならねえ」

 

 恐らくは、サタンだろう。サタンの生命力を吸って、ガルラは……ゴッドマジンガー・インフィニティは無限の生命力を手に入れているのだ。

 さらに、ラ=グースの未知の力を得ているとすれば、たしかに目の前の存在は兜甲児の生涯最大の敵であると言えた。

 そして、その時だった。

 

「…………奴の再生能力は、オレがどうにかする」

 

 声が、聞こえたのは。

 声の方にモニタを拡大すると、巨大化を解かれながらも立ち上がるデビルマン……不動明の姿があった。

 

 

…………

…………

…………

 

 不動明は、夢の中にいた。これが夢だとわかるのは、目の前にいるのが過去の……幼少期の自分と、了だったからだ。

 

「オオカミ男! ミノタウロス!」

 

 絵本の中に描かれた怪物……ルー・ガルーやミノタウロス、ハーピィ、メドゥーサ、黄衣の王といった神話や物語の中のモンスターを嬉々として指し、名前を呼んでは喜んでいる了。

 

「了ちゃん、お化け好きなの?」

 

 小心者だった明は、恐る恐るそんな了へ訊く。

 

「うん、仲間だからな!」

 

『仲間……』

 

 この頃から、了には自分がデーモンたちの王であるという自覚があったのだろうか。いや、無意識に仲間意識を感じていたのだろう。と明は思う。

 

「明、お前も仲間になれ!」

 

 了は、怪物の被り物を持って無邪気にそう言った。明は怖いと思いながらも、それを共に被る。

 

『了…………』

 

 思えば、了と明はずっと一緒だった。両親の都合で牧村家に引き取られた後も、了とだけは交友関係が続いていた。

 そんな了と共に過ごした過去があったから、明は了と共に統合軍に志願した。

 美樹を愛して、美樹を守れるような男になりたいと打ち明けた時に、了が誘ってくれた。

 本を読み、静かに過ごす方が好きな温厚な明が軍属になったきっかけが、了だったのだ。

 そして、明は……。

 

『俺は……アモンと合体し、デビルマンとなった』

 

 それは二度と美樹と共に生きることのできない悲劇の道だが、同時に明にとって、美樹を守る力に他ならなかった。

 この運命を、不動明は受け入れている。

 それでも、運命を共にする仲間がいるとしたら。

 それは、飛鳥了以外に考えることができなかった。

 やがて、微睡の世界は明の視界から霧散していき…………。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 目を覚ました不動明……デビルマンの目の前に広がっていたのは、人の営みだった。平和な世界、とでも表現すればいいのだろうか。行き交う人々の波は、デビルマンの魂をすり抜けて通り過ぎていく。

 

「なんだ……これは……?」

 

 “可能性”に分解された世界。その中の一つをデビルマンは垣間見ていた。そこには、デーモンも、デビルマンもない。ただ人間達が生きている世界。

 ある意味それは、不動明が守りたかった世界そのものであると言えた。

 

(こんな世界があると言うのなら、俺は……)

 

 戦う必要など、ないのかもしれない。人間・不動明の理性はそう感じていた。しかし、勇者アモンの……明と相反するデーモンの野性は、それを否定する。

 だがそれは、『闘いたい』『敵がほしい』という獣性とは明確に違う嫌悪感だった。その証拠に、デビルマンの魂……そう呼ぶべき思念は今、安堵と、諦念と、そして違和感を覚えて歯軋りしていた。

 人々には、デビルマンの姿は見えない。感じもしない。しかし、それが寂しいのではない。

 言うなればこれは、おかしいのだ。

 あり得ないのだ。そんな可能性は。

 デーモンという種は、地球人類よりも遥か昔に栄えた種族だ。人類が栄えているのならば、その痕跡がなければおかしい。

 デーモンの存在を、息吹を。この星が覚えていなければいけないのだ。しかし、デビルマンはそれを感じない。

 ならば、この“可能性”は何だ?

 その答えを示すように、デビルマンの視界に映っていた大きなビルの時計が19時を指す。すると液晶の巨大なモニターが、アニメを映し出した。

 そこに映っていたのは、空に聳える鉄の城。

 マジンガーZが、機械獣と戦っている。

 唸るロケットパンチが、機械獣を打ち砕く。

 

「バカな……」

 

 それは。

 それは。

 デビルマンの、不動明の生きる世界の日常だ。それが、架空の物語として人々に消費され、楽しまれている。

 マジンガーZが終わると、ゲッターロボがはじまる。デビルマンの知るものとは随分風貌の違う、スポーツマン然とした流竜馬が映った。ハーモニカを吹き黄昏る神隼人が映った。デビルマンは、その光景を呆然と眺めていた。

 そして、テレビモニタはカラフルな色と、独特のフォントで五文字を映し出す。

 

『デビルマン』

 

 と。

 明の中に最初に去来したのは、虚無だった。

 

「あれは…………誰だ……?」

 

 テレビの中でデーモンと戦うあの男は。不動明なのか? その隣にいる少女は、牧村美樹なのか?

 ならば、その光景を見ている自分は、誰だ?

 そして、何よりも明の虚無を広げたのは。

 そのテレビアニメの中に、サタンの……飛鳥了の姿がなかったことだ。

 サタンが、神に叛いた者だからだろうか。

 神とは、このような所業も許されるのだろうか。

 

「これが……“可能性”の世界だと?」

 

 虚無の後に宿ったのは、業火だった。

 

「巫山戯るな……巫山戯るなよ……。俺達の生きた証を、戦い続けた記録を、架空の絵空事に貶めるだと?」

 

 それを為すものがたとえ、神だと言うのならば。

 

「許さん……許さんぞ……!」

 

 このような“可能性”を、断じて許すことはできなかった。魂だけのその翼を広げ、デビルマンは飛ぶ。倒すべき敵の下へ。

 どうすれば辿り着けるのか、デビルマンはその魂で理解していた。

 

「デッビィィィィィィィッルッ!!」

 

 不動明の、デビルマンの叫びが、虚構の世界の中で木霊した。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 そして今、デビルマンが立ち上がる。しかし、先ほどインフィニティのブレストファイヤー……インフェルノ・ブラスターをモロに受けた傷は完全には癒えておらず、満身創痍。

 

「デビルマン……お前……!」

 

「アモン、いやデビルマン。そんな身体で何ができる」

 

 サイコジェニーが嘲笑い、指からギガントミサイルを放つ。しかし、その爆発はデビルマンへ届かなかった。悪魔人間の前に躍り出た、黒いゲッターロボ……ブラックゲッター。メタルビースト・ドラゴンとの戦いで満身創痍となっていた黒いゲッターが、デビルマンの盾となるように庇い、ギガントミサイルを受け止めていた。

 

「元気!」

 

「クッ……おいデビルマン。一度しか言わねえぞ、ブラックゲッターはもう、ゲッター線の臨界点を迎えてる……このままだと、ゲッター線の炉心爆発が起きる」

 

 淡々と、元気が告げる。

 

「だが、お前が俺たちとゲッターに合体すれば、ゲッター線は新たな身体を手に入れることができる! 俺達と、合体しろ! デビルマン!」

 

 それは、正気の沙汰ではなかった。デーモンに合体され、意識を殺された人間の末路がデビルマンの脳裏を過ぎる。

 

「バカか! お前ら……!」

 

「正直な……。俺も姉さんも、もう長くは保たねえ。俺達が生き残る方法は、デビルマン! お前に賭けるしかねえんだ!」

 

 コクピットハッチを開けて、元気は自らの顔を見せる。それは、全身の肌が鱗のように膨れ上がり、視界も見えているのかいないのかわからない、見るも無惨なものだった。

 ゲッターエネルギーの臨界を超えたオーバーロード。かつて、巴武蔵もまた受けたそれが今、早乙女元気と早乙女ミチルを襲っている。

 そして、ラ=グースと戦う力をデビルマンが持っていないのもまた、事実だった。

 

「…………わかった」

 

 デビルマンはひとつ頷き、ブラックゲッターに触れる。その時、ブラックゲッターが緑色に輝き始めた。ゲッター炉の臨界突破が、極限を迎えたのだ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 自身までもを焼き尽くさんとするゲッター線の光を浴びながらも、デビルマンはそれを吸収していく。やがて、デビルマンもその光に呑み込まれていく。そして……。

 

 光の中から最初に見えたのは、漆黒のゲッタードリルだった。ゲッター2。かつて神隼人が愛機としたマシンの装備。そして、反対からゲッタートマホークを持つ腕が現れる。

 ゲッター1と、ゲッター2。それが同時に存在しているなど、本来あり得ないことだ。そして、巨大な羽根。

 それは全てを飲み込むゲッター線の光を、逆に飲み込んでいく。暴食の悪魔のように。或いは、ブラックホールのように。

 そして生まれたのは、異様な姿だった。

 巨大なブラックゲッターの顔が、中央にあった。そして、ブラックゲッターのトマホークを持つ右手、ゲッタードリルと化した左手。

 脚はゲッター3のキャタピラを持ちながら、人形をしている。

 何より悍ましいのは、腰に、背中に、ゲッター2を、ゲッター3を思わせる顔があることだ。

 元々、ブラックゲッターはゲッター1を改造したものである。当然、ゲッター2、ゲッター3の姿も存在していた。しかし、それが今一つの形となっているのは、ありえないとしか言いようがない。

 そして……その異様な威容を繋ぎ止める、デビルマンの貌が、頭部に存在した。

 

「デビルゲッタァァァァァァッ!!」

 

 デビルマン。悪魔の勇者アモンが、人間不動明と、光子力マシンイチナナ式を取り込んだ姿。そこにさらに、ゲッター炉とゲッターロボを取り込んだ。悪魔のゲッター。それが、デビルゲッター!

 

『…………これは?』

 

 デビルゲッターの胎内で、早乙女ミチルは目を覚ました。

 

『姉さん、心を一つにするんだ』

 

 その隣で、姉を支えるように元気。今、デビルゲッターの中で早乙女姉弟は、確かに生きていた。

 ゲッターロボを取り込んでも、デビルマンはそれだけではゲッターの力を最大限に発揮することはできない。なぜならゲッターロボは3つの心がひとつになることで真のパワーを発揮するマシンだからだ。しかし、このデビルゲッターは違う。

 今、デビルゲッターの中には不動明、早乙女元気、早乙女ミチルの3つの心がある。

 それは、暴走するゲッター炉を加速させながら、デビルマンが取り込んだ光子力がオーバーロードを防ぐ弛緩剤の役割をしている。

 

「今行くぞ、了!」

 

 デビルゲッターはデビル・バトルウィングを展開し空高く舞った。目指すものは、ガルラの中で生体ユニットとなっているサタン。いや、飛鳥了。

 

「おのれ小癪な……アモン!」

 

 ビームを撒き散らしながら、ゴッドマジンガー・インフィニティが吼えた。しかし、デビルマン……もといデビルゲッターは、それを突き破って突き進む。デビルゲッターの左腕。デビル・ゲッタードリルが、ビームを裂いていた。

 

「何ッ!?」

 

「すげえ、デビルゲッター!?」

 

 甲児が声を上げる。サイコジェニーが、驚愕する。デビルマンにも、ゲッターロボにも、こんなパワーはなかった。魔神皇帝以外に、敵はない。そんな目算が、完全に破壊された瞬間だった。

 やがてデビルゲッターは、ゴッドマジンガー・インフィニティの頭部……ガルラの目前へ迫った。それを振り払うように、ゴッドマジンガー・インフィニティは両の指からドリルミサイルを放つ。四方からのミサイルが、デビルゲッターを襲う。

 

「危ねぇ、デビルゲッター!」

 

 甲児が叫び、マジンカイザーで援護しようとターボスマッシャーパンチを構えた直後、デビルゲッターの『ゲッターロボの顔』がついた部分全てが、悪魔のように口を開く。そして、3つの口全てから放たれた光がミサイルを掻き消した。

 

「サンダー・ボンバー!」

 

 サンダー・ボンバー。本来ならデビルマンにも、ゲッターロボにも存在しない武装。プラズマボムスと呼ばれるエネルギーを使用する、未来のゲッターロボの必殺技。デビルゲッターの中の光子力とゲッター線が組み合わさり辿り着いた、“可能性”の力。

 

「知らない……そんな武器、私は知らない!?」

 

 “未知”との遭遇。それが、サイコジェニーを狼狽させる。デビルマンは所詮、デーモンであるはずだ。マジンガーやゲッターロボとは根本的な原理が違う。たとえ巨大な機械融合体……メタルビーストとなったとしても、このような未知の器官を生成することなど、できないはずだ。

 だとしたら、あのデビルマンは……デビルゲッターは……。

 

「アモン……お前は……何なのだ?」

 

「教えてやるサイコジェニー。俺はデビルゲッター。悪魔の力と人の心、そしてゲッター線による進化の力を持つ、お前の知らない新たな種族だ!」

 

 人の心と、ゲッター線。それがデビルマンを、新たな種族に進化させたというのか。

 それでは、まるで……。

 

「アモン……お前は、我々と同等の存在になりつつあると言うのか!」

 

「違う! この進化は人間・不動明と、早乙女元気、早乙女ミチルの……魂の進化だァ!」

 

 ラ=グースの細胞片が触手のように伸びて、デビルゲッターを襲う。しかし、それをデビル・ゲッタートマホークで薙ぎ払い、デビルゲッターはさらに、ゲッタービームでガルラの腹部を焼いていく。

 

「小癪な、アモン!」

 

「俺は、俺たちは……デビルマンだァッ!?」

 

 ゲッタービームで焼かれた腹部に、デビル・ゲッタードリルが突き刺さった。そして、超高速の回転が、ガルラを、サイコジェニーを痛めつけていく。

 やがて、ドリルはガルラに大きな風穴を開けた。そして、デビルゲッターはその内奥に飛び込んでいく。目指すは内部に囚われているラーガのコア……大魔神サタン。いや、飛鳥了。

 ラーガは既に、ラ=グース細胞の胎内でドロドロに溶けていた。そして、その中で眠っているサタン……了の姿を認めたデビルゲッターは、その腰からゲッター3を思わせる大きな腕を伸ばし、了を掴む。

 それを食い止めようと、ラ=グース細胞は触手を伸ばし、デビルゲッターを襲った。それは、白血球が病原体を攻撃するのに似ている。今、神の胎内に侵入した悪魔はまさに、ウィルスだ。

 

「了!」

 

 デビルゲッターは、不動明は呼びかける。サタンにではない。唯一無二の親友にだ。

 

「お前はこんな風に、神とやらに利用されて終わっていいのか! 飛鳥了は、そんなつまらない人間なのか!?」

 

 それは、魂の慟哭だった。

 親友のいない世界を、存在の証明を陵辱された世界を垣間見た明の、魂の叫びだった。

 

「俺を一人にするな、了! お前は……お前は、それでいいのか!」

 

 明の叫びに呼応するかのように、デビルゲッターのサンダー・ボンバーが吼え、ラ=グース細胞の触手を吹き飛ばす。そして、

 

「フ、フフフフ……」

 

 デビルゲッターの手の中で、声がした。

 

「了……!」

 

「そうだな、明……。お前一人を地獄へ送ったりするもんか」

 

 大魔神サタン……いや、飛鳥了だった。了は、明の……デビルゲッターの手の中で目を覚まし、そして自らの強大な超能力でラ=グースによる戒めを解き放つ。デビルゲッターと共に飛び立つ、白銀の堕天使サタン。

 

「お、おのれアモン!?」

 

 サイコジェニーの怒声が、バードス島に響く。それに呼応するように、ゴッドマジンガー・インフィニティは怒りの咆哮を上げた。と、同時、咆哮は衝撃波となりデビルゲッターとサタン……了を襲う。

 しかし、デビルゲッターはその衝撃波をすり抜けるように掻い潜り、マジンカイザーへ合流していく。ゲッタービジョン。ゲッター2の超加速能力を応用した分身能力。デビルゲッターは今、封印されているゲッター2、ゲッター3の機能を完全に使いこなせいていた。

 

『こいつは……!』

 

 デビルゲッターの中で、元気が驚愕の声を上げる。

 

『パワーも、スピードも、全てがブラックゲッターを遥かに超えている……これが、デビルゲッターの力なの!?』

 

 ミチルにも未知の現象。それを起こしていたのは、デビルマンと心を一つにした3つの心が成せる業。そして、そのデビルマンすら上回る超能力を有するサタン……飛鳥了が、デビルゲッターの不安定な合体を更に安定させるために力を使っていた。

 

「了……!」

 

 念力で、ゲッター炉の暴走をコントロールする了。それにより、光子力はゲッター炉の出力を更に高める為の稼働に回される。その結果、デビルゲッターはゲッタービジョンを獲得したのだ。

 

「っ……!」

 

 その代償として、了は己の精神力を消耗していた。デビルゲッターの腕の中で、了は汗を滲ませ苦痛に表情を歪める。

 

「気にするな、明。今は、それよりもラ=グースを……倒すんだ!」

 

「了……お前……」

 

「明……。こんなメチャクチャな物語、認めるわけにはいかないんだ。黙示録などと……。それが人間が信じる神の御心というなら、それもいいかもしれない。だが、神があのようなものであるなら、人間は……全ての命は、屈してはならない!」

 

 それは、父なる者への叛逆だった。

 

「明、君がダンテならば俺はヴィルギリウスとなろう。この世界の、全ての命のために!」

 

 了は立ち上がり、念じると自らの身体をデビルゲッターの中に同化させていく。サタンの力が、了の命が、デビルゲッターの中に満ちていく。それは、神と悪魔の調和とでも呼ぶべき現象だった。

 

「なんてこった……禍々しいクセに、どこか神々しい」

 

 その姿に、甲児すら畏敬の念を感じてしまう。神であり、悪魔でもある。今のデビルゲッターは、その意味でマジンガーと同じ存在であると言えた。

 しかし、その合体……言わば合神を見ながらサイコジェニーは、不気味に笑っていた。

 

「何がおかしい!」

 

 明……デビルマンが叫ぶ。それと同時、カイザーのコクピットでリサが驚愕の表情を浮かべていた。

 

「お父さん……。統合政府はたった今、バードス島に核ミサイルを発射しました」

 

 それは、絶望の宣告。

 

「な……」

 

 間に合わなかった。そんな思いが甲児に去来する。それと,同時。

 

『諦めるのは早いぜ甲児!』

 

 まるで、宇宙を震わせんとする声が響き……ドラゴンの繭が大きく脈打つ。同時、繭にヒビが入り……孵化の時が始まった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 流竜馬の前に広がっていたのは、異形の異星人とゲッター艦隊の戦いだった。

 もう、何度見たかわからない未来の戦い。ゲッターが侵略者と成り果てた未来。

 

「俺は…………」

 

 竜馬の視界は、ゲッター艦隊の母艦。ゲッターエンペラーと一体化している。今、竜馬の魂はエンペラーと一つになっていた。

 今なら、理解できる。この地獄のような光景は、“可能性”に過ぎないのだと。

 “世界最後の日”早乙女がそう言った終焉が、何を意味しているのかはわからない。だが、何かが竜馬を呼び、この宇宙を見せていることだけは理解できた。

 それが、何を介して竜馬に語りかけているのかも。

 

「ゲッター……ゲッターロボ!」

 

 だから竜馬は、竜馬の意識は叫ぶ。宇宙といいう広大な世界において、その声は小さく、霧散していくしかない。それでも、聞き届けている何者かの存在を今の竜馬は、確信していた。

 

「貴様は一体何者だ! 俺たちに……俺たちに何をさせようってんだ!?」

 

 答えはない。だからこそ、竜馬の意識は研ぎ澄まされる。

 

「ゲッター! よく覚えておけ、俺は絶対に、てめえの思い通りになんかならねぇ!」

 

 竜馬が、吼える。

 

「俺を……舐めんじゃねえェェェェッ!?」

 

 ちっぽけな一人の人間の叫びが、宇宙を震撼させた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

「竜馬……竜馬!」

 

 竜馬が目を覚ました時、自分が真ゲッターのゲットマシン内にいることに気付くのに、数秒を要した。起こす声は、隼人。

 

「隼人……俺は、どのくらい眠っていた?」

 

「わからん。俺と弁慶も、今目を覚ましたばかりでな。計器も狂っちまって、どのくらい時間が経ったのかも判断できん」

 

「ここは……ドラゴンの中なのか?」

 

 あの時、確かに真ゲッターは、ゲッタードラゴンの肥大化した繭の中に入っていった。モニタで外を確認する。内部は、緑色に輝くものが脈打ち、まともに見ているだけで気が狂いそうになる。竜馬はしかし、その輝き脈打つゲッター線の渦を瞬き一つせずに見据えていた。

 

「ここが……ドラゴンの内部」

 

 そして、ゲッター線の中。

 

「その通り」

 

 ゲッター線の中を、裸足で歩くものがいた。早乙女博士。本名、早乙女賢。

 

「ジジイ……お前……」

 

「竜馬、ついにこの時がきた。このままでは人類は滅ぶ」

 

 ゲッター線に焼かれながら、早乙女博士は魂で、竜馬に、隼人に、弁慶に語りかけていた。

 

「竜馬、お前はあのゲッターの地獄を見て、エンペラーの未来を見たはずだ」

 

「ああ…………」

 

「竜馬、隼人、弁慶。お前達は運命の奴隷か、それとも……」

 

「言われるまでもねえ」

 

 賢の言葉を遮り、竜馬。

 

「ここで俺達がゲッターに呑み込まれるかどうか。やってやろうじゃねえか!」

 

「フッ、そういうことだ博士。もう、あんたのレールは必要ない」

 

「俺達の未来は、俺達が作る。たとえゲッターでも、その邪魔はさせねえ!」

 

 そう言って、竜馬が、隼人が、弁慶が目を閉じてゲットマシンの操縦桿を握る。そして、真ゲッターロボがドラゴンの中で脈打つゲッター線を吸収し始めた。

 

「そう、本来真ゲッターはドラゴンのゲッターエネルギーを使うことでゲッター線を最大まで満たす計画だった……。随分予定と変わったが、

ついにその時がきた!」

 

「ああ、見てな博士。俺達が……博士も知らない未来を見せてやる!」

 

 操縦桿を握る手が熱くなる。真ゲッターロボが、ドラゴンのゲッター線を吸収し熱くなっているのだ。

 

「クッ、こいつは……」

 

 呻く弁慶。しかし、その弁慶の手を優しく包む大きな手。そんな存在感を感じる。

 

『力むんじゃねえ弁慶。ゲッターを信じるんだ』

 

 声がする。それは、弁慶がいつも憧れていた背中。

 

「武蔵先輩……!」

 

『弁慶、感情を込めてゲッターの力を引き出せ。いいな?』

 

「お、おう……!」

 

 

 隼人もまた、ゲッターの強大な存在感の中に亡き友の姿を垣間見ていた。

 

「竜二……。杉山……。それに……」

 

 隼人の従兄弟でもある竜二。そして、隼人と共に学生運動に打ち込んでいた……青春を共にしたかつての友人達。

 

『隼人……お前は強い。俺達よりも、ずっと』

 

「へっ、お前らに鼓舞されるとは……俺も老いたもんだな」

 

 竜二達は、隼人という存在の犠牲者だ。ある者は恐竜帝国に、ある者は百鬼帝国の手によりその若い命を散らされた……隼人の十字架であると言ってもいい。

 だが、彼らもまたゲッターと共にあるのならば。ゲッターと共に運命と戦うという、これから先の戦いは。

 

「若い命が真っ赤に燃えて、か……!」

 

 不敵に笑い、隼人は操縦桿を握る手に力を入れる。そこには、迷いや逡巡といったものは存在しなかった。

 

 

『リョウ……敵が来る……』

 

「達人さん……!」

 

 竜馬もまた、ゲッターの中で死者と再会していた。早乙女達人。早乙女賢の長男であり、助手であり、竜馬の未熟が故に賢がその手にかけねばならなかった犠牲者。

 

「達人さん……俺は、あんたに謝らなきゃならねえ」

 

『いいんだ。もうそんなことは。それよりも、リョウ……これから先の旅は、今まで以上の戦いの連続になるだろう。それでも、いいんだな?』

 

「実はさ、この平和な10年間で女ができたんだ。あいつを置いてくことになるのは、少し気がかりだが……」

 

 むしろ、それは幸せなことかもしれないと竜馬は思う。地上に、流の血を残すことができたのだから。ならば、心残りなどどこにあろう。

 それよりも、これから先の戦いに心が躍る。それが、流竜馬という生き物の……ゲッター線に選ばれた男の本性だった。

 

「ゲッターが俺に何をさせようとしてるのか。そんなもん今は関係ねえ。男なら、より強いものとの戦いに生きるべきだと教えてくれたのは俺の親父だ。そして……愛するものがいる限り、そのためだけにでも戦うべきだって俺に教えたのは達人さん、あんたの親父なんだぜ?」

 

『フッ……そうだな……』

 

 やがて、ゲッタードラゴンの無尽蔵のゲッターエネルギーを吸収した真ゲッターロボは、その真紅の機体を青に染めていた。

 

「これで俺の旅も終わりか……。思えば俺は、この時のために生きていたのかもしれないな」

 

 ゲッターエネルギーの充満を感じながら、竜馬がひとりごちた。

 

「いや……これから始まるのだ!」

 

 真ゲッターの覚醒を見届けながら、早乙女賢が叫ぶ。それと同時、ドラゴンのエネルギーを、全て吸収し尽くした真ゲッターの目に、瞳が灯る。

 瞳。それは、命あるものの証拠だった。

 竜馬は、隼人は、弁慶は、それに武蔵、竜二、達人、ゴール、ブライ……ゲッターの中に生き続ける全ての命は、ひとつとなっていた。

 それは。

 それは。

 世界最後の日に目覚める、新たなる命。

 その瞬間、ドラゴンの繭は崩壊を始める。全てのエネルギーを真ゲッターに吸収されたことで、繭はその役割を失ったのだ。

 青い真ゲッターにも、変化が訪れる。全ては、この時のために。

 

「竜馬! 隼人! 弁慶!」

 

 そのゲッター線の光の中で、早乙女博士は……早乙女賢は、その魂で息子同然の三人に叫んだ。

 

「ワシの敷いたレールはここまでだ! あとは、お前達が切り拓け! お前達の、人類の未来を!」

 

 それが、早乙女賢の最後の言葉だった。

 

「……早乙女のジジイ」

 

 結局、博士は何のためにこれだけの事態を招いたのか、竜馬には最後まで明確な答えは出せなかった。デーモンに合体されたのか、それとも、ゲッター線に魅せられて狂気に堕ちたのか。それすらももう、確かめる術はない。

 しかし、はっきりとしていることがひとつだけある。

 早乙女博士は、最後まで竜馬を、隼人を、弁慶を信じていた。そして、ゲッター線という人類に余りある力を持ってして、今日この日を越えるために動いていたということだけは、否定することができなかった。

 真ゲッターの周囲に纏わりつくゲッターエネルギーを、真ゲッターロボは収束していく。そして……。

 

「行くぞ隼人、弁慶! チェェェェェンジ・ドラゴン! スイッチ・オン!」

 

 世界終末の時、宇宙を震わせる声が響くと同時……ドラゴンの繭はついに、孵化の時を迎えた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 核ミサイルがバードス島へ到着するのに、1分も必要ない。既に、甲児が目視できる距離までミサイルは迫っている。

 

「諦めるのは早いぜ、甲児!」

 

 甲児が絶望の呻きを上げたのと、その声が島を揺るがしたのは、ほぼ同時だった。

 そして、その声の主は遥か上空へ飛び立ち、姿を現した。

 

「ゲッター……」

 

 真ゲッターロボ。竜馬、隼人、弁慶が魂で操縦するそのマシン。しかし、赤い体色は青く染まり、本来機械にはあり得ない瞳が、迫り来る核ミサイルを見据えている。

 それだけではない、真ゲッターは繭から孵化し、さらに巨大に……力強いフォルムへ進化していた。

 

「竜馬、そのゲッターは……」

 

 見たことのない、青いゲッター。その存在に、バードス島にいる全ての者の注目が集まる。メカギルギルガンとの戦いでエネルギーを消耗したマジンガーZ、グレートマジンガー、グレンダイザーも、その未知なるゲッターに視線を向けていた。

 

「こいつこそ……早乙女博士の遺産」

 

 答えるのは、隼人。

 

「その名も……」

 

 弁慶が、続ける。

 

「真ゲッタードラゴン!」

 

 高らかに、竜馬はその名を宣言した。

 真ゲッタードラゴン。これこそが、繭の中でその時を待ち続けたゲッターの行き着く姿。

 真ゲッターを依代として、再誕したゲッタードラゴン。真ゲッタードラゴンは、その巨大なウイングを広げ、核ミサイルと自身の座標を合わせていく。

 

「何をする気なんだ、竜馬!」

 

 甲児が叫ぶ。いかに真ゲッタードラゴンが真ゲッター以上の存在であるからとて、核ミサイルを正面から受け止められるはずがない。しかし、竜馬はそれに応えなかった。

 

「隼人、弁慶。感情を込めて、ゲッターの力を引き出すぞ」

 

「おう!」

「おう!」

 

 そう言って、真ゲッタードラゴンが取ったのは空手の構え。竜馬が最も得意とする姿勢。やがて、核ミサイルは高速で真ゲッタードラゴンへと迫っていく。両者が激突するのに、数秒もかからなかった。ただ、迫る核ミサイルは真ゲッタードラゴンの腹部目掛けて……。

 

「今だっ!」

 

 その時である。竜馬が叫んだと同時、真ゲッタードラゴンと核ミサイルが触れ合った時。全てが光に飲み込まれることを覚悟したその瞬間。

 核ミサイルは、まるで食べられでもしたかのように真ゲッタードラゴンの中に吸い込まれていく。

 

「な……」

 

「何が、起きたんだ……?」

 

 鉄也も、大介も、言葉が出ない。真ゲッタードラゴンの中で、核ミサイルはぐにゃりとねじ曲がり……そしてまるで胃袋の中に収まるかのように消えてしまったのだ。

 残されたものは、一瞬の静寂。

 

「真ゲッタードラゴン。あれが……」

 

 大介が唖然とした声を上げた。竜馬達が、ゲッター線の宿命と戦うことで手に入れた、誰も知らないゲッター。それが今、ひとつの危機を救ったのだ。

 

「……おのれ」

 

 重い、サイコジェニーの声がした。

 

「おのれ、ゲッター! お前は、お前だけは滅ぼさねばならぬ!」

 

 サイコジェニーの怒りに呼応するように、ゴッドマジンガー・インフィニティが動き出す。怒りに狂った巨腕が、真ゲッタードラゴン目掛けて迫った。

 

「…………」

 

 対して、真ゲッタードラゴンは動かない。

 

「竜馬!」

 

「あのゲッター、核を飲み込んだ衝撃でフリーズ状態です!」

 

 リサが解析し、甲児が飛び出した。真ゲッタードラゴンを、竜馬をやらせるわけにはいかない。カイザースクランダーが広がり、その巨腕の前に躍り出たマジンカイザーは、その腕にカイザーブレードを突き刺す。

 

「この野郎! いい加減観念しやがれ!」

 

「ちょこざいな、兜甲児!」

 

 マジンカイザーを振り払おうと、ゴッドマジンガー・インフィニティはさらに腕を上げる。そして、勢いのまま振り下ろす。単純な攻撃だが、あまりある体格差を生かした攻撃。受ければマジンカイザーとて、ひとたまりもない。

 しかし、その剛腕はカイザーには届かなかった。デビルゲッターのゲッタートマホークが巨大化し、巨大な斧となってゴッドマジンガー・インフィニティに食らい付いていた。

 

「またしても、邪魔をするかアモン!」

 

「へっ、了の力を得た今のデビルゲッターを舐めるなよ……!」

『そうだ、明。行くぞ!』

 

 明と了の心がシンクロすることで、デビルゲッターはさらなるパワーを増す。巨大なゲッタートマホークに、ゲッタービームを纏わせてもう一度、ゴッドマジンガー・インフィニティへ振るう。

 

「喰らえ、デビルハンマー・ブレイカー!」

 

 悪魔の槌。そう名付けられた一撃は確実に、ゴッドマジンガー・インフィニティの右腕にダメージを与えていた。

 

「アモン、貴様ァッ!」

 

 ゴッドマジンガー・インフィニティは、その口から竜巻を巻き起こす。ルストハリケーンに酷似したその竜巻を、今度はマジンカイザーが竜巻を巻き起こし、それを相殺する。ルストトルネード。超合金ニューZαの装甲を持つマジンカイザー以外に耐えることのできない強烈な酸性嵐は、ゴッドマジンガー・インフィニティのルストハリケーンすら溶かして見せたのだ。

 

「おのれ、貴様等……」

 

 サイコジェニーの声色に、焦りの色が濃くなり始めていた。今まで、ラ=グースを恐れさせる存在などいなかった。それがたとえ、細胞片に与えられた擬似人格であったとしても、だ。

 それほどに、ここに集まっている存在はラ=グースにとってもイレギュラーということか。その答えをサイコジェニーは持っていない。

 

 巨大な悪魔の槌……デビルゲッタートマホークを構えたデビルゲッターが、先に動いた。

 

「元気、ミチル、了。俺達の魂を……奴にぶつけるぞ!」

『おう!』『おう!』『おう!』

 

 デビルゲッタートマホークを振るうデビルゲッター。ゴッドマジンガー・インフィニティは、巨大な右腕を振り上げてそれを受け止める。

 

「同じ手が何度も通用すると思うなよアモン、サタン!」

 

「同じ手かどうか……受けてみな!」

 

 受け止めたデビルゲッタートマホークっが、ゲッター線の塊へ融解していく。ゲッタービームの塊……言わば、デビルゲッター版ストナーサンシャインとでも言うべきものが、明の、了の、元気の、ミチルの魂の一打となって迫る。

 超高熱のデビル・ストナーが、ゴッドマジンガー・インフィニティの右腕を焼き尽くす。それはまさに、地獄の業火。

 

「おのれ……地獄に堕ちろ、アモン!」

 

 サイコジェニーの怨嗟の声と共に、ゴッドマジンガー・インフィニティは左腕を振り上げた。

 

「違うな、サイコジェニー!」

 

 その腕をひょいと避け、デビルゲッターは左腕のデビル・ゲッタードリルをさらに巨大化させてその顔面を抉り出す。ドクターヘルが埋め込まれていない、インフィニティの本来の目が衝角の回転で潰れた。

 

「俺達が、地獄だ!」

『俺達が、地獄だ!』

 

 そう言って、デビルゲッターがゴッドマジンガー・インフィニティから離れる。デビルゲッターに覆い被さるように、サイコジェニーの死角に迫っていたのは……。

 

「マジンカイザー、フルパワーだ!」

 

「了解! 空中元素固定装置、フルドライブ!」

 

 魔神皇帝、マジンカイザー! その胸の赤い放熱板が、熱を持つ。次の瞬間……。

 

「受けてみやがれ、ファイヤー・ブラスター!」

 

 マジンカイザーから放たれた灼熱が、ゴッドマジンガー・インフィニティを覆った。

 

「く、くぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 サイコジェニーの、悲鳴にも似た声が響く。そして、その悲鳴は。

 

「…………待たせたな、甲児」

 

 流竜馬の、真ゲッタードラゴンの。再起動の合図だった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 真ゲッタードラゴンが核ミサイルを吸収した時、竜馬は夢を見ていた。

 

「なんということだ……」

 

 それは、広い宇宙。人類の歴史。生命の歴史。宇宙誕生の歴史。別々に存在しているはずの全ての命が、宇宙という名の塩基配列の中で活動するDNAであるという詳細。

 

「こんなにも、簡単なことだったのか……」

 

 なぜ、人間は生まれたのか。なぜ、自分は生まれたのか。なんのために生きて、なんのために死ぬのか。それは、それらは、あまりにも簡単でちっぽけで、だからこそ全ての命は平等に価値があり、尊いということが。

 

「わかる。わかるぞ……」

 

 何も恐れることはないということが。

 全ての命は、宇宙の滅びぬかぎり滅びることはない。全ては、同じ場所から生まれ、同じところへ還るエネルギーなのだから。

 そして、だからこそ。

 

「宇宙を滅ぼそうとするラ=グースは、このままにしちゃあおけねえな……」

 

 それは、悟りにも近いものだった。野蛮で交戦的な竜馬には似合わない言葉かもしれない。それでも、これを悟りと言わずになんというのだろう。

 

「……旅立ちの時が、きたな」

 

 弁慶が言う。

 

「弁慶……」

 

「さあ、行こうぜリョウさんよ」

 

 隼人の口調はどこか嬉しそうで、若い頃に何度もやり合った頃に似ている気がした。

 

「隼人……お前も見たんだな」

 

「おそらく、お前さんと同じものをな」

 

 ならば、もう思い残すことはない。竜馬は、隼人は、弁慶は、同時にペダルを踏んでゴッドマジンガー・インフィニティへ迫っていく。

 核ミサイルのエネルギーを取り込んだことで、真ゲッタードラゴンのエネルギーは無尽蔵に活性化していた。青く染まったその身体がさらに、ゲッター線の光で満たされていく。

 

「あれは……!」

 

 甲児は、鉄也は。その光を知っていた。

 シャインスパーク。3人のパイロットが心を合わせた時にのみ発揮される、ゲッタードラゴンの真の必殺技。ドラゴンの魂を受け継いだ真ゲッタードラゴンは、それを継承していた。

 即ち、真・シャインスパーク。

 光の塊となって、ゴッドマジンガー・インフィニティへと迫る真ゲッタードラゴン。ゴッドマジンガー・インフィニティは、胸部の

インフェルノ・ブラスターでそれを迎撃する。しかし、その爆熱は真ゲッタードラゴンに触れた瞬間、霧散し真ゲッタードラゴンの中に吸い込まれていく。

 

「バカな……!?」

 

 サイコジェニーが、狼狽の声を漏らす。インフェルノ・ブラスターを喰らい、真ゲッタードラゴンはついに、ゴッドマジンガー・インフィニティへ衝突した。そして……。

 

「何が、起こってるの……?」

 

 セーラは、その光景に魅入っていた。

 

「あれが……ゲッターの……」

 

 鉄也はその光景に、畏敬の念すら抱く。

 

「…………」

 

 大介は、言葉もない。

 

「ゲッタァァァァァァァッ!?」

 

 その叫びが、世界を、宇宙を、銀河を震わせる。

 

「う、う、うぉっぁあぁぁぁぁっぁあっぁぁ!?」

 

 サイコジェニーが叫ぶ。それは悲鳴にも、絶叫にも、嬌声にも聞こえた。なぜそんな声が出てしまうのか、サイコジェニーにも理解できない。

 ただ、真ゲッタードラゴンが触れた場所から崩れていくように、ゴッドマジンガー・インフィニティが消えていくのだ。

 それは、核ミサイルと同じようにゲッターがゴッドマジンガー・インフィニティを喰っているようにも見える。神の名を冠する巨神が、なす術もなく喰われていく。

 

「な、なんだ……何が起こっているんだ……?」

 

 呆然と、シロー。

 

「ゲッターが……目覚めた……」

 

 リサはその光景に、目を奪われていた。無理もない。リサの生まれた世界は、ゲッターによって地獄に変えられたのだから。

 しかし、この真ゲッタードラゴンからは恐怖を感じないことに、リサは気づいた。むしろ、温かいものすら感じる。

 

「ゲッターが……生まれた意味。私が、生き残った意味。それは……」

 

 この瞬間のためだったのかもしれない。とすら思う。

 

「ゲッター! お前は……お前はなんなのだ!」

 

 サイコジェニーの最期の意識は、この光景を別の宇宙……銀河の果てにいる母なるラ=グースに届けることに全ての力を向けていた。この化け物に、勝ち目はない。そう、本能とでも言うものが悟っていた故の、無意識にプログラムされた行動だった。だが、それでも。

 ここでゲッターを……その覚醒を促した地球人類を滅ぼさねば必ず、ラ=グースの脅威になる。その一念が、サイコジェニーに最期の行動を起こさせた。ゴッドマジンガー・インフィニティは、真ゲッタードラゴンを掴んでその核を爆走させていく。

 

「こうなれば……この地球ごと、ラ=グース細胞を自爆させる。ヒ、ヒヒ……そうなれば、この星諸共、お前達も滅ぶ!」

 

 みるみるうちに、熱量を上昇させるゴッドマジンガー・インフィニティ。その熱は既に、バードス島の全てを溶かさん勢いで暴走していた。しかし、

 

「いや、そうはならない」

 

 冷静に、そう言い切ったのは竜馬だった。そして、真ゲッタードラゴンに並ぶように立ち上がったのは、マジンカイザー。マジンカイザーは、ゴッドマジンガー・インフィニティの暴走する熱を吸い上げていく。

 

「く、空中元素固定装置……」

 

 バードスの杖を構えて、リサはマジンカイザー内部の空中元素固定装置をさらに加速させていた。マジンカイザーの無敵のボディが、熱くなっていく。

 

「光子出力、113億%を突破しました。お父さん!」

 

「ああ、このエネルギーを全て……ぶつけてやる!」

 

 光子力の怪力が、神像を持ち上げる。そして、次の瞬間。

 

「カイザァァァァァァァッノヴァァァァァァァッッ!?」

 

 魔神皇帝の全身から放たれた光子力が、ゴッドマジンガー・インフィニティを飲み込んだ。

 真ゲッタードラゴンの真シャインスパーク。

 マジンカイザーのカイザーノヴァ。

 2つの力。陰と陽。ゲッター線と光子力。“進化“の光と“可能性”の光。

 それは。

 それは。

 それは。

 

「オァァ、ァァアァァァァァァァァァァァアアッ!?」

 

 巨神を。ゴッドマジンガー・インフィニティを呑み込んで、光の中へと還してしまった。

 残ったのは、魔神皇帝と真ゲッタードラゴン。そして、戦い続けたスーパーロボット達。

 

「…………終わったのか?」

 

 甲児の呟きと同時、

 

「いや……これからはじまるんだ」

 

 竜馬と、真ゲッタードラゴンが空高く飛ぶ。その先には、マジンガー・インフィニティが現れたのと同じ時空の歪み。

 

「まさか、まだ来るって言うのか……」

 

 甲児が呻く。もはやマジンカイザーとて、その全ての力を使い果たした直後なのだ。しかし、真ゲッタードラゴンはまるで、喜んでいるかのように加速していく。そんな真ゲッタードラゴンから、通信が届いた。

 

「甲児、地球のことはお前達に任せたぜ」

 

 そう言う竜馬は、真ゲッタードラゴンのコクピットは、あのゲッターの地獄で見た夢のように機械コードが伸び、竜馬を侵蝕している。しかし、その光景に甲児は驚きはしなかった。

 むしろ、真ゲッタードラゴンのあの力の源が何かを考えれば、それは自然なことでもあるように思えたからだ。

 

「竜馬、お前達は……」

 

「決まってるだろ?」

 

 ニヒルに笑う隼人も、同じく。

 

「あの先にいる、ラ=グースの親玉をぶっ倒すのさ!」

 

 言いながら、加速する真ゲッタードラゴン。その加速に、追随する者がいた。

 

「待てよ、お前達だけにいい格好はさせねえぜ」

 

 デビルゲッターである。

 

「デビルマン、お前……」

 

「元々、俺達は人間界に居場所のない存在だ。人間にも、デーモンにもなれない半端者だが……この先にあるのは、俺達に相応しい地獄らしいからな!」

 

『竜馬さん、抜け駆けは許さないぞ!』

 

 元気の声が、竜馬にも伝わった。

 

「ミチルさん……」

 

『いいのよ隼人君。私は、望んであなた達と共に行くのだから』

 

「そうと決まれば……行くぜ!」

 

 真ゲッタードラゴンと、デビルゲッターが共に並び、そして……次元の狭間から顔を覗かせた異形の怪物。その首をトマホークで刎ね、突入していった。

 

「待て……待てよ竜馬!」

 

 甲児が、叫んだ。長年を共にした盟友へ。

 

「あばよ……ダチ公!」

 

 それが、竜馬の最後の言葉だった。やがて、2つのゲッターを飲み込んだ時空の裂け目は元通りになり……朝が来きた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 ナガレ流総合格闘道場。若き女性格闘家・流りょうが切り盛りするその空手道場には、一人息子がいる。簡素な食卓に並べられたメザシと山菜。そして白米と菜根汁という、精進料理のような献立にその少年は、苦い顔をしていた。

 

「……ハンバーグが食いてえ」

 

「拓馬!」

 

 流りょう……ご近所からは「おりょうさん」と呼ばれ親しまれる拓馬と呼ばれた少年の母は、そんな息子の愚痴に間髪入れずに反応した。

 

「よいですか、メザシと山菜。これが一番体に良いのです。ハンバーグなど……食べすぎるとロクなことになりません。貴方のお父さんのように、立派な武人になるには、常に精進料理が一番なんですよ!」

 

 そうは言われても、拓馬は父のことを知らない。生まれてこの方、ずっと母子家庭だ。

 背筋を伸ばし、母の躾の通りに精進料理を完食した拓馬は、ランドセルを背負い学校へ行く支度をする。と、そんな時だ。

 

「タクマ!」

 

 道場の門から、声がする。母に「行ってきます!」と告げて拓馬は、門の前で待つ幼馴染に顔を出した。

 

「おはよう、梨沙。リサ姉ちゃんも」

 

 拓馬を待っていたのは、長い、透き通るような銀髪の女性と、拓馬と同い年の少女。少女もまた、銀髪と青い瞳が抜けるように美しく……そして。

 

「おはよう、タクマ」

 

 その鈴のような声が、可愛らしい女の子だった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

「…………夢?」

 

 あれからしばらくの時が過ぎたその日、リサは新光子力研究所のベッドで目を覚ました。とても、嬉しい夢を見た気がする。希望に満ちた、可能性に満ちた夢を。

 あのあと、リサの身体を蝕んでいたゲッター線汚染はみるみるうちに引いていった。ほとんどの後遺症も残ることなく、リサは毎日を生きている。それを、せわし博士とのっそり博士は「よくわからない、未知の現象」と言っていたが、リサはこうも思うのだ。

 あの時、真ゲッタードラゴンがリサの中に溜まっていたゲッター線を吸い取ってくれたのではないか、と。

 ともあれ、こうしてリサは生きている。

 

「リサさん、やっと起きた!」

 

 傍で、如月聖羅……セーラが声を上げた。あの戦いのあと、シローとセーラも新光子力研究所で世話になっている。シローはやがて、軍属に復帰することになるだろう。しかし、今はしばらくの休暇を貰っていた。

 セーラ曰く、「シローが休暇のうちに、パパとママに紹介したい」とのことだが、なかなか日程が合わないのが悩みの種らしい。訊けばセーラの父は世界中を又駆けるジャーナリスト、母はトップモデルというではないか。

 そんなセーラは、何やら忙しなさそうにあわふたしており、寝ぼけまなこのリサにはそれがどことなく、面白い。

 

「セーラちゃん、どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないですよ、弓所長……さやかさん、陣痛が始まったんです!」

 

「!?」

 

 それは、まるで。夢のような報せだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

「そうか、甲児君とさやかさんのこども……無事に生まれたか」

 

 宇門大介は電話越しに、その報せを聞いて安堵の表情を浮かべていた。本当なら、甲児達の下へ駆けつけたいのも山々だったが、今大介は新光子力研究所のある富士から離れている。

 大介は、甲児から借りたバイクを駆り、八ヶ丘まで足を運んでいた。宇宙科学研究所。デューク・フリードに、宇門大介という名をくれた恩人のいる場所がある。大介は、フリード星へ戻る前に彼ら、地球の家族達へ挨拶周りしていた。

 それは、大介が守りぬいた地球という星を今一度、この目に焼き付けるための儀式でもある。ゲッターチームが旅立った後、地球に降り注ぐゲッター線の総量は目に見えて低下していた。それは、竜馬達がこの世界を去ったことと関係していると思われるが、詳細不明。

 観測に携わっているロン・シュバイツァ博士曰く、「ゲッター線が地球に降り注いでいたのは、或いはゲッター線そのものが何かを伝えるために意志を持って行っていたことかもしれない」という。その意志が、フリード星すらも滅ぼす破壊者になるのか……或いは、大いなる意志を持つ者からこの宇宙を守る防人となるのか。それは、竜馬達にかかっているとも言えた。

 今大介にできることは、信じることのみである。だからこそ、大介は信じるに足るものを……自分たちの手で守り抜いたこの地球の自然を、目に焼き付ける旅をしていた。

 そして、その旅にはもう一つの目的があった。

 

 雄大な緑に覆われ、青い空がどこまでも広がるシラカバ牧場。そこに、一人の女性がいた。牧葉ひかる。かつて、宇門大介と共にベガ星連合軍から地球の危機を救った女性である。

 今、ひかるはこのシラカバ牧場の経営者として父の後を継いでいた。28歳、未婚。今日もひかるは、牧場の馬達の世話をしている。

 シカラバ牧場は、デーモンの放棄の中でも大きな被害を受けることなく平和だった。世界の混乱の中でも、平穏だった。それを嬉しく思うと同時に、少しだけ申し訳なくも感じていた。

 

「あら……?」

 

 そんなひかるが牧場へ行くと、今日はやけに馬達が元気に見える。中には、とても嬉しそうに人を背中に乗せて、走り回っている子もいた。

 

「え…………」

 

 その乗馬術の巧みさ。そして、自然と溶け合うように駆けるその後ろ姿を、ひかるは一瞬たりとも忘れたことはない。

 

「大介さん、大介さんなの……!?」

 

 宇門大介、あの頃ずっと思い合っていた青年が今、目の前にいる。その事実が信じられない。ひかるは、思わず大介を追って走る。

 

「待って、大介さん。待って!」

 

 ひかるは、走った。その声に気づいたのか、青年は馬を止め、降りて振り返る。

 そこにいたのは、その顔は見間違えようもない……。

 

「また会えたね、ひかるさん」

 

 大介の胸に飛び込んで、ひかるはただ、その存在を肌で感じていた。

 いつまでも、いつまでも。

 永遠にも感じるほど抱きしめ合い、やがて見つめ合って……。

 

 

…………

…………

…………

 

 早乙女研究所。悪魔王ゼノンとの戦いで廃墟と化したそこは今、「keep out」立て看板と共に封鎖されている。そこには今、一部の人間以外に立ち入りが許可されていない特別な場所となっていた。

 かつて、威容を醸し出していたゲッターロボの要塞基地。ある日、そこに兜甲児と剣鉄也、兜シローの3人は足を運んでいた。

 

「本当にいいのか、甲児……?」

 

 かつて、早乙女研究所のゲッター格納庫だった場所。そこに今、マジンカイザーは鎮座している。玉座に座る皇帝が如く、見るもの全てに畏敬の念を抱かせる黒鉄の魔神は今、その役目を終えようとしていた。

 

「ああ、これからの時代にカイザーは、人間が持つのに余りある存在だ」

 

 神をも越え、悪魔すら斃す力。マジンカイザーは今、無数のゲッターロボの墓場となっているこの早乙女研究所の地下格納庫で眠りにつこうとしている。

 

「でもさ、兄貴。もしまたあのラ=グースみたいな奴らが攻めてきたら……」

 

 シローが口を挟む。それに対して甲児は、ニッと笑みを作った。

 

「大丈夫だよ、竜馬達が宇宙のどこかで戦ってるんだ。それならもう、地球は安全に違いない。それにマジンガーZと、グレートマジンガーは健在だしな」

 

 甲児の愛機……マジンガーZを受け継いだ弟は、「そうだな」と相槌を打ち、改めて魔神皇帝を……マジンカイザーを見やる。

 シローは、この休暇が終われば軍属に戻る。マジンガーZは、研究所に残していくことになる。空中元素固定装置の制御なしで今のマジンガーZを使うのは、あまりにも危険でもあった。その意味ではカイザー同様、マジンガーZも封印に近い。

 

「シロー、マジンガーZのことは兄貴やセーラ、研究所のみんなに任せてやれ。それと……」

 

 鉄也が、口を開いた。

 

「俺は、この戦いを最後に軍を退役する事にした。グレートは、お前が使え」

 

「えっ!?」

 

「いいのかよ、鉄也」

 

 さしもの甲児も、驚いた様子だった。しかし、鉄也は既に決心したらしく一つ頷いて、甲児と、シローへ目を向ける。

 

「そろそろ、俺も軍の年金生活に甘んじさせてもらいたくてな。育児も、ジュンにばかりやらせてちゃ親父の面目が立たん。それにグレートは、シロー。お前の親父さんが作った魔神だ。お前が乗ってくれるなら所長……俺にとっても父に等しいあの人も、喜んでくれるに違いない」

 

「そうか……お父さんが……」

 

 兜剣蔵が残した遺産。その言葉に改めて、シローは頷く。

 

「……わかった。偉大な勇者の名前は、俺が引き継ぐよ」

 

「……ああ、頼んだぞ」

 

「……時間だ。行こう」

 

 甲児が言うと、3人は早乙女研究所を後にする。その直後、研究所全体で、大きな爆発が起きた。甲児達が設置したダイナマイトが、起爆したのだ。

 玉座に座る魔神皇帝が、瓦礫の中に埋もれていく。優しい風が、皇帝を讃えるように吹いた。時の音から忘却されゆく魔神。その魂は、ここに眠る。

 その振動が収まった後、甲児はマジンカイザーの眠る墓所を一瞥した。

 

「……もう二度と、お前をここへは戻さない」

 

 それは、約束。永遠の友とも言うべき魔神との。愚かな未来を、お前は望まない。だから、もう魔神皇帝の力は必要ない。

 最後にもう一度だけ、甲児はカイザーへ呟いた。

 

「静かに眠れ、カイザー……」

 

「なあ、兄貴……」

 

 そんな甲児に、シローが声をかける。

 

「……何だ?」

 

「竜馬さん達が戻ってきた時……地球は、人類はどうなってると思う?」

 

 それが、どれほど遠い未来なのかはわからない。それでも甲児がカイザーをここに埋めたのには、理由があった。

 もし、ゲッターが地球に帰還するのならば、最初に訪れるのは早乙女研究所に決まっている。そして、そこにマジンカイザーが……盟友があればきっと、竜馬達を導いてくれる。そう、甲児は信じていた。

 その時、果たして帰還した竜馬達は甲児の知る竜馬達なのだろうか。それは、わからない。

 しかし、ひとつだけ確信しているものがある。

 

「きっと、すばらしい世界になってるさ」

 

 そう言って、甲児は空を見上げた。

 この宇宙のどこかで、竜馬達は今も燃えている。銀河の彼方で、足掻いている。

 できることなら、今すぐにでも駆けつけたい。だけど、それは甲児の戦いではない。

 

「……なあ、ちょっと寄り道していいか。ベビー用品、買い足してくれってさやかに言われてるんだ」

 

 兜甲児が生きる世界は、今ここにあるのだから。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 拓馬と梨沙が並んで学校へ向かう。途中、リサお姉ちゃんは駅で別れ、そのあとは二人だ。

 

「ねえ、梨沙ちゃんのところは今日の晩ごはん、なんなの?」

 

「んー、ハンバーグかな?」

 

 ハンバーグ。拓馬が母から禁じられているこどもの好物の名前が出てきて、「ああ、兜さんのところに生まれたかった」と一瞬、拓馬は思った。商店街を歩いていると、乱暴な自転車がスピードを上げて加速し、思わず拓馬は梨沙を庇うように前に出て、自転車をやり過ごす。

 

「コラー! 號ー!?」

 

「ゴメンゴメン! 急いでるんだぁ!?」

 

 自転車の主は、ご近所でも荒くれで有名な一文字號だった。今日も騒がしく、商店街を賑わせている。

 

「…………あ、ありがとう」

 

 梨沙が、ほっとしたように胸を撫で下ろす。

 

「う、うん……。このくらい、父ちゃんならあんなのキック一発でのしちまうんだぜ!」

 

 会ったことのない、母から伝え聞いた父の真似をして、拓馬は思いっきり脚を上げた。その脚が、何かを突き飛ばす感覚があった。

 

「あっ……!」

 

 梨沙が声を上げる。思わず見た先には、緑色の肌を持つ、しかし整った顔立ちの拓馬や梨沙と同年代の少年がギロり、と拓馬を睨みつけている。

 

「…………随分な挨拶だな、拓馬」

 

「カ、カムイ……」

 

 カムイ・ショウ。恐竜帝国から交換留学生として招かれた、人間とハチュウ人類の友好の証。そして、拓馬の父と戦った恐竜帝国の先王ゴールの息子でもあるカムイは立ち上がり、俊足で拓馬へ近づくと、腹に思いっきりパンチをお見舞いする。

 

「ゲェッ!」

 

 呻く拓馬。

 

「拓馬、何を呻いている。遅刻するぞ」

 

 涼しげな顔で、先を歩くカムイ。

 

「っ待てこの、カムイ!?」

 

「もうっ、タクマもカムイも、喧嘩しないでよ〜〜!」

 

 それを追い乱闘騒ぎを起こす拓馬と、仲裁に入る梨沙。それは、いつもと変わらぬ日常の1ページだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

「…………夢?」

 

 長い旅路の途中、流竜馬は夢を見ていた。懐かしい地球の夢。しかし、見たことのない……未来の夢。

 

「…………起きたか竜馬。平和な夢でも見てたのか?」

 

 そう皮肉げに訊く声は、隼人。

 

「ああ、ひさしぶりに……いい夢を見た気がする」

 

 それに竜馬は、混ぜっ返すこともなく素直に答えた。夢を見た。それは、まだ竜馬が人間である証拠だ。

 

「お喋りをしている暇はない……見ろ」

 

 弁慶の声だ。竜馬が意識を集中させると、眼前には無数のゲッターロボを従えた艦隊が、惑星を蹂躙しているのが見える。

 

「あれは……」

 

「エンペラー艦隊?」

 

 元気とミチル。しかし、それに首を横に振ったのは、了だった。

 

「あれは、進化の袋小路に堕ちたゲッターのなれの果てだろう。エンペラーの軍勢からも零れ落ち、略奪を繰り返す宇宙の悪魔だ」

 

「だったら、やっても問題ないな!」

 

 明の声。竜馬はそれを訊くと、闘志をギラつかせて叫ぶ。

 

「ああ……行くぜお前ら! チェェェェェンジッゲッタァァァァァァァァッッ!?」

 

 竜馬が行く。隼人が来る。弁慶が構える。

 元気が、ミチルが、声を上げる。

 明が、了が地獄を見せる。

 今や、真ゲッタードラゴンは地球での戦いよりもさらに巨大化していた。あのゲッター聖ドラゴンにも迫る巨体。進化の途上。侵略者となったゲッターを粛清し、宇宙を喰らうラ=グースを喰らう独立愚連隊・ゲッターチーム。

 その果てに待つ意志を持つ者・時天空。

 この広大な宇宙の中で、その宇宙の意志に叛逆する牙。それこそが、流竜馬。

 真ゲッタードラゴンのトマホークが、怪物と化したゲッターを引き裂いた。

 

「出たな……」

 

 零落した侵略ゲッターの長と思われる、真ゲッターロボに似た機体が叫ぶ。

 

「出たな、ゲッタードラゴン!?」

 

 真ゲッターもどきから放たれたゲッタービームを、真ゲッタードラゴンはトマホークで薙ぎ払い、そして真ゲッターもどきへと迫った。 

 

「俺を、舐めんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 その叫びが、宇宙を震撼させる。

 この戦いの結末を描くには、無限の時が必要となるだろう。

 永劫の時を持ってしても、この戦いの結末を描くことなど不可能なのだ。

 しかし、覚えておいてほしい。

 今も、この宇宙のどこかでその命を燃やしている男達がいることを。

 時代を喰らい、全ての命を泡沫に消費する虚無の時代を斬り裂く者……それこそが!

 

 

 『マジンカイザーvs真ゲッターロボ!』 完!


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