マジンカイザーVS真ゲッターロボ!   作:元ゴリラ

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第二話『覚醒!!』Aパート

 地上へと降下するゲッタードラゴンを追い、グレートマジンガーとグレンダイザーが空を駆ける。二機の魔神を操る男達は、そのかつてドラゴンだった繭に不穏なものを感じていた。

 

「鉄也君……君はあのゲッタードラゴンをどう思う?」

 

「……わからん。だが、ゲッタードラゴンを無視できん」

 

 たしかに、あの時鉄也とデュークの前で起きた現象は不可解なものだった。ゲッタードラゴンはまるで生き物のように繭を作り、その中に閉じこもったまま百鬼要塞から地球へと落下している。その繭も、ゲッタービームの光から変化したもの。即ちゲッター線の塊である。そのまま落下すれば、落下地点でどのような被害が及ぶかわからない。なんとしても、落下を阻止しなければならなかった。

 

「鉄也! 大介さん!」

 

 その二機に並ぶように、一機の円盤状の戦闘機が空中で合流する。ダブルスペイザーだ。

 

「甲児君!」

 

 遠き地球の友との再会。しかし、それを喜ぶ暇もない。

 

「挨拶は後だ甲児。今はゲッタードラゴンを……!」

 

「あれが、ゲッター……?」

 

 緑色の光を放つ繭のような球体。それは、甲児の知るゲッターからはかけ離れた姿だった。俄かには信じがたいという風な顔をするが、それがゲッターであろうとなかろうとやることは変わらない。

 

「2人とも聞いてくれ。このままだとゲッタードラゴンは、10分後にバードス島に衝突する!」

 

「何だと!?」

 

 鉄也の顔に焦りの色が表れる。バードス島。かつて甲児因縁の敵であるドクターヘルが、古代ミケーネの遺産を発見し世界征服の本拠地とした場所だった。今そこには考古学の権威が集まり、さらなる発掘、解析のための調査チームが組まれていたはずだ。

 全ては、古代ミケーネ文明の遺産を平和利用するために。そして、かつて甲児や鉄也が戦ったミケーネ帝国のような敵が再び現れた時の備えとして。

 ミケーネを統べる闇の帝王は、最初の地球侵攻の失敗を悟ると同時に地下深くへと眠りについた。しかし、いつまた眠りを覚まして再び地上へ侵攻を開始するかもわからぬ以上、バードス島の調査は人類の急務であると言えた。

 そこに、ゲッター線の塊となったドラゴンが落ちれば。

 

「ゲッター線が何を引き起こすか、わからんな……!」

 

 グレートマジンガーが、加速する。

 

「甲児君、僕達も!」

 

「ああ! 大介さん、久々に行くぜ!」

 

 グレンダイザーが自身のスペイザーを切り離すと同時、垂直で旋回するグレンダイザーを、ダブルスペイザーがグレンダイザーを格納する。

 

「コンビネーション・クロス!」

 

 地球製のダブルスペイザーと合体したグレンダイザー。それにより、グレートよりも速い加速を可能とする。

 

「手荒になるが、許してくれ武蔵君……!」

 

 グレンダイザーが、ゲッタードラゴンと並んだ。そして胸の放熱板から重力光線を発射する。

 

「反重力ストーム!」

 

 反重力ストームは、照射された物体を無重力状態にすることが可能な重力光線。これによりドラゴンの落下速度を落とすのが、デュークの狙いだった。あとは、グレートとグレンダイザーでドラゴンを掴めばいい。それだけのはずだった。

 

「さあ、鉄也君!」

 

「おう!」

 

 グレートマジンガーが追いつき、ゲッタードラゴンを挟むようにグレンダイザーと並ぶ。そして、2機がその手を伸ばした時だった。

 突如、対空ミサイルがグレートマジンガーとグレンダイザーへ滝のように降り注いだ。

 

「ぐっ……!?」

 

 元々ダメージの大きかったグレンダイザーは、そのミサイルを浴びて大きくバランスを崩す。ダブルスペイザー側から、甲児が何とかバランスを取って体制を立て直し、そのミサイルが放たれた方を見た。

 

「あれは、マジンガー……?」

 

 いたのは、マジンガーとよく似たロボット達だ。スクランダーのような赤い翼を持つ黒いマシン。しかし、マジンガーZやグレートマジンガーのような『目』を持たず、緑色のバイザーをしているような頭部がマジンガーよりも一層「兵器」或いは「兵士」としての存在感を感じさせる。

 

「いや、あれは統合軍のイチナナ式だ……。おい、どうして統合軍が俺達を攻撃するんだ!」

 

 甲児が、イチナナ式に通信を試みた。しかし、イチナナ式からの返答は、マシンガンの斉射だった。

 

「どういうことだっ!?」

 

 ゲッタードラゴンを刺激しないために、グレートマジンガーが身を挺してゲッタードラゴンを庇いように前に出る。本来なら避けられる攻撃を受けながら、鉄也は呻いた。

 

「キ、キキ……」

 

 イチナナ式のパイロットの声が、甲児の耳に届く。まるで理性のない声。いや、声というよりも音といった方が正確なのかもしれない。ともかく……甲児の耳に聞こえるそれは、とても人間の声帯から発されたもののようには聞こえなかった。

 まるで、悪魔の囁き。或いはサバトの夜というものは、こんな不気味な声に満ちているのかもしれない。そんな想像が甲児を襲う。そして、3機いたイチナナ式のうち2機が、ゲッタードラゴン目掛けて躍り出た。

 

「なっ!?」

 

 ゲッタードラゴンに飛び付いたイチナナ式は、みるみるうちに溶けていく。しかし、溶けながらもイチナナ式から、歓声のような音が鉄也の耳にまで響いてきた。

 

「何が……何が起こっているんだ!?」

 

 驚愕の声を上げるデューク・フリード。そして、溶けかかっていたイチナナ式の顔が、ぐにゃりと歪んだ。

 

「…………!?」

 

 機械の塊であるイチナナ式に、表情というものは存在しない。あるとすれば、それは人が愛機に感じる愛着や、執着から来るものだ。しかし、今確かに目の前のイチナナ式は、3人の前で歪んだ笑顔を見せつけたのだ。

 

「ウ……!?」

 

 それは、ありえない光景だった。本来味方である統合軍所属の機体であるイチナナ式であるが故に、今までは防御に徹していた鉄也は、その笑顔を見て咄嗟にネーブルミサイルを撃ち放った。ミサイルを受けて、イチナナ式はゲッタードラゴンから離れて落ちていく。しかし、あの不気味な笑顔を貼り付けたまま。

 

「て、鉄也……」

 

 その行動を、咎めることができない甲児。

 

「あれは……悪魔だ。人間であるものか!」

 

 呻くように、鉄也が叫んだ。その時だった。

 

「キ、キキ……」

 

 撃ち落とされたイチナナ式から、不気味な声が響いたのは。

 

「今、オレを悪魔と呼んだな。クク、キキ。そうだ、その通りだ!」

 

 突如。他のイチナナ式が、撃ち落とされたイチナナ式に並ぶように並列に飛び、そしてその装甲がまるで液体のように溶けて、混ざり合っていく。3機のイチナナ式はゲッターロボのように、いやゲッターの「合体」とは違う。むしろ「融合」とでも言うべきだろうか。その姿形を溶かし、混ざり合い、一つになっていく。

 

「キ、キキ。オレ達は……オレ達は……」

 

 やがて、その姿を変化させたイチナナ式は、スクランダーの翼を悪魔のような、蝙蝠のような羽根へと変化させた。それだけではない。身体の大きさもゆうにイチナナ式3機分はあるだろう巨体。そして、バイザー型のカメラアイ越しにギョロりとした目玉が、飛び出している。

 牙を立てて嗤うそいつは、イチナナ式などではありえなかった。

 

「我が名は、アモン! デーモン族の勇者なり!!」

 

 高々と叫ぶイチナナ式の融合態・アモンと名乗ったそれはイチナナ式であればありえない鋭利な爪を持つ腕を大きく掲げる。

 

「アモン……デーモン族だと?」

 

 デーモン。即ち悪魔。或いは、東洋の鬼。アモンは、狂気と闘争心に満ちた視線をダブルマジンガーに対して向ける。

 

「ついに、この時が来た! 我らデーモン族が、再び地上に君臨する時が!」

 

 そう宣言したアモンは、再びゲッタードラゴンへと向かう。

 

「待てッ!」

 

 それを食い止めんと、グレートマジンガーとグレンダイザーがアモンの前に立ち塞がった。

 

「アモンと言ったな。貴様達デーモンとは何者だ! 何のためにゲッタードラゴンを狙う!」

 

 グレートマジンガーの胴体の赤い放熱板から、超高熱の熱線ブレストバーンが放たれる。しかしアモンはそれに怯みもせず真っ向からぶつかり、その爪を立てた拳でグレートを思いっきり殴打する。

 

「教えてやろう。我らデーモンは、かつて古代ミケーネの神々に滅ぼされた文明……お前達の神話や伝承で言うところの悪魔さ!」

 

「何、だと……!?」

 

 正真正銘の、悪魔。かつて鉄也が戦ったミケーネ帝国も悪魔のような存在だったが、今目の前にいるアモンは暗黒大将軍以上の闘気を感じる。それが、本物の悪魔ということだろうか。

 

「だとしても、お前達がどうしてゲッタードラゴンを!」

 

 グレートを助けようと、グレンダイザーが躍り出た。ダブルハーケンを、アモンの腕に叩きつける。しかし、その剛腕はいとも容易くグレンダイザーを振り払い、グレートを蹴り飛ばして再び、落下するドラゴンへと迫った。

 

「我らがデーモンの王。悪魔王ゼノンが求めているのさ。そのゲッタードラゴンをな!」

 

「何のために!?」

 

 ダブルスペイザーの機動力を活かして、すかさずグレンダイザーはアモンと並ぶ。しかしアモンは、長い腕でゲッタードラゴンを掴むと大きな悪魔の羽根を羽撃かせ、その風圧だけでグレンダイザーを押し返す。

 

「大介さん!?」

 

「クッ……! なんて奴だ!?」

 

 大介、もといデューク・フリードが舌打ちした時だ。アモンの腕の中で、ドラゴンがドクン、と脈を打つ。

 

「な、何だっ!?」

 

 その本来のメカにはありえない動きに、アモンが一瞬、震えた。尚もドラゴンの繭は、脈動を続けながら中で変態を続けている。繭の外からでも、それがわかる。

 

「……武蔵」

 

 果たして、あの中で武蔵はどうなっているのか。嫌な想像が鉄也の脳裏をよぎった。

 

「キ、キキ……」

 

 ドラゴンの繭を腕に抱えながら、アモンが奇声を上げる。

 

「これが、これがゲッター線。魔王ゼノンが求める力か!」

 

 アモンが今感じていたのは、高揚感だった。永き眠りから目覚め、アモンが最初に合体……即ち、相手を取り込み自らの力へと変えるデーモンの特殊能力。その標的としたのはイチナナ式のパイロットを務める少年。そしてイチナナ式とも一つになった。光子力エネルギー。それはアモンがかつて感じたことのない素晴らしい力。人間の知識と光子力の力を手に入れたアモンの目の前に今、光子力同様の恐ろしい力の塊がある。

 即ち、ゲッター線。今の自分がゲッタードラゴンと合体すれば、どうなるのだろうか。光子力とゲッター線を手に入れることで、魔王ゼノンすらも越える最強の悪魔に……デーモンの伝説に語られる彼らすらも超えた存在になれるのではないだろうか。そんな期待と、高揚感。同時に、逆にゲッターに取り込まれてしまうのではないかという不安と恐怖。それらの感情がアモンを同時に襲った。

 魔王ゼノンが何故、ゲッタードラゴンを求めているのかは知らない。興味がない。しかし、デーモンの勇者であるアモンを恐怖させるゲッターに、興味が湧いた。

 

「キ、キキ……」

 

 ドラゴンを掴んだまま、アモンはその翼を翻し地上へと急降下する。

 

「あいつ……!」

 

「待てっ!?」

 

 それを追い、グレートマジンガーとグレンダイザーもさらに速度を上げた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 ヨーロッパの海は、騒がしい。バードス島は、エーゲ海に浮かぶ小さな島だった。かつてドクターヘルがミケーネ文明の遺産を発見し、そして世界征服のための尖兵である機怪獣や、あしゅら男爵、ブロッケン伯爵ら側近を作り出したその場所に、早乙女ミチルはいた。

 

「ミチルさん、見てくださいこれを」

 

 部下の青年が、指差す先には、ドクターヘルが手をつけなかったと思われる……或いは、破棄したものと思われる機械仕掛けの巨人達の姿があった。

 

「やっぱり、改めて見ても信じられないわね。人類の歴史よりはるか昔に、こんな文明が存在していただなんて」

 

 早乙女博士の娘である早乙女ミチルは、考古学者として成長していた。彼女は、ゲッターチームとともに戦う日々の中で不思議に思ったことがあった。

 即ち、お父様……早乙女博士の提唱したゲッター線が人類の進化を促したとする仮説は、本当に正しいのだろうかと。それを確かめるための手段にミチルが選んだのは、科学とは別側面のアプローチである。それが、考古学だった。

 本当にゲッター線が人類の進化を促したのならば、人類以前の文明にもその名残があるはずだとミチルは考えている。即ち、恐竜帝国やミケーネ帝国のような太古の超文明について調べることが早乙女博士のゲッター線研究の助けになるとミチルは考えていた。

 そして、ミチルはバードス島調査班に志願した。

 半年前に富士山で発見されたマジンガーインフィニティと、ドクターヘルの復活。それは、まだミケーネ文明には解明できていない神秘が残っていることを示している。それを解き明かすことで、ゲッター線の真実に近づけるかもしれない。そんな、淡い期待もあった。

 そのバードス島に残されていたものはやはり、現代科学では解明できないものが多い。先ほど部下の青年が指さした機械の巨人達も、ミケーネ文明の遺産そのままの姿のものなのか、ドクターヘルが手を加えたものなのかまだ判断ができない有様である。

 ドクターヘルと同等の天才科学者は、この世にもう残っていない。早乙女博士でも、ドクターヘルの超頭脳は分野が違う。宇宙開発が専攻の早乙女博士と、考古学と機械工学を中心にあらゆる知識を修めたドクターヘルではその幅の広さという点において、早乙女博士も解明に時間がかかるだろうと言っていた。

 そして、その早乙女博士は新型ゲッターロボの開発に心血を注いでおり、この調査・研究チームには所属していない。結局、すぐにわかることなどほとんどないというのが実情だった。

 

「ともかく、持ち帰れるものは光子力研究所に持ち帰りましょう。あそこなら、機械獣にまつわるデータはここよりたくさんあるはずよ」

 

「そうですね」

 

 考古学者・早乙女ミチルの前途は多難だった。

 

「まったく……こんな時に隼人君がいてくれれば心強いのに」

 

 愚痴を言っても仕方がない。ミチルは、遺跡の調査を再開する。そんな時だった。危機を知らせるサイレンの音が鳴り響いたのは。

 

「何事!?」

 

 そう、ミチルが叫んだのに、若い学者が答える。

 

「緊急事態です、宇宙空間でメルトダウンを起こしたゲッタードラゴンが、バードス島に落下する見込みとのこと!?」

 

「何ですって!?」

 

 ゲッタードラゴン。若き日にミチルの窮地を何度も救ってくれた鉄の竜神が、墜ちる。その事実が、ミチルには信じられなかった。

 

「ミチルさん、ここは危険です。早く退避を!?」

 

「え、ええ!」

 

 宇宙で何が起きていたのか、ミチルは知らなかった。だから、ゲッタードラゴンがメルトダウンを起こしたというのも、バードス島に落下するというのも、何かの間違いかと思うほどに。しかし、危機が訪れているということそのものを疑うほど、ミチルは愚かではなかった。

 研究員や学者達とと共に、遺跡を走って後にするミチル。ミケーネの遺跡を出た時にミチルを迎えたのは、空の光の異様なことだった。

 

「何、この光……?」

 

 緑色の輝きが、空を覆っている。いや、バードス島目掛けて降り注いでいる。

 それが、何を意味しているのかミチルには理解できなかった。ただ、ひとつだけ理解できたことは。

 このまま走ってもきっと、船に間に合わないということだけである。

 

「みんな、遺跡の中に隠れて!」

 

「えっ?」

 

 何を言っているのか、理解できないという風に調査チームの研究者や学者達は困惑する。

 

「今から逃げても、間に合わない。まだ遺跡の中でやり過ごした方が……生き残る確率が上がるの!」

 

 以前、早乙女博士と弟の元気、それに隼人とパーティに出席した時のことを思い出す。パーティ会場そのものが百鬼帝国の罠で、参加者たちが次々百鬼帝国の道楽で死んでいったあの殺戮パーティ。

 あの時、機転を聞かせて自分たちを生かしてくれたのは隼人だった。今は、チームの仲間達を自分が守らなければならないのだ。

 

「早くして!」

 

 怒鳴るように声を上げるミチルに、チームの面々は危機迫るものを感じて遺跡の奥へと引き返すために走り出した。ミチルも、それに続く。

 ゲッターに何が起きたのかを知るのは、この危機を脱した後でいい。しかし、あの緑色に輝くものがゲッタードラゴンだというのなら、生身であんな光を受けたら間違いなくただでは済まない。

 ゲッター線は人間には無害らしいが、それは通常接種する量の話だ。ゲッター線が本当にハチュウ人類を滅ぼしたものなら、多量に浴びれば人体にもどんな影響があるかわからないのだ。

 

「リョウ君、ハヤト君、ムサシ君……!」

 

 今はせめて、友の無事を祈ることしかできない。

 そして、早乙女ミチルはただ走る。ミケーネの遺跡。その最奥へ。

 走って、走って。息を切らせながら走った。そして……。

 

「何、これ……」

 

 それを、見つけてしまった。

 鋼の巨神だった。全体的な色は赤褐色というべきだろうか。一瞬、そういう石像なのかと思った。しかし、それは明らかに鉄でできていると、近くに寄って見ることで理解する。

 それだけならば、機械獣の残骸と何ら変わりはないだろう。それが異質だったのは、その姿だった。

 大きなツノを持ち、2つの目と、2本の腕と頑強な脚。その姿は細部こそは違うものの、確かに似ていたのだ。

 

「グレンダイザーが、どうしてミケーネに……?」

 

 ふと、その赤褐色のグレンダイザーの近くに、石板があることに気付いた。ミチルはペンライトでその石板を照らし、抱えていたタブレットに登録していた辞書でミケーネ象形文字の翻訳を試みる。

 

「ミケーネの守り神ラーガ……?」

 

 ラーガ。それがこの機体の名前なのだろうか。しかし、疑問が残る。

 

「どうして、ミケーネにグレンダイザーと同じ姿のロボットが。それに……」

 

 どうして、ドクターヘルはこれを使わなかったのか。

 ミチルの額に、冷たい汗が滲んでいた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 アモンは、ゲッタードラゴンの脈動をその腕の中で感じていた。それが何を意味するのかわからない。しかし、とても甘美な誘惑がアモンを襲う。

 

——ゲッターを喰らえ。

 

 そうすれば、お前はゼノンをも越える究極の悪魔になることができる。

 

「俺は……」

 

 デーモン族の勇者アモン。その名前は魔界の至る所に響き渡っていた。デーモン族は元来、群れることを嫌う。互いに殺し合い、喰い合い、そして強きものだけが生き残る阿修羅地獄の世界を生きていたのがデーモン族だ。ゆえに、同胞であっても殺し合うことを常としている。

 そんなデーモン族が地下深くへと眠らなければならない事件があった。宇宙線が突如、降り注いだのだ。

 かつて、デーモン族はハチュウ人類の恐竜帝国、ミケーネ帝国の神々と覇を競い合う存在だった。しかし、その宇宙線はどういうわけか、強すぎる力を持つ恐竜、神々、そして悪魔を諸共に滅ぼすほどの凶悪な熱を発し、瞬く間に地上の環境を変えてしまったのだ。

 そして恐竜帝国やミケーネ帝国が目覚め、人類と戦い敗れている間にもデーモン族は氷の中で眠ることしかできなかった。

 デーモンが目覚めたのは、「声」を聞いたからだ。

 その「声」は言うのだ。ゲッター線……宇宙線はこの宇宙に大いなる災いをもたらすと。

 恐竜が滅び、神が死んだ今、宇宙の静寂を守ることができるのは悪魔しかいないと。

 目覚めよ悪魔よ。ゲッター線に選ばれた種族人類を滅ぼすために。

 その「声」に導かれて……勇者アモンも目を覚ましたのだ。

 しかし、勇者アモンは誰よりも強い悪魔であり……誰よりも悪魔らしい悪魔だった。

 ゲッター線。かつてデーモン族を氷獄へと封じたそれを自らに取り込めば、自分はどれだけの悪魔になれるのか。

 元々、悪魔とは悪魔同士で喰い合い殺し合う生き物だったのだ。今更、魔王ゼノンの命令に叛いたところで……。

 ゲッターを喰う。そんな甘美な誘惑に、アモンは今大きく傾いていた。しかし、その爪をドラゴンへとめり込まれせその機能を喰らおうとしたその時。ドラゴンの繭はまた大きく脈動をはじめた。

 

「ウ、ウォッ!?」

 

 今度の脈は、これまでのそれとは次元が違う。脈を打ったその箇所が焼けるように熱い。その熱が、かつてデーモンを窮地に追い込んだゲッター線の熱……ゲッタービームであることを悟ったアモンは、恐怖に思わずドラゴンの繭を離してしまった。

 

「し、しまった!?」

 

 急速に、落下していく繭を見つめるアモン。

 

「追いついたぜ悪魔野郎!」

 

 後方から、グレートマジンガーとグレンダイザーも迫る。

 

「クソッ!」

 

 ドラゴンをめぐる追いかけっこは、振り出しに戻ってしまった。しかも、今回はよりによってターゲット……ゲッタードラゴンがこの中のどれよりも早い。

 

「大介さん!」

 

「ああ、ハンドビーム!」

 

 グレンダイザーの手から放たれた光線が、背後からアモンを襲う。それを避けたせいで、アモンはグレートマジンガーに抜かされる。

 

「これで逆転だ!」

 

「ふざけるなよっ、人間ども!」

 

 アモンの、イチナナ式を乗っ取った頭部がぐにゃりと歪む。すると、虫の触覚のようなものがにょきりと生えた。触覚がグレートマジンガーの方へ伸び、グレートの足を掴もうとする。

 

「何度も同じ手を食うものか! ニーインパルスキック!」

 

 しかし、グレートはその触覚の動きを華麗に旋回してかわすと、空中でそれを蹴り上げる。

 

「バカめ、かかったな!」

 

「何っ!?」

 

 突如、グレートマジンガーの動きが止まる。

 

「クッ!? コントロールが効かん……!」

 

 動きの止まったグレートは空中で大きくバランスを崩し、落下していく。

 

「これが勇者アモンの超能力がひとつ、電磁触覚よ。貴様はこの触覚の放つ電磁波で、身動きを封じられたのだ!」

 

「鉄也!」

 

「鉄也君!?」

 

 グレンダイザーが、グレートへ向かう。しかし、それを制したのは他ならぬ鉄也だった。

 

「俺に、構うな! 今は、ゲッタードラゴンを……!」

 

 そう。こうしている時にもゲッタードラゴンは、繭の中でゲッター線を蠢かせながら地上へと落下しているのだ。

 

「っ! すまねえ、鉄也!」

 

「おっと、俺を無視できると思うなよ!」

 

 しかし、グレンダイザーを先行させまいとアモンが躍り出る。

 

「何故だ、何故お前達デーモンはゲッター線を求める!」

 

 ハーケンがアモンの拳とぶつかり合い、デューク・フリードが吼えた。

 

「黙れ! ゲッター線は、お前達人間には過ぎた玩具なんだよ!」

 

 アモンの拳から、アイアンカッターのような刃が生えた。イチナナ式を取り込んだことで、マジンガーの装備を編み出せるようになっていた。その刃がハーケンと鍔迫り合い、空中で睨み合う魔神と悪魔。

 

「お前は……知っているのか? ゲッター線が、あのゲッタードラゴンが何をもたらすのか!」

 

「大介さん、何を……?」

 

 デューク・フリードの問いかけに、不審なものを感じる甲児。それを嘲笑うように、アモンは嗤う。

 

「あの力は、宇宙を滅ぼすことだってできる力だ。だがてめえら人間じゃだめだ。我々デーモンが、ゲッター線の素晴らしさをお前達に教えてやるのよ!」

 

「ほう、そいつぁとんだご高説だな!」

 

 その時だった。天高くから光速で飛来するものに彼らが気づいたのは。

 

「その声は!」

 

 歓声を上げる甲児。そして次の瞬間、突如巻き起こった竜巻がアモンを巻き込み襲う。

 

「こ、これは!?」

 

 突如、白い体躯に巨大なドリルアームを持つ鋭利なロボットがグレンダイザーを追い越しアモンへと迫った。

 

「てめえが何者か知らねえが、一緒に降りてもらおうか。地獄へのエレベーターをな!」

 

 その姿は、甲児の知るゲッター2のそれに似ていた。真ゲッター2。先ほど宇宙空間で戦った真ゲッター1で地球へと降下し、僅かな時間でオープンゲット。そして形態を真ゲッター2へと変化させたゲッターロボが、0.01秒を越えるスピードでアモンに取り付いたのだ。

 

「デューク、甲児! お前達は武蔵を頼む!」

 

 弁慶の声と同時、グレンダイザーがゲッタードラゴンへと迫る。

 

「き、貴様ぁっ!」

 

「おっと、お前の相手はこっちだ、プラズマドリルハリケーン!」

 

 隼人の叫びと共に、再びドリルから放たれた竜巻。その台風の目を突っ切る真ゲッター2と、アモン。

 

「こ、これがっ! これが真ゲッターの力だと言うのか!?」

 

 デーモンの勇者アモンに、今までただ一度の敗北もなかった。しかし、今目の前にあるその敵に今、アモンははじめて「勝てない」と思った。

 そして、取り込んだ人間の知識がアモンに言うのだ。逃げるべきだ。撤退を。と。

 それは。

 それは。

 アモンという悪魔にとって生まれてはじめての屈辱だった。

 或いは、人間を取り込み知識などを得なければこのような屈辱を味わうことはなかったのかもしれない。イチナナ式を3体取り込んだことで得たマジンガーと光子力の力を持ってしても、人間の思考が闘争への妨げになるなどアモンにとっては考えてもみなかったことだ。

 

「おのれっ……おのれぇっ!?」

 

 真ゲッター2と共に、勇者アモンはバードス島の大地へと急速落下する。そして、島の大地を巨大なドリルで抉る中に巻き込まれ、アモンは絶叫を上げた。

 

「か……はっ……!」

 

 ようやく解放された時、頑強なその皮膚は己の血と、合体したことで生じたオイルに塗れていた。さらに血を吐き、アモンは立ち上がる。

 

「真ゲッターロボ……今日のところは、勝負を預ける!」

 

 翼を翻らせ、アモンは敗走した。

 

「待てっ!」

 

「いや、リョウ。今はドラゴンだ!」

 

 真ゲッターにとっても、ゲッタードラゴンを不時着させることは急務だった。アモンへのトドメと、ドラゴン。2つを天秤にかけて後者を選択する隼人に諭され、竜馬も拳を引っ込める。

 空中では、反重力ストームを受けたゲッタードラゴンの繭がゆっくりと、バードス島に不時着しようとしていた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 そこは、地獄だった。

 隣接世界。あり得たかもしれないいくつもの世界。これから起こりうる無限の可能性。

 可能性の光が閉ざされた袋小路の世界。

 少女は、その地獄でひとり戦っていた。

 人間は、デーモンとの戦いで滅びた。いや、人間は互いを信じることができず、デーモンという敵の存在を前に自滅の道を辿っていった。

 わずかに残った人間は、デーモンや、ミケーネの神々、そしてハチュウ人類と戦わなければいけなかった。むしろデーモンに身体を明け渡した方が、幸せに死ねたのだろう。と少女は思う。しかし、それでも少女の身体は色白の、生身の人間のままだった。銀色に映る色素の薄い髪と、鋭利な印象の瞳を持つ少女だった。

 少女はしかし、その地獄を生き残るための鋼の身体の中で、身を守っていた。

 生き残った人間は、戦う為に身体をマシンと同化させていった。その方がダイレクトに戦えるようになるからだ。それだけではない。今となっては希少品となってしまったタンパク質も脂質も、水も機械の体になれば必要がない。

 ゲッター線に汚染されていない食糧が、あとどれくらい残っているだろう。と少女は考えて……憂鬱になってやめた。お父さんの友達が経営していたラーメン屋が恋しい。あの味を味わうことはもう、できないのだろう。

 それでも、少女が人の身であり続けるのには、理由があった。

 それは、この鋼鉄の鎧……少女が操縦するスーパーロボットにある。

 このロボットと少女が一つになれば、きっとこの世界でも生きていける。そのくらいの強さを秘めたマシンだった。それでも、少女はこのマシンを、ある人物に託さなければいけない。

 

「もう少し、だよ。頑張って……カイザー」

 

 カイザー。そう呼ばれたマシンは、鋼の拳でたった今ゲッターロボを一機撃ち砕いた。今日だけで、15機のゲッターロボ、30体のデーモン、20機の戦闘獣とメカザウルスを倒している。

 

「お父さんは、必ず助けに来てくれる。だから……」

 

 お父さん。その言葉の響きに少女は胸が締め付けられる思いだった。しかし、夢を見たのだ。ゲッターが目覚める夢を。真ゲッターが覚醒する夢を。ドラゴンの夢を。エンペラーの夢を。

 世界の分岐点が、迫っているのだ。

 その時のため、少女は……兜リサは1人、カイザーで戦い続ける。今となっては唯一の、両親の形見となってしまったこの魔神を操って。

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