兜シローが悪魔と邂逅したのは、甲児達がデーモン……即ち、アモンと名乗る悪魔と戦う数分前のことだった。
光子力空母・剣蔵から出撃した甲児を見送り、シロー自身もいつ出撃してもいいように愛機イチナナ式で待機していた。そんな時のことであった。
「……おかしい。艦内が静かすぎる」
先ほどまで、艦内はスクランブル体制を知らせるサイレンが鳴り、兵士達は皆格納庫の喧騒を奏ていた。それが、シローがイチナナ式に乗り込んでからというものの、それがピタリと止んだ。不自然なほど、急に。
「……なあ、不動。おかしくないか?」
シローは、同僚のイチナナ式パイロットである不動明に通信を試みる。
「……何がだ?」
不動は、シローとは打って変わって落ち着いていた。普段から大人しくて、兵士として前線に出るよりも本を読む方が性に合っていると言っていた不動。しかし、その落ち着き方はやはり、どこかおかしかった。
「……不動?」
不動のおとなしさは、このような泰然自若としたおとなしさではない。不動のおとなしさは、物腰の柔らかい穏やかなおとなしさだ。しかし、今の不動明はむしろ、武者振るいを必死に抑え付ける武人のような……研ぎ澄まされた刃のような鋭さを感じる。
落ち着いているのではない。落ち着かせているのだ。それは出撃を目前とした兵士ならば自然のものかもしれないが、シローの知る不動明という男は、たとえ戦場でも花一輪、小鳥一匹のために身を張り、泣くような人間だ。
今の不動は、違う。
「……どうした、シロー?」
「いや……お前、雰囲気変わったか?」
闘争心が、外に漏れ出ているような人間では断じて無かったのだ。不動明は。
「キ、キキ……」
こんな不気味な笑いをするような男でも、なかった。
「やはり、騙し討ちは性に合わんな!」
そう言って、こちらに向ける猛獣のような目。不動明ではあり得ない目。
猛獣の方がまだ、優しい目をするだろう。今の不動明の目は、そんな生易しいものではなかった。
憎悪だろうか、嫉妬だろうか、嫌悪だろうか、侮蔑だろうか、それとも憐憫だろうか。もしかしたら、歓喜なのだろうか。違う。根本的に違う。もしそれらの感情が正しかったとしてもシローが知る、或いは想像するあらゆる感情が、そんな目を人間にさせない。
その目は、人間がしていい目では無かったのだ。
「ウ…………!」
仲間の異変に只ならぬものを感じ、シローは同じく同僚のパイロット、牛久に通信を試みる。
「牛久! 不動が!?」
しかし。
牛久の乗るイチナナ式のコクピット映像がシローに示すものは、牛久の形をしながら牛久ではないものだった。
「ああ、兜……。ニンゲンは、うまいな」
ニタリ、と正気の死んだ目で語りかける牛久。いや、牛久などであっていいはずがない。絵画が好きで、退役したら軍の年金を元手に画家の勉強をしたいと言っていた牛久。その牛久が、焦点の合わない目で語りかける。しかし、その棒読みのようなそれは人間の声というよりも、人間の声に似せた音のようだった。
牛久の喉を使って、誰かが楽器のチューニングしている。そんな印象を受ける。
「う、牛久……不動……」
この時、兜シローは理解してしまった。
なぜ、突然静かになったのか。
なぜ、一向に出撃命令が降りないのか。
みんな、みんな悪魔に乗っ取られてしまったんだ。
悪魔。シローは昔兄・甲児と共に見た映画で、悪魔に憑かれた人間が豹変してしまうという内容のものを鮮明に覚えていた。だから、今の豹変した不動や牛久を、悪魔が取り憑いたと直感的に感じた。
そして、それは正しかった。
「シロー……お前は他の人間より心が強いのだろうな。合体を精神力で無意識に跳ね除けていたか」
「な……に……?」
「だとしたら、お前には死んでもらわねばな!」
そう、不動の姿をした悪魔が声高に叫んだ。それと同時、剣蔵の乗組員達が一斉に格納庫へと雪崩れ込んできた。
艦長や副長。整備兵、軍医。みんな、みんなシローと家族同然にこの艦で過ごした仲間達だ。仲間達……だった。
それが皆、一様に焦点の合わない目でこちらを見ている。それらが一斉に、シローを見た。そこにある邪悪な視線を一心に受けるシロー。
「み……みんな……」
みんなが、一斉に溶け始めた。目の前で肌がぐにゃりとゴムのように曲がって、ぶよぶよとした肉の塊になった。肉塊は、くねくねと膨張と収縮を繰り返して牛久の乗るイチナナ式へと寄り集まっていく。ぐちゃり。と音を立てて、イチナナ式の無表情であるはずの顔に牙が生え、口が開いた。そして、そのままより集まった肉塊は吸い込まれるようにイチナナ式の口の中へと入っていく。それを、ぐちゃ、ぐちゃ、ばき、という咀嚼音を以ってイチナナ式は喰らっていく。
「あ……あ…………」
シローは、恐怖と混乱の中で必死に、冷静に自らのイチナナ式のビームマシンガンを抜いた。しかし、ロックが外れない。何度試しても、エラーを吐き続ける。
「どうして、どうしてだよ!」
「知りたいか?」
叫ぶシローの耳元で、そんな声がこだました。それが、どこから聞こえたのかを理解して……シローは青ざめた。
声は、シローの愛機であるイチナナ式からしたのだ。
「あ……」
悲鳴も出ない恐怖。それが、シローを支配する。自分の愛機であるイチナナ式。甲児、鉄也と共にドクターヘルと戦った愛機がまさか、知らぬ間に悪魔に取り憑かれていただなんて。
「う……嘘だ……嘘だぁっ!?」
必死にコクピットを開けようとしても、開かない。悪魔に支配されたイチナナ式は、既にシローのコントロールを離れている。
それは、つまり。
今自分は、悪魔の腹の中にいるということに他ならなかった。
「ククク……」
「キキキ……」
不動の姿をした悪魔と、牛久の姿をした悪魔の声が響く。いやだ、死にたくない。このままあいつらのように悪魔にもなりたくない。
助けて、アニキ。
そう、言葉が喉元まででかかった。そう思った瞬間、シローの胸の奥に熱いものが込み上げてきた。
アニキは。兜甲児は。
こんな窮地を何度もくぐり抜けてきた。
マジンガーZと共に。いや、たとえマジンガーZがなくても甲児はきっと戦い抜く。そうして自分を守り続けてきてくれた。それは鉄也や、竜馬、隼人、武蔵達だって変わらない。
だから、戦わなければ。
自分は、兜甲児の弟なんだ。
兜甲児にできて自分にできないことなんて、あるものか。
「……やるなら、やれよ」
恐怖と混乱を押しのけて、シローはそう口にする。
「お前ら悪魔にやれるもんなら、やってみろ! 男・兜シローを殺せるもんならな!」
正直、打つ手は何も浮かばない。それでも、啖呵を切らなければ。それが、兜の血だ。
敬愛する祖父と、尊敬する兄が教えてくれた生き方だ。
イチナナ式のコクピットのモニタに、不気味な生き物が映った。まるでホラー映画のワンシーンのように、それは……悪魔はゆっくりとモニタからこちらを睨むようにして、ゆらり、ゆらりと近づいて、少しずつ、少しずつ画面から這い出ている。狭いコクピットの中で、シローに逃げる場所はない。咄嗟に、護身用の拳銃を取り出してそれに……悪魔に銃弾を一発、撃ち込んだ。
ドン、という音とともにそいつの頭は弾ける。気持ち悪い緑色の血と肉が、コクピットに飛び散った。しかしみるみるうちに、まるで逆再生のビデオのようにその肉片は元の姿に戻っていく。
「悪魔め……!」
シローはもう一発、撃ち込もうとした。しかし、できなかった。
「ア……」
身体が、動かない。まるで金縛りにでもあったかのように、指一つ動かせない。それが悪魔の能力なのだろう。と脳は理解する。しかし、どうすることもできない。
死ぬ。このまま悪魔の腹の中で、愛機を凌辱されながら惨めに食い殺される。そう、思った。
「クソ……クソ……」
動け。動かない。動け。動かない。動け。動かない。動け。動かない。動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け。何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もシローは念じた。しかし、指は動かない。このままでは死ぬ。殺される。食われる。そんな恐怖と狂気と混乱と絶望と戦いながら、ゆっくり、ゆっくりとそれは……悪魔はこちらへ近づいてくる。そして、
目が、合った。
目線の合った悪魔は恐怖と絶望の中に立たされているシローの顔を見て、ニタリと笑った。
「あ、ああ……」
やはり、自分では。アニキのようにはなれないのか。そんなことを一瞬、思った。それと同時に、ある女の子の顔が浮かんだ。
「ローレライ……」
ローレライ。シローの初恋の女の子。その正体はロボットで、マジンガーZと戦うことで生みの親である父の優秀さを伝えようとして……敗れ、死んだ。そんな悲劇の少女。
もう、振り切ったと思っていた。だけど、死の間際にその花のような笑顔が浮かんでしまった。
「ローレライ……ぼくももうすぐ……行くよ……そうしたら……」
今度こそ、一緒に。そんなことを、思ってしまった。
それは、紛れもなく。
兜シローという少年の、敗北だった。
だが。
だが、しかし。
運命はまだ、兜シローに残酷な未来を見せるのであった。
彼はまだ、戦わなければならなかった。
たとえ、愛機を。
イチナナ式を失っても。
兜シローの戦いの未来は、これから始まるのだから!
突如、凄まじい熱が格納庫で広がった。それがゲッター線の光であると、シローは知っていた。
「な、なんだ!?」
「どけよ悪魔ども!」
瞬間、シローのイチナナ式をノコギリの刃のようなものが削る。キュィィィィィンという音はまるで、拷問のようにも感じられ、シローの眼前の悪魔は突如、苦しそうに呻いた。
その瞬間、シローの身体は自由を取り戻す。
「今だっ!」
もう一発、拳銃を撃ち込むとシローはそのまま強引にコクピットハッチを開ける。
そこには、黒いゲッターロボがいた。
「待たせたな、シロー! とっととずらかるよ!」
そして、ゲッターからはよく知る声。
「もしかして……元気なのか?」
「ああ! 早乙女元気とブラックゲッター、ダチの危機に参上だぜ!」
シローがブラックゲッターと呼ばれた黒いゲッターロボの手に飛び乗ると、ブラックゲッターはそのままマントを翻して格納庫から飛び降りる。
「逃げる気か!」
不動の姿をした悪魔が、吠える。
「てめえらを皆殺しにするのは、次の機会にするぜ。あばよ、悪魔ども!」
そして、高速で離脱していく黒いゲッターロボ。
「アモン、追わないのか?」
牛久の姿をした悪魔が言う。
「オレ達の目的はあくまでドラゴンだ。そのための身体を手に入れるためにここを襲ったに過ぎん。雑魚に構う必要はない」
アモンと呼ばれた……不動明の姿をした悪魔は冷酷に嗤った。
「行くぞ、お前達。悪魔王ゼノンから受けた使命を果たす時だ!」
…………
…………
…………
「なるほど、そんなことがあったのか」
バードス島に不時着した兜甲児は、考古学者達の船舶を借りて新光子力研究所並びに早乙女研究所とコンタクトを取っていた。ミケーネの遺跡。その真上に落下したゲッタードラゴンは、そこで繭を再び成長させているのか沈黙を守っている。また、真ゲッター2がドリルで掘り進めた先でミチルらと遭遇したらしく、ゲッターは地上に戻ってきた時早乙女ミチル以下30名の考古学者達を連れてきた。
そして新光子力研究所には既にシローと元気がおり、先ほど戦った悪魔……デーモン族のことをお互いに情報交換していた。
「アニキも、あいつらと戦ったのか……」
「あいつらっていうか、あいつだな。3機のイチナナ式が融合して、ひとつのバカでかい悪魔になったんだ」
おそらく、そのうち一機はシローのイチナナ式だったのだろう。そう甲児は推測したが、その件については触れないことにした。
シローが、見るからに憔悴していたからだ。
無理もない。自分だって、マジンガーZが悪魔の手先になった末に溶けて消えてしまったら落ち込むなんてレベルの話ではないだろう。問題は、それよりも。
「次々と、多くのことが起き過ぎている。一度情報を整理すべきだな」
甲児の隣に座ってた鉄也が言う。
「そうね…」
画面越しのさやかが、顎に手を当てるような仕草をしながら思案していた。
「まず、大介さんだ。どうして地球に戻ってきたんだ?」
また会えたのは嬉しいけどよ。と甲児が付け加えつつ、デューク・フリード……またの名を宇門大介に訊く。
「…………」
一堂の視線が、大介に向いた。
「僕と妹マリアはフリード星復興のために、母星へと帰った。そして、フリード星は以前ほどではないにせよ、人の営みが栄える星へ成長していった。だが……」
そこで大介は、デューク・フリードは一旦言葉を切る。そして、視線を竜馬たちゲッターチームに向ける。
「ある時、マリアが夢を見たんだ。巨大なゲッタードラゴンが、フリード星を滅ぼす夢を」
「……何だと?」
かつてゲッタードラゴンの操縦を務めていた竜馬が、眉間に皺を寄せる。
「最初は、僕も地球恋しさでそう言う夢を見るようになったんだって笑ったさ。だけど、ある日……グレンダイザーが、僕に同じイメージを見せた」
「グレンダイザーが?」
と、鉄也。一堂は神妙な面持ちでデュークの話を聞いているが、まだ半信半疑というようだった。無理もない、と大介は思う。しかし、ひとつ頷いて話を続けた。
「グレンダイザーは、フリード星の守護神。フリード王家の者しか乗る事が許されない魔神だ。そのグレンダイザーが、僕に見せたイメージ。無視はできなかった。そして……フリード星にヤツが来たんだ」
「……ブライか」
隼人の呟きに、デュークは頷く。
「ブライは、僕に協力を持ちかけてきた。共にゲッターを倒そう、と。まるでグレンダイザーが見せたイメージを知っているかのような口ぶりだった。僕がそれを断ると、ブライは地球へ向かうと言い残して去っていった。僕は……地球にブライが迫っていることを告げるために。そしてゲッターの脅威を見極めるために再び、地球へ来たんだ。だが……」
「地球を目前にブライと交戦になり、囚われていたというわけか」
弁慶が納得したように呻いた。
「だが……解せねえな。なんでグレンダイザーは、ゲッターを脅威に?」
甲児も腕を組む。大介の言葉を信じはしているようだった。しかし、納得はできていないという風でもある。だが、甲児はアモンとの戦いで大介……デュークがゲッターに何か執心していることを感じていた。
「わからない……だが、みんなも見ているだろう。現にゲッタードラゴンはまるで生物のように繭を作っている」
「繭……か。幼虫が成虫になるための準備期間、繭の中で体組織をドロドロに溶かして成虫の身体を作るための揺り籠だ」
そんな隼人の言葉に、ドロドロに溶けた武蔵を想像して竜馬は苦い顔をする。その繭が成虫になった時、武蔵はどんな姿をしているのか。想像するだけでも、恐ろしい。
「……そのドラゴンの繭を奪うために、デーモン族が現れた」
話が停滞するのを危惧してか、鉄也が続けた。デーモン。西洋の悪魔。その名を冠するものが、一堂の前に姿を現した。
「シローの話を聞く限り、奴らはヒトに取り憑き、メカとも融合できるみたいだな。厄介な奴らだぜ」
と、甲児。
「デーモンの勇者アモン……相当な強さだった。だが、次は負けん」
鉄也が言う。
「しかしよ、デーモンはなんでドラゴンが繭の姿になってるって知ってたんだろうな」
「アモンが言っていた悪魔王ゼノンとやらは、もしかしたら予知能力か何かがあるのかもしれねえな」
弁慶と隼人が続ける。少なくとも、デーモンに関してはわからないことの方が多い。
「それだけじゃない……ミケーネの遺跡に眠っていたラーガも、問題よ」
ずっと黙っていたミチルが、口を開いた。
ラーガ。赤褐色のグレンダイザー。フリード星の守り神であるはずのグレンダイザーが何故、地球の古代ミケーネにあるのか。
「……ブライは、ミケーネや恐竜帝国、それに人間のルーツが同じものである可能性を指摘していたな。そして、アモンはミケーネと恐竜帝国、そしてデーモンは太古の昔から戦い続けていたとも」
ずっと、鉄也はその言葉が気になっていた。
「フリード星人と地球人の姿があまりにも似ているのが偶然ではない。そうも言っていたな」
デュークが続ける。
「……だとしたら、ラーガとグレンダイザーが地球人とフリード星人のルーツが同じであるという証拠なのかしら」
ミチルが呟く。誰も、その呟きに答えを持ってはいなかった。
結局のところ、謎が多すぎる。そして、その答えを誰も持っていない。
「チッ、ブライの奴め。肝心な事は勿体つけて言わねえまま死にやがって!」
ブライにトドメを刺した竜馬が悪態を吐いた、その時だった。
「ドラゴンを……ドラゴンを解析するんじゃ」
沈黙を守り続けていた早乙女博士が、呻くような声を上げたのは。
…………
…………
…………
あの時。早乙女博士は、落下するドラゴンの中から武蔵の声を聞いていた。
聞いていた。という表現は正確ではない。早乙女博士は、繭を作り落下するドラゴンを観測しながら、その息吹を感じていたのだ。
『早乙女博士……』
その息吹は、武蔵の声をしていた。
『武蔵……武蔵! 無事なのか!?』
身を乗り出し、大声を上げる早乙女博士。しかし、研究所の所員達は武蔵の声が聞こえていないのか。博士の豹変に動揺するばかり。
「博士!?」
「どうしたんですか!?」
「お前達には……お前達には聞こえんのか? 武蔵の声が!」
驚愕の表情を浮かべながる早乙女博士。これは幻聴なのだろうか。大事な、家族同然に過ごした仲間達を死地へ送り込み続けてとうとう、自分は発狂したのだろうか。そんな人間的な理性が、早乙女博士に自問させる。
答えは、否。
なぜなら、武蔵の声は確かに今も響いているのだから。
『博士……心配しないでください』
「武蔵……君は……」
『俺は……ドラゴンは死にません……』
「武蔵……生きておるのだな」
『見えます……』
「何が……」
『見えるんですよ……』
「何が見えると言うのだ……」
『新しい世界が!』
新しい世界。武蔵は確かに、そう言った。
それは。早乙女博士が本当に見たかった世界なのかもしれない。僅かな期待が、早乙女博士の全身に駆け巡った。
ゲッター線を発見した時、早乙女博士はその宇宙線が放つ膨大なエネルギーを持ってすれば、世界中のエネルギー問題が解決するだけでなく人類は宇宙へのさらなる飛躍を可能にする。そんな夢を見た。
宇宙へ出て、さらなる繁栄と発展を。宇宙進出のための最先端。それがゲッターロボの最初の開発目的だった。
だが……ある時、早乙女博士は自然界で起きている異変に気付き、ハチュウ人類の侵略を察知した。
その日からだ。早乙女博士の人生が狂ったのは。
ゲッターロボは急遽戦闘用に改造され、ゲッターのパイロットは優秀なだけでなく、戦闘能力までも要求された。無慈悲に敵を殺す迷いなき戦士が、求められた。
若き戦士をそう育てるために、自らの手でハチュウ人類の手先と化した息子・達人に手をかけた。
本当は、戦いなどしたくなかったのに。
それでも、早乙女博士の先に待っているのは血塗られた阿修羅地獄だけだった。
その地獄の果てで……何かが起きている。
それを解明する鍵は、繭となったドラゴンにある。
ドクン。早乙女博士の胸が、大きく高鳴った。
「ドラゴンを……ドラゴンを……」
ドラゴンの繭を、孵す。それが、それこそが。この混迷する事態を解決に導くものである。
早乙女博士は、そう確信していた。
…………
…………
…………
早乙女博士の豹変ぶりに、一同は只ならぬものを感じていた。普段から厳しく、それこそ竜馬達からすれば鬼のような人物だった。しかしその厳しさの中には、常に本来の優しさが見え隠れしていた。優しいが故に非情に徹していたのがマッドサイエンティスト・早乙女博士の正体だと、竜馬達は理解していた。
それが、どうだ。今の早乙女博士は。
「博士……あなたは疲れている」
隼人が諭すように言う。
「そうだぜ、ジジイ。今はとにかく眠るんだ……」
口では悪態を吐くが、竜馬も同様だ。
「…………」
しばらく、早乙女博士は無言だった。
「……とにかく、ドラゴン調査班を編成してそちらへ向かう」
そう言って、早乙女研究所は通信回線を落とした。
「……早乙女博士、相当参ってるみたいだな」
「ああ。甲児は知らないかもしれねえが、博士は自分の手で恐竜帝国に操られた息子を……達人さんを殺してるんだ。武蔵の件で、それを思い出しちまったんだろうな」
竜馬が言う。その場には竜馬とミチルも居合わせていた。幼い元気がいなかったのが不幸中の幸いだと思う。竜馬にとっても、苦い思い出だった。
「達人兄さんは、お父様の助手でもあったの。いい兄さんだったわ……」
ミチルも続ける。
「……とにかく、みんなボロボロだし一度新光子力研究所に戻って頂戴。具体的な対策は、それからにしましょう」
そういってさやかが締め、緊急会議は終了した。
…………
…………
…………
どことも知れぬ闇の中で、勇者アモンは苦しんでいた。ゲッターにつけられた傷が痛むのではない。デーモン随一の再生力を誇るアモンは、細胞に細胞が集まるように傷を塞ぎ、瞬く間に完治している。
「グッグォォォォォ……」
痛いのは、苦しいのは身体ではない。
「何故だ、何故悲しい! 何故こんなにも、悲しくなっているんだ!」
痛いのも、苦しいのも心だ。
心。デーモンにはあり得ないものに、勇者アモンは苦しんでいた。
『アモン、お前は俺と合体したことで、弱点を手に入れちまったみたいだな』
アモンの中で、声がする。
それはアモンの声ではない。しかし、アモンの姿をしている。
『誰だ……貴様は、誰だッ!?』
『お前は俺を喰ったつもりかも知れねえが、どうやら逆だったのかもしれねえな。俺の名は……』
激痛に悶えながら、勇者アモンはその名を叫んだ。
『ふど、う……不動明!?』
不動明。己が取り込み、寄生したはずの人間の名前を。