早乙女研究所へ帰還した竜馬は、激しい疲労感に襲われていた。竜馬だけではない。隼人も、弁慶も相当に疲労していた。
真ゲッターロボの操縦は、パイロットの精神力を大きく消耗する。常人が耐えられない重力、衝撃。光速でゲットマシンを分離合体を繰り返させ、状況に合わせたゲッターへ変形させる判断力も要求される。
何より、三人の息をぴったりに合わせなければない。そんな機体にはじめて乗って、その上で連続での戦闘。いくら竜馬達がタフと言っても限度がある。
「ふぅ……」
竜馬は、自室のベッドの上に倒れ込むと、そのまま食事も取らずに眠りについていた。
こんなに疲れたのは、いつ以来だろう。はじめてゲットマシンに乗った時だろうか。それとも、百鬼帝国と決着をつけたあの戦いだろうか。いやこんな疲労感は生まれてはじめてだ。
深い、深い微睡みが竜馬を襲う。もし、今敵襲があったら起きることができるだろうか。
繭へと変貌したゲッタードラゴンと、武蔵のことを思った。武蔵は、生きてはいないだろう。しかし、まだ実感が湧かない。ドラゴンの、異様な変化のせいだろうか。もしかしたら、あのドラゴンの中で武蔵は……。
しかし、思考がまとまらない。隼人や早乙女博士なら、答えを出すことができるのだろうか。いや、あの早乙女博士の様子では……。
そこまで考えて、だけどそれ以上考える間も無く、竜馬の意識は現実から遠のいていく。
「…………」
深い、深い眠りの中。竜馬は声を聞いた。
『……ジ』
どこかで、聞いたことがある声な気がした。
いや、いつも聞いている声かもしれない。
その声は、強く、深く、激しい声色をしている。
竜馬は、夢を見ているのだと気づいた。それは、視界の中に広がっていた闇の深さが瞳を閉じた時の全てを覆い隠すような闇ではなく、どこまでも先へ行けそうな星の輝きに満ちた宇宙の闇だったから。
しかし、同時に宇宙は、喧騒に包まれていた。光の姿が爆発や、銃撃、ビーム。相手を滅ぼすための光であることに気づいて竜馬はその夢に只ならぬものを感じた。
夢と呼ぶには、現実感がありすぎる。現実感に満ちた、不可思議な光景。その中心ある巨大な赤い戦艦……おそらく、宇宙戦艦だ。そう竜馬が思ったものに昆虫のような姿をした兵器達が近づくだけで燃えて、弾けて、消えていく。
「なんだ……これは……」
『全艦隊で惑星ダウィーンを守れ!』
そんな声が聞こえる。しかし、宇宙戦艦の艦首……いや、口から放たれた光が線を描くと同時に数多くの虫メカが消滅していく。
「あれは……」
見間違えようもなかった。
竜馬が見間違えるなど、あり得なかった。
あれは、ゲッタービームの光だ。
真ゲッターロボなど比較にならない出力だった。しかし、はっきりとわかる。
なぜなら、虫メカ達の蒸発の仕方は、竜馬が何度も見てきたメカザウルスや百鬼獣と同じだったからだ。
赤い戦艦を、竜馬は凝視する。間違いない。それはゲッターロボだ。ゲッターの頭部を模した造形をした艦首から放たれたゲッタービームが、虫型ロボットや戦艦を悉く消滅させてきた。それに続くように、ゲッター2に似た艦首を持つ白い戦艦と、ゲッター3に似た黄色い戦艦が並ぶ。
竜馬は、理解した。
あれは、ゲットマシンだ。
だとしたら。
だとしたらゲッターロボはどこまで強大になっていくのだろうか。
夢の中で、その光景を見ながら竜馬は戦慄する。ただただ、ゲッターの強さに。それが、宇宙に住む者達に牙を剥いているこの光景に。
『ゲッターチェンジをさせてはならん! 全軍突撃!』
無駄だ。近づくだけで昆虫メカ達はゲッター線に焼かれて蒸発していく。それがなぜか、竜馬にはわかる。そして、その通りになった。
3つのゲットマシンが、垂直に並ぶ。それが、何を意味することか竜馬にはわかっていた。
「や……」
やめろ。そう、叫ぼうとした。しかし、その声は宇宙を切り裂くような絶叫に掻き消される。
『チェェェェンジゲッターエンペラァァァァァァァッ!?』
宇宙を震撼させる、その声は。
竜馬の知る声だった。
「あれは……」
ゲッターチェンジが、始まる。動くだけで命を潰していくその巨体が、一つになっていく。
そして、漲る闘志のままにゲッターを操るその声は。
紛れもなく、流竜馬のものだった。
…………
…………
…………
「ッ!?!?」
そこで、竜馬は目を覚ました。
「今のは……」
宇宙で起こる戦争。侵略者となったゲッター。そしてそれを操る自分自身。
真ゲッターの操縦で、ハイになっていたのだろうか。今になって強烈な吐き気が、竜馬を襲う。
「ウッ……」
しかし、何も食べずに眠りに落ちた竜馬の胃からは何も出ては来なかった。ただ、気持ち悪さが竜馬の強靭な肉体を支配する。
隼人や弁慶も、同じような症状に陥っているのだろうか。それとも、自分だけだろうか。竜馬はこの気持ち悪さをどうにかしたくて、洗面所へ向かう。鏡に映る顔は、どこかやつれているような気がした。
「一回乗っただけで、竜馬様がザマねえな……」
ひとりごちて、顔を洗う。冷たい水の感触が、気持ちよかった。そして、タオルで顔を拭いもう一度鏡を見ようとして、動きが止まる。
「…………」
後ろに、気配がした。
いるはずのない人間の気配だ。
空手の達人である竜馬は、気配だけで背後の人間が誰か大方予想がつく。そしてその気配は竜馬の記憶しているそれと同じだったならば、あり得てはいけないのだ。
なぜなら、その気配は。
「達人さん……?」
もう、いない人の気配だったのだから。
じわり、と脂汗が額に滲む。心なしか寒気がする。それが、この現象と無関係とは思えない。だが、幽霊? 今更早乙女達人の幽霊が現れるとでも言うのだろうか。
「…………」
背筋が、凍りつく。気配が、近づいてくる。
ひたり。ひたり。
コツン、コツン。と小さな靴音が静かな部屋に響いている。あり得ない、幽霊の足音が。
「……達人さん、なのか」
恐る恐る、竜馬は口を開いた。
「……来る」
達人の、声な気がした。しかし、達人ではない気もした。
一体、誰だ。そして、
「何……?」
気配は、声は。何かを伝えようとしていた。
「敵が、来る……」
「敵……?」
それは、デーモンか。そう問おうとして竜馬が振り返った時。気配は霧散し、もうそこには誰もいなかった。
「…………何が、起きているんだ?」
そう呟いたと同時、サイレン音とミチルの声が竜馬の部屋に響く。
「リョウ君、バードス島で異常事態が発生。ドラゴンの繭が巨大化しているわ!」
「何だと!?」
繭の巨大化。敵を告げる達人の幽霊。それにあの……ゲッターエンペラーの夢。
何かが起こる。そんな予感に竜馬は、戦慄していた。
…………
…………
…………
新光子力研究所からグレンダイザーとダブルスペイザーが出撃した時、既にドラゴンの繭は落下時よりも3倍以上に膨れ上がっていた。
「これは……」
グレンダイザーは、百鬼帝国との戦いで大きなダメージを受けていた。しかし新光子力研究所の設備で修復を受け、万全の状態まで回復していた。
元々、甲児にとってグレンダイザーには謎が多かった。遠い宇宙の彼方、フリード星のメカであるグレンダイザーはしかし、各部にマジンガーと共通する技術が使われている。
勿論、全く同じというわけではない。理論の多くは甲児にも理解が及ばないものだ。しかし、それでもマジンガーのメカニズムがこうして修理の際に流用できる。
どうしてそんなことができるのか、甲児は勿論、宇宙科学研究所の宇門博士や、弓教授にもわからない。技術体系が偶然近かったのだろう、と結論づけるしかできなかった。
そして今、グレンダイザーとマジンガーの共通点と同じかそれ以上に原理のわからぬ現象が起きている。
「ゲッタードラゴンが……」
巨大化した繭は、ゲッターロボの貌を形作っている。まるでイースター島のモアイのように、巨大な顔が浮かび上がっていた。
それが、3つ。
ゲッタードラゴンのような貌。
ゲッターライガーのような貌。
ゲッターポセイドンのような貌。
それはまるで、ドラゴンを構成する3つのゲットマシンが意思を持って成長しているように甲児には見える。
「……甲児君、君はどう思う?」
眉間に皺を寄せながら、険しい顔のデュークが訊く。
「わかんねえ。わかんねえけど、ゲッターがまるで……」
自らの意思で何かを起こそうとしている。そんな予感はたしかにした。
「甲児、デューク!」
すぐに、早乙女研究所から真ゲッターが飛来する。真ゲッターとダブルスペイザーとドッキンングしたグレンダイザーは、他のロボットの追随を許さないスピードで日本からバードス島まで飛び出したのだった。
グレートマジンガーとブラックゲッターは、待機している。明確に敵が現れたわけではない以上、次なるデーモンの襲撃に備える
ために鉄也と元気は日本に残っていた。
「これは……」
ドラゴンの変化に、隼人は目を奪われる。その禍々しい繭の成長に。
「お、おい隼人、竜馬……」
「ああ、ドラゴンはどうなっちまってるんだ……」
ゲッターと10年付き合ってきた彼らも、理解の及ばない変化。竜馬の脳裏にはあの夢で見た巨大なゲットマシンの姿が過ぎる。
「……エンペラー」
「竜馬君?」
怪訝そうにデュークが聞き返す。答えに窮する竜馬。その直後だった。
突如、耳を裂くような強烈な音波が5人を襲う。キィィィィィンというその音のする方を、デュークは見た。
「クッ……あれは!」
巨大な、顔だった。長い髪をもち、その広い面積の半分を目と口が占有する不気味な顔。人間ならばあり得ないその姿はしかし、手足がついているのでギリギリ人型を止めていた。
「あれは、デーモン……!?」
グレンダイザーは、咄嗟にハンドビームを撃った。しかし、見えない何かによってビームは曲がり、巨大な顔に届かない。
そして、その直後背後から無数の巨大な奇形達が姿を表した。
「こいつらはっ……全員、デーモンか!」
デーモンに合体された機動兵器。さやかによって「メタルビースト」と名付けられたそれらは狂気を孕んだ目でグレンダイザーと真ゲッターに向かっていく。
「竜馬!」
「ちょうどいい、こっちはむしゃくしゃしてたんだ。バトルウィィィング!」
竜馬が叫び、真ゲッターロボはその翼を大きくはためかせた。
その翼で迫り来るメタルビーストを切り裂き、真ゲッターは進む。
「オラオラオラァッ!?」
戦いながらも竜馬の脳裏には、一抹の疑念が湧いていた。
——あのドラゴンは何だ?
——デーモンとは何だ?
——あの夢で見た光景は、何だ?
悩むなんて性に合わない。悩んだところで答えなどでない。それでも。あの夢の中で聞いた竜馬自身の声が、まるで竜馬の未来を暗示しているかのようで。竜馬の思考を鈍らせる。
「どうした竜馬、動きがコンマ1秒ずれてるぞ?」
その思考の曇りが、竜馬の戦いまでもを鈍らせる。たちまちメタルビースト達は真ゲッターロボに取りつき、その牙で、その爪で真ゲッターを襲った。
「こ、こいつらゲッターを喰う気だぜ!?」
弁慶が驚愕する。
「キャベツじゃねえんだ。そう簡単に喰われてたまるか! ゲッタァァァビィィィムッ!」
それをしかし、真ゲッターはものともしない。だが、他勢に無勢。
「竜馬、ゲッター3だ。海中で奴らを迎撃するぞ!」
「おう、任せるぜ弁慶! オープンゲット!」
直後、3機のゲットマシンに分離した真ゲッターはそのまま垂直に降下。そして海面ギリギリで再び合体する。
その姿は、筋肉質な真ゲッター1や、シャープな真ゲッター2とも違う巨体。見るものに威圧感を与える巨大な腕を持つ重戦車。真ゲッター3は、海中に潜ると海の中から無数のゲッターミサイルを放ちメタルビースト達へ撒き散らした。凝縮したゲッターエネルギーの塊であるゲッターミサイルに命中したメタルビーストは、ゲッターエネルギーとデーモンとしての生体部分が融合し、そして膨張。たちまち爆発していく。
「へっ、さすが真ゲッター3、パワーと火力は真ゲッターの中でもピカイチだぜ」
「油断するな弁慶! 次が来るぜ!」
「おう任せろ!」
おそらく、潜水艦と合体しているのだろう巨大な深海魚のような姿のメタルビーストが、真ゲッター3に迫った。しかし、真ゲッター3の口元から発生した竜巻に巻き込まれ、メタルビーストはたちまち空へと飛ばされる。
「ゲッターサイクロン! さあ、トドメはお前だ竜馬!」
「任せろ! オープンゲット!」
再び、真ゲッターがゲットマシンへと分離し空へ。空中で真ゲッター1に合体して、竜巻から離脱したメタルビーストへと迫る。そして、ゲッタートマホークを一振りし、メタルビーストを両断した。
「来るならきやがれ悪魔ども! 俺は今、暴れたくて仕方ねえんだ!」
流竜馬は、本質的に兜甲児や剣鉄也とは違う人間だ。それは神隼人も、車弁慶もそうだ。
竜馬は、戦いなしでは生きられない。
平和を愛し、人の命を守ることに使命感も感じている。それでも、流竜馬にとってその「平和」や「守るべき命」の中に自分という存在は勘定に入っていない。
あるのはただ、それらを脅かすために無法を振るうものに、さらなる無法を。
自らの命果てる時まで戦う以外の人生など、竜馬という男には考えられなかった。それが、28歳の流竜馬だ。
だからだろう。もし、もしも。あの夢が現実に起こるのだとしたら。
ゲッターエンペラーを操縦し宇宙を巻き込む無限の闘争へと旅に出てしまう自分の姿を、竜馬はこれ以上なく想像できてしまうのだ。
そして、その姿は。
今まさに竜馬と敵対し真ゲッターを、ドラゴンを奪おうとするデーモンの姿そのものではないか。
悪魔よりも悪魔らしい。そんな自分の闘争本能に怖気が走る。
それでも。
だとしても。
流竜馬には戦い以外の選択肢など存在せず、今目の前で起きているこの殺戮に、歓喜の血を滾らせてしまうのだった。
…………
…………
…………
「 スペースサンダー!」
一方、グレンダイザーもダブルスペイザーとスペイザークロスし、ドラゴンの繭を防衛していた。あの繭が将来、フリード星を滅ぼす可能性を恐れながらも、デューク・フリードは目の前の脅威と戦っている。
グレンダイザーのお告げに見た巨大なゲッターが、デーモンと合体して悪魔となったゲッターロボであるという可能性も否定はできない。それはつまり、ゲッターを狙うデーモンは地球だけでなく、フリード星にとっても脅威ということになる。
「大介さん! あいつ!」
ダブルスペイザーのコクピットから甲児が、デュークに映像を回す。この戦いに乗じてハンドビームを防いだ巨大な顔を持つデーモンが、バードス島へと上陸していた。
「メタルビーストは、囮か!」
「俺が行く!」
「わかった、スペイザー・オフ!」
デュークの宣言と同時、ダブルスペイザーと分離したグレンダイザー。その隙を狙い迫る巨大な首を持つ……恐らく猛獣か、機械獣の残骸とでも合体したデーモンが、ダブルスペイザーへ迫った。
「させるか! スクリュークラッシャーパンチ!」
瞬間、グレンダイザーの左腕が飛び、そのメタルビーストを貫く。
「甲児くん、君はあのデーモンを追ってくれ!」
「わかった、大介さん。無茶はしないでくれよ!」
ダブルスペイザーへ向かうデーモンを牽制しつつ、グレンダイザーは多数のメタルビーストの前に立ちはだかる。
「さあ来い悪魔ども! このグレンダイザーが相手だ!」
デューク・フリードにとって、地球は第二の故郷だ。宇門大介という地球名を、デュークは今でも大事にしている。
その地球が、未来にフリード星の敵になる。そのグレンダイザーが示した未来を変えることこそが、デューク・フリードの使命だった。
だが地球に来てから彼を待っていたのは、その未来を決定づけかねない光景ばかりだった。
復活した百鬼帝国のブライ。繭へ変化するドラゴン。圧倒的な力を持つ真ゲッターロボ。そして、ゲッターの力を狙う悪魔・デーモン族の存在。
「僕は……」
デューク・フリードは思い出す。かつての敵を。ベガ大王率いるベガ星連合軍を。
ベガ星の全ての人間が、ベガ大王のような悪魔ではなかった。かつての婚約者・ルビーナのように清らかな心を持つ……デュークの愛する人がいたのもまた、ベガ星だ。
そして、それは地球も変わらない。
地球の仲間達との友情も、地球の自然へ感じた畏敬も本心だ。しかし一方で、デーモンのようなおぞましい悪魔がいるのも、地球なのだ。
だとしたら。ゲッターがその悪魔側の存在であってもおかしくはない。
もし、その時が来たら。
デューク・フリードは。
宇門大介は。
ゲッターロボと戦えるだろうか。
そして、勝てるだろうか。
「僕は……恐れている。その未来を」
だからこそ、グレンダイザーは戦うのだ。地球と、フリード星の未来のために。
フリード星の神の力。それを、デューク・フリードは悪魔と戦うために使う。
それは、デューク・フリードの決意だった。
「お前達のような悪魔に、僕は負けん!」
デューク・フリードは。宇門大介は、10年前から変わっていない。穏やかな笑顔の裏に激しい怒りを燃やして戦う、戦士だった。
…………
…………
…………
ドラゴンは尚も、成長を続けている。今もその繭は脈動している。それを巨大な顔を持つ女型のデーモン……サイコジェニーは、間近で感じていた。
「……素晴らしい」
この力こそが、魔王ゼノンが求めるもの。
かつて、デーモンの一族を地上から冷たい氷の世界へ……此処とは異なる暗黒次元へと追いやった忌々しきゲッター線の塊。それが、サイコジェニーのすぐ側にある。
それは、恐ろしいことだった。今にもゲッター線は、サイコジェニーを取り込み消してしまうかもしれない。そんな恐怖すら、サイコジェニーを歓喜させる。
ドラゴン回収の命を受けた勇者アモンは、戻らなかった。魔王ゼノンはアモンを死んだものと判断し、ドラゴン回収の任をこのサイコジェニーに委ねることとした。
サイコジェニーは、勇者アモンのように強力な力を持つデーモンではない。しかし、そのテレキネシスの能力に関してはデーモン族でも随一である。それ故に、力が弱いサイコジェニーはその能力と狡猾さでデーモンの世界を生き抜いていた。
そんなサイコジェニーに任された大役。それこそがドラゴンの回収と、そして……。
「待ちやがれ!」
しかしそれを果たすのを阻もうと、ダブルスペイザーがサイコジェニーを追う。
「人間か……」
「ああそうさ。人間サマのお通りだ! てめえの目的、吐いてもらおうか!」
サイコジェニーは、デーモンの中では身は弱い。故に、メタルビースト化するのも難しい。しかし、それでも。
「よかろう、ならば教えてやる!」
そのテレキネシスの力は、デーモン族でも随一なのだ。例えば、相手の脳に幻覚を見せるようなことは、サイコジェニーの最も得意とする戦い方である。
甲児は、そんなサイコジェニーの巨大で不気味な目を見た。見てしまった。
「う……」
甲児の背筋が、凍る。その何も映さない瞳は、人に生理的な恐怖を植え付ける。
そして一度恐怖した人間の心を破壊するなど、サイコジェニーには造作もない。
「なんだ……なんだこれは……?」
甲児の目には忽ち、サイコジェニーの姿が映らなくなる。代わりに浮かぶ光景は、地獄。
機械と身体を一つに融合させた人間達が、殺し合う光景だった。それはまるで、人間が自らデーモンへと進化の道を辿るような。
「!?」
甲児は、自分の腕を見やる。スペイザーの機械コードが触手のように伸びて、甲児の腕に入り込んでいる。そして血液の代わりにオイルを甲児に送り込み、脳を活性化させる。
「やめろ、やめろ!」
それは。そんなものは。
甲児の見たい未来ではない。
甲児の視界の中で、機械獣になった人間達が殺し合っている。機械の、獣に。メタルビーストに。
その光景は、地獄だった。
『この世界は、存在に値しますか?』
ふと、甲児の耳元で少女の声がする。
「リサ!?」
忘れられない声。あの声のする方へ振り向き、そして。
マジンガーZと融合し、パイルダーの中で朽ち果てたリサの亡骸がそこに、あった。
「あ、あ……」
ごろん。と、それは転がり……甲児の足下に落ちる。銀色の綺麗な髪は煤けて、水晶のような瞳に何も映さない。端正な顔立ちをした球体が。
「あ、あああああああああああっっっ!?!?」
甲児の絶叫が、バードス島に響く。そして……
「それ」は起こった。
…………
…………
…………
「甲児君!?」
「甲児!?」
甲児の絶叫で、デュークと竜馬はそちらを向く。ダブルスペイザーの周囲に、謎の光が発生していた。
「あれは、光子力か……?」
怪訝そうな顔で、隼人。
「でもよ、スペイザーには光子力は使われてねえぜ」
「だが、甲児はこの世界で一番光子力に触れ続けた言わば、光子力の申し子だ。何が起きてもおかしくはない……!」
弁慶と隼人が問答する中、グレンダイザーと真ゲッターはダブルスペイザーへ向かう。ほぼ一瞬で甲児の下までたどり着いて4人は、甲児の周囲で発生しているそれをはっきりと、見た。
甲児の絶叫に呼応するかのように、光子力が周囲に満ちている。まるで、甲児を守ろうとする意志の力が働いているかのように。
そして、満ちた光子力が誘発させているかのように、ドラゴンの眉がドクン、ドクンと脈動した。
「これは……何が起こっている?」
「甲児が光子力を呼び、光子力がゲッター線を増幅しているのか……?」
不可解な現象に戸惑う中、さらに光子力の光は激しさを増す。
「…………これは」
それは、サイコジェニーにも予想外の出来事だった。
「これは、まずい……!」
ゼノンの、あの方の恐れた事態が起こる。サイコジェニーは念力で自らの身体を飛ばし、バードス島から離れていく。
「デーモンどもが逃げていく?」
「待ちやがれ!?」
それを追おうと真ゲッターが翼を広げた瞬間、ダブルスペイザーを覆っていた光が一本の線となり、空高く伸びていく。そして、その光に吸い込まれるようにダブルスペイザーは、甲児は空へと消えていく。
「なっ!?」
「甲児君!?」
グレンダイザーはスペイザーを呼び出し、変形合体して甲児を追う。真ゲッターも、それに続く。やがて雲を突き抜けると、その光の先に、穴があった。
「こいつは……」
「おそらく、甲児の奴はこの先だな」
「……ダメだ。内部の熱反応探知ができん。中がどうなっているか、皆目検討がつかんぞ」
一人冷静に、隼人。
「それでも、僕は行く」
真っ先にその穴へ駆けたのは、グレンダイザーだった。
「おい、デューク・フリード!」
それを制するように弁慶が叫ぶ。
「甲児君は、地球でのかけがえのない友だ。甲児君を救うためなら、僕はこの命を賭ける!」
「へっ、てめえばっかにいいカッコはさせねえぜ」
天に空いた穴へ、竜馬が続いた。
「お、おい竜馬!?」
「なんだよ、ビビってんのか弁慶!」
「そういうわけじぇねえ。だが……」
何があるかわからないそこへ、無策で突っ込むのもどうなんだ。そう、弁慶が言った時だ。
「!? 重力崩壊?……竜馬! あと数秒であの穴は消える!」
「ほらよ、準備なんかしてる時間はねえ。それに、穴があったら突っ込むのが男ってもんじゃねえか!」
真ゲッターが加速し、グレンダイザーと並んだ。
「ああ……もういい! こうなったらどうにでもなれ!」
観念したように、弁慶。そして、2機のスーパーロボットは天空を裂く空洞へ、飛び込んでいった。
グレンダイザーと真ゲッターが飛び込み、消えた直後。その穴は完全に消失し、空は元の静寂を取り戻した。
…………
…………
…………
兜甲児が目を覚ましたのは、廃墟の中だった。
「俺は、たしか……」
あのデーモンを見た瞬間、恐ろしいものを見た。正気を保てなくなくなるほどの。
そして、恐怖のままに悲鳴を上げて、それから……。
そこまで思考し、自分がダブルスペイザーの外にいることに気付いた。
「ここは……?」
見覚えがある気がする。しかし、わからない。甲児も見たことがないほどその廃墟は、無残なものだったのだ。
或いは、核爆発の後に残された施設とはこういうものだったのかもしれない。しかし、そうではないだろう、と甲児は思う。なぜなら、核戦争とは遠い昔の出来事であり……この施設の焼け方はそのような『歴史』を感じなかったからだ。
この施設は廃墟と化しており、至る所に機械の部品や、廃材が散乱こそしているがそれらは精々20年前ほどの経年劣化に見える。
甲児の知る限りで核爆発の跡だとしたら、そんなに最近ではないはずだ。
ふと、落ちていた瓦礫をひとつつまみ取る。焼けてあちこちが炭化しているが、覚えがある。
「これは……」
新光子力研究所で使われていた、研究機材だ。光子力のデータを測る際に使用していたもの。その成れの果て。
少なくとも、甲児の知る限り新しい機材だった。なぜならこれは、インフィニティの解析データを元に甲児自らが発案したものなのだから。
「だとしたら、ここは……」
この、廃墟は。
「新光子力研究所……?」
そう、呟いた時。ガラン、という音と共に靴音が響く。
「誰だっ!?」
思わず振り返り、甲児は見た。
甲児の視線の、その先。
「あっ……」
缶詰めを両手に抱えた、淡い銀髪の女の子。
その瞳は切れ長で、しかしくりくりとした可愛らしさが同居している。
人形のように端正な顔立ちは冷たさすら感じるが、そこにあるのはまるで仔犬のように無邪気な表情。
その顔を、その声を。
兜甲児は、知っていた。
「リサ……?」
リサ。かつてマジンガーインフィニティの中に眠っていた少女。世界を作り替える終末兵器『ゴラーゴン』の鍵であり、しかし甲児と共にこの世界を肯定し、可能性の世界に消えた少女。
それが、確かに甲児の目の前にいたのだ。
少女は、リサはその大きな瞳に涙を浮かべていた。そして、
「……よかった、気づいたんですねお父さん!」
そう言って、缶詰めを放り投げ甲児の胸へ飛び込んでいた。