マジンカイザーVS真ゲッターロボ!   作:元ゴリラ

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第三話『地獄!!!』Bパート

「お父さん……?」

 

 兜甲児は、目の前の少女にそう呼ばれて一瞬硬直していた。たしかに、隣接次元の一部に触れた時……自分とさやかの娘としてリサが、目の前の少女がいたことははっきりと覚えている。

 一人の父として、リサという娘を愛した記憶までもはっきりと思い出せる。しかし、それは“あり得たかもしれない世界”“これから起こりうる世界”のはずだ。

 それに、甲児と現実世界で関わったアンドロイドのリサはあのインフィニティとの戦いの中で隣接次元に留まり、世界中の光子力を集める中継機の役割を行いそして……消えていった。

 いつか、父と娘として再会する日を約束して。

 だが、違う。今目の前にいるリサは違う。

 本能が、直感が、理性が甲児に語りかける。

 

「リサ……教えてくれ。俺は……」

 

 それでも、わかるのだ。彼女が甲児の知るリサであると。リサは甲児の様子を察して、口を開いた。

 

「はい、お父さんはダブルスペイザーの中で意識を失っていました。ダブルスペイザーは、突然研究所の上空に落ちてきて、私がカイザーで拾わなかったら大事になっていたかもしれません」

 

「ダブルスペイザーは?」

 

「格納庫にありますけど……たぶん、飛ぶのは難しいと思います」

 

「そうか……」

 

 段々と、甲児の記憶も鮮明になっていく。あのデーモンに幻覚を見せられて、甲児は恐怖の中で我を失った。そして、光子力と思われる光が甲児の周辺に降り注ぎ……。

 

「……インフィニティが富士山頂に現れたように、俺が光子力に引き寄せられたのか?」

 

 頭を落ち着けるために、甲児は状況を整理することに努める。かつて富士山頂に突如発現した遺跡であり魔神。マジンガーインフィニティ。それと同じ現象が、起きたのかもしれないと。しかし、そうなると今度はここがどこかが問題になる。

 新光子力研究所。それはわかっている。しかし、なぜ新光子力研究所が廃墟になっているのかはわからない。甲児は立ち上がり、歩き出す。

 

「外の様子が見たい。大丈夫か?」

 

「ダメですよ、ここはまだ安全ですけど、外はゲッター線に汚染されてて、デビルマンならともかく人間が生身で歩いたら危険です!」

 

 しかし、それを止めるリサの言葉で甲児は立ち止まる。

 

「……どういうことだ?」

 

 一から説明してくれ。そう頼む甲児に、リサはひとつ頷いた。

 

「はい……。まず、お父さんの主観ではここは隣接次元。極めて近い、そして限りなく遠い未来の出来事です。そこでお父さんはお母さん……兜さやかとの間に私を産んでくれました」

 

 ですが。そういって続けるリサの口が、どんどん重くなっていく。

 

「……私が5歳の頃です。悪魔が現れました」

 

「……デーモンか」

 

「はい」

 

 頷いて、リサは続ける。絶望的な、未来の歴史を。

 

「……世界中で、悪魔を恐れるあまりに戦争が起きました。人間に合体し、擬態できる悪魔たちは人間社会に紛れ込んだんです。人々は、隣人が悪魔かもしれない恐怖に支配されて、そして……人間同士で殺し合ったんです」

 

「…………」

 

 インフィニティとの戦いの時、人々は団結し世界中の人々がマジンガーZに力をくれた。そのおかげで今の世界があった。

 それなのに。その後に待っていたのが人間同士の戦争だとリサは語る。甲児は、沈痛な面持ちのままリサに話の続きを促した。

 

「……人間同士で殺し合いを続けるうちに、世界はさらに変化しました。一つが、ゲッターエネルギーの暴走事故です」

 

「ゲッターの?」

 

 ゲッター線の暴走。その言葉に甲児はゲッタードラゴンの姿を思い出す。あの禍々しい繭となったドラゴン。その繭は着実に成長している。

 

「具体的なことは、私も知りません。ですが、ゲッターエネルギーの暴走事故が早乙女研究所で起きて、それからです。宇宙から降り注ぐゲッター線が、世界中で膨大なものになりました。かつて、恐竜帝国を滅ぼした時と同じか……それ以上のゲッター線が、世界中に降り注いだんです」

 

「そんな……」

 

「人間も、デーモンも、たくさん死にました。そんな中、人間は生き残るためにヒトの身体を捨てたのです」

 

 ヒトの身体を捨てる。いまいちその言葉にピンとこない甲児は、どういうことだと聞き返した。

 

「……ゲッター線を浴びても生きられるように、身体を機械のパーツにしたんです。コクピットの中に直接、人間を接続します」

 

「なっ……!」

 

 甲児が見た幻覚を思い出す。自分の腕が、足が、ダブルスペイザーと融合して融けていくあの感覚。光景。ただでさえ狂ってしまいそうなその光景が、この世界の現実であると、リサは語る。

 

「ゲッターロボの身体を手に入れることができれば、ゲッター線の降り注ぐ中でも長く生きられますから、合理的ではあります。それと……もうひとつの手段。これは正確には手段ではありませんが」

 

「……さっき口走った、デビルマンってやつか」

 

「はい。デーモンに取り憑かれながら、ヒトの心を失わず……逆にデーモンを支配下に置いた悪魔人間、デビルマンです」

 

「ヒトの心と悪魔の身体を持つ、デビルマンか……」

 

 俄かには信じ難い。甲児は見ているのだ。あの邪悪なデーモン達を。あんなものに合体されて、ヒトの心を持てるとしたら。

 

「……デーモンになっちまう方が、いっそ楽かもしれねえな」

 

 それこそ、人の心を保てる気がしない。

 かつて、亡き祖父に言われた言葉を思い出す。

 

——マジンガーZは、神にも悪魔にもなれる。

 

 しかし甲児は神にも悪魔にもならず、人としてその力を振るい続けた。いっそマジンガーZを神にして世界を束ねた方が、或いは悪魔になって世界を滅ぼした方が楽になれる。そんな誘惑を感じたことは一度や二度ではない。それを振り払えたのは、甲児の人間としての理性と、正義感と、そして強大な力を持つということへの責任感、そして畏怖と恐怖。そんなあらゆるものだった。

 それと同じどころか、決して神にはなれず、悪魔の力だけを渡された人間。人として生きるのはあまりにも困難だろうことは、甲児が一番よく知っている。

 

「……それでも、デビルマンは人間として生きているのか」

 

 それだけが、甲児にとっては救いだった。甲児が守り、救った世界がたとえ終末的破局を迎えていたとしても……人間が人間の心を持っていたのならば。

 

「…………」

 

 しかし、リサの表情は暗い。

 

「……デビルマン達は、人を見限りました。人間同士で殺し合い、心を悪魔にしてしまった人間の味方であることをやめたんです」

 

 そう言いながら、リサは缶詰を開ける。中には、乾パンが入っていた。

 

「……とりあえず、今は食べてください。これはゲッター線に汚染されてないから、安全ですよ!」

 

 そう言って笑うリサの微笑みは、気丈だった。どこかさやかに似ている……そんなことを、甲児は思っていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 空に空いた穴に突撃した流竜馬が意識を取り戻した時、眼前に広がっていたのは赤い空だった。

 

「ここは……?」

 

「気がついたか、竜馬?」

 

 隼人の声がする。しかし、どこから聞こえてくるものか。

 

「隼人……俺たちは……?」

 

 しかも、やたら視界がいい。ゲッターのカメラ越しとは思えない。いや……竜馬は、ふと自分の手を見た。

 赤く、大きな手。それは真ゲッター1の手だった。

 

「まさか……!」

 

 自分の、自分たちの身に何が起きているのかを理解して竜馬は戦慄する。

 

「気づいたようだな」

 

「これには、俺もビビったぜ」

 

 隼人と、弁慶は既に気づいていた。

 

「俺たちは……ゲッターと一つになっちまってるのか!?」

 

 自分の視界が、ゲッターと同期している。それだけではない。隼人を、弁慶を自分の中に感じる。竜馬が身体を動かすと、同じようにゲッターも動く。

 3人とゲッターは、ひとつになっている。そうとしか思えなかった。

 

「こいつは……一体……」

 

「落ち着けリョウ。俺達はあの穴を通ってこの場所に来て、こうなった。それなら、元の世界に出れば元に戻る可能性もある」

 

 動揺する竜馬を、隼人が制す。しかし、次の問題はこの場所だった。

 

「とにかく、甲児とデューク……大介と合流しなきゃならねえが。ここは一体どうなってんだ?」

 

 至る所に、マシンの残骸が転がっている。イチナナ式や、米軍で開発された偵察用メカのビィート。イチナナ式に変わるエース機として開発が進められているステルバー。カナダのロボスーン。その他ありとあらゆるメカが破壊された状態で転がっていた。

 それ以外は、何もない。見ればそれらのメカは全て戦い、争った形跡がある。恐らくは、戦場跡地と言ったところだろうか。

 真ゲッターが……竜馬がその地獄の痕を辿るように歩いていると、足元にばたりと転がるように、そんなメカの残骸がひとつ倒れ込んだ。

 それはやはり、竜馬達には見覚えのあるものだった。

 

「ゲッター……?」

 

 ゲッター1だ。細部こそ違うが、赤いマントと大きく横に伸びたツノ。それらのパーツは確かに、かつて竜馬が愛機としたゲッター1に酷似していた。

 どうして、こんなところでゲッターが倒れているのか。そんなことを推測する暇もなく、空から真ゲッター目がけて何かが飛来する。

 

「これは、メカザウルスのミサイルだ!」

 

「なんだと!?」

 

 竜馬は、ゲッターの目でそれを見た。空に浮かんでいる青い翼竜。見間違えようもない。メカザウルス・バドだ。バドのミサイルは、弧を描くような軌道で真ゲッター目がけて飛び込んでくる。

 

「まさか、ゴールの野郎まで復活したのか!」

 

 竜馬が念じると、真ゲッターは翼を広げ飛び上がった。そして、トマホークをブーメランのように飛ばし、ミサイルを迎撃する。ミサイルはゲッターに命中することなく、トマホークに切り裂かれ、地へ堕ちる。そのままトマホークを回収し、真ゲッターはメカザウルスへ迫った。

 

「地獄へ堕ちろ、トカゲ野郎!」

 

 トマホークを大きく振りかぶり、真ゲッターは翼竜を真っ二つに切り裂いた。

 

「……妙だな。手応えがなさすぎる」

 

 ゲッター1と真ゲッター1では、たしかに性能が違う。それでも、あのメカザウルスには戦う力を感じない。それを、隼人は訝しむ。

 

「ともかく……甲児と大介を探さねえことには始まらねえ」

 

 再び、地上に降下したその時だった。急な殺気を感じ、竜馬は振り返る。

 

「……!」

 

 竜馬の目の前に、立っていたのは。

 3体のゲッターポセイドンだ。

 

「ゲッターポセイドン……。早乙女研究所の者か?」

 

 そう、交信を試みる弁慶。しかし、ゲッターポセイドン達はどこか、様子がおかしい。

 

「な、なんだ……?」

 

 3人の目は、今ゲッターと一体化している。だからだろうか、ゲッターポセイドン達に表情があるように見えた。そして、その表情はどこか狂気に満ちている。

 狂気。それは飽くなき闘争本能だろうか。それとも、目の前にいる何者をも信じられない不信感だろうか。

 猜疑、不安、恐慌、野心、絶望、高揚、欲望etcetcetc.

 それらをまとめて狂気でくくった表情を、ポセイドン達は浮かべていた。

 

「クセェ!」

 

「デーモンだ!」

 

 ポセイドン達は、ようやくそれだけの言葉を吐くと真ゲッター目がけてゲッターサイクロンを放射する。

 

「な、何だ!?」

 

 吃驚する弁慶をよそに、竜馬が真ゲッターの足を動かし竜巻を避ける。

 

「こいつら、早乙女研究所の者なんかじゃねえ!?」

 

 隼人が叫ぶ。それと同時、ポセイドン達は連携された動きで真ゲッター目がけて走り出す。

 

「こいつら、何だ!?」

 

 動揺するまま、トマホークを構える真ゲッター1。ポセイドンは大きく飛び上がり、そのまま真ゲッターめがけて飛び込んだ。

 

「デーモンは、死ねっ!」

 

「うるせぇ、俺達は人間だ!」

 

 ポセイドンと真ゲッターが同時に叫ぶ。トマホークを恐れもせずに飛び込むポセイドンに、真ゲッターはゲッタービームを照射。ゲッター線の超高熱が、ポセイドンを襲った。

 しかし、ポセイドンはそのゲッター線の熱を浴びながらも真ゲッターにしがみつく。

 

「こ、こいつっ!?」

 

 ゲッター線を動力とするゲッターとて、それを直接熱に変換するゲッタービームを直接モロに受ければタダでは済まない。ポセイドンもゲッターならば、それを理解しているはずだ。しかし、ポセイドンはゲッタービームを浴びながら嬉しそうにニヤリと笑い、真ゲッターにその体重をかけていく。

 

「クッ、竜馬。このポセイドンは俺達の乗ってた奴よりも遥かに重いぞ!」

 

「大食らいのムサシに似て、ポセイドンまでデブったか!」

 

 それでもポセイドン1体なら、真ゲッターの敵ではない。真ゲッター1は、両腕でポセイドンを掴み離そうとする。だが、その直後さらに真ゲッターを重量が襲った。

 

「グォォっ!?」

 

「こ、コイツら……!」

 

 ゲッターポセイドンの上に、ゲッターポセイドンがさらにのしかかっているのだ。そして、さらに最後のポセイドンもそこに重なっていく。

 

「変われ! 変われ! デーモンに変われ!」

 

 ポセイドンから、狂気に満ちた叫び声が響く。実に3倍の重力が、真ゲッターを襲った。

 

「こ、こいつら……!」

 

 衝撃で、トマホークを離してしまう。尚もポセイドン達はその重量で真ゲッターを押し潰して行く。

 

「どうするんだ竜馬。このままじゃ……!」

 

 真ゲッター2にチェンジすれば、こんなデカブツのプレスすぐに抜けられる。しかし今オープンゲットすれば、ゲットマシンは瞬く間に押し潰されてしまうだろう。

 超重量ののし掛かり。それはたしかに、ゲッターに対して効果的な攻撃だった。

 

「てめえら……いい加減にしやがれ!」

 

 真ゲッターはその両腕でゲッターポセイドンを掴み、バトルウィングに力を込める。この場所に来てから、竜馬の力は漲っていた。まるで、身体がゲッターとひとつになったせいだろうか。それとも、ゲッターロボの墓場とでも言うべきこの場所で、真ゲッターのゲッターエネルギーが急速に充填されているのだろうか。

 ともかく、自らの力を振り絞ることで竜馬は理解する。今の真ゲッターのパワーは、これまでの真ゲッターよりも遥かに上がっていることを。

 

「ぅぅぅうぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!?」

 

 その力のまま、渾身のパワーで竜馬は翼をはためかせ、全身に力を込めて3機のポセイドンを、押し返した。

 

「な、何ッ!?」

 

 そのままトマホークを拾うと、ゲッターロボの装甲と同様の形状変化・記憶素材でできたトマホークはたちまち、巨大な鎌へと変化する。

 

「ゲッタァァァァサイトォッ!?」

 

 巨大な鎌の一振りは一撃で、ポセイドン3機を薙ぎ払う。そして、ゲッターサイトを今度は槍へと変化させた真ゲッターは、3機をまとめて、団子のように串刺した。

 

 

「グ、グォァ……」

 

「てめえら、ダチに似てるからって手加減してりゃ調子乗りやがって……なめんなよ!」

 

 スピアを抜いて、再び距離を取る真ゲッター。次なる反撃に備えていたが、ポセイドン達はそのまま血のようにオイルを噴き出し、倒れるのだった。

 

「貴様ら、さっき俺たちをデーモンと呼んだな。どういう根拠でそう呼んだ?」

 

 隼人が凄む。ポセイドンからは、笑い声のような不気味な音が漏れ聞こえやがて、口を開いた。

 

「し、知るかよ……どうせお前らの機体のエネルギーを奪うためさ。相手がデーモンなら、いくら殺しても罪悪感が湧かねえからな」

 

「…………そうか」

 

 相手の人間性を否定することで、自己の正当性を担保する。それは戦場であれば決して珍しいことではなかった。だから、それに内心嫌悪感を感じても隼人はそれを咎めることはしなかった。しかし、次の疑問が浮かぶ。

 

「お前達が機体のエネルギーを奪おうとするのは、何のためだ?」

 

「へっ、とぼけんじゃねえ。お前だってあそこへ……あそこへ行くためにその身体を手に入れたんだろう?」

 

 そう言って、ポセイドンのうち1機が空を指差す。赤く濁った、血のような色の空を。

 

「……あそこに何がある?」

 

 隼人は尚も、質問を続ける。

 

「お、俺たち人類は……もうダメだからな。このゲッター線に汚染された星から脱出するんだ」

 

 そう話しながら、ポセイドン達の中から何かが這い出るのを、隼人達は見た。

 

「ウッ……!」

 

 弁慶が呻く。

 

「これは……!」

 

 隼人に、戦慄が走った。

 

「…………!」

 

 竜馬の、背筋が凍る。

 

「あそこに行けば、この世界から出られる! 宇宙にだって、別の楽園のような星にだって!」

 

 それは、蓑虫のような姿をしていた。全身が機械の塊。そして、ゲッターロボのように頭部と、腹と、腰にそれぞれ顔があり、それらは機械と融合しながら生きている。

 それは。

 それは。

 竜馬達の常識の中にはあり得ないものだった。しかしその奇形はマシンと完全に繋がっているようで、コクピットの外に出てもゲッターから離れはしなかった。

 

「……あそこに、何があるんだ」

 

 最後の問いを、隼人が訊いた。

 

「聖獣、ドラゴン」

 

 奇形は、答える。

 

「ドラゴン……!」

 

 竜馬達の脳裏に、あの繭の姿となったゲッタードラゴンの姿が過ぎる。あの中で、ドラゴンは悍ましい進化を遂げているのだろうか。そして。

 

「ゲッター聖ドラゴン!」

 

 このような世界を作り上げてしまったのだろうか。

 

「…………!」

 

 竜馬は、咄嗟にその赤い空を見た。先ほどのメカザウルスがいた場所よりも、高く。雲の上に何かが、たしかにいた。

 そして、ゲッターやイチナナ式。それにメカザウルスや機械獣、戦闘獣、百鬼獣に円盤獣。あらゆるメカが、或いはその特性を持った何かが空を駆け……墜ちていく。

 

「ははは、エネルギーが足りねえんだ。無理もねえ、こんなスクラップを寄せ集めた身体じゃああそこへ行く前に燃え尽きちまう」

 

 奇形は嗤う。それは嘲りだろうか。

 

「この星はもう、ダメだ。ダメなんだよ……。みんな死ぬしかねえんだ」

 

 それとも、絶望だろうか。

 

「……行くぞ、隼人。弁慶」

 

 奇形に背を向け、竜馬は真ゲッターのバトルウィングを大きく広げる。

 

「おい、竜馬」

 

 甲児やデュークはどうするんだ、と弁慶。

 

「あいつらが生きてるなら、必ず奴らも空を目指すはずだ!」

 

 この世界は、おかしい。その謎を解く鍵は空にある。ならば、あの二人なら遅かれ早かれ空を目指す。その竜馬の推理に隼人と弁慶は心で頷き、3つの心はひとつになった。

 

「グレンダイザーはともかく、ダブルスペイザーの方はあそこを飛ぶのは危険かも知れねえ、急ぐぞ隼人、弁慶!」

 

「おう!」

 

 真ゲッターが、空高く飛ぶ。墜ちていく他のマシンを掻い潜り雲を突き抜ける。その先にあるものを、確かめんがために。やがて巨大な雲へ突入し、雷鳴の響く中をさらに、スピードを上げていった。

 

「何かある。この先に何があるというんだ!」

 

 この空間を生み出した元凶か。それともこの世界に君臨する魔王か。鬼か蛇かもわからぬまま、真ゲッターロボは突き進んだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

「……それで、人類は滅んだってわけか」

 

 乾パンと水を口に含みながら、甲児はリサからこの世界での出来事をさらに詳しく聞いていた。リサの口から語られる出来事の多くが絶望そのものだったが、それでも甲児は耳を傾けている。世界の終焉について。甲児が命を賭けて守り抜いたものが脆く崩れ去った世界について。それは辛いものだったが、おかけでいくつか情報の整理ができた。

 ひとつ。今この世界は、ゲッター線に汚染されて生身の人間が住める場所が殆どなくなっていること。この新光子力研究所はバリアが生きているおかげでゲッター線を遮断できているらしく、人類最後のシェルターとして機能しているということ。それでも、残ったのはもうリサひとりということ。

 ひとつ。生き残るために人類はメカと融合し、この星から脱出するために殺し合いを続けているということ。それだけでなく、ゲッター線の汚染は地球そのものを深刻化させ、地下に逃げ延びた恐竜帝国の残党も生き残るために地上へ進出し、殺し合いに参加している。

 ひとつ。この星が死の星と化した人間同士の戦争を終わらせたのは、グレンダイザーとラーガ……ミケーネに眠っていたあの赤褐色の魔神だったということ。核戦争が起きたと同時にグレンダイザーとラーガはコントロールを離れ、世界中で破壊活動を開始した。その武力の限りを尽くし人間の、地球の文明を滅ぼした。人類も、デーモンも、デビルマンも関係なく滅ぼし……そして機能を停止し、再び地底深くに眠りについたという。これまで聞いてきた話の中で特に甲児にとって不可解だった。

 

「しかし、ラーガとグレンダイザーが同時にコントロールを失ったのか。とすると、あの2つは本当に何か、関連があるのかもしれないな……」

 

「今となっては、それを確かめる術はありません。ですが、可能性は高いと思います」

 

 甲児の推測を、リサは肯定する。そして、疑問といえばリサもそうだ。

 

「リサ、お前は人類の生き残り。それでいいんだな?」

 

「はい。お父さんが以前に出会ったリサというアンドロイドとよく似ているらしいですが、私は正真正銘・兜甲児と兜さやかの娘です」

 

 娘。改めてそう聞かされると少々戸惑うところもある。しかし、その戸惑いを押し殺して甲児は確認を続ける。

 

「リサが生き残って、たぶん俺とさやかは……」

 

 そう甲児が口にすると、リサの表情は心なしか暗く陰る。その様子で、甲児は確信した。

 この世界の自分とさやかは、リサを遺して死んだ。そして……。

 

「お父さんとお母さんは、私に魔神を託してくれました」

 

「……マジンガーか」

 

 マジンガーZ。甲児が祖父・兜十蔵から譲り受けた、神にも悪魔にもなれる力。マジンガーが、リサを護ってくれたのだと、甲児は確信する。

 

「はい。私は、お父さんとお母さんの残したマジンガーでひとり、戦い続けていました。マジンガーがなければ、私はとっくに……」

 

 今にも泣き出しそうに俯くリサの肩を、甲児はそっと抱き寄せる。辛いことを、思い出させてしまった。それでも、やるべきことは見えた。

 

「……俺は、きっとリサをこの世界から救うために飛ばされてきたんだ」

 

 そして、破滅の未来を知る者として過去を変えるために。

 それは、神の所業だった。

 今までに甲児が選ばなかった、神として人類を救う行為。甲児はそれまでずっと、ひとりの人間として神にも悪魔にもなれる力を人のために使ってきた。

 しかし、今。

 兜甲児が背負う使命は、人間の身を越えようとしている。そんな予感に、甲児の額に冷たい汗が滲んだ。

 しかし、それ以上に。

 兜甲児を突き動かすのは人間としての心だった。

 

「……俺がこの世界に来た時、膨大な光子力とゲッター線の増幅があった。きっと、同じことを

起こせばもう一度、世界の穴を開けることができる」

 

 そのための力はリサが持っている。

 

「……リサ。俺をマジンガーのところに案内してくれ」

 

 兜甲児は立ち上がる。全人類の未来の為と、口で言うのは簡単だった。しかし、甲児にとってその決断は何よりも、未来の娘のために。

 妻と迎える明日のために。

 兜甲児が掴んだ幸福を、取り戻すために。

 神の如き威光を、悪魔の如き力を。

 人間として、振るうのだ。

 

「……はい!」

 

 その決意に、リサはひとつ頷くと立ち上がり、シャッターを開く。

 

「魔神は、旧光子力研究所に隠しています。急ぎましょう!」

 

 そう言って、リサはガスマスクのような防護服を瓦礫に埋もれたロッカーのような場所から取り出し甲児へ渡す。

 

「旧研究所の中も安全ですが、移動までの間は絶対にそれを取らないでください。地下道は致死量のゲッター線、放射線が検出されてますから」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 空を駆ける真ゲッターロボは、遥か上空でそれを見た。

 

「お、おい。あれは……」

 

 真ゲッターの眼前に広がっていたのは、巨大なゲッターロボだった。造形は、ドラゴンに近い。しかし、ドラゴンではあり得ない。顔だけでも、真ゲッターロボの全身それよりも遥かに巨大だが、それだけではない。

 そのドラゴンは、ゲッターロボの集合体だった。装甲の至る所に、ゲッターロボが浮き出ている。まるで、この巨大なドラゴンに吸収でもされ、そのまま固まってしまったかのように。

 そうしてゲッター同士で喰い合った末に誕生した怪物。そうとしか思えない異様な姿。竜馬は息を呑む。隼人は戦慄する。弁慶は、それと同じものに乗っているという事実に嫌悪感を覚えた。

 

「これが、ゲッター聖ドラゴン……!」

 

 あのゲッターポセイドンの姿をした無法者達が真ゲッターを襲った理由も、今なら理解できる。この世界の人々は、この星から脱出するか或いは、これと同じようにならなければ生きていけないのだと。

 その怪物を前に、黒い頭部を持つ円盤が対峙していた。

 

「グレンダイザー!」

 

 どうやら、竜馬の言う通りだったらしい。デューク・フリードもこの世界に飛ばされそして、空を目指したのだろう。

 

「ゲッターチーム、無事だったのか!」

 

 すぐにグレンダイザーと並び、真ゲッターはその怪物……ゲッター聖ドラゴンと対峙する。ゲッター聖ドラゴン。それがいかにして生まれたのか。そこにいる4人にはまるで検討もつかない。それほどに、ゲッター聖ドラゴンは世界の次元が違うのだった。

 ゲッター聖ドラゴンのその何も映してない虚な眼が突如、2機を見る。

 

『オ、オオ……』

 

 声が、聞こえた。宇宙にまで響きそうな、重たい声だった。

 

『竜馬……流竜馬!』

 

 声は、真ゲッターロボを……流竜馬に突き刺さる。

 

「な、なんだてめえ……俺を知ってやがるのか!

 

 トマホークを構え、真ゲッターは警戒する。このゲッターは、聖ドラゴンは明らかに尋常なものではない。もしこんな異形がこちらに敵意を向けてきたとするならば、真ゲッターとて木っ端微塵に吹き飛びかねない。そんな危機感が竜馬を煽る。

 

『竜馬、なぜここに来た!』

 

 返答はしかし、竜馬の求める答えではなかった。声はただ、重く響くのみ。

 

「竜馬君。これは……」

 

 グレンダイザーも、ハーケンを構えながら警戒していた。無理もない。この化け物ゲッターはまさしく、デューク・フリードがグレンダイザーに見せられた怪物そのものといっても過言ではないのだから。

 もしこんな化け物がフリード星へ来たら。そんなことを思わずにはいられない。そして、声は、デュークへと矛先を向ける。

 

『グレンダイザー……デューク・フリード。お前は何故、ここにきた!』

 

「何故か、だと……。僕は、フリード星を救うためにここに来た!」

 

 ハーケンを構えたダイザーは、その異形のゲッタードラゴンを前にしても怯まない。

 

「答えろ、ゲッター線は何を求めているんだ!」

 

 デューク・フリードが叫ぶ。それに対し異形のゲッターは、ただ一言答えるのだった。

 

『進化』

 

「何……?」

 

 それは、至極単純な答えだった。進化。生物の形状変化。世代を重ねる事で環境に合わせて生物は進化を重ねていく。しかし、それは同時に生物種の振るい落としでもある。

 進化とは即ち、淘汰。デュークは、その異形のゲッター……ゲッター聖ドラゴンへの警戒を強めていた。

 しかし一方で、それの語るものに魅力を感じている者がいた。

 

「進化、だと……。お前が、俺たちの行き着く先だとでも言うのか」

 

 隼人である。今、隼人は真ゲッター2とひとつになっている。そのせいだろうか隼人は今、かつてないほどの身体の軽さを感じていた。

 身体が軽く、自分の身体であって自分ではないような。そんな感覚。10代の頃の、全盛期の肉体でもここまで身軽ではなかった気がしていた。

 それが、ゲッターとひとつになることで人類にもたらされる進化なのだろうか。

 見てみたい。それが、普段の冷徹な理性とは別の面で掻き立てられる隼人の欲望だった。

 自分たちは、人類はどこまで行くことができるのだろうか。そんな興味が、隼人を掻き立てる。

 

「…………」

 

 しかし、答えはない。

 ゲッター聖ドラゴンは、隼人に何も答えない。

 

「…………どうした、何故答えない!」

 

 それが、隼人を焦らさせる。

 そして。

 

『……来る』

 

 声が、呟いた。

 

「何が、来るってんだ」

 

 そう、弁慶。

 

『敵が、来る。お前達の存在が、この場所に奴らを呼んだ』

 

「何……?」

 

 声が、そう言った直後。巨大な影が空を覆った。

 

「な……あれは!?」

 

 それは、まるで蟲の蛹のようだった。その蛹の中から蟷螂のような蟲が這い出て、ゲッターに迫っていく。

 

「こ、こいつらは!?」

 

 蟲。そう形容するしかない。しかし、その小さな蟲が集まって真ゲッターを、グレンダイザーを包み込んでいく。

 

「なんだ、この蟲達は!?」

 

 動揺するデュークは、スペースサンダーを放ち蟲を振り払う。しかし、焼いても焼いても巨大な蛹から蟷螂は湧いて出て、止まるところを知らない。

 

「おいてめえ! てめえはなんで戦わねえんだ!」

 

 ゲッターサイトで蟲を切り裂きながら、竜馬はゲッター聖ドラゴンへ文句をつけた。

 

『……ここは進化の袋小路。奴らが倒すべき敵は私ではない』

 

「っ! わけのわからねえことを言ってんじゃねえ!?」

 

 ゲッターサイトで叩き斬った蟲は、昆虫のように体液をぶちまけ、真ゲッターを返り血のように染め上げる。しかしその皮膚は機械のようでもあり、皮膚というよりも装甲と言ったほうが正しいだろう手応えを竜馬は感じていた。

 

「こいつらは蟲なのか、それともメカなのか……?」

 

 隼人の呟きに、竜馬は怒声で返す。

 

「有機類ならぶっ殺す! メカならぶっ壊す!」

 

 サイトをトマホークに変形させ、それをブーメランのように投げつける。空中で弧を描くように回転したそれは、次々と蟲を潰していく。

 

「竜馬サマを舐めんなよ! トマホークブーメランは健在だぜ!」

 

「竜馬! あれを見ろ!?」

 

 隼人が叫ぶ。真ゲッターとグレンダイザーが蟷螂のような蟲の相手をしている中、本体とも言うべき巨大な蛹は、有機体とメカが複合した触手を大地へ伸ばしていく。

 

「あいつら、何をするつもりだ?」

 

「観測結果が出たぞ竜馬。あの触手は、光子力研究所へ向かい伸びている」

 

「何だと!?」

 

 全員の脳裏にここにいない、竜馬達が探していた人物の顔が浮かんだ。

 

「甲児君!」

 

 スペイザーを反転させ、グレンダイザーは触手の伸びる先へ降下を試みる。しかし、大量の蟲はグレンダイザーを通せんぼするように先回り、そして小さな蟲の一つ一つが、より合わさっていく。

 

「これは……!」

 

 集まった蟲は、赤い体色に巨大な羽根を持つものを象った。

 

「ゲッターに、擬態しただと!?」

 

 その姿はまさしく、真ゲッターロボ。デュークも、竜馬もその姿に驚嘆する。しかし、それで怯んではいられなかった。

 

「たとえ貴様がゲッターの姿を取ろうと、いや……だからこそ、僕は負けるわけにはいかない!」

 

 ハンドビームを撃ちながら、スペイザーはその偽真ゲッターへと向かっていく。しかし、偽真ゲッターは今までの小型の蟲とは比べ物にならない頑丈さで、ハンドビームを寄せ付けない。そして、ゲッターの姿を維持したまま、さらに蟲が集まりその右手にトマホークを作り出して、グレンダイザーへ大きく振りかぶる。

 

「!?」

 

「危ねえぞ、デューク・フリード!」

 

 しかしその一撃は、グレンダイザーに届かなかった。僅かの間に2体の間に割り込んだ真ゲッターロボが、本物のゲッタートマホークでそれを防いだのだ。

 

「竜馬君……!」

 

 真ゲッターに庇われ、グレンダイザーは2体の間から距離を取った。

 

「デューク・フリード! お前がゲッターを疑うのも無理はねえ。こんなもんを見せられちまったんだから、そりゃあゲッターを敵視するだろうよ」

 

 トマホーク同士の剣戟を演じながら、流竜馬はデューク・フリードに……宇門大介に向かって叫んでいた。

 

「だがな! 俺は決心したぜ。ゲッター線が全てを喰らっちまうのが運命だって言うんなら……運命に逆らうのもまた、運命だってな!」

 

 偽物のトマホークをブチ破り、真ゲッターはそのまま腹部からゲッタービームを照射する。しかし、偽物のトマホークだった蟲達が本体を護るように盾となり焼かれ、肝心の偽真ゲッターには届かない。

 

「運命に逆らうのも、また運命……」

 

 しかし、竜馬の言葉はたしかにデューク・フリードに。宇門大介に届いていた。

 

「そうだ、ゲッター線が俺達に何かをさせたがっていようが関係ねえ! 俺は、ゲッターに勝つ!」

 

「ゲッターに、勝つ……」

 

 弁慶が復唱する。

 

「ハッ、大きくでやがったな」

 

 隼人がニヒルに笑う。

 

「お前達にも当然、付き合ってもらうぞ隼人、弁慶!」

 

「面白え、やってやろうじゃねえか!」

 

 弁慶が応える。隼人も、口には出さないが竜馬の、ゲッターチームのリーダーの言葉を認めていた。

 

(ゲッターの行き着く先。それはこれだけが答えってわけじゃねえ。リョウなら、きっと素晴らしい答えに行きついてくれる……)

 

 3人の、3つの心は今確かに、一つになっていた。

 

「……竜馬君。わかった」

 

 デューク・フリードが、宇門大介が口を開く。

 

「僕はフリード星の王子、デューク・フリードとして未来のフリード星に降りかかる災いを取り除くべく地球へ来た。だが……君達の友として、地球人・宇門大介として、僕は君達の戦いを信じる!」

 

 そう言ってスペースサンダーを放ち、偽真ゲッターロボを焼いていく。超高熱の電撃は、蟲の細胞ひとつひとつに決定的な打撃を与えていき、黒焦げとなって落ちていく。しかし、落ちた身体を補うように新たな蟲が偽真ゲッターに補充され、たちまち復活する。

 

「……こりゃあ、持久戦になりそうだな」

 

「なら、あのデカブツを叩くしかねえな!」

 

 バトルウィングを翻し、真ゲッターが羽ばたこうとした時だった。

 

「そいつは、俺に任せてくれ!」

 

 4人の耳に、その声が届いたのは。

 突如、光子力研究所へ向かい伸びていた触手が巨大な光に飲まれ、消滅する。

 

「これは……光子力ビーム? いや……」

 

 隼人の知る光子力ビームは、確かにマジンガーZの必殺兵器だ。しかし、違う。

 光子力ビームなら、こんな巨大な光にはならないはずだ。

 4人は、光の差した方を見る。

 そこには、紅の翼を携えた漆黒の魔神がいた。

 

「マジンガーZ!」

 

 人類の希望。人々の守り神。兜甲児に与えられた神にも悪魔にもなれる力。しかし、その姿は竜馬や大介達の知らないものだった。

 マジンガーZは流線系の形状と丸みを帯びたボディが特徴だしかし、違うのだ。

 その魔神は、全体的にマジンガーZよりも巨大だった。そして、全身がマジンガーZのそれよりも遥かにマッシヴとなり、そして何よりも鋭い形状をしている。

 魔神。その姿を見れば誰もがそう形容するだろう。英雄として人々に知られているマジンガーZやグレートマジンガーが「ヒーロー」と認められるものだとするならば、その姿は正真正銘の魔神なのだ。

 しかし、その魔神から聞こえた声は紛れもなく兜甲児のもの。

 空を走る魔神に、竜馬は通信を試みる。

 

「お前……甲児か?」

 

 本当に甲児なのか。それすらも疑問に思ってしまうほど、その魔神の姿は凶悪だったのだ。

 

「ああ、そうだぜ。すまねえなリョウ、ハヤト、ベンケイ。それに大介さん。こんな世界まで遥々さ」

 

 その声は間違いなく、兜甲児。そのことに安堵するがしかし、巨大な蛹はさらに蟲を出していく。

 

「てめえらの相手をする時間はねえ!」

 

 甲児が叫ぶと同時、その腹部のハッチが開く。

 

「ミサイル。いつでもいけます!」

 

 少女の声に甲児はひとつ頷いて、その弾頭を発射する。

 

「こいつで吹き飛べ、ギガントミサイル!」

 

 放たれたミサイルは、蟲のど真ん中で爆発。たちまち蟲達は蒸発していく。

 そして、魔神はついに真ゲッターロボと並び立った。

 

「甲児君、その機体は……?」

 

 大介が、恐る恐る尋ねる。それに対し甲児は、いつもの人好きする笑顔で応えるのだった。

 

「こいつはマジンカイザー。お爺ちゃんが作り上げ、お父さんが改良し、そしてさやかとリサが護ってくれた……マジンガーZの進化した姿だ!」

 

 魔神皇帝。マジンカイザーは猛々しく吼えた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 光子力研究所で兜甲児が見た時、それはたしかにマジンガーZの姿をしていた。

 ホバーパイルダーも、知っている姿だった。

 甲児は、かつてのインフィニティとの戦いの時と同じようにパイルダーの後部座席にリサを乗せ、マジンガーを出撃させる。

 

「マジン、ゴー!」

 

 旧光子力研究所のプールがせり上がり、マジンガーが姿を現す。しかし、それだけではマジンガーはただの巨像にすぎない。マジンガーZは、その頭部にホバーパイルダーを合体させ、人の頭脳を加える儀式を経て神にも悪魔にもなれる力を人に齎すのだ。

 

「パイルダー・オン!」

 

 そして、その儀式……ホバーパイルダーとマジンガーが合体したその時に、それは起こった。

 突如、マジンガーZの光子力エネルギーが急激に上がっていく。甲児の乗ったマジンガーZには、そのような機能はなかったはずだ。

 

「これは……!」

 

 自分の手足とも言うべきマジンガーに、自分の知らない機能がある。その事実に動揺する甲児。しかし、リサはそれを知っているようで冷静に、モニタの表示を確認している。

 

「空中元素固定装置、正常に起動。マジンフラッシュ・オールグリーン!」

 

「空中元素固定装置……!?」

 

 甲児も、噂には聞いたことがあった。祖父と親交のあった科学者・如月博士が発明したと言われている機械。大気中に存在するあらゆる元素を抽出し、物質化することができるというそれを最初に聞いたのは、祖父の存命時代だった。

 

『お爺ちゃん、そんなの錬金術だぜ。如月博士は賢者の石でも作ったってのかよ』

 

『さあのう。ワシも現物を見たわけでもないし、如月も信用できる人間にしかその研究を打ち明けておらんからな』

 

 そんな会話をしたことを、思い出す。

 その空中元素固定装置が、マジンガーの中に組み込まれているとでも言うのだろうか。

 

「どういうことだ、リサ!」

 

 甲児は、リサに説明を促した。

 

「はい。世界中がゲッター線に汚染される中、お父さんの下にある女性が空中元素固定装置をもたらしてくれたんです。これを使って、ゲッター線を抽出、物質化してほしいと。お父さんとお母さんはその方の遺志を組み、マジンガーに空中元素固定装置を搭載しました。そして……空中元素固定装置は暴走し、無尽蔵にゲッター線を抽出、吸収。そして、光子力とゲッター線が交わって異様な変化を促したんです」

 

 マジンガーの暴走。それについてリサは口を開こうとしなかった。しかし、それで甲児は察するものがあった。

 きっと、その暴走でこの世界の自分とさやかは……。

 

「……そうか」

 

 だから甲児はそれ以上暴走の件には触れず、別の部分に触れる。

 

「空中元素固定装置をもたらした女性の名前は?」

 

「ハニー……如月ハニーさんといいます」

 

 如月。その名字だけで十分だった。この空中元素固定装置は、本物だと確信できる。

 なぜなら、甲児の乗るパイルダーもろともマジンガーZは変貌を遂げているのだから。

 

「お父さんは、このマジンガーをこう称しました。『神さえ超え、悪魔をも斃す力』と」

 

「……神さえ超え、悪魔をも斃す力」

 

 甲児がそれを反芻した時、突如リサが自らの胸を抑える。

 

「ウッ……!?」

 

「リサッ!?」

 

 苦しみ出すリサ。甲児がそれを受け止めようとするが、リサはそれを「大丈夫です」と制し、呼吸を落ち着けながら話を続ける。

 

「……私の身体も、ゲッター線に汚染されています。たぶん、もう長くないんです。だから……私は、お父さんが来るのを待ってました」

 

「……俺が来るのが、わかってたのか?」

 

「はい……夢を見ましたから。零の魔神と、ゲッターエンペラーの夢を」

 

 それが何を意味することか、甲児には理解できなかった。しかし、リサが命を賭けてこの魔神を自分に託してくれたことだけは、理解できる。

 

「……こいつの名前は?」

 

「魔神皇帝、マジンカイザーです!」

 

 リサが高らかにその名を呼ぶ。それと同時にマジンガーZの変身は、終わっていた。

 マジンガーZよりも遥かにマッシブで、そして刺々しく、その剛腕はまさに星をも砕けそうだった。

 そして、その胸には「Z」の文字が煌めいている。それはきっと、この魔神が自分とマジンガーZの絆を引き継ぐ存在であるのだと、甲児は感じていた。

 魔神皇帝、マジンカイザー。その勇姿が今ここに、立ち上がった。

 

「お父さん! 上空から、巨大な触手が伸びてきています!」

 

 リサが叫ぶ。甲児が確認すると、それは無数の蟲が合体してできた触腕だった。そいつは、マジンカイザーを狙っているかのようにこちらへ伸びてくる。

 

「操縦系統はすべて、マジンガーZと同じ。リサ、お前は空中元素固定装置の制御を頼む!」

 

「了解!」

 

 伸びてくる触腕に、マジンカイザーの瞳が輝く。空中元素固定装置は、大気中の成分を無尽蔵に光子力へと変換していく。それが集中し、マジンカイザーの目から放たれたのだ。

 

「光子力ビーム!」

 

 その叫びと同時、光が走る。その光に飲み込まれた蟲達は忽ち消滅し、そのあとは何も残らない。

 

「……すげえ」

 

 マジンガーZどころか、真ゲッターロボにも勝るパワーを感じ、甲児は戦慄する。

 

「どうやら、空に何かがあるみたいだな!」

 

 マジンカイザーを走らせ、甲児はマジンガーZと変わらぬ操縦法でジャンプさせる。そして、研究所から放たれたジェットスクランダーと合体。スクランダー・クロスと同時にジェットスクランダーも、より巨大な翼へと変化した。

 

「すげえ、カイザースクランダーか!」

 

 空を走るように加速する魔神皇帝。マジンカイザーは真の主人の下で、ついに解き放たれたのだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 そうして今、マジンカイザーと真ゲッターロボが並び立っている。

 

「竜馬、あのデカい蛹はなんなんだ」

 

「わからねえが、俺達を仕留めるのが目的でこの次元に来たらしい」

 

 そう言い合う甲児と竜馬。リサは真ゲッターロボの姿を、ゲッター聖ドラゴンを、不安そうな瞳でそれを見つめている。

 

「……大丈夫だよ」

 

 そんな様子を悟って、甲児。

 

「……お父さん」

 

「竜馬達は、俺と一緒に悪い奴らから世界を守ってきたんだ。こいつらならきっと、ゲッターを正しい進化に導いてくれる」

 

 そう語りかける甲児の優しげな声にリサはひとつ頷いて、改めて真ゲッターロボを見る。

 

「はじめまして。私はマジンカイザーのコ・パイロットのリサと言います。よろしくお願いします」

 

 ペコリ、とお辞儀をするリサに、竜馬は「へっ、せいぜい足引っ張んなよ!」と檄を飛ばして真ゲッターを巨大な蛹目掛けて走らせる。

 

「甲児。お前がこの世界に来た時、訳のわからねえ量の光子力とゲッター線があった!」

 

 蛹から放たれる蟲をゲッタービームで破裂させながら、竜馬。

 

「ああ。このマジンカイザーと真ゲッターロボなら、あの時と同じかそれ以上の光子力とゲッター線を引き出せるはずだ!」

 

 マジンカイザーも、迫り来る蟲をスクランダーで斬り伏せながら突き進む。

 

「マジンカイザーと真ゲッターのフルパワーを、あいつにぶつけるぞ。いいな!」

 

「おう!」

 

 2人の応酬を聞いていたのだろうか、蛹はさらに昆虫を吐き出していく。しかし、その蟲達は突如コントロールを失ったかのように動きが鈍くなり、マジンカイザーに、真ゲッターに近寄ることすらできなかった。

 

「反重力ストーム!」

 

 スペイザーモードのグレンダイザーが、胸の放射板から放った重力光線。それを受けた蟲達はまさに重力を失い動けないでいたのだ。

 

「大介さん!」

 

「雑魚は僕に任せてくれ!」

 

「恩に着るぜ!」

 

 そして、真ゲッターは翼を大きくはためかせて巨大な蛹の右に回る。

 

「必ず、もとの世界に戻るぞ!」

 

 マジンカイザーは、巨大なカイザースクランダーを全力で噴かし蛹の左に回った。

 

「隼人、弁慶。ゲッターの力を信じようぜ」

 

「ああ、感情を込めろ。リョウ!」

 

「こうなりゃ一蓮托生だ。任せるぞ!」

 

 今、真ゲッターとひとつとなっていた3人にはわかっていた。この真ゲッターロボが、どういうものなのか。ひとつとなった3つの心。その意識を集中させ、両腕にゲッターエネルギーを込めていく。ゲッターエネルギーは、球状のエネルギーボールとなり、真ゲッターの中で大きくなっていく。

 

「お父さん。光子出力、200%を突破。いけます!」

 

「なあ、リサ。向こうに行ったら、そのお父さん……っていうのはやめてくれないか?」

 

「え?」

 

 キョトン。とするリサ。甲児は照れ臭そうに、言葉を続ける。

 

「実はさ、向こうではリサはこれから生まれるんだ。あと6ヶ月……かな?」

 

 甲児の言葉を聞いて、リサは一瞬押し黙った。その間にもマジンカイザーは、光子力を熱に変換していく。

 

「私は、お父さんとお母さんの娘です。だから……ちゃんと娘として接してくれるなら、いいですよ?」

 

「ああ。当然だ!」

 

 甲児の答えには、一切の澱みがない。それを聞いて、リサは安心したように頷いた。そして、

 

「では改めて……いつでもいけます、ご主人様!」

 

 ご主人様。かつて甲児がアンドロイドのリサにそう呼ばれていたのを思い出し、甲児は苦笑と共にさけんだ。

 

「行くぜ、ファイヤーブラスタァァァァッ!!」

 

 マジンカイザーの胸の放熱版が輝き、超高熱の光を照射する。ファイヤーブラスター。空中元素固定装置により無尽蔵の光子力を熱に変換していくそれは、マジンガーZのブレストファイヤーを遥かに上回る出力を誇っていた。

 そして、真ゲッターも集めたゲッターエネルギーを解放する。

 

「ストナァァァァァァァァッサンシャイィィィィンッ!!」

 

 球体を解き放ち、巨大な蛹にぶつける。ストナーサンシャインは、ゲッター線の塊を直接相手にぶつけ、内部爆発を起こす必殺技だ。

 おそらくは、早乙女博士も知らない機能。真ゲッターロボのスペックが100%発揮できる状態ではじめて使用可能な切り札。

 ファイヤーブラスターと、ストナーサンシャイン。2つの必殺兵器を受けた蛹はその高熱で溶け、ゲッター線で膨張しそして……弾けて消えた。

 まるで核爆発のような強烈な光。直視すれば目を焼かれるだろう光が、その場にいた者達を襲い、全員は一瞬目を閉じた。

 そして、光が収まると……。

 

「へっ、やったぜ」

 

「ああ!」

 

 空には黒い、昏い穴が空いている。

 

『…………』

 

 ゲッター聖ドラゴンは、無言。

 

「俺達は行くぜ」

 

 竜馬は、ボソリと言葉を吐き捨て真ゲッターを飛ばす。しかし、ゲッター聖ドラゴンはそれに何も答えることはなかった。

 

「……あばよ、ダチ公」

 

 そう、小さく言葉を吐いた。竜馬には、わかっていた。あの聖ドラゴンの中に、誰がいるのか。

 しかし、それを説明しようとすれば永劫の時間が必要になるだろう。そして、再会の時はすぐそこまで迫っている。

 だから、真ゲッターは振り返らずに虚空の穴へと飛び込んだ。

 

「さあ、俺たちも急ごう!」

 

「ああ!」

 

 マジンカイザーと、グレンダイザーも続く。

 そして3体のマシンが穴の中へ消えると同時、天を裂いた虚無の世界への入り口は……或いは虚無の世界からの出口は、静かに消えた。

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