俺の家が女子高生の溜まり場になっている件   作:かしら

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今回から本格的にヒロインたちと絡み始めますよー!


#2 ただいまのハズが

「ふぅ...ようやく仕分け終わったぁ。」

 

 

そこら中にものが散らばった部屋を見回して苦笑いをひとつ。うーん、も少し荷物減らすべきだったかな?まぁそのうちちゃんと整理するとしよう。

にしても広いなぁ・・・俺1人じゃちょっと勿体無いかも。

俺の引っ越して来たマンションはまだ完成してから日が浅いらしく、新築の匂いが残っていた。

俺の希望通り防音性能を備えた自室にピカピカのシステムキッチン。もともと1人でいる時間が長かった俺は家事も一通りこなせる。特に料理はここ1年くらいでかなり腕を上げた自信がある。真奈佳といい勝負だった(朝陽談)からかなりいいセンいってるんじゃないかな。

 

2人のことが頭に浮かんだ時、別れ際に『形見』を託されたことを思い出す。

自室に戻りベッドの上に置いたままになっていた2本の楽器に手を伸ばす。ドラムセットの横に飾るとしようかな。なんて思いながらケースを開いたところで重大な過失に気がつく。

 

 

「スタンド無ェじゃん...」

 

 

飾る以前の問題やないかい。てかアイツら絶対こうなるのわかってて渡したろ。

 

 

「この辺て楽器屋あるのかな...?明日探しに行くとしよう。」

 

 

どのみち明日はかつての知り合いや近所の人たちに挨拶をしに行く予定だったので、そのついでに探すとしよう。

 

 

「...ドッキリの手が込み過ぎてるだろ...あっいけね」

 

 

そう呟いて勉強机(になるであろう)の上にあるドラムスティックたちをきちんと飾る。

こいつらは本番でしか使わないとっておき。折れたりしたらシャレにならんしな。それだけ特別なものなのさ。俺ン中じゃな。

 

 

「疲れたぁ...寝よ」

 

 

翌朝けたたましいアラームとともに目を覚ました俺は着替えと朝飯を済ませて、ひとまず同じフロアの住人に挨拶済ませる。結構いい人多かったな。

1度部屋に戻り気持ちを整え直す。これから起こることを考えると・・・胃薬あったかな。

でも覚悟決めなきゃ。ここまでやってきたことを無駄にはしたくない。ピシッと両手で頬を叩いて気合を入れる。

あいつ・・・どんな反応するかな。

 

1歩ずつ気持ちが後ろ向きになるのがわかるけどなんとかここまで来た。

 

それは俺が住んでいた時と変わらぬ佇まいでそこにあった。

2年半、来たくても怖くて来られなかった場所、やまぶきベーカリー。

 

お客さん他にいなきゃいいな。修羅場にでもなったら店の評判下げかねないよね。・・・って、俺は修羅場に持ち込むつもりでいるのか。

と、軒先で1人葛藤すること5分。これ、不審者だよな。通報されてねェよな?

やっとの思いでドアを開けると、懐かしい香りが全身を包む。パン屋さんって、この感じがいいんだよなぁ。

 

 

「いらっしゃいませ...って、秋哉君じゃないか!」

「あっ、おじさん!ご無沙汰してます!みんな元気?」

「まぁなんとかな。沙綾呼ぶか?...お、噂をすれば。お客さんだぞ、沙綾」

「え、私に?誰かな」

 

 

実に1年半ぶりに聞く幼馴染の声だった。

 

 

「いらっしゃいま......ッ!」

 

 

振り返った俺を見て沙綾は言葉を失ってしまった。

すると無言のままつかつかと俺の前まで来て・・・

 

 

「久しぶ...ッ?!」

 

 

再開の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。

 

 

「なんで...なんでアンタがここにいるの?!なんでそんなのうのうと私の前に...ッ!」

「え、ちょ沙綾!待てって!」

 

 

走って店を出て行ってしまう。

 

にしても・・・

 

 

「いってェ...」

「だ、大丈夫かい?!」

「いやぁカンペキ入りましたねぇ...」

「はは、随分音響いてたもんなぁ」

 

 

右手一閃、それはそれは見事な平手打ちの炸裂だった。

って、笑い事じゃないからな?ドラマーの腕力ってすごいんだよマジで。

 

 

「俺、追っかけてった方が...」

「そうして欲しいところなんだけど...」

「?」

「いや、これからが一番忙しい時間帯なんだよ...」

 

 

手元のスマホで時間を確認すると、もうすぐお昼の時間。

お昼時は一番の稼ぎ時なことくらい、小学生の頃からこの店に出入りしてる俺なら言われずともわかったはずなのに・・・これ完全にタイミングミスったやつか。

A級戦犯ってやつか。今日から名前英機にすっか・・・って違う、そうじゃない。

にしてもまずいことになっちゃったな、厨房の方も忙しくなるこの時間帯は沙綾は絶対外せない戦力だろう。これがいないとなると・・・

 

 

「...どうしよ」

「まぁ、沙綾が学校に行ってる時は僕一人で回してるんだけどね。」

「そうはいっても、春休みはいつもより混むんじゃ...あ」

「いらっしゃいー」

 

 

そうこうしているうちにお客さんがぞろぞろと。

うーん、これはもう、やるっきゃないのでは?

 

 

「おじさん、エプロンの余りある?」

「え?」

「久しぶりだから沙綾とかおじさんみたいにうまくは回せないだろうけど...あいつ追い出しちゃったの俺だし...」

「わかった。慣れるまでは僕も手伝うから、何かあったら呼んでくれ。」

「了解!あ、いらっしゃいませー!」

 

 

最初は失敗寸前で冷や汗モノだったけど、なんだかんだ体が覚えててくれたみたいで、30分もしないうちにおじさんの助けを借りなくてもなんとかなる程度にはなった。

お昼のピークもそろそろ終盤というころ、1人のお客さんが来て・・・

 

 

「よかったぁ〜まだ残ってたぁ」

「ん?どっかで聞いたことあるような...」

「これお願いしますー...ん?」

「あっはいーえっと...チョココロネが4つで...マジか。

 

 

あ、いかん心の声漏れたか?

 

 

「やっぱり!」

「うわっやっぱ漏れて...ってあれ?!」

「秋哉君だよね?!」

「え、りみ?!」

「なんでここにおるん?!」

「いや、春からこっちの高校なんよ。」

「そうやったんか〜」

「そっか、こっちの方越してったとは言うとったけど、こんな偶然あるもんなんやなぁ」

 

 

大量のチョココロネを買いに来たのは、俺の大阪時代の同級生、牛込りみだった。俺が大阪に来て1年くらいでりみが引っ越しちゃったから、一緒にいた期間は短いんだけど、偶然にも1年の時も2年の時も同じクラスだったりりみのお姉さんが軽音部の先輩だったってこともあって、結構仲が良かった。ちなみにまなさんとは3年間同じクラスだったんだけど、朝陽とは2年の時だけクラス離れてたんだよね。

 

 

「こっちの高校って、どこ受けたん?」

「清嵐」

「えぇっ、!あぁでも確かに、秋哉君ていっつもテストとか上位の方やったかも。」

「推薦とりたかったからな」

「推薦?!すごいわぁ〜今度勉強教えてもらおかな...」

「りみってそんな勉強ニガテって感じじゃなくない?もっとも、朝陽がいたからそう見えてただけかもわからんけど。」

「あはは、そういえば、2人は元気?」

「少なくとも一昨日までは元気やったな。まなさんがゆり先輩に会いたがっとったわ。先輩も元気?」

「元気元気。こっち来て新しいバンド始めたんよ。」

「マジか。今度俺もベース弟子入りしよかな...ほいこれ、さすがのチョコ好きやな」

「ここのチョココロネホンマに美味しいんよぉ〜...ってそういえば、なんでここで働いて...?」

「あぁ、ここ幼馴染の家なんよ...元幼馴染のがええかな。」

「え、沙綾ちゃんと幼馴染なん?」

「そ。もともと大阪来る前はこっちに住んでて、今回帰って来たって感じ。」

「そーやったんやぁ...っていけない、すっかり話してしもた。」

「あぁへーきへーき。俺も今上がるとこ。俺今日だけ沙綾の代打やってん。」

「沙綾ちゃん、なんかあったの?」

「うーん...説明すんのがちと難しくてだな」

「あぁ、お疲れ様だったね。もう上がって平気だよ」

「あっはい。ごめんなさい、迷惑かけて...」

「いやぁこちらこそ。にしても、あんな沙綾初めて見たな...何があったんだい?」

「わかりません...確かに、最近連絡は取ってなかったんですけど。」

「そうだったのか...」

「あの、あいつのこと、探して来ます。」

「あぁ、頼むよ...あっ」

「「?」」

「...ただいま」

 

 

沙綾が帰って来た。

 

 

「あっ沙綾ちゃん!」

「え、りみ?」

「秋哉君と沙綾ちゃんが幼馴染だったなんて知らなかったよぉ〜」

「え、知り合いなの?」

「大阪にいた時に同じ学校でな。なことより、なんで逃げたりした。」

「ごめん。お店、手伝ってくれたんだよね。もう平気だから、帰っていいよ?」

「...は?いやいや、返事になってないだろ。」

「ごめん。ちょっと今の私は秋哉とは向き合えない。」

「ちょ、どういうことだよっ」

「私は、もっとしっかりしてなきゃいけないのに、秋哉がいると全部秋哉に依存しちゃうんだよ。それじゃダメなんだ。」

「...言ってることがよくわかんないよ。」

「...帰って。」

「え...」

「帰ってってば!」

「...わかったよ。じゃぁな」

「ッ!!!!」

「沙綾ちゃん...?」

「ごめん取り乱して。まさか2人が知り合いだったなんてなぁ。世界って狭いね。」

「そう...だね。ごめんね、聞かれたくなかったよね?」

「ごめん、気まずかったよね。ちょっと私、びっくりしちゃって。」

「いけない!すっかり長居しちゃった、沙綾ちゃんまたね!」

「あ、うん!...気ぃつかわせちゃったかな...」

 

 

やまぶきベーカリーを出た俺は、驚きのあまり呆然としていて、自分がどこに向かってるのかもわからなかった。

ただずっと、アイツの最後の言葉が頭の中で反響する。

確かに、歓迎はされないだろうと思ってた。だからこそ気まづかったんだけど。

それにしたってあの言い方は無いだろ。全然会話成立しないし。ホント、何がいけなかったんだよ・・・

とぼとぼ進む歩幅がメキメキ狭くなる。

そんなだから、自分に声がかけられていることにも全く気づけなかった。

 

 

「あれ、秋哉くん?...あれやっぱ人違い?え、でもゼッタイそうだよね?っておーい、聞こえてる?」

「え、わ、つぐみ?!」

「秋哉くん?ホントに秋哉くんなんだね?」

「そ、そだよ。久しぶりだね。」

「よかったぁ〜私ずぅっと独り言言ってる人とか思われてたらどうしようかと思ったよ〜コーヒー、飲んでく?」

「あ、うんそうしようかな。」

 

 

気づけば俺は羽沢珈琲店の前に来てたらしい。

マスターのコーヒー、最高なのよ。これ知っちゃったらス◯バとか下手に入れないもんね。

カランコロンと小気味いい音がしてドアが開く。ここも素敵なお店なんだよなぁ。

ちなみに、俺が大阪に行く時に開いてくれた送別会はここでやってもらったんだよね。

 

 

「いらっしゃい、って秋哉君!」

「マスター、いつもお世話になってます。」

「え、どういうこと?」

「コーヒー豆定期的に送ってもらってたんだよね。もっとも、材料と道具だけじゃ完全再現はできなかったけどね。やっぱお店で飲むのが一番だよ。」

「はは、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。ブラックでいいかい?」

「はい。久しぶりのマスターのコーヒーだぁ」

「でもなんで秋哉くんがここに?」

「あぁ、春からこっちの高校通うことにしたんだ」

「え、秋哉くん羽丘来るの?!」

「な訳あるか!女子校だろあそこ!」

「あ。」

「俺が通うのは一つ隣の駅の清嵐高校。」

「ふーん、清嵐かぁ...ってえぇ?!」

 

 

これはアレか。聞かれる人みんなにこの反応されるパターンか。

 

 

「清嵐って確かとっても頭いいよね?!」

「うーん、らしいね。俺は推薦だったからイマイチそこんとこわかんないんだけど。」

「エェェッ?!」

 

 

なんかその反応だとマ◯オさんみたいだな。

やっぱし機械で割ったタマゴは...おっと失礼。

 

 

「すごいね秋哉くん。あ、蘭ちゃんたちとはもう会った?」

「いやまだ。越して来たの昨日だしね。アイツら元気でやってる?」

「帰ってきたばっかなんだ!みんな元気もだよ!」

「はい、コーヒー。今回はどっちの仕事で帰って来たんだい?」

「わぁありがとうございます!!あ、今回はどっちのでもなくて」

 

 

そう言ってコーヒーを一口。ビャァウマ失礼。いやホントに美味しい。これは俺には生み出せんわぁ。

今の今まで鉛が詰め込まれたみたいだったのに、思わず顔がほころぶ。マスターも嬉しそう。

 

 

「?」

「実家出て一人暮らしすることにしたんだ。2人とも今が一番忙しいみたいでさ。それなら、俺1人だけでもこっちに帰って来たかったんだ。」

「一人暮らしするのか、そらまたえらい決断したね」

「まぁ向こうでも基本一人暮らしに近かったから、そんなに新鮮な感じもないですけどね。」

「何かあったらいつでも来てくれていいからな。」

「ありがとうマスター。あ、またコーヒーの淹れ方教えてもらおうかなぁ」

「あぁ、いつでも来なさい。つぐみも今日はあがっていいぞ。ゆっくり話したいだろ。」

「いいの?」

「もうそろそろ閉店だしな」

「え、ウソじゃあ」

「あぁ平気だよ、ゆっくりしていきな。」

「ホントに何から何まで感謝です。」

「じゃあ私もお言葉に甘えて!」

「あ、そうだつぐみ」

「ん?」

「この辺楽器屋さんってある?なんかちょっと見ないうちに駅前の様子すっかり変わっちゃってて迷子になる気しかしないんだよね。」

「楽器屋さん?うん、駅の向こうにあるよ!」

「オッケ。助かるわ」

「確かに最近一気に雰囲気変わったかも。まぁ毎日使ってるとあんまり分からないけどね。秋哉くんまだドラム続けてるの?」

「もちろん。向こうの中学じゃ軽音部のエースドラマー」

「すごい!」

「まぁ部員3人だったんだけどね」

「え」

「でもその3人でバンド組んで、ライブとかもしたよ。楽しかったなぁ。」

「秋哉くんもバンドやってたんだ!」

「?秋哉くん『も』ってどゆこと?」

「私達もバンド始めたんだよ!」

「...really?」

「ホントだよ!」

「いつもの5人で?」

「そうそう、結構最近はみんないい感じになってきてると思うよ!こんど秋哉くん練習見に来てよ!」

「ま、まぁいいけど...すげえじゃんみんな」

 

 

 

それからしばらく2人で思い出とか大阪にいる間の2年半の話を聞いたりして、ようやく店を後にすることに。

 

 

「ごめんね!すっかり夜になっちゃった...」

「へーきへーき。こりゃ買い物は明日だな。」

「あ!そうだった...」

「つぐみ明日暇?」

「え?」

「いや、暇なら連れてってもらおうかなって。イマイチ場所わかんないし...つぐみ?」

...それってデートってこと?!でも秋哉くんって沙綾ちゃんいるよね?え、私なんかでいいのかな?!

 

 

なんだかわからんがスイッチ押しちゃったのかこれ。

 

 

「つぐみー?おーい、帰ってこーい。」

「え?!あ、ごめん!明日!明日だよね!何時にする?!」

「なんかテンション壊れてない?まいっか。じゃあ10時に迎えに来るよ。」

「うん!分かった!じゃあまた明日ね!...秋哉くんと2人でお出かけだ...!

「ん?最後なんか言ってたかな。まいいや、じゃ、また明日な。」

 

 

そう言って俺は羽沢珈琲店を後にした。




初デートの相手はつぐみちゃんということになりそうですね。
次回はちょっと別視点のお話を書いてみようかと思います。



秋哉くんを大阪に転校させたのはりみと同じ学校だったという設定にするためだったんですねぇ


と、言いたいところですが実際の順番は逆でしたねw
2話を書き出す直前に「そう言えばりみって大阪いたことあるよな?」と思い出し急遽知り合いだったということになって頂きちゃっかりキーパーソンになりそうな雰囲気出して頂いております笑

ちなみに作者は関西圏に住んでたりしたこと全く無い中関西弁を劇中のキャラ達に喋らせているため本場の方がみたら不自然な所があるかもしれません。ご指摘頂けるとありがたいです。秋哉くんはもともと標準語圏が長かったということでそこまでガッツリは喋らないみたいですね笑


あとがきが長くなりましたが、次回またお会いしましょう!
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