俺の家が女子高生の溜まり場になっている件   作:かしら

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沙綾のおはなしです。
秋哉と再会したところから始まります。

秋哉以外の視点初挑戦なので少々不安ではありますが楽しんでいただければ幸いです。


#3 おかえりが言えなくて

そろそろ店が混み合う頃だ。お店の方に向かうと何やら父さんが誰かと話している。常連さんかな?と思いながら中に入る。

 

 

「...お、噂をすれば。沙綾、お客さんだよ。」

「私に?誰だろ? いらっしゃいま...ッ?!」

 

 

そこで私の思考が完全にフリーズした。そこに立っていた人は、私が誰よりも誰よりも誰よりも会いたくて、でもどこかもう会わないほうがいいんじゃないかとも思っていた人。

 

その人は私を見てぱっと笑顔の花を咲かせる。どこかホッとしているようなその表情が、私の心を逆なでする。まるで『君に会いに来たんだよ』とでも言わんばかりの表情で私を見る。どうして今更。もう私はあなたなんて必要ないのに。あなたがいなくても1人でやっていくって決めたのに。

自分でも驚くくらいの勢いで怒りが沸騰する。

 

考えるより先に体が動いていた。

 

 

「久しぶ...ッ?!」

 

 

顔を上げるとそこには左の頬を押さえ呆然と私を見返す幼馴染がいる。

 

 

「なんで...なんでアンタがここにいるの?!なんでそんなのうのうと私の前に...ッ!」

 

 

いろんな感情がごっちゃになってよくわからない。そのままの勢いで私は店を飛び出してしまった。あいつが追いかけてくる様子はない。夢中で走っていたペースを徐々に落とす。

 

商店街を抜けて細い路地をしばらく歩くと突然木々に囲まれた階段が現れる。中心地から少し離れたこの場所には地元の人でも知ってる人は少ないんじゃないかという小さな神社がある。周辺は木に覆われていてひっそりと佇むそこは、小学生の時に見つけた場所だ。皮肉にもその時一緒にいたのが先ほど私が平手打ちをお見舞いした幼馴染、秋哉だった。

 

ひとまず落ち着こう。自分に言い聞かせて私は階段を上り鳥居をくぐる。お参りを済ませベンチに腰掛ける。社務所の横に広場のような空間があり休憩できるようになっているのだ。

お正月の三が日くらいしか神主もいないので今はここには私1人だ。この静けさが私は大好きだ。

あーあ、お店放り出してきちゃった。後で父さんに怒られちゃうなぁ。

それでも私は、あの場所にはいられなかった。秋哉と面と向かって話ができる自信がなかった。

 

 

「私がもっとしっかりしなくちゃいけないんだ...」

 

 

ふと数年前の出来事が脳裏によぎる。

その日は商店街のお祭りで、私も当時一緒にバンドを組んでいた仲間とステージに立つ予定だったけど、私はその日ステージにみんなと立つことはできなかった。

本番直前になって私の携帯を鳴らしたのは弟の純だった。電話に出るなり大泣きしてパニック状態の弟からなんとか聞き出せたのは、母さんが倒れたということだった。手からスマホが滑り落ちて、私はその場で凍りついてしまった。

その後のことはそばで私達の会話を聞いていたメンバーが引き継いでくれた。私に代わって救急車の手配や弟をなだめてくれて、早く病院に行けと半ば押し出すように私を送り出してくれた。私達のことは気にしなくていいから、と。

幸いにも母さんの状態はさほど深刻なものではなかったけど、日々の疲れが一気に出てしまったようだった。母さんの入院中は家のことを私がしなくちゃならない。いつも母さんがやってるように動こうにもどこかうまくいかない。そんなときふとアイツがいればな、なんて思ったりもしてた。理不尽に八つ当たったりもしてしまった。久々に向こうから連絡をくれたというのに。ホントはいろいろ話したかったし助けも求めたかった。だけどそのとき私の中の何かが許さなかった。いつまでも誰かに頼ってばかりじゃいけない、もっと自分がしっかりしなきゃいけないんだって・・・

家のことに集中しすぎるあまり、いつしかドラムに熱を前ほど注げなくなってしまった。これではメンバーに失礼だからと、バンドを抜けた。以来私はスティックを握っていない。

 

 

「そろそろ帰んなきゃだよね...」

 

 

さすがにこれだけ長いこといなくなれば秋哉もあきらめて帰っているだろうし。そもそもいつまでこの町にいるんだろ?

店に帰ると驚いたことに秋哉はまだ残っていた。しかもうちの店のエプロンを持っている。さらに誰かと話してる?

 

 

「...ただいま」

「あっ沙綾ちゃん!」

「えっりみ?」

 

 

もうこれ以上何に驚けばいいの?ってくらい情報が渋滞してるんだけど。なんでこの2人がこんなに仲良く話してるの?

 

 

「秋哉君と沙綾ちゃんが幼馴染だったなんて知らなかったよぉ〜」

「え、知り合いなの?」

「大阪にいた時に同じ学校でな。なことより...」

 

 

秋哉の声が頭の中で反響してうまく言葉が入ってこない。

 

 

「ごめん。お店、手伝ってくれたんだよね。もう平気だから、帰っていいよ?」

「...は?いやいや、返事になってないだろ。」

 

 

秋哉が困惑顔で私を見返す。そんな顔で見ないでよ。まるで、私が悪いことしてるみたい。きっと端から見たら私が悪者なんだろうなぁ。

 

 

「ごめん。ちょっと今の私は秋哉とは向き合えない。」

「ちょ、どういうことだよっ」

「私は、もっとしっかりしてなきゃいけないのに、秋哉がいると全部秋哉に依存しちゃうんだよ。それじゃダメなんだ。」

「...言ってることがよくわかんないよ。」

「...帰って。」

「え...」

「帰ってってば!」

「...わかったよ。じゃぁな」

「ッ!!!!」

 

 

あぁ、やってしまった。こんな状況なのにちょっと後悔している自分が憎い。ああなってしまった秋哉はしばらく手が付けられない。つまり逆鱗に触れてしまったということだ。だが今の私には関係のないことだ。どうせそのうち大阪に帰るんだし。

 

 

「沙綾ちゃん...?」

「ごめん取り乱して。まさか2人が知り合いだったなんてなぁ。世界って狭いね。」

「そう...だね。ごめんね、聞かれたくなかったよね?」

「ごめん、気まずかったよね。ちょっと私、びっくりしちゃって。」

「いけない!すっかり長居しちゃった、沙綾ちゃんまたね!」

「あ、うん!...気ぃつかわせちゃったかな...」

 

 

りみにあからさまにフォローされるほど醜いものを私は見せてしまったのか。あーあ、何やってんだろ、私。

父さんは何も言ってこない。秋哉から何か聞いたのかな。理由は何にしろ今はありがたい。私も黙って自分のエプロンを付けて店に立つ。

作業に集中したいのにちょっと油断すると去り際の秋哉の顔がフラッシュバックする。

頭ではこうじゃないってわかってはいるのに、口から出てくる言葉はトゲのあるものばかり。あんな言葉をぶつけたいんじゃなくて、ホントに私が伝えたかったのは・・・

 

 

 




いかがだったでしょうか。

ちょっと沙綾のキャラ変えすぎてるかなぁとも思ったんですが大事な人相手になる時ほど不器用なのもまた沙綾らしいのかなってことでかなり棘のある感じにしてみました。



何だかとってもモヤモヤした終わり方になりましたが果たして沙綾と秋哉が仲直りすることはできるんでしょうか...?
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