「起きて、蓮起きて」
「ん?」
蓮が眠っていると誰かに起こされる。
「誰だ?」
「よかった。起きたのね」
そう言われ抱きしめられる。それと同時にだんだん意識がはっきりしていく。
(俺は……そうか。ここは病院か?俺を抱きしめてるのは母さんだよな。よかった無事だったのか。)
「母さん?」
「ああ、よかった。蓮、目を覚まさないから心配したのよ」
「何があったんだ?」
「ニュースでは巨大な木が現れたらしいわ。今はもうなくなったけど、道路とか建物が壊れてるとこがあるから」
「なくなった?」
(あの巨大な木が?)
そう疑問に思う。そして考える。
(何かの力だよな?けどこの世界、座を感じない。あいつらが波洵に勝ったのは覚えてるけど座を壊したのか?いや、曙として俺を新世界に転生させたはずなのになんでいない?いやそもそも記憶が戻っているだと!?)
「蓮、大丈夫?丸一日寝ていたのよ?」
「大丈夫だよ」
(……体に異物がある。そもそも”罪姫・正義の柱”がないはずなのになぜ形成ができた?何より変な力が体にある。どうなってるんだ?)
蓮は考える。彼にとって特別な力とは必要なものではないから。神様に頼ることなんてしたくないから。
(マリィはいない。というか座を感じないということはこの世界は座の支配の届かない世界ってことか。だったらこの力のことは別にしても方針は決まってる。)
蓮はあることを決めた。それは蓮の渇望のもとであり、”旧世界の蓮”が愛したマリィの願い。
(前世は前世だ。俺はツァラトゥストラじゃない。この世界の藤井蓮だ。だから、前世の出来事に引っ張られはしない。俺が大切だと思うのはこの世界に生きてるあいつらなんだから。)
だから蓮は母親に笑いかける。もう大丈夫だと。自分は何も心配ないと。前世のことを切り捨てて。失った日々は戻らないと知るがゆえに、今をこの刹那を大切にするために。
「そう、よかった」
母親も蓮が無事だとわかりほっと息を吐く。
それからは穏やかな時間が流れる。母親の説明によると蓮は何の異常もないが一応検査のため一日入院するそうだ。
「じゃあ蓮、私はお父さんに蓮が大丈夫って知らせないといけないから家に帰るけど本当に大丈夫?」
「大丈夫だって」
それから母親は病室を出る。それと入れ替わるように、すずかとアリサが部屋にはいってくる
「蓮、あんた大丈夫?」
「蓮君、どこか怪我したの!?」
二人ともとても心配している様子で入るなり怪我がないか確かめてきた。蓮は思わず苦笑しつつ、
「平気だよ。怪我なんて全くしてないし」
と答えて二人を安心させる。だが、ふと疑問に思い口にする。
「二人だけなのか?なのははどうした?」
(あいつなら真っ先に来そうなんだけど……まさかあいつも昨日のでけがを!!)
「なのはは、あんたのこと心配しすぎて体調が悪くなって早退したわ」
「えっ?」
「うん、昨日の事件で怪我したって聞いた瞬間教室を飛び出したもん。びっくりしたよ」
(そんなに心配させたのか。)
「そうか……。お見舞いに来てくれてありがとうな。なのはにも元気だったって言っといてくれよ」
「まあそうしないと夜も眠れそうにないしね。任せなさい」
「ああ、よろしくな」
「とにかく蓮君が元気でよかったよ」
それからしばらく三人でおしゃべりしてから二人が帰って行った。
(静かになったな。)
一人病室の中だとどうしても退屈になる。そう思いながら蓮はベッドに寝転がりながら、天井を見る。そうしていると頭に浮かぶのはあの木のこと。
(あの木はどういうものだったんだ?この世界にもやっぱりいるのか。あいつみたいな神が。)
頭に浮かぶのは非常にウザったいストーカー。旧世界では父親と呼ぶ存在。もっとも今も昔も蓮が彼を父親と肯定的に認めたことはないが。
(超ウゼェ)
思い出しながらムカついているとドアの開く音がする。
(だれだ?)
「蓮君、起きてる?」
(なのはか。)
起きていると言おうとしたとき、蓮はあることに気づいた。
(泣いてる?)
「ごめんね、ごめんね。私のせいなの。私がもっとちゃんとしてたら蓮君は入院なんてしなかったなの」
(なっ!!)
「なのは、なのはのせいじゃ」
(もう一人いるのか?)
そう思って蓮が眼を開けるとそこにはこの前なのはが助けたフェレットの姿が。
「フェレットがしゃべった?いやそれよりなのは?」
「っ蓮……君」
蓮が声を出すとなのはの動きが止まり、眼から涙が。
「なのは、どういうことか教えてくれるか?」
「蓮君」
(もし、もしもなのはが香純と同じようなことになっていたら。)
思い出すのは旧世界でのこと。香純は人を殺すことになった。もしあれと同じことであれば。
「僕が話します。もとはといえば僕が悪いから」
「ユーノ君」
ユーノ君ことフェレットの説明を要約するとジェルシードと呼ばれる願いをかなえるものがこの鳴海に堕ちたことが原因でなのはが巻き込まれたと。
「つまりはお前がなのはをこの非日常に引きずり込んだのか?」
「はい、そうです」
「ち、違うの。私が手伝いたくてやったことなの。ユーノ君は別に悪くないなの」
(非日常に自分から突っ込むのはに似てるが。)
「なのは、もう今回のことでわかっただろ、おとなしく日常に戻れ。ユーノもなのはにこれ以上頼るんじゃねぇ」
「…はい、なのは。今までありがとう」
「ま、待って。私が好きでやってることなの。だから大丈夫。私はもっとがんばるから」
「なのは」
蓮は悩む。今回のことでもわかるがなのはは危うい。非日常に首を突っ込みやすい。だから……。
「ユーノ。俺には魔法の素質はあるのか?」
「蓮君?」
「え?あ、あれ。おかしいな。この前は感じなかったのにってえ?なのはよりも魔力量が多い?」
(ってことはこれが魔力か。ならデバイスはあれだな。)
「なのは。どうしてもこの事件とかかわるんだな?」
「うん、うん」
「だったら」
蓮は覚悟を決める。もうすでになのはは彼にとって大事な日常だ。だから。
「俺も手伝おう」
たとえ非日常に入ろうと大切な刹那を守る。蓮はそう決めた。
「よろしくな」