(習作)インフィニット・ストラトス ~一夏とみんなの未来~ 作:小さな星*
連載にあたって、評価の一言設定、外しました。しかし、お二方のお言葉は大切に覚えておきます。
人生は小説よりも奇なり、と言ったところか。
「はぁ……」
俺は最近癖になってしまった溜め息を吐いた。
今日は、中学の卒業式だったのだ。
桜の季節が来ても、別れを直接告げることができない。
入試で間違ってISという、なんとかスーツを動かしてしまった。本来なら女子しか動かせないそれを、男子である俺が動かすことができたことが、世界中でニュースとなっている。それが、かつてISスポーツ界で世界最強となった千冬姉の、実弟なのだから、それはもう大スクープだ。
今はもぬけの殻となっている、我が家にはkeep outの黄色いテープが張り巡らされていることだろう。当然、俺はこっそりと避難することとなり、千冬姉が赴任しているらしいIS学園の寮にやや缶詰状態だ。
本来はもう少し穏便に済むはずだった。
もう1人の男性操縦者が見つかった、という情報がSNS上で拡散され、ニュースや新聞にも出て、どったんばったん大騒ぎだ。2人別々に現れたということが、短期間のトレンドとして、この一件が済まない事態に陥った。
1人で部屋のテレビのチャンネルをあれこれ変えながら、教科書に目を通している。そして、どこもかしこも似たようなニュース番組なので、子ども向けの番組に切り替えた。
「こんなの分かるかよ……」
日本語ではあるが、The理系という感じの文章。
体育の授業は得意だが、数学に関しては平均的だ。
『この本によれば、普通の高校生・常盤ソウゴ。彼には魔王にして時の王者・オーマジオウとなる未来が待っていた。』
どうやらヒーロー番組が始まったみたいだ。小学校でも中学校でも、こういうのが好きな友達はいた。物心ついたときから、千冬姉の代わりに家事をしていたし、専ら朝はニュース番組だった。
「普通の高校生、か」
中学の友達の五反田弾や御手洗数馬は、受験に受かったことは聞くことができた。俺はバイトがあるから無理だけど、『楽器を弾けるようになりたい同好会』にたまには顔を出そうとは思っていた。
今の俺の立場は、普通とは言い難い。
虚構の存在であるヒーローが、画面に現れた。
「千冬姉や山田先生は、仕事だし」
時計の針と違って、勉強の方は思うように進まない。
今から、頭がズキズキしてきた。頑丈な石頭なのだが、それ以上に千冬姉の愛ある一撃が強力だ。俺には悪い癖のようなものがあって、よくカッとなる時があるが、その度にこのズキズキが、俺の拳を緩めてくれた。
「楯無さん……、でもあの人って神出鬼没で、なんか忍者だし」
助けを求めるべく、今の缶詰め状態で会える3名を頭に浮かべた。しかし、千冬姉たちにもやるべきことがあり、毎日が忙しく充実していて、みんなから引っ張りだこらしい。
ヒーローは大変だな、と思う。
常盤ソウゴが目指す王は、もっと大変そうだ。
「今日は、もう1人、来るかな……」
未来からやってきたらしい、もう1人のヒーローと、常盤ソウゴはいつか仲良くすることができるのだろうか。
この学園は、ISの性質上、女子高だ。
技術職の男性がたまに出入りしているくらいで、教員も全員女性で、例年は生徒も全員女子だ。だから、当初は、高校生活3年間は男子1人で、距離感のある孤独を味わうことになるのだろうと思っていた。
千冬姉にとても迷惑をかけてしまったあの事件の後のように、良くも悪くも視線が突き刺さるのだと。
『祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ。まさに生誕の瞬間である』
虚構の存在のヒーローが画面いっぱいに登場した。
ISとはまた違った『力』を持つヒーローだ。
30分というのはあっという間だが、日曜日の心地よい朝はまだ続いている。長い長い春休み中に、この1年生寮の外に出ることは許可されていない。だが、散歩がてら、寮をふらつくことは日課だ。
今日も、誰もいない。ずっと昔、千冬姉が一晩経っても帰ってこない時の、寂しさを思い出してしまう。もう1人の男性操縦者ならば、俺のように早めに入寮する可能性があるだろうが。
「うん? お菓子か?」
俺は指先で、拾い上げた。
イチゴが描かれた包みの、駄菓子コーナーで見る飴玉だ。千冬姉はこういうのは食べないし、山田先生か楯無さんが昨晩落としていったのだろうか。なんにせよ、今度会った時に渡さないといけない。
「……だれ?」
振り返ると、淡い水色をした髪がまず目に入る。違和感はなく、むしろクセのある髪が綺麗だと感じさせる。女子らしい小柄な身体付き、ちょこんと顔にかけられた眼鏡、そんな彼女はどこかホクホクした笑顔を浮かべていた。
どこか見覚えがある髪の色だと思ったが、楯無さんか。
彼女のように元気ハツラツではない。
「……あれ、男子?」
奥ゆかしいってやつ。
不思議そうに、綺麗な瞳を俺に向けた。
「えっと、俺は、織斑一夏で、す……」
「織斑一夏」
無表情を超え、あからさまな不機嫌になった。
男子があまり得意ではないのだろうか。
IS学園には女子高出身も多いかもしれない。
「えっと、なんかごめん」
「……別に」
プイッと顔を背け、頬をちょっと膨らませる。
参ったなと、俺は頭の裏をかく。
「その、もしかしたら俺にできること、というか、直してほしいこととかがあったら……」
箒も、鈴も、元来は気の強い性格だから、言いたいことがあったらなんでもまず口に出してくれた。俺は昔からちょっと抜けているところがあるし、そういうのは正直助かるのだ。
だが、この女子は、彼女たちとは違う。
ドレスのような部屋着の上に、上質なカーディガンを羽織っている彼女は、たとえ寝ぐせがあったとしても、お嬢様という感じだ。箒も鈴もボーイッシュを体現しているような女子だった。
「……べつに」
同じ言葉だが、さっきより落ち込んだ様子を見せた。
こういうのを放っておくことは、千冬姉はしない。
「えっと、俺が将来、なにかやらかす、とか?
いや、最低最悪の魔王じゃないんだけどさ」
「ジオウ、みた……?」
おっ、ちょっと顔を上げた。
キラキラとした瞳は、なんだか嬉しいな。
「おう。あのヒーロー番組だろ」
「ヒーロー、ではあるけど……」
むっと、そのジト目で見つめてくる。
俺は、彼女の言葉を待つ。
「仮面ライダーは、仮面ライダーというジャンル」
「お、おう、そうか」
人には譲れないものがあるというが、彼女はそこを譲らないらしい。でも、正義のヒーローの一部だろう。正義のヒーローは、普通じゃなくて、『超人』で、正義のために戦うのだ。戦うしかないのだ。
「でも、正義のヒーローなんだろ?」
あれ、なんでヒーローが、好きじゃないんだろう。
なんだか、モヤモヤしてきた。
「ある人が言った、俺たちは正義のために戦うんじゃない」
誰かに語りかけるように、どこか勇ましく、彼女はその言葉を告げる。
「俺たちは人間の自由のために戦うんだと」
そして、言葉を紡いだ。
「……って、通りすがりの仮面ライダーが言ってた」
「わかるか!?」
思わず、ツッコミを入れてしまうと、彼女は信じられないようなものを見る目でこちらを見てきた。俺との距離を縮め、両腕を伸ばして拳を握りこみ、ちょこんと背伸びをして目線をちょっと高くする。
「あなたは! 平成仮面ライダーの歴史を感じるべき!」
「へ、平成……? 歴史……?」
いや、確かに仮面ライダーは長く放送されている。
それに、平成という年号が変わることも知っている。
「仮面ライダーは、いるもん……」
急にしおらしく、俺から距離を取り、自分のスカートの裾を握りこむ。彼女が仮面ライダーを大好きなこととは逆に、俺は虚構の存在なのだと冷えた気持ちでヒーロー番組を見ていた。
「仮面ライダーが好きな女性も、いっぱい増えた。
いっぱい友達がいる。
けど。会えたことは、ない」
人と温度差があることは、とても悲しいことだ。
それに、俺が直すべきところは見つかった。
「俺、見るから。ちゃんとヒーローについて、考えなおすから。これでも、誰かを守れるくらい強くなりたいって思ってるんだぜ」
だからさ、いつも通り。
「こうやって、仮面ライダーについて話そう。だから、俺と友達に」
「ごめん、それはムリ」
差し出した手が、結ばれることはなかった。
なんだか仲良くなれると思ったんだけれど。
「そうか。いや、無理は言わないさ」
「私は、そんなにいい子じゃないから。
あなたには、いっぱいひどいこと言っちゃう。
あなたに、痛いことしちゃうかもしれない。」
ギュっと握られた彼女の手には、中指に嵌めた指輪が一際輝く。彼女が優しいことはよくわかった。だが、今の彼女に、どう言葉をかければいいのだろうか。『俺は頑丈だから大丈夫』、どうしてかそう言いたくはなかった。
そして、背を向けた。
寮の綺麗な絨毯の上を、姿勢よく歩き始める。
振り返って。
「でも。ファンとしてなら、いいよ」
『また来週』、とちょっとだけ手を振ってくれた。
柔らかい笑顔がそこにはあった。
「おう! またな!」
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「というのが、一夏との、その、ナレソメ……」
同窓会の、広い会場で、ある意味、公開処刑だ。
うぅ、恥ずかしい……
あの時も、いや、弐式が完成してお姉ちゃんと仲直りするまで、心に余裕がなくて、一夏にはいっぱい迷惑をかけたと思う。まあ、仮面ライダーのことをまったく分かっていないことに腹が立ったのは、熱狂的ファンとして許してほしい。
「へぇー、じゃあ一夏とは、毎週会ってたんだ?」
「出会うの、箒たちよりも早かったんだね」
乱音やシャルが満面の笑顔で尋ねてくる。
いや、内面は嫉妬もあるかもしれないけれど。
「ううん。次の日には、勉強教えてって、泣きついてきた」
「うむ。お世辞にも、よめ、一夏の成績は高くなかった」
また嫁って言った。
まあ、IS学園の倍率は非常に高く、成績優秀な人が集まる。普通科高校の受験に向けて勉強していた一夏も、もう1人の男性操縦者も、授業は苦戦していた。始まった頃の勉強会は、本音と一夏と私の3人で、いつしかみんなが参加してくれた。こんな私でも、友達が増えていった。一夏のおかげ。
「織斑先生の、抜き打ちテストを受けた、だったかな」
「オリムラせんせい、やさしいけど、きびしい、もん」
私に続いて、クーリェがそう告げると、箒や鈴やセシリアが頭を抱えた。
3人が特に、暴走癖あったもんね。
「やはり禁断の果実というわけか」
「おい、どさくさに紛れて、さわるなぁ!」
ロランが箒にちょっかいをかけ始めたことには、みんなが苦笑いを零した。
「春って、まだ私たちいなかったわよねー」
「ねー♪」
ファニールはニヤリと、オニールはニコニコと、コメット姉妹が話の続きを促してきた。