(習作)インフィニット・ストラトス ~一夏とみんなの未来~ 作:小さな星*
やらかした、と思うのは誰だって時にはあるだろう。
決して望んで入ったとは言えないIS学園だが、千冬姉もいるから平穏な日々が過ごせると思っていた。良くも悪くも注目を集めることは予想していたが、初日からトラブルを引き起こしてしまった。千冬姉なんて、出席簿がミシミシと音を立てるくらいだった。迷惑かけたなぁ……
「シスコン」
「かんちゃんがそれ言うかな~」
真顔で告げる簪さんに、ダボダボした袖をふりふりしながら本音がツッコミを入れる。簪さんとは、自分の姉を自慢し合うくらいには、仲良くなれた。お互いに、いつか隣に立ちたいのだと、目標がある。
「……まあ、だいたいわかった」
「悪い。助かる」
「さすがのおりむーもギブアップだったね~」
箒と数年ぶりに再会できたことは心の底から嬉しかったし、それに、数少ない趣味を共有する簪さんや、異性の壁を感じさせない本音という、2人の友達を得られたことは奇跡とも言える。
「サンキュ」
「どーいたしましてだよ~」
「あんなに騒がしくしないなら、別にいい」
こうやって会話しながらも、並行してパソコンを操作している簪さんも、お菓子をもしゃもしゃしている本音も、迷惑がっている様子はない。ゴーイングマイウェイで何よりだ。男性操縦者だから『特別』なのだと扱わないことが、今の俺には心地よかった。
だって、普通の人と違うって、なんか嫌じゃん。
あれ、なんでそう思うのだろう。
「どったの、おりむー」
「いや、あー、教室は今どんな感じなのかなって」
どったんばったん大騒ぎな教室から、個人用の整備室まで、本音がこっそり抜けさせてくれた。楯無さんがもはや忍者なように、2人もちょっとだけ忍者みたいなことができるらしい。3人が何者かはまだよくわからない。そういえば、忍者の仮面ライダーっているのだろうか。
「あいつ、大丈夫かな」
「けっこーうれしそうだったけどね~」
学園で学年問わず、話題の種は他にもいる。同性の俺から見ても整った容姿をしている、もう1人の男性操縦者だとか。そんなあいつは、ナントカって会社の御曹司で、すでに専用機を持っていると言っていた。それに、女子の中でも専用機持ちの代表候補性である、えーと、セシなんとかさんというのは、学年主席らしい。
「あいつらとも仲良くしたいんだけどなぁ。あいつにも代表候補性にもなんか嫌われたし、それで、決闘にまでなっちゃって……」
セシなんとかさんから日本のことを馬鹿にされたのは、なんだか千冬姉や簪さんのことを馬鹿にされたと思って、カッとなってしまった。簪さんは代表候補性だし、本音たちも日本人なのだ。
でも、もう1人の男性操縦者には、何か機に障ることしたかな。
「それ、4組まで聞こえてた」
「かっこよかったよ~ みんなおぉ~ってなってた」
「売り言葉に買い言葉だ。もっと冷静になるべきだったよなぁ……」
昔からカッとなる癖は、良くないところだ。
最悪、無意識に、手が出てしまいそうになる。
でも、あの2人にあれだけ啖呵を切った俺なんて、まだスタートラインにも立てていない。授業にもギリギリ付いていけるくらいだ。あ、でも、青い顔をしていたあいつよりは、学力という点では勝っているのか。どんぐりの背比べってやつだけど。
「そうだ。あなたの専用機、見せて」
「え? 俺の?」
簪さんから声をかけてくるのは、仮面ライダー関連以外では珍しい。だから、少し抜けた返事をしてしまった。
「うん。こうなったら参考になるところは参考にしてやるし、うちの子を負けないくらい、スペックに仕上げてみせるもん」
胸の前でギュっと握り拳を作り、やる気を見せた。
簪さんの専用機が未完成ということは知っている。
「いや、まだないけど」
「え? もう来ているはずだけど」
「どんなのかも教えられないし、たぶん、来週?」
「わぉ~ それって けっとーの日じゃん」
「さいあくだ……技術職として論外」
「それな~ だよ~」
少し早口な簪さんの説明によれば、専用機というのは、個人に合うように、ビルド、造るものらしい。もちろん、理論実証機もあるが、それには適正が高い代表候補性が選ばれる。オルコットさん(セシなんとかさん)もそれに当てはまる。したがって、事前にマニュアルも貰えない専用機より、初心者に動かしやすい量産機のほうがまだマシ、と。
「な、なるほど……」
「でも。ISはデータなんかじゃ計れないこともある」
簪さんは指輪に触れながら、じっと見つめた。
我が子を愛おしく見るような瞳だ。
「誰かの力になりたいと思う願いが、私たちを強くする、らしいよ」
そして、くしゃっとした微笑みを零した。
俺は目の前で拳を握りこんだ。
まだスタートラインに立ったばかりの俺だけれど、簪さんと本音がいて、楯無さんがいて、箒がいて、それに、千冬姉がいる。なんて贅沢なことなのだろう。IS学園に来たことは望んだわけではないけれど、高校生活は希望に満ちあふれている。
「ふぐっ!」
「あたま、だいじょうぶ~?」
「……なんだか、すごい音だったよ?」
ようやく、頭が冴えてきた。
「いや、ちょっと喝を入れようかと。いつもは千冬姉が入れてくれるんだけど」
「男子、だからなのかな……?」
顎に手を当てて何か悩む簪さんと、なにかごそごそしている本音を、キョロキョロと交互に見つめるしかない。
「そんなおりむーには~ じゃ~ん」
「本音、それ私のなんだけど」
『まぁ織斑君ならいいけど』とボソッと呟いた。
本音がヘルメットを被せてくることに、俺は従う。
「VRゲームとか~ シミュレータとか言うものだね~」
「織斑先生とか、鬼畜難易度」
「そうか。千冬姉相手で頼む」
「「シスコン」」と、2人から告げられた。
テレビの向こうで活躍していた千冬姉を正面から見れる機会だぞ。逃すはずはない。
「みんなが力を合わせれば、不可能は可能に、絶望が希望に、敗北は勝利に変わる、から」
視界と意識が仮想世界に持っていかれる感覚を味わいながら、簪さんの言葉を胸に刻んだ。
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「裏で特訓してた、かな。一応」
「このわたくしにも一矢報いた一夏さんでしたが、そういうことだったのですわね」
とはいえ、代表候補性に超初心者が勝てることはなかった。あの時から一夏の成長は見張るものがあったけど、今では射撃部門のトップ3の実力を持つセシリア自身も、伸び代と可能性に満ち溢れていたこともある。
でも、負けてもなんだか満足そうだった。
セシリアと仲良くなったのは、ちょっと妬いちゃった。
「私も剣道の腕をゼロから叩き直してやったな」
「武装の扱い方は、生身でも練習するものね」
どこか誇らしげな箒に、ベルベットさんが冷静な言葉を紡ぐと、誰もが頷く。ISの稼働時間は限られているし、ISに頼っていると筋力が衰えやすいし、基礎体力をつけることにも繋がる。朝から千冬義姉さんと走り、放課後は剣道をして、終わったら仮想空間、その後勉強、今考えると、一夏の身体のことがあったとしてもすごく無茶をしていた。
「それに、千冬せんせの暮桜と、一夏君の白式、似ているところ多いもの。その特訓はナイスだったわよ、簪ちゃん」
「ちかい……」
腕をギュっと、その大きな胸にうずめられる。
歳を考えてよ、シスコン。嬉しいけど。
「だが、奴には勝てなかったな」
「あいつも、ほんっと実力だけは高かったわよね」
「その時のおりむー、けちょんけちょんだったね~」
箒や鈴が言っているのは、もう1人の男性操縦者のことだろう。いわゆる天然ものの天才だった。科学が進歩した現在の大会規定からしても、機体のスペックが逸脱していたし、彼自身も生まれてすぐに訓練を始めたらしいし、そんな彼に勝つのは、暗部当主のお姉ちゃんでさえギリギリだった。すごい努力を、しかも隠れて、しているんだろうなということを感じさせた。
ガチで血反吐を吐くくらいは、私や本音も経験あるけど、お姉ちゃんと虚さんはそれ以上だから。
「このわたくしでも、一方的でしたもの。仕方がありませんわ」
「僕も最初、彼の強さにはほんとびっくりしたよ」
たしかプライベートチャンネルで何か話しながら戦っていた一夏たちだったけど、一夏はどんどん動きが乱れていったはずだ。まあ、良くも悪くも、夫はカッとしやすいところがあるから。
暴力だけは絶対に振るわないけれどね。
それは千冬義姉さんが教えてくれたこと。
「そのあとは、クラス対抗戦があったっけ」
「あー、あったあった。途中でおじゃんだったけど」
「みんな無事だったけど、怖かったよね」
癒子や清香、さゆかがそう話しているが、人伝手にしか聞いたことのないメンバーは再びニヤニヤとしながら、こちらを向いた。