(習作)インフィニット・ストラトス ~一夏とみんなの未来~   作:小さな星*

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第4話 特訓期間

 ISを使うことには少し慣れたが、今日のように晴天のアリーナを空を飛ぶというのは、本当に気持ちいいものだ。ISの一番の魅力は、やはり空を飛ぶことにあるのだと、この初心を忘れないようにしないと。

 

 いつか、あの仮面ライダーのように、みんなで宇宙に行けるといいな。

 

「織斑君、一旦降りてきていいよ」

「りょうかい」

 

 プライベートチャンネルで連絡が来たので、ゆっくりと降下する。以前の授業のように、地面に激突するようなヘマは、さすがにもう起こさないようになった。簪さんは『その勢いの良さを見習いたい』って言ってくれたけれど。

 

「どうだった?」

「この数値、悔しいけど凄い」

 

 空中に表示されたディスプレイを見ながら、思考の海に入っているようだ。俺からすればじゃじゃ馬で燃費が悪く、スピードだけが自慢の白式なのだが、科学者目線だと、高性能な機体らしい。

 

「でも。ここまで上げると、さすがにスラスターがもたない、か。それに、白式はもう少しこの角度を……」

 

 さて、手持ち無沙汰な俺はキョロキョロと周囲を見る。学年別トーナメントに向けて、たくさんの生徒が特訓に励んでいる。毎日が予約でいっぱいで、今の俺は、整備課志望の生徒たちに紛れているだけだから、基礎的な動きを見直す日にしている。

 

「白式、ちょっと調整させてもらうね」

「何か手伝えること、いや、じっとしてます……」

 

 目の前の簪さんに視線を戻す。

 本人は自信なさげに言っていたけれど、他の女子に決して紛れず、簪さんも可愛いと思う。普段はあまり見せない白い肌も綺麗で、それに、引き締まった身体は上手く鍛えられている。

 

 って、女子はこういう視線に敏感なんだっけ。

 でも、今は集中しているから大丈夫そうだ。

 

「今やっているのは、スラスターの調整。

 織斑君に使いやすいように、ね」

 

 開発元で俺に合わせて調整されたわけではないし、それに、俺自身にノウハウが皆無だ。だから、簪さんを初めとする整備課の人たちには、このじゃじゃ馬の整備や調整を任せっきりになっている。

 

「うん。調整できた。」

「サンキュ」

 

『気にしないで』と言う代わりに、首を振った。

 

「私の弐式には、白式の稼働データ、使わせてもらっているから」

「それなら、こっちだって、えーっと」

 

 どう言うべきか。

 白式の弱点は、燃費の悪さと容量の少なさで。

 

「白式に汎用機の稼働データをディープラーニングさせれば、もう少し安定性が増すと、思う。ちょっと古いコアを使ってるみたい。出力は高いんだけれどね。」

「な、なるほど……ギブアンドテイクだな」

 

 白式のことを俺よりよく知っていると、常々思う。

 俺も頑張らないとな。

 

「それに、雪片弐型のおかげで、武装も進んだ」

「それならよかった」

 

 簪は全距離に対応できる打鉄を目指しているらしいが、近接特化の武装が役に立つのだろうか。薙刀は最近完成したようだが、あれのどこに雪片弐型の技術が使われたのやら。

 

 まあ、俺が千冬姉から継承した鎧と剣を褒めてくれることは、とても嬉しいことだ。ウォズから祝われる常盤ソウゴも、こういう気分なのだろうか。

 

「確認のため。飛ぼう、織斑君」

「おう!」

 

 非固定ユニットが目立つ。

 そして、全体的に軽装備な打鉄弐式だ。

 

 ISを展開させながら、俺も来るように促した。簪と並行して飛ぶことを意識するが、さっきより飛びやすいと実感がある。さっきの調整のおかげか、はたまた、他の要因があるのか。

 

「学年別トーナメントが終わったらね、お姉ちゃんに挑戦してみようと思う」

「楯無さんに?」

 

 こくりと頷く。

 代表候補性を超える、国家代表なのだ。

 

「生徒会長は最強たれ、お姉ちゃんは最強」

「……じゃあ、俺は千冬姉に挑戦するかな」

 

 たとえ勝てなくとも、ぶつかってみないと分からないことがある。だから、簪には頑張ってほしい。

 

「シスコン」「シスコン」

 

 お互いに言葉が重なり、くすりと笑った。

 大好きな姉が、目標というのは恵まれていると思う。

 

 

「おりむ~!かんちゃ~ん! 競争だー!」

「本音、危ないから!……もぅー」

 

 もう1つの汎用機、ラファールのカスタム機体がスラスターを噴かせて、追い抜いていく。俺以上に抜けている彼女だが、機体制御は俺より上手い。まあ、俺と同じく、射撃に関する授業は、補習の常連なのだが。

 

 簪さんが瞬時加速でスピードを上げたので、俺も意図した瞬時加速で追いかける。俺の場合成功率が100%とは言えないので、上手くいってよかった。真っ直ぐ飛ぶことすら、ISはそれなりに難しいのだ。

 

 

『はーい、そろそろ交代時間よー!』

 おっと、4組担任のフランスィ先生が、俺たちに放送で声をかけた。今日やるべき数学の課題の存在を思い出しながら、2人と一緒に無事に地上に降り立った。

 

「どうだった~?」

「うん。問題なく、瞬時加速できたわね」

「さ、片付けて戻りましょうか」

 

 本音が機体から降りると、整備課志望の1年生たちから声をかけられている。俺も、整備室に行くので、彼女たちの運搬を手伝うことにした。それに、本音と簪さんから誘われたとはいえ、この場の俺って本来は部外者だし。

 

「本音って、代表候補性だったのか?」

「ううん。コンクールに応募するため。だから一応、テストパイロットではある」

 

 たしかに、IS学園の生徒たちで、毎年いくつか機体を造って発表するとは聞いたことはある。とはいえ、1年生の1学期から、すでに開発に携わるなんて、IS学園は本格的だなと感じる。

 

「1年からって、すげぇな」

「かいちょ~のを 参考にさせてもらってるけどね~」

 

 どうやら、俺たちの会話が聞こえていたらしい。

 

「アクア・ナノマシンよ、織斑君」

「オリジナルは、有線型ビットくらいです」

「おみくじなんかもあるよ?」

 

 なるほどわからん。

 おみくじについて、特にわからない。

 

「学年別トーナメントより、私たちはこちらが優先ですから。うちの簪ちゃんと織斑さんにはぜひ頑張っていただきたいですね」

「そうそう。4組の期待の星!」

「おりむ~は1組のきたいのほし~」

 

「無茶言わないでくれ……セシリア、鈴、シャル、ボーデヴィッヒさん、それに、あいつだっているだろ?」

 

 例年より、専用機持ちや代表候補性が多い。男性操縦者の調査を兼ねていて、世界各国がこぞって、候補性を学園に送り込もうとしているらしい。いや、俺もあいつも、なんで動かせるか見当もつかないのだが。

 

「ええ。1年生の中でトップクラスでしょう」

「あれよね。ゲームでいうチートってくらいの強さよね」

「でも、ちょっと女子のこと、見すぎかなー」

 

 そして、男子である俺がいるから話しづらい内容なのか、彼女たちは苦笑いで誤魔化した。隣を歩く簪さんに至っては、持っている荷物で自分の身体と顔を隠している。

 

 やっぱり、簪さん、さっきちょっと見てたの気づいていたのかな。

 

「えーと、気を付けます...」

 

 ISスーツってほぼスクール水着だからな。誰だよ、こんなデザインにしたの。

 IS実習の度に、目のやり場に困る。

 

「私たちはへーきなほうだけどね」

「織斑さんのそういうところ、かわいいですよ」

 

 みんなが、うんうんと頷く。

 女子の言う、かわいいってよくわからん。

 

「まー、思春期男子って、ああいうのも多いのかな」

「さあ、どうなのでしょうね」

「そんな彼だけど、最近はボーデヴィッヒさんにご執心みたい。もしかして、組むのかしら?」

 

 最近転校してきたドイツの代表候補性、俺も彼女とはどうにか関係を良好にしたい。ドイツの一件は個人的にも黒歴史なのだが、千冬姉が好きな同士として、仲良くなれると思うんだけどな。

 

ていうか。

「あの2人がか……」

 

 2人とも実力は高い。

 でも。

 

『仲良しごっこが楽しいか?』

 あいつに、皮肉を込めて言われた言葉が頭に思い浮かんだ。そして、ボーデヴィッヒさんからは『お遊びだな』と指摘された。そりゃあ、平凡な俺には、誰かに教えてもらいながら、少しずつ学んでいくことしかできない。高校生活が充実していると感じるのは、みんながいるからだ。

 

だから。

「勝たないとな」

 

 誰かがくじければ、誰かが支える、それがこのIS学園だ。シャルのことだって、楯無さんがちゃんと解決してくれる。だから、俺がするべきことは、友情の力をあの2人に知ってもらうことだ。

 

「織斑君は、青さも甘さも弱さも、ひっくるめて強さに変えてくれる、ね」

「ああ、友情の力で勝ってやろうぜ」

 

 弾や数馬たちにも、ようやく連絡を取ることができた。

 近況報告を聞くだけで嬉しくなるものだ。だから、彼らとも、あれだ、ずっ友でいたい。

 

「かんちゃんもおりむ~も いいこという~」

「やたっ! 織斑君とも友達だ!」

「簪ちゃん共々、よろしくお願いしますね」

 

 こんな風に、クラスの垣根を超えて、仲良くなることだってできるのだ。だから、あの2人とも、どうにか仲良くなろう。

 

「ありがとう、織斑君」

「えっと、どういたしまして?」

 

 いろいろ助けてもらってばかりなのは、こっちのほうなのだが。

 

 

****

 

「えっと、つまり、あんまり練習はできなくて……」

「IS学園、もう少し広くしてほしかったわよねー」

「……うらやましい」

 

 2学期以降は乱音たちも転校してきたし、ますますアリーナが手狭だと感じさせた。何回か襲撃があったせいで、アリーナが増設されたのは、私たちが2年になってからだった。ベルベットさんやグリフィンさんに至っては、その前に卒業した。

 

「本音も立派になって、ないわね」

「そんなに変わってないよね」

「ぶ~ 成長したもん~」

 

 清香たちがそう言うけど、本音はちゃんと表向きの職に就いている。技術職として、私は同じチームで開発に携わることもあったけど、昔からそのダボダボな袖でよく細かい作業できるなと感心する。あと胸の大きさとか、ぐぬぬ……

 

「今日だって、一夏さんが、呼び掛けた、おかげ」

「私たちもオフの日でよかったわ」

 

 ロシアの新しい国家代表のクーリェだったり、女優のコメット姉妹だったり、たくさんの世界的に有名な人が集まっている。そして、そんな人たちと、今も友達でいられるのは、一夏のおかげだ。彼にはたくさんのものを貰った。

 

 一夏から連絡が来ていないかな、って、今は眼鏡型ディスプレイを身に着けていなかったっけ。

 

「それで、肝心の学年別トーナメントかな?」

「やはり、なにか起こったのでしょうかね」

 

 ロランさんやヴィシュヌが話の続きを促した。まあ、頷いたラウラの許可もあるし、この場では話していいだろう。いや、また私が話さなきゃなの……

 


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