(習作)インフィニット・ストラトス ~一夏とみんなの未来~ 作:小さな星*
ISを使うことには少し慣れたが、今日のように晴天のアリーナを空を飛ぶというのは、本当に気持ちいいものだ。ISの一番の魅力は、やはり空を飛ぶことにあるのだと、この初心を忘れないようにしないと。
いつか、あの仮面ライダーのように、みんなで宇宙に行けるといいな。
「織斑君、一旦降りてきていいよ」
「りょうかい」
プライベートチャンネルで連絡が来たので、ゆっくりと降下する。以前の授業のように、地面に激突するようなヘマは、さすがにもう起こさないようになった。簪さんは『その勢いの良さを見習いたい』って言ってくれたけれど。
「どうだった?」
「この数値、悔しいけど凄い」
空中に表示されたディスプレイを見ながら、思考の海に入っているようだ。俺からすればじゃじゃ馬で燃費が悪く、スピードだけが自慢の白式なのだが、科学者目線だと、高性能な機体らしい。
「でも。ここまで上げると、さすがにスラスターがもたない、か。それに、白式はもう少しこの角度を……」
さて、手持ち無沙汰な俺はキョロキョロと周囲を見る。学年別トーナメントに向けて、たくさんの生徒が特訓に励んでいる。毎日が予約でいっぱいで、今の俺は、整備課志望の生徒たちに紛れているだけだから、基礎的な動きを見直す日にしている。
「白式、ちょっと調整させてもらうね」
「何か手伝えること、いや、じっとしてます……」
目の前の簪さんに視線を戻す。
本人は自信なさげに言っていたけれど、他の女子に決して紛れず、簪さんも可愛いと思う。普段はあまり見せない白い肌も綺麗で、それに、引き締まった身体は上手く鍛えられている。
って、女子はこういう視線に敏感なんだっけ。
でも、今は集中しているから大丈夫そうだ。
「今やっているのは、スラスターの調整。
織斑君に使いやすいように、ね」
開発元で俺に合わせて調整されたわけではないし、それに、俺自身にノウハウが皆無だ。だから、簪さんを初めとする整備課の人たちには、このじゃじゃ馬の整備や調整を任せっきりになっている。
「うん。調整できた。」
「サンキュ」
『気にしないで』と言う代わりに、首を振った。
「私の弐式には、白式の稼働データ、使わせてもらっているから」
「それなら、こっちだって、えーっと」
どう言うべきか。
白式の弱点は、燃費の悪さと容量の少なさで。
「白式に汎用機の稼働データをディープラーニングさせれば、もう少し安定性が増すと、思う。ちょっと古いコアを使ってるみたい。出力は高いんだけれどね。」
「な、なるほど……ギブアンドテイクだな」
白式のことを俺よりよく知っていると、常々思う。
俺も頑張らないとな。
「それに、雪片弐型のおかげで、武装も進んだ」
「それならよかった」
簪は全距離に対応できる打鉄を目指しているらしいが、近接特化の武装が役に立つのだろうか。薙刀は最近完成したようだが、あれのどこに雪片弐型の技術が使われたのやら。
まあ、俺が千冬姉から継承した鎧と剣を褒めてくれることは、とても嬉しいことだ。ウォズから祝われる常盤ソウゴも、こういう気分なのだろうか。
「確認のため。飛ぼう、織斑君」
「おう!」
非固定ユニットが目立つ。
そして、全体的に軽装備な打鉄弐式だ。
ISを展開させながら、俺も来るように促した。簪と並行して飛ぶことを意識するが、さっきより飛びやすいと実感がある。さっきの調整のおかげか、はたまた、他の要因があるのか。
「学年別トーナメントが終わったらね、お姉ちゃんに挑戦してみようと思う」
「楯無さんに?」
こくりと頷く。
代表候補性を超える、国家代表なのだ。
「生徒会長は最強たれ、お姉ちゃんは最強」
「……じゃあ、俺は千冬姉に挑戦するかな」
たとえ勝てなくとも、ぶつかってみないと分からないことがある。だから、簪には頑張ってほしい。
「シスコン」「シスコン」
お互いに言葉が重なり、くすりと笑った。
大好きな姉が、目標というのは恵まれていると思う。
「おりむ~!かんちゃ~ん! 競争だー!」
「本音、危ないから!……もぅー」
もう1つの汎用機、ラファールのカスタム機体がスラスターを噴かせて、追い抜いていく。俺以上に抜けている彼女だが、機体制御は俺より上手い。まあ、俺と同じく、射撃に関する授業は、補習の常連なのだが。
簪さんが瞬時加速でスピードを上げたので、俺も意図した瞬時加速で追いかける。俺の場合成功率が100%とは言えないので、上手くいってよかった。真っ直ぐ飛ぶことすら、ISはそれなりに難しいのだ。
『はーい、そろそろ交代時間よー!』
おっと、4組担任のフランスィ先生が、俺たちに放送で声をかけた。今日やるべき数学の課題の存在を思い出しながら、2人と一緒に無事に地上に降り立った。
「どうだった~?」
「うん。問題なく、瞬時加速できたわね」
「さ、片付けて戻りましょうか」
本音が機体から降りると、整備課志望の1年生たちから声をかけられている。俺も、整備室に行くので、彼女たちの運搬を手伝うことにした。それに、本音と簪さんから誘われたとはいえ、この場の俺って本来は部外者だし。
「本音って、代表候補性だったのか?」
「ううん。コンクールに応募するため。だから一応、テストパイロットではある」
たしかに、IS学園の生徒たちで、毎年いくつか機体を造って発表するとは聞いたことはある。とはいえ、1年生の1学期から、すでに開発に携わるなんて、IS学園は本格的だなと感じる。
「1年からって、すげぇな」
「かいちょ~のを 参考にさせてもらってるけどね~」
どうやら、俺たちの会話が聞こえていたらしい。
「アクア・ナノマシンよ、織斑君」
「オリジナルは、有線型ビットくらいです」
「おみくじなんかもあるよ?」
なるほどわからん。
おみくじについて、特にわからない。
「学年別トーナメントより、私たちはこちらが優先ですから。うちの簪ちゃんと織斑さんにはぜひ頑張っていただきたいですね」
「そうそう。4組の期待の星!」
「おりむ~は1組のきたいのほし~」
「無茶言わないでくれ……セシリア、鈴、シャル、ボーデヴィッヒさん、それに、あいつだっているだろ?」
例年より、専用機持ちや代表候補性が多い。男性操縦者の調査を兼ねていて、世界各国がこぞって、候補性を学園に送り込もうとしているらしい。いや、俺もあいつも、なんで動かせるか見当もつかないのだが。
「ええ。1年生の中でトップクラスでしょう」
「あれよね。ゲームでいうチートってくらいの強さよね」
「でも、ちょっと女子のこと、見すぎかなー」
そして、男子である俺がいるから話しづらい内容なのか、彼女たちは苦笑いで誤魔化した。隣を歩く簪さんに至っては、持っている荷物で自分の身体と顔を隠している。
やっぱり、簪さん、さっきちょっと見てたの気づいていたのかな。
「えーと、気を付けます...」
ISスーツってほぼスクール水着だからな。誰だよ、こんなデザインにしたの。
IS実習の度に、目のやり場に困る。
「私たちはへーきなほうだけどね」
「織斑さんのそういうところ、かわいいですよ」
みんなが、うんうんと頷く。
女子の言う、かわいいってよくわからん。
「まー、思春期男子って、ああいうのも多いのかな」
「さあ、どうなのでしょうね」
「そんな彼だけど、最近はボーデヴィッヒさんにご執心みたい。もしかして、組むのかしら?」
最近転校してきたドイツの代表候補性、俺も彼女とはどうにか関係を良好にしたい。ドイツの一件は個人的にも黒歴史なのだが、千冬姉が好きな同士として、仲良くなれると思うんだけどな。
ていうか。
「あの2人がか……」
2人とも実力は高い。
でも。
『仲良しごっこが楽しいか?』
あいつに、皮肉を込めて言われた言葉が頭に思い浮かんだ。そして、ボーデヴィッヒさんからは『お遊びだな』と指摘された。そりゃあ、平凡な俺には、誰かに教えてもらいながら、少しずつ学んでいくことしかできない。高校生活が充実していると感じるのは、みんながいるからだ。
だから。
「勝たないとな」
誰かがくじければ、誰かが支える、それがこのIS学園だ。シャルのことだって、楯無さんがちゃんと解決してくれる。だから、俺がするべきことは、友情の力をあの2人に知ってもらうことだ。
「織斑君は、青さも甘さも弱さも、ひっくるめて強さに変えてくれる、ね」
「ああ、友情の力で勝ってやろうぜ」
弾や数馬たちにも、ようやく連絡を取ることができた。
近況報告を聞くだけで嬉しくなるものだ。だから、彼らとも、あれだ、ずっ友でいたい。
「かんちゃんもおりむ~も いいこという~」
「やたっ! 織斑君とも友達だ!」
「簪ちゃん共々、よろしくお願いしますね」
こんな風に、クラスの垣根を超えて、仲良くなることだってできるのだ。だから、あの2人とも、どうにか仲良くなろう。
「ありがとう、織斑君」
「えっと、どういたしまして?」
いろいろ助けてもらってばかりなのは、こっちのほうなのだが。
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「えっと、つまり、あんまり練習はできなくて……」
「IS学園、もう少し広くしてほしかったわよねー」
「……うらやましい」
2学期以降は乱音たちも転校してきたし、ますますアリーナが手狭だと感じさせた。何回か襲撃があったせいで、アリーナが増設されたのは、私たちが2年になってからだった。ベルベットさんやグリフィンさんに至っては、その前に卒業した。
「本音も立派になって、ないわね」
「そんなに変わってないよね」
「ぶ~ 成長したもん~」
清香たちがそう言うけど、本音はちゃんと表向きの職に就いている。技術職として、私は同じチームで開発に携わることもあったけど、昔からそのダボダボな袖でよく細かい作業できるなと感心する。あと胸の大きさとか、ぐぬぬ……
「今日だって、一夏さんが、呼び掛けた、おかげ」
「私たちもオフの日でよかったわ」
ロシアの新しい国家代表のクーリェだったり、女優のコメット姉妹だったり、たくさんの世界的に有名な人が集まっている。そして、そんな人たちと、今も友達でいられるのは、一夏のおかげだ。彼にはたくさんのものを貰った。
一夏から連絡が来ていないかな、って、今は眼鏡型ディスプレイを身に着けていなかったっけ。
「それで、肝心の学年別トーナメントかな?」
「やはり、なにか起こったのでしょうかね」
ロランさんやヴィシュヌが話の続きを促した。まあ、頷いたラウラの許可もあるし、この場では話していいだろう。いや、また私が話さなきゃなの……