最低最悪な魔王とライダーオタク 作:ライダーオタク
『アーマー、タイム!
ベストマッチ!ビールード!!!』
ビルドウォッチを起動させたソウゴはビルドアーマーの装着を終えた。
それはつまり仮面ライダービルドの歴史、桐生戦兎の消滅を意味する。
「あ、ああああああああ!!!!!」
膝をついた私は握り締めた拳を地面に叩き付けた。
クソ、クソ、クソ、クソ!!!!
私が兄様からビルドウォッチを奪った時点で逃げていればよかった。
ゲイツはクローズウォッチを持っている。アナザービルドを倒すのにビルドの力が必要というのならビルドという力から派生したともいえるあのウォッチだけでもアナザービルドは倒せたかもしれない。
例え倒せたなかったとしても、もう一度アナザービルドを消滅させれば再び戦兎達にも記憶が戻る。そのときにジオウ組とビルド組が協力して当たれば、確実に倒せた筈だ。
私が一瞬でも、アナザーライダーと正史ライダーの対決を羨んでしまったが為に、この世界のビルド=桐生戦兎は存在を葬り去られた。
「おい。大丈夫か?」
多大なる喪失感と後悔の嵐。
流石に見かねたのか戦兎……いや、葛城巧は私の肩を叩いて止める。
仮面ライダーでなければ戦いとは程遠い人生を送っていた彼だ。
只の物理学者で『ツナ義ーズ』のファンに過ぎないというのに、化け物と痛いコスプレイヤーのような男が繰り広げるハリウッド顔負けの肉弾戦の中でよく冷静にいられると思う。
「取り敢えず、ここは危ない」
「離れるぞ」
「……はい。ありがとうございます」
その手をとった時に、かつてのような高揚する気持ちはなかった。
「うわぁぁぁぁ!!!!!」
ソウゴの叫ぶ声。
……えっ?
振り替えると理想的なライダーキックの曲線を描くという『仮面ライダービルドのライダーキック』の白線を滑るジオウがアナザービルドに蹴り落とされている瞬間であった。
「な、ジオウ!?」
驚いたのは私だけでなくゲイツもそうであったらしい。
彼はすぐさまクローズウォッチを装着したバトルアックスでアナザービルドを切り裂こうと足を踏み出す。
やはりクローズウォッチでもアナザービルドを倒すことは出来るのだろうか。私は注視して観る――、
「ぐわぁぁぁ!!!!」
次の瞬間ゲイツがアナザービルドに蹴り倒された。
……おかしい。ゲイツの攻撃はアナザービルドからして完全に死角であった。
それがまるで時を止められたとしか思えない速度で後ろに回って蹴りを入れるなど。
「アハハハ、憐れだなジオウ。まるで手も足も出ないじゃないか!」
原因は直ぐに分かった。高笑いする青服の少年だ。
名をウール。仮面ライダージオウの敵幹部でありながら今一活躍せず、適当に騒いだだけの男。終盤、仲間の酷い理不尽によって死亡したキャラだ。
そして不遇のキャラでこそあるが、ラスボスより借り受けた『時止め』という反則能力を持っている。
どれぐらい反則かというと物語が終結しても対応策が判明しなかったほどだ。幸いにも時止めを使うものはその強力な力に反して怪人や仮面ライダーと殴りあえるスペックは持たなかった為、殆どが傍観に徹していたのだが、この男どうにもアナザービルドがやられそうな度に時間を止めてアナザービルドを戦闘が有利な場所へ誘導しているらしい。
「……うわっ、ずる」
思わず、そう呟いた。
ただでさえ兄様は戦闘素人だ。ジオウ2のような未来視が出来れば話も変わるが、ビルドアーマーにはこれと言った特殊能力がない。
「不味いな……。スーツの耐久にも限界があるだろうし、このままだと一方的になぶられて終わりだぞ」
「な、何が起こってるか分からねぇが……催眠術だとか超スピードだとかちゃちなモンじゃねぇのは分かる」
どうやら後ろにいる葛城巧や万丈も状況のヤバさを理解したらしい。
葛城巧は物理学者らしくジオウがダメージを蓄積し、そのまま強制変身解除まで追い詰められるのではないかと表情を曇らせ、万丈は銀髪のムキムキ男のようなことを言っている。
「ぐっ、くそ何も見えない!」
ジオウとゲイツは完全にいいように遊ばれていた。
「兄様……」
それをムケイは何ともいえない表情で見つめる。
彼女も人の子だ。今世の怨敵になりうるとはいえ、常磐ソウゴという十年の月日を連れ添った肉親に対して割りきれない所がある。
「あっ」
やり場のない手を下げ、そのポケットにある膨らみを思い出したのは偶然だった。
『今噂の仮面ライダーのストラップ。非売品だから、転売はやめろよ』
「これなら!」
不味い珈琲を飲みきった記念に貰った色褪せたビルドウォッチ。
あのエボルトから貰ったもの。配色こそ異なるが形状は完全に同じなこれが本当にただのストラップであるわけがない。
「……よし、私がこれを使えれば」
葛城巧を見て、ビルドウォッチを見た私はごくりと息を飲む。
『アギト編』の設定をみるにウォッチには仮面ライダーに
本当は葛城巧に譲渡して桐生戦兎として仮面ライダービルドに変身してもらいたいというのがファンとしての気持ちだが、先ほどまで私が悲しんでいたのは桐生戦兎という人間があの瞬間に死んだからだ。
桐生戦兎が甦るというのは、逆算的に葛城巧が死ぬことを意味する。
それが世界や友の為とならば言うに及ばず……しかしながら私という他人の為に死んでくれというのは自身の信条に反した。
「見ていて下さい。私の変身!」
深く息を吸う。そのまま肺が破裂するのではないかと息を吸い込み、吼えた私はウォッチを起動した。
『――――』
……だが、ウォッチは起動しなかった。
「な、何で変身出来ない!!?」
半発狂になったムケイは癒着したようにピクリともしないスイッチを両手で握り締める。
まさか本当にストラップだったのか?
そんな訳があってたまるかと、スイッチの先端を何度も地面に叩き付ける。
「変身させて、変身させてくれよ!?
どうしてだ!このままじゃ、兄様が……ソウゴが死んじゃう!?」
桐生戦兎を守れなかった怒りや喪失感ではない。
……肉親を失うかもしれないという恐怖だ。両親の死こそ何にも感じなかった私が今さら何をと思うかもしれないが、どうしてだがソウゴを失うという苦しみに耐えられなかった。
これもおじさんの教育の賜物だろうか。だとしたらとんでもないことをしてくれたものだと思う。
「変身しろ、変身しろ!」
「ばか、逃げろ!」
アナザービルドは天高く跳び上がり、ライダーキック。それはジオウとゲイツをすり抜けて私の元へと迫っていた。
こんなに取り乱さなければ避けていたかもしれないのに……はぁ、全くツイてない。
どうしようもないと悟って私は瞳を閉じる。
☆☆☆☆☆
「見ていて下さい。私の変身!」
……あぁ、最悪だ。
目の前に立つ小さな女の子を見ていると、どうしようもないバカを思い出す。
「な、なんで変身出来ない!?」
この天才物理学者の頭脳を以てしてもさっぱり分からないが、彼女の持つソウゴという青年に譲ったものよりも色褪せたデバイスは確かに
「……おい、これってどういうことだ?」
「あー、何だよ。お前も記憶を取り戻しちゃったのかよ。こういうのは
「は、誰が
どうやら
こいつの腰周りにはさっき消滅した筈のビルドドライバーとドラゴンフルボトルが装着されたクローズドラゴンがある。
「グアアアヘア!」
丁度ビルドの偽物が不細工なライダーキックを放とうとする瞬間だった。
はぁ、折角ならもっと格好よく復活したかったけどまぁこんなのも悪くないでしょ。
「手のかかる後輩だこと。いくぞ万丈!」
「おう!」
『ラビット、ターンク』
ベストマッーチ!
『クローズドラゴーン』
ハンドルを回しボトルの成分を抽出してアーマーを形成する。
「「変身!」」
『鋼のムーンサルト!ラビット、ターンク!Yeah!!!』
『Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!』
さぁ愛と平和を守る仮面ライダービルド&クローズの復活だ!
「――――えっ?」
「勝利の法則は決まった!」
「今の俺は負ける気がしねぇ!」
激しい打撃音。
ムケイが目を開いた時、そこには二人の仮面ライダーがいた。
ムケイのライドウォッチに対する解釈。
正史の変身者でなくともライドウォッチさえあれば時空ドライバーを介さず変身出来る。
アギト編にてアナザーアギトがアギトのライドウォッチでアギトになった為。