52Hzのシャチ  ──警視庁暇係の魔法犯罪捜査録   作:逆理のシャチ

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シャチの捜査

《………本日午前10時頃、東京荒川区の集合住宅で警視庁総務部の職員、河本美紀さんか亡くなっているのが発見されました。河本さんは首を絞められ殺害されたとみられ、警察は殺人事件とし》

 

消えたテレビの画面、映るシャチの自分、何も変わらぬいつもの朝だが前日とは状況が違った。

 

現職の警視庁職員が殺害された重大事件として、荒川警察署に警視庁と所轄の合同捜査本部が設置され、現在捜査会議が行われている所だ。

 

既に庁内の隅々にまで話は広がっているらしく、イベルカも息を切らせて暇係へ駆け込んだ。

 

「昨日のオウリョウをした人、殺されたの!?」

「今朝発見されたようだな」

「そう………なの。なんだか怖いわ………」

 

イベルカは肩をさすって視線を横に流した。

 

「怖い? なぜだ」 

「その人昨日まで生きていたのに………死んだんでしょ、それに犯人が近くにいるかもなんて………」

 

そこまで聞いてようやく桜田は、イベルカが数日前まで事件と無関係な世界にいた事を想起した。しかしイベルカは自分の頬を強く叩くとまっすぐな瞳をシャチの小さな瞳へ向けた。

 

「モン、私にも捜査できるかしら」

「本気なのか、イベルカ」

「52Hz?! 話は聞かせてもらったぞ」

 

開口一番、水上は暇係へ押し入った。

 

「何の用だ、水上」

「貴方、昨日の眼鏡ね」

「52Hz君、ご自分の立場をお忘れかな?」

 

水上はレンズの向こうの桜田をじっと見つめた。桜田もまた沈黙によって答える。

 

「水上、これは殺人事件だ。立場なんてどうだっていい。重要な事は犯罪者を捕まえる事だ」

「ああご立派な事だ。一応釘を刺しに来たのだが無駄足だったようだな、全く………知らないぞ」

「君はどうするつもりだ」

「横領された金の行方、それを調べるさ」

 

水上は大手振りで部屋を後にした。桜田はハンガーにかけられた規格外のジャケットを器用に着ると、ネクタイを取り出して浮遊させ首に巻きつけ、警察手帳を内ポケットに収める。タブレットを操作し窓を開けると乾いた寒風が流線形の体を包み込み、イベルカは薄らに目を細めた。

 

「君は来なくてもいいが?」

「いいえ行くわ。私だって警察官よ」

 

ただ………イベルカは不安げな声を漏らした。

 

「どうやってそこまで行くつもりなの?」

 

この問いに桜田は無言で尾ビレを上げた。背中に乗れという意味だ。イベルカは唖然としながらもその背中に跨り、背ビレを強く掴んだ。

 

警視庁から冬晴れの空へシャチは滑り出す。

 

────────────────────────────────────────────

 

警視庁捜査一課の刑事、犬間健吾(イヌマケンゴ)はその鋭い眼光を既に鑑識作業が終わっている河本の部屋へ光らせた。

 

前日、横領が発覚した河本は監察官聴取を受けた後に処分が下るまでの自宅謹慎を受け帰宅。そして翌朝、つまり今朝死体となって発見された。第一発見者は母親の節子。合鍵で部屋に入った彼女が目にしたのは、床に眠り既に冷たくなった娘の絞殺体だった。

 

死亡推定時刻は昨晩、22時。侵入の痕跡は無く、現場に河本以外の指紋は残されていない。さらには付近の防犯カメラにも該当時刻に不審人物は写っていなかった。

 

「なにか分かるか?」

「ねえ逆転時計は無いのかしら」

「あれは日本でも違法だ」

 

思案する犬間が振り返ると、背広を着たシャチと杖を持った少女が周りの捜査員の目も気にせずに部屋の中を調べていた。シャチの刑事、警視庁の窓際部署暇係にはそんな男がいるという話を思い出す。しかし、暇係には捜査権がないはずだ。

 

「あんたら何しているんだよ」

「みれば分かるでしょ、事件の捜査よ」

「俺の目にはシャチとガキが現場を荒らし回っているようにしか見えないけどな」

「ガキですって?」

「どう見てもガキだろ」

「私はイベルカ・ノクリア・ハインゼルト。姿は子供でも立派な大人なの! 鈍い警察官ね」

 

売り言葉に買い言葉。初対面にも関わらずいがみ合う両者を置き、桜田は部屋の中を睨んだ。

 

「犬間刑事、あのテーブルの上のグラスは?」

 

桜田がヒレで指したのは朝日に煌めくグラス。一見バカラを思わせるそれは、屈折した輝きや細やかな紋様から非常に価値の高いものである事が見てとれた。だから桜田は疑問を覚えたのだ。

 

警視庁の独身職員が使う物として余りにも、不釣り合いだったからだ。その違和感を犬間に問う。

 

「あのグラスか、確かに不自然だ。飲み物が入っていた形跡も無ければ指紋も検出されていない」

「グラスは1つだけか」

「ああ、見つかったのは1つだけだよ。あとは全て安物の市販品で河本の指紋も僅かだがある」

 

桜田はくるりと体を回転させた。

 

「この部屋には侵入の痕跡が無い。つまり犯人は“物理的”には部屋に入っていない。もし、犯人が河本に親しい人物だとしたら、グラスが1つだけなのは不自然だ。そもそもグラスは初めから空の状態で置かれていた………なぜだと思う?」

「そりゃあ………晩酌しようと用意したのでは?」

「しかし、このグラスは河本の物ではない」

「分かったわ! 犯人が持ち込んだのよ!」

「おい、その理由を考えているんだ。ちび助!」

 

再びいがみ合う2人を他所に桜田は冷静に1つの解を導く。

 

「犯人はグラスを持ち込んでいないとしたら」

「桜田警部、それでは堂々巡りなのですがね。じゃあ一体このグラスはどこから現れたと言うんですか? まさか魔法とでも………魔法とでも?」

「イベルカ、変身術を解けるか」

「当たり前でしょ! この空前の神童、イベルカ様に不可能は無いのよ!」

 

──Wahre Figur

 

規格外の長杖をグラスへ向け、イベルカは静かに詠唱した。それはイベルカの母国ドイツ語で組まれた呪文であり、恐らく変身術の反対呪文なのだろう。魔法はホグワーツに代表されるイギリスの英語とラテン語のものが主流だ。しかし土着文化としての魔法は各国の言語と深く結びついており、桜田も魔法処でそれは数多触れていた。

 

灰色の煙と共に華美なグラスはくすんだ黒の皮手袋へと正しき姿を現した。すぐさま鑑識が手袋を回収する。内部から犯人の痕跡が検出されれば、大きな手掛りだ。

 

得意気なイベルカに釈然としない様子の犬間、桜田は身を翻してイベルカを背中に呼んだ。この場で得られるものは何も無い、桜田は己の推理が導く次なる目的地へと飛び立つ。

 

────────────────────────────────────────────

 

「好きな人が出来た、そう言っていたけれど。まさかホストクラブの男だったなんて………」

 

河本節子は沈んだ表情でそう語った。何度も何度も話したのだろう、乾いた声と裏腹に言葉は次々と紡がれていく。節子自身は魔法界とは無縁の一般人である。数年前に亡くなった夫と殺害された娘が魔法族の血を持つとは言え、その力も文化も縁遠いものだったのだろう。それでも母親として遠い学び舎で寮生活を送り、広く魔法の存在が明らかとなった日本で警視庁職員として働く娘を陰ながらに応援していた。その娘が死ぬまで隠していた秘密を知り、動揺し憔悴する節子に対して桜田は事件捜査の鍵となる横領の顛末を聞こうと試みた。

 

「節子さん、お辛いと思いますが娘さんについてお聞かせ願いたい。特に突然金銭的に豊かになった時の事を知りたいのですが」

 

ホストへ貢ぐ事に快感を覚えた河本は一般的な手法でデータの改ざんを行い微額の横領を繰り返していた。しかしある時からその犯行方法に魔法が用いられるようになったと考えられる。河本の業務データから不自然な点が突然消えたからだ。それと共に横領の額も増加し、河本は母親に高価な服やバッグをプレゼントするようになったという。先のグラスに姿を変えた皮手袋も含めてそれらは到底河本に扱える魔法ではない。それを指示した者或いは執り行った者がいるはずだ。当然金の大部分はその人間に流れたはず。そしてその者が河本殺害に大きく関わっているのは明白だ。

 

学生時代、授業内容について河本からよく質問を受けていた桜田はその際の印象を基に娘を亡くした母親に向かい合う。イベルカもその緊張感に背筋を伸ばした。

 

「娘さんは、成績という点では余り優秀な生徒さんではありませんでした」

「はい………そのようですね。夫から聞いた事があります。特に物を変えるのが苦手だったとか」

「ええ、ですので今回発覚した横領ですが娘さんは身代わりにされたと考えるのが自然でしょう」

「その代わりに娘はお金を受け取って、ホストに貢いで………という事ですか………」

 

桜田もイベルカもそれ以上は何も言えなかった。

 

………………………

………………

………

 

河本家をあとにした桜田は複雑な表情のイベルカを背に乗せ警視庁へ舞い戻る。部屋では水上が退屈気に2人を待っていた。桜田には予想のついていた事であるが、刑事部長が呼んでいるという知らせを水上から受けた。

 

部長室の前、イベルカと共に重厚な扉をノックする。固い声が中から聞こえた。

 

────────────────────────────────────────────

 

「貴様達、随分と勝手な事をしているそうだな」

「あくまで新人教育の一環です」

「捜査権の無い貴様達が何を言うか」

「ねえ質問があるのだけど」

 

場の空気を読まずに左手を挙げたイベルカを、直立不動で桃瀬の言葉を聞き入っていた鬼龍は信じられないものを見るように目を見開いた。

 

「なんだね、ハインゼルト嬢」

「さっきも言われたけど、ソーサケンが無いってなんの事なの? 誰も教えてくれないのよ」

 

鬼龍はずいと桜田達の前に進み出た。

 

「………改めて桜田に説明しても良いだろう。いいか、お前達の部署………省略して暇係と呼ばれているが、は非常事態特別対応と付いている。つまり我々が必要だと思わない限り、お前達に仕事が回ってくる事は無いのだ。だからお前達に平常、捜査権は無い。分かったら大人しくしていろ!」

「全然分からないわ。全く納得できない」

「な、な、なんだと!?」

「だって私も、モンも、貴方達も警察官でしょ。警察官の仕事は悪い奴を捕まえる事でしょ、だから私はここを選んだのにがっかりね。ソーサケンとかなんとか関係ないわ。“私達”は捜査を続けて必ず犯人を捕まえるわ、誓ってもいいわよ!」

 

体は動じないが瞳は激しく動く桜田、全く動じずに冷徹にイベルカを見据える桃瀬、あたふたと全てが動じる鬼龍。三者三様にイベルカを捉える中、その均衡を破ったのは桃瀬であった。

 

「桜田、私に届いたこれまでの捜査報告によれば河本美紀殺害の被疑者は警察関係者である可能性が高いらしいが。貴様はどう思う」

 

その言葉の裏に隠された桃瀬の思惑を読み取ろうと桜田は注意深く言葉を選んだ。

 

「本殺人事件において被害者、河本美紀の行った横領が関わっているのは明白で、その横領を指示した人間が河本を殺害したと考えられます」

「“指示”、つまり河本より地位の高い人物による犯行と貴様は考えているわけだな」

「………その可能性は高いと思われます」

「そうか、ならばその“地位の高い人間”を見つけ、逮捕しろ。貴様達に本件の捜査権を認める」

「部長!? よろしいのですか?」

「構わん。但し、被疑者を特定し逮捕できない場合は貴様らを処分する」

 

……………………

………………

………

 

「ねえ、あの偉そうな男はなんでソーサケンを認めたのかしら。いきなり過ぎて不気味だわ」

「刑事部長は出世欲の強い人だ。ライバル(邪魔者)は少ないに越した事が無いのだろうね」

「結局、私達は都合よく利用されているのね」

「………それでいい。君の言うとおり僕達の仕事は悪い奴を捕まえる事なのだから」

 

その言葉に、ほんの少しだけイベルカの頬が上気した事を桜田は気づかなかった。

 

一方、刑事部長室では視線を扉に留めたままの桃瀬を鬼龍が心配そうに見詰めていた。

 

「も、桃瀬刑事部長………?」

「あれから10年が経ったのか」

「10年。あのテロ事件の事でしょうか」

「そして、それ以来眠っていた(シャチ)が今になって目を覚ました。何故だと思う」

「ハッ………何故だとおっしゃられましても。皆目検討もつきません」

「魔法だ」

「魔法………ですか?」

「殺人に魔法が使われたと桜田は言った。思い出したのだろう、あの事件を。そして同じ臭いを感じた。そうじゃないのかね、鬼龍参事官」

「あの、刑事部長。何を仰って………」

「参事官、電話を繋いでくれ」

 

鬼龍はおずおずと指示通りにダイヤルした。

 

────────────────────────────────────────────

 

──夕暮れが街を飲み込み、夜を吐き出す。

 

川島典明のDNAが現場から見つかった。

 

警視庁総務部部長であるその立場を利用すれば河本1人では不可能な横領も可能となる。

 

河本美紀殺害現場から見つかった、グラスに化けた革手袋。鑑識課はその内部から採取されたDNAと警察組織のデータベースに登録された川島のものが合致したとの捜査報告を上げた。

 

現場に隠されていた手袋と横領を指示できる立場の人間が、魔法族の人間が結びついた。川島はこの日、前日に取得した有給で自宅にいる。報告を受けた犬間達操作一課は川島を事件の最重要参考人として任意同行する事を試みた。

 

……………………

………………

………

 

魔法族の操作員が玄関の鍵を開けると静寂の暗闇が冷たい廊下に広がった。現在独身の川島は埼玉県の住宅街に建つ一軒家に1人で住んでいる。しかし家に明かりはなく人の気配はない。犬間が2階へ上がると奥の1部屋だけ扉が開いていた。

 

地平の先へ沈んだ夕日の残光が部屋から紐で垂らされた川島の死体を薄く影に落とした。

 

駆け付けた数名の捜査員が目を見張る中で日は完全に消え、部屋に飾られたトロフィーや多くの賞状はその最後の輝きを終えて静かに、鈍く、夜の中へと浮かぶ。そしてそれらを残されたパソコンの明かりだけが照らしている。

 

静穏の部屋は人の気配がなく、犬間の低い舌打ちだけがいつまでも残った。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

付近の家庭へ聞き込みをする捜査員を横目に、家の前に立つ制服警察官に揃って警察手帳を見せる。鑑識報告を受ける犬間は2人を見つけると何も言わず、また鑑識の言葉へ耳を傾けた。

 

2階へ上がり、主を失った部屋へ入るとパソコンの画面が目に飛び込んだ。暗い部屋と対照的に明るいそこには、点滅を繰り返すカーソルと共に文章が残されていた。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------

遺書

 

河本美紀君に横領を依頼したのは私です。

 

そして私が河本君を殺しました。

 

愚かな自分に耐えられなくなりました。

 

死んでお詫びします。

 

川島典明

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

 

「これって、この人が書いた遺書かしら………」

「この状況ではそうとしか言えないな」

 

イベルカが画面に向けて杖を振るが何も起こらない。この文章に手は加えられておらず、念の為他の物にも試してみるが反応は無かった。

 

桜田が並べられたトロフィーに手をかざす。

 

「………魔法処変身術コンクール優秀賞、年間最優秀学生賞、日本国魔法省後援魔術競技大会優勝。どれもこれも素晴らしい経歴だ」

「優秀な魔法使いだったのね。特に変身術は」

「電子データに呪文をかけ、手袋を華美なグラスに変えるぐらい簡単に出来たのだろうな」

 

そう吐く桜田の影が何故か恐ろしく感じられ、イベルカはたじろいだ。事実、桜田はそれらの栄光の証を見ながら激しい怒りを覚えていた。

 

「魔法の力は………犯罪のためにあるんじゃない。ましてや、人を殺すのに使うなんて………」

 

怒りに紛れた悔しみ。既に自殺した川島の犯行が立証されれば、被疑者死亡のまま送検される。それは刑事にとって最も悔しい事なのだ。

 

イベルカは警視庁へ戻る空路、滑らかな背中から伝わる体温でその怒りを感じ取った。

 

窓から飛び込み床に座る2人。桜田はそのまま眠りについた。空を移動するのは体力を大きく使うため自然と睡眠時間が長くなる。その巨体にもたれかかったイベルカの元へ、山川は複雑な表情で現れた。部下を殺した上司が自殺した、単純な顔は出来ないはずだとイベルカは同情する。

 

………………………

………………

………

 

山川は慣れた手付きでホットミルクを作り、イベルカへ手渡した。湯気に髪が湿った。

 

「ご苦労さん。色々と、大変だったな」

「そう、ね。モンは色々と辛いみたい」

「今回の事件、色々と昔を思い出したんだろう」

「………それって長くなる話かしら」

「まあ、ミルクが冷めないうちに終わるさ」

 

1口啜り、マグカップに歯が触れると仄かな甘みと温かさが口に広がった。

 

「まだ………魔法が普通じゃなかった頃、それを普通にしようとする奴らがいたんだよ」

「アカツキというテロリストグループの事ね」

「ああ、当時は警察の中でも魔法使いなんて秘密の存在だったから大慌てでな。テロに対抗するために、あちこちから魔法使いの警察官を集めて即席の部署を作ったんだよ」

「もしかして、それがここの始まりなの?」

「警視庁刑事部非常事態特別対応魔法犯罪捜査係。いかにも急ごしらえの名前だろ」

「じゃあモンはその時に集められた警察官………」

「そしてその時の係長をやっていたんだよ。早い話が対テロ組織のリーダーだな。桜田は元々所轄の“人間”だった時から優秀な刑事という事で有名人だった。それもあっての事だろう」

「その時の他の人達はどこに行ったのよ」

「まあ、色々さ。辞めたり、異動したり、逃げたり、死んだりな」

「死んだり………」

 

マグカップを持つ手が少し強張る。

 

沖花美琴(オキハナミコト)という女刑事がいた。刑事としても、魔女としても素晴らしかった」

「その人が死んじゃったの?」

「帝国ホテル襲撃事件、暁が正式に起こした最後の事件だ。警察は極秘裏に、暁がのパーティー会場を襲う情報を入手した。沖花はその会場に潜入してテロリストの動きを探っていたんだ」

「なんで情報があったのに中止しなかったの?」

「暁を捉える千載一遇のチャンスだと判断した警察は、その情報をホテル側に伝えなかった」

「そんな、それでたくさんの人達が亡くなったんでしょ。あんまりじゃないの!」

「潜入は失敗。一般人に多数の死傷者が出た。同時に、多くの警察官も命を落とした。その中に沖花もいたんだよ。そして桜田はシャチになった。全ての責任を負わされ、この部屋に閉じ込められ、申し訳程度の二階級特進と共にな」

 

マグカップを持つ手が段々と冷えていく。

 

「そして今回の事件。魔法が使われた犯罪を再び目の当たりにして、何かを感じ取った。いや、何かに気づいたんだろうな」

 

既に冷めたホットミルクは揺れる鏡のようにイベルカの顔を写した。何を言っていいか分からず、何を思っていいのか分からず。背中のシャチに身を預け吐く息でまた鏡が揺れる。

 

「………冷めちまったな。新しいの入れるか?」

「じゃあお願いするわ」

 

ハインゼルト。そう、山川は唐突に呟いた。

 

「私の名前が、気になるのかしら」

「ハインゼルト博士は有名人だからな。科学の世界でも魔法の世界でも。あの人の娘なのか?」

「………血は繋がっていないわ。心もね」

「そうか」

 

差し出されたホットミルクはやはり温かく。湯気に目を細めると瞼が重くなり、まどろんだ。

 

イベルカが眠りについたのを見ると、山川は部屋を後にした。暇係の明かりが消える。

 




「52Hzのシャチ」用語解説
                                   
【魔法免許】

魔法を法規的に管理するために策定された。

指定魔法学校にて文部科学省の定める基準以上の教育を受けた後に卒業するか、各都道府県に1つ設置された魔法管理委員会が行う試験に合格する事で発行、登録される。

魔法を使用する際、必ず所持する事が義務付けられており、無携帯での魔法行使は50万円以下の罰金又は1年以下の懲役。無免許で講師すると100万円以下の罰金又は3年以下の懲役が課せられる。この他に免許の一時停止、永久剥奪も存在する。

上記は法務省の定める魔法行使法のもと、警察組織によって取り締まられている。

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