ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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※忍者技を他作品から持ってきたので「クロスオーバー」タグを追加しました。


生徒会長 リリィ 二

「特別派遣嚮導技術部……ですか」

『そ、略して特派。そこの主任にどうかって言われて、即OKしちゃった』

「ロイドさまを主任だなんて、変わった方ですね」

『おいおい、言葉は選んでくれよ。ま、僕もそう思うけどねえ!』

 

 はっはっは、と、電話越しにロイドの笑い声が聞こえた。

 

『というわけで、僕もエリア11(そっち)に行くことになるから』

「では、これからは定期的にお会いした方が良いですね。お住まいはどちらに?」

『研究所内に寮も併設されるから、そこに入るつもりだけど?』

「なるほど」

 

 小さく答えながら、俺はどうしたものかと思案した。

 

 特別派遣嚮導技術部。略して特派。

 神聖ブリタニア帝国第二皇子シュナイゼルが組織した軍内部の技術チームだ。その名の通りエリア11へと派遣された研究者や技術者で構成されており、新技術の開発やハイエンドなKMF(ナイトメアフレーム)の製作が主な仕事となる。

 シュナイゼルは皇帝を除いた皇族の中では最も政治的にやり手で、彼が提供する潤沢な資金を用いてばんばん研究ができるという、ロイドにはぴったりすぎる部署である。

 原作ではこの特派がKMF『ランスロット』を開発し、それに搭乗したスザクが主人公ルルーシュの作戦を()()()()()()()というどうしようもない手段でことごとく邪魔をすることになる。

 正直言って、放っておいていいのか悩ましい部署だ。無駄を承知で「ロイドさま、研究者やめませんか?」とか聞いてみたくなる。

 けどまあ、現実的に考えてスルーするしかないだろう。

 

「私も婚約者として一緒に住むべきなのでしょうか」

『僕は別に構わないけど、たぶんキミにも構わないよ?』

「そうですよね」

 

 夜遅くまで研究に明け暮れた挙句、部屋には寝るためだけに帰ってくる──という生活が割と目に浮かぶ。そのくせ日々充実しているので肌艶は良いのだ。羨ましいを通り越して若干妬ましい。

 

『というか、基本的には独身寮だから部外者を入れるのは問題あるかも?』

「……独身の男性ばかりのところに行くのは少し怖いですね」

『そこはどうでもいいというか、心配してないけど』

 

 おい、今なんて言った?

 

『機密漏洩の問題もあるから、主任権限でも通らないかなあ』

 

 ああ、そこは大事だ。

 研究施設への立ち入りはセキュリティ権限で制限できるにせよ、ロイドのパソコンを盗み見るとか、他人のカードを拝借するとか方法はあるだろうし。だったら最初から部外者を入れない、というのは当然の対策だ。

 俺としてもそんな環境に置かれたら情報を盗みに行かない自信がない。

 発覚した時に絶対怪しまれるから逆に行動できないような気がひしひしとするが。

 

「では、別に部屋を借りて二人で住むのはどうですか?」

『通勤時間が発生するからヤダ』

 

 駄目だこいつ。

 まあ、通勤とか通学の時間が煩わしいのはわかる。たとえ徒歩五分の距離でも、それをゼロにできるならしたくなるに決まってる。

 かく言う俺も「屋敷まで帰れる体力が無くなったり、天候不順が発生した時のため」という名目でアッシュフォード学園のクラブハウス内に部屋を借りることにした。生徒会の仕事等で遅くなっても平気だし、教科書等の保管場所としても利用できる。

 これなら食事はルルーシュやナナリーと一緒にとることもできるし、何よりナナリーが喜ぶ。

 

『というかそんなに同棲したがるなんて、僕のこと案外好きだったんだ?』

「別の方がお相手では嫌だと思う程度には、ロイドさまのことを好んでおります」

『わお。じゃあ僕達は相思相愛だね』

 

 単なる利害の一致だと思う。

 

 その後、結局、ロイドは寮に一人暮らしをすることになった。

 ときどき遊びに行くくらいなら割と簡単に許可が出るそうなので、部屋の掃除や料理でもしに行こうと思う。ロイドじゃないが、正直通い妻をするのは面倒なのだが、仕方ない。

 どっちかというとセシルが非番の日に彼女のところに遊びに行きたいが……そういえば彼女はヤバイレベルのメシマズだったか。遊びに行くなら食事は宅配ピザだな。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 篠崎咲世子は毎日忙しい。

 基本的にはルルーシュ、ナナリー兄妹の世話を仕事としているが、雇用形態としてはアッシュフォード家の雇われメイド(兼SP)である。

 理事長やミレイから要請があれば外出に同行したり、事務作業などを行うこともある。

 ルルーシュ達が学園で授業を受けている間も暇かといえばそんなことはなく、主のいない間に掃除や洗濯、食材の調達や下拵えなども行う必要がある。

 護衛対象の一人であるナナリーは目が見えず足が不自由なため、誰かの介助がないと移動もままならない。授業中の教室移動などは親切なクラスメートが行ってくれているものの、登下校などは咲世子が担当することも多い。

 

 主人よりも遅く眠り早く起きるのは使用人の基本。

 これは単なる心構えの話ではなく、それだけ仕事が多いという純粋な事実をも示している。

 単なるメイドではなくSPも兼ねる咲世子の場合は猶更である。日々の業務をこなしながらも鍛え上げた肉体を弛ませないための鍛錬も欠かせない。

 クラシカルタイプのお仕着せは袖とスカートが共に長く、肌の殆どが隠れるため、中に物を隠すのにちょうどいい。腿のあたりには投擲も可能な刃物(補充の容易さも考え、苦無ではなく小型ナイフ)をホルダーと共に装着しているし、それとは別に両手足には訓練用の重りをつけている。

 

「……さて。通常業務はこんなところでしょうか」

 

 とある平日の午後二時過ぎ。

 今日は特別な仕事がなかったため、作業が早めにいち段落した。

 掃除で出たゴミを捨て終えた咲世子はほっと一息つき、クラブハウスへの道を戻る。

 背筋はぴんと伸ばしたまま。

 メイドとしての礼儀でもあるが、それ以上に戦う者としての習慣である。己の身体は常にベストの状態に整えるべし。いつ、どんな時に敵が襲ってくるかわからないのだ、と。

 

《咲世子さん》

 

 どこからともなく響く『声』を咲世子は聞いた。

 周りは全くの無人というわけではなかったが、さりげなく見渡した限り、その声に反応した者は誰もいない。当然だ。今のはスピーカー等を通して伝えられたわけではない、特殊な声だ。

 やまびこ、と呼ばれる忍びの技法。

 特殊な発声法を用いることによって己の声を遠方へ、ある程度の指向性をもって届けられる。聞き取りにも習熟が必要なため、心得のある者とだけ内緒話が可能だ。

 

 相手は自ずと限定される。

 そして、この声の雰囲気には覚えがあった。

 

「ああ、今日でしたか」

 

 声に出して呟きつつ、もう一つの声で応える。

 

《いらっしゃいませ、枢木スザク様》

 

 熟達したやまびこの使い手は腹話術のような会話も用いる。

 篠崎流の当主を襲名した咲世子にとっては当然の技術。また、ある程度近く──おそらくは学園内にいるはずの少年にやまびこを教えたのは他でもない咲世子だった。

 

《やめてください。あなたにそんな呼ばれ方をしたらくすぐったくて仕方ありません》

《そう言われましても、私のご主人様になるかもしれないわけですし》

《ああ。それは、どうでしょうね》

 

 スザクの返答には含みがあった。

 今日の「戦い」が難航することを予感しているのかもしれない。実を言うと、それは咲世子としても同感であった。

 

《ご武運を》

《はい》

 

 短い会話の後、二人は会話を打ち切った。

 表向きは何もなかった。

 本当の戦いのための準備は秘密裏に行わなくてはならない。

 

「金物屋さんへ新しい道具を見に行くには少し時間が足りませんね。近くのスーパーマーケットへ食材の買い足しに参りましょうか」

 

 咲世子はそのままクラブハウスに戻ると、外出の支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 日本はまだ死んでいない。

 少なくとも咲世子はそう考えているし、抗う意思を持つ者達の多くは同じ見解だろう。

 武力衝突で完膚なきまでに叩きのめされて占領されたわけではない。

 結果的に植民地となるに至ったものの、各地に抵抗のための戦力が残っているし、当のブリタニアが「日本政府が成立すれば自治権を委譲する」と言っているのだ。

 まあ、日本政府が成立したと見做される条件が厳しすぎて現実的でない上、総督府の政策が邪魔をしているのも事実なのだが。

 

 それでも、希望は残されている。

 軍はいったん解体されるに至ったものの、日本製KMF『無頼』の設計図及び実物を含む兵器の多くが戦後のどさくさによって持ち出された。

 日本軍きっての逸材・藤堂鏡志朗をはじめ、優秀な軍人も身を潜めており、機を窺いつつ同志を集めている。

 日本を裏から支配していたキョウト六家も「売国奴」と批判されつつも、いざという時のために力を残している。富士山の日本製プラントは完成が遅延している状態ではあるが、生産量の四割は日本側が所有できる。

 

 武力、あるいは政治によって日本を取り戻すビジョンはまだ描ける。

 その分、血気にはやり、散発的なテロで散っていく者も多いが、軍の残党や一般人出身のレジスタンスの呼びかけによって少しずつ力を集結させつつある。

 

 咲世子、そしてスザクもまた、それぞれのやり方で日本を取り戻そうとしている戦士だ。

 

 少年と知り合ったのはゲンブ暗殺から少し経った頃だった。

 亡き首相の息子を担ぎ上げようとする者、ブリタニアに売り渡して媚びを売ろうとする者、やり場のない怒りのはけ口にしようとする者──様々な大人達の思惑によってスザクが翻弄されつつあることを知った咲世子は、秘密裏に彼を屋敷へ匿ったのだ。

 期間にして数か月。

 キョウト内部でのごたごたが収まり、婚約者である(すめらぎ)神楽耶(かぐや)が引き取るまで、咲世子はあれこれとスザクの世話を焼いていた。

 全く無縁の存在というわけでもない。ブリタニアの暗躍(と彼女達は信じている)によって父を亡くした者同士であるし、かつてスザクは百合の婚約者候補であったこともある。歳の離れた弟のような存在として彼に接する日々は戦後の荒んだ心を癒してくれた。

 

 子供の身で独りになったスザクにとって、咲世子がどんな存在だったかはわからない。

 ただ、不安や恐怖から彼を守るために抱きしめたこともある。

 少年らしい衝動を受けとめ、大人になる手伝いをしてやったこともある。

 そうした行為が功を奏した、というよりはスザク自身の強さによるものだろうが、彼は落ち着きを取り戻し、以前よりも少し大人になった。

 やまびこの使い方、そして戦いの技術を教えてやったのもその時である。

 妹は身体が弱く、一緒に稽古することができなかったため、これもまた咲世子にとっていい思い出となっている。

 

 スザクとはこんな話をしたことがある。

 

『ブリタニアが憎くない?』

『もちろん、憎いです。でも、僕は戦う以外のやり方を模索したい。……暴力だけじゃ何も解決しないって、ある人が教えてくれたから』

『そう……。良い人ね』

『年上の癖に小さくて、ひ弱で、こっちをからかって楽しんでいる癖に、当たり前のように大事なところを突いてくる、憎たらしい女の子ですよ』

 

 誰のことなのかは察しがついた。

 

『その子のこと、好き?』

『まさか。……でも、いつか再会したら、もう君にからかわれるほど弱くない、って胸を張りたいです』

『きっとなれるよ、スザク君なら』

『スザク君はやめてください。恥ずかしいです』

 

 あれから、スザクはきっと頑張っていたはずだ。

 咲世子も色々あったのであまり連絡は取れなかったが、キョウトでやっていくのも簡単ではなかったはずだ。だが、彼の婚約者はキョウトのトップ。お飾り扱いされている少女ではあるが、意志の強さは並外れている、と話に聞いている。

 神楽耶のサポートがあったのなら、上手くいったのだろう。

 ただまあ、その神楽耶が今回の話を聞いてどう思ったのかは、少々恐ろしくはある。

 

 何しろ、スザクが今日ここに来たのは婚約の話をするため。

 もちろん、神楽耶との婚約ではない。

 アッシュフォード学園の理事長に、お孫さんをくださいと言いに来たのだ。

 

(そういえば)

 

 この学園にはもう一人、やまびこを聞き取れる可能性のある者がいる。

 リリィ・シュタットフェルトと名を変えた妹、百合である。自ら用いられる域には到達しなかったものの、他人の発した声を聞きとることはできたはずだ。

 腕が鈍っていなければ、さっきの声を聞いたかもしれない。

 

 聞いたとしたらどう思うか。

 スザクだと気づいて感動の再会、実は両思いだったことに気付いて禁断の愛、なんていうことになったら面白いかもしれない。いや、いくらスザクでも百合を娶りたいなら自分を倒してからにしてもらわないと困る。

 まあ、そんな偶然は普通ないだろうが。

 

 咲世子はスーパーへの道を歩きながらそんなことを思った。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「ゆ──」

「く、枢木スザクさまですよね? ゲンブ首相の息子さんの。お写真を拝見したことがございます。理事長にご用事でしょうか?」

 

 授業中に理事長に呼び出されて世間話に付き合わされたと思ったら、何故かスザクの『声』が聞こえて、しかも本人が理事長室にやってきたんだが、なんだこれ。

 人当たりのいい笑みの中に「いいから話を合わせろ」というメッセージを込めつつ、俺は「誰か助けてくれ」と心の中で願った。




予約投稿時間を間違えましたが12月31日分です……。

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