ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
枢木スザクにとって篠崎百合は因縁浅からぬ相手だ。
始まりは婚約者候補として出会ったあの時。
妙な会話に付き合わされた挙句、妙な屈辱感を植え付けられ、結局婚約はなかったことになった。代わりに相手に選ばれたのは
百合の方がマシだったと言うつもりはないが、なんだったんだあいつは、と思わざるを得ない。
無関係になったかと思えば、父・ゲンブが未練がましくあの少女の話を出す。あの見識は見事だの、身体さえ弱くなければ、せめて家柄がもう少し良ければだのと言っていた。神楽耶との婚約自体は「これ以上ない」といって喜んでいた癖に、では百合と誰を契らせるつもりだったのか。
だから、ミレイ・アッシュフォードとの婚約話のために理事長室を訪れた彼は、思いがけぬ再会に絶句した。
とはいえ、伊達に首相の息子をやっていたわけでも、キョウトのお姫様の婚約者をしているわけでもない。
「……理事長、こちらは? 学園の生徒さんのようですが」
「ああ、彼女は高等部の生徒会長をしてくれている、リリィ・シュタットフェルト君だ」
「リリィです。どうぞよろしく」
「
百合がシュタットフェルト家の養女となりブリタニア人となったことは咲世子から聞いていた。
いったん落ち着きを取り戻してしまえば取り繕うのは難しくない。
清楚なお嬢様にしか見えなくなった白髪の少女と何食わぬ顔で挨拶を交わし、リリィが再び口を開いて──。
「理事長、では私はこれで……」
「ああ、せっかくだから残ってくれないか? じきにミレイも来るだろう」
「え?」
「は?」
二人して疑問符を浮かべるも、理事長は取り合わなかった。
「リリィ君にも関係のある話かもしれないのだ。どうだね?」
「……そう仰るのでしたら、私は構いません」
結局、折れたのはリリィの方だった。
「スザク君は一人でここまで来たのかね?」
「いえ。皇家の使用人と一緒です。彼には外で待ってもらっていますが」
「ああ、堅苦しい話になるのも億劫だからね。助かるよ」
話しつつ、三人でソファに腰掛ける。
テーブルを挟んで理事長の正面にスザク。リリィはスザクの隣に座った。
(どうしてそこなんです?)
(ミレイさんが来るのであれば、こうするしかないのでは?)
目でやり合い、スザクが負けた。
「それで、枢木さまはどうしてこちらに?」
「どうかスザクとお呼びください、レディ」
この少女相手に敬語とか、物凄くむず痒い。
「私は、ミレイ・アッシュフォード様との婚約を認めていただきたくこちらに参りました」
「婚約……」
目を見開いたリリィだったが、すぐに口元を押さえて表情を取り繕う。
「なるほど。日本再興のための後ろ盾が欲しいのですね?」
「……その通りです」
「リリィ君。そう率直に告げてはスザク君が困るのではないかな」
「これは申し訳ありません、スザクさん」
「いえ、お気になさらず」
どうしてよりによって婚約話の時にこの少女と巡り合うのか、スザクは天の采配を呪った。
◆ ◆ ◆
「ミレイさんと婚約する場合、皇家のご令嬢との婚約は解消なさるのですか?」
「はい。残念ではありますが仕方ありません」
スザクと大雑把な話をしつつ、ミレイが来るまでの時間を潰した。
言ってしまえば政略結婚だ。
政治的な手段で日本を再興するなら、ゲンブの息子であるスザクが立つのがわかりやすい。その際、ブリタニア側の民意を取り込む手段としてブリタニア人の配偶者を必要としている。
ついでに資金的な援助や政治的なサポートが得られれば言うことはない。
欲を言えば相手は貴族が望ましいが、本物の貴族女性ではハードルが高い。そこで『元』貴族のミレイに目をつけたのだろう。
「失礼ですが、スザクさんはご登録を?」
「いいえ。いざという時、日本人が立つのとブリタニア人が立つのでは心象が違うでしょう?」
「なるほど」
日本人の心象を考えればその方がいいかもしれない。
再興してしまえば国に戻るのだから、名誉ブリタニア人に拘る必要もなくなる。当たり前に国際結婚すればいい話だ。
しかし、そう簡単にミレイと結婚できるだろうか。
「失礼します。理事長、お呼びでしょうか?」
「おお、ミレイ。こっちに座りなさい」
「はい。……あれ、リリィ先輩? それに、こちらは」
「初めまして、ミレイ・アッシュフォード様。枢木スザクと申します」
颯爽と立ち上がったスザクが日本式に一礼する。
一般的な女性視点が欠けている俺だが、とりあえず俺に話しかける態度より心が籠もっているのは確かだ。
で、説明を聞いたミレイがどう答えたかというと、
「お断りします」
「え」
笑顔でばっさりだった。
ここまで即答されるのは予想外だったのか、スザクは慌てて、
「な、何がいけないのでしょう。貴女の意向に添えるよう善処します。私に足りないところがあれば努力しますから──」
「だってこれ、政略結婚じゃないですか」
「っ」
ミレイ当人への説明としてはややこしい話はできるだけ避けていたが、さすがにバレバレだったらしい。
さっぱりとした気性の少女は苦笑を浮かべて、
「スザクさんがどうとか、イレブンの人がどうとか、そういうのじゃないんです。ただ私、政略結婚とかって嫌いなんですよ。結婚相手は自分で選びたいんです。だから、ごめんなさい」
「それは……」
唇を噛んで俯くスザク。
断る理由としてはこれ以上ない。当人の意思がはっきりしているし、振られたスザクの自尊心も傷つかない。改善の余地もほぼない。
ミレイの両親は貴族に返り咲こうとしているわけで、この話を知ったら絶対反対するだろうし、諦めた方がいい気がする。
まあ、付け入る隙というか、方法が全くないわけでもないのだが。
「ちなみに、ミレイさんの好みのタイプはどんな方ですか?」
「せ、先輩?」
「いえ、参考までに。スザクさんと恋仲になる可能性はないのか、と思いまして」
小首を傾げて悪戯心を誤魔化しつつ、そんなことを言ってみる俺。
とはいえミレイには通じなかったらしく、彼女は半眼になって言ってくる。
「先輩の好みのタイプはすらりとした男性でしたっけ」
「え」
「真面目で真っすぐな人柄ならなおいいんですよね。スザクさんなんかどうですか? 婚約されてるロイドさんとかいう人よりは合ってると思いますけど」
「ミレイさん、私を売る気ですか」
「ふっふっふ、先輩が先に喧嘩を吹っかけてきたんですよー?」
ぐぬぬ、と睨めば向こうも睨み返してくる。
本気で喧嘩しているわけじゃないが、じゃれ合いのような膠着状態。
「いいじゃないですか、結婚。決まってしまうと気楽ですよ?」
「他人事だと思って。じゃあ先輩、私と結婚しましょう」
「え、いえ、その、ブリタニアは同性婚を認めていませんし……」
「あら、認められてたら結婚してくれるんですか?」
正直、ロイドよりは気楽だとは思うが。
こほん。
男性陣が同時に咳払い。俺とミレイは顔を見合わせてから「すみません」と言った。
と、スザクが気を取り直したように、
「リリィ様個人に対して含むところはありませんが、その、私の目的から考えると少々難しいです。貴族との婚約を解消するとなると騒動になりかねませんし、リリィ様の立場も悪くなるでしょう」
「先輩は養女だものね。あまり勝手なことをしたら怒られちゃいますか」
「アスプルンド家との仲が拗れるのは好ましくありませんね……。スザクさんが立派になられた後であれば話は違ってくると思いますが」
立派になるために俺と結婚する、という話だと実際困る。
現在は平民に身をやつしているが、血統的にブリタニアのやんごとなき身分で、スザクともそう歳の離れていない女の子がいれば話は解決なのだが。
そう、例えばナナリーとか。
しかし、スザクはおそらくナナリーの所在を知らない。咲世子と旧知の仲ではあるようだが、果たして皇族の存在という最重要情報まで喋っているかどうか。そもそも咲世子が兄妹の出自を知らされるのはどの程度仕えた段階なのか。
っていうか、うちの姉と親しげに喋ってたけど、いったいどういう関係なんだ。何人の女をたらしこめば気が済むんだ。ラノベ主人公か。
「でしたら、私の妹はいかがでしょう?」
「妹? 君……いえ、貴女の?」
「はい。カレン・シュタットフェルト。私の二つ下ですからスザクさんとは同い年です」
「そうですか。……そんな方が」
考え込むスザク。
悪くないな、とか考えてるんだろう。自分の女性関係を政治手段に利用できるとか、中三にして凄い成熟の仕方をしたものである。
原作からして彼は「こいつ童貞じゃないのでは?」というムーブが多かった。逆にルルーシュは「あ、こいつ童貞だな」っていう印象。主人公だからというのもあるが、男視点で見ていた俺はどっちかというとルルーシュの方が好きだった。
「申し訳ありません、理事長。この話は……」
「ああ、構わない。私としても孫の相手は慎重に選びたい」
頭を下げるスザクに理事長は鷹揚に応えた。
◆ ◆ ◆
理事長室を後にしたスザクは伊達眼鏡をかけ、帽子を被って変装する。
イレブンが租界に入りこんでいるだけでもリスキーなのに、彼の場合は特別有名人でもある。対策しておくに越したことはない。
待ってくれていた護衛兼監視役と合流すると、後を追うように白い少女が部屋から出てきた。
「校門までお送りします」
「よろしいのですか? 供の者もいますし、無理をしていただく必要は──」
「ご心配なく。家から出る時は日傘を常備しているのです」
言って胸を張るリリィ。
妙なところで子供っぽいのは変わっていないらしい。
スザクはフッと笑って彼女の申し出を受け入れた。
「では、お言葉に甘えて」
少女の歩調はゆっくりとしていて、帰るという観点だけで見ると邪魔をされているようなものだった。
婚約者の神楽耶はお嬢様ながら元気いっぱいで、リリィとは真逆のタイプ。早く早くと手を引かれることの方がずっと多いため、新鮮ではある。
それに、考え事をするにはちょうどいいペースだ。
これからどうするべきか。
日本を取り戻すという大目的ははっきりしているが、そのために打ち立てるべき小目的が悩ましい。
アッシュフォード学園の理事長は時間を取らせたにも関わらずスザクに好意的で「もし名誉ブリタニア人になる気があるなら喜んで学園の門を開く」と言ってくれた。
この学園は人種・身分を問わない学びの場。
入学した上で寮に入ってしまえば日本側、ブリタニア側からの余計な横槍を防げるかもしれない。
その方が相手探しが捗るのは間違いないだろうし、名誉ブリタニア人になったらなったでブリタニア側の心証を緩和できるというメリットがある。
「そうそう。私は今、ゲームの会社を経営しておりまして。旧日本人のスタッフを雇い入れているのです」
「それは、面白いことをされていますね」
相槌を打ちつつ、リリィの理解力と配慮に舌を巻く。
学園に入る他に企業で働くという選択肢を与えてくれているのだ。
「妹君も会社に関わっていらっしゃるのですか?」
「いいえ。あの子は病弱なもので、あまり学園にも来ていないのです」
「大変ですね」
病弱なくせに神出鬼没な義姉とどちらが厄介かは微妙だが。
「世の中ままらないものですね」
呟くように言うリリィ。
「一つの考えに凝り固まってしまっている方も多くいらっしゃいます。そんな方には何を言ったところで無駄。
「そうですね」
スザクは頷き、唇を小さく動かした。
《君には感謝している。あの時の忠告がなかったら、僕は父を殺していたかもしれない》
リリィは微笑んで、
「私には困っている方の
「全くです」
言動。
たとえやまびこであっても不用意な使用は控えるべき、ということか。
頷きつつ、スザクはもう一度だけ声を発した。
《僕は日本を取り戻す。君は敵か、味方か》
校門に着いた。
シュタットフェルト家の令嬢にして生徒会長の少女はスザクに向けて一礼する。
「困ったことがあれば相談してください。微力ながらお力になれるかもしれません」
あけましておめでとうございます。
投稿時間を間違えたりしてタイミングを逃しましたが、日刊一位ありがとうございます。