ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
まさかいきなりスザクが現れるとは、本当に驚いた。
話の流れでカレンを推薦してしまったものの、もしスザクがカレンの婚約者になった場合、原作じゃありえなかったカップリングが誕生する。
ついでに言うと俺はスザクの義姉。
扇は扇でうちの会社の雑用をしつつ、ブリタニア人スタッフと日本人スタッフ双方の愚痴を聞いて宥めるというムードメーカーを務めているし、色々と状況がカオスになってきた。
今後はあまり原作知識が役立たないかもしれない。
日本の状況も敵への対策もまだ「ちょっとマシ」になった程度なんだが、この先大丈夫なんだろうか。
俺は戦々恐々としつつ日々を過ごした。
ゲームの開発は進んでいるし、スタッフの意欲も高い。
生徒会の仕事が少なくて放課後に余裕ができた時はときどき差し入れを持って顔を出す。時間に追われ、食事の時間を惜しんで仕事しているせいか「ピザ以外の食い物は久しぶりだ」と喜んでくれる。やっぱりピザか。ピザなのか。
数少ない女性スタッフは「ここに座ってください」「いまお茶入れますね」「飴食べます?」と別の意味で生き生きしている。小さい子を通り越してペット扱いな気がするが、まあ、楽し気な女性陣を見て男性陣も喜んでいるのでちょうどいいのかもしれない。
と、思っていたら、
「社長、プログラマーが足りません」
「そうなのですか? 作業進捗に大きな遅れはありませんが……」
「メイン担当が有能だからです。ですが、逆に言うと彼が倒れたら替えが利きません。後進育成のためにもスタッフを増やしましょう」
「なるほど。わかりました」
今が順調でも先を見据えた場合、それじゃ足りないこともある。
肝に銘じていたつもりだが、つい忘れがちになってしまうことだ。
ついでだからプログラマーだけでなくデバッガーや雑用スタッフも追加募集をかけることにした。現在のスタッフにも「信頼できる人材がいたら紹介して欲しい」と伝えておく。
ロイドは特派の主任として
研究施設が完成するのは少し先になるのだが、責任者ということでいち早くやってきたらしい。
「いや、しばらくはホテル暮らしだよー」
「楽しそうですね」
「そりゃあ、ホテルなら衣食住が全部保証されてるじゃない」
部屋でも設計図は書けるし、本国との連絡はネットと電話でOK。
意外とロイドにとっては快適な環境らしい。
「で、なんか面白いネタはない?」
「そうですね……動力付きの車輪に爆薬を積んで放つ、なんていうアイデアが最近職場で出ましたが」
「それ、途中で転んで自爆しない?」
はい、します。
ついでに言うと職場で出たアイデアじゃなくて前世のトンデモ兵器ネタだが、トンデモ研究者のはずのロイドは引っ掛からなかったか、残念。
そんなこんなで年度替わりの時期へ。
高等部の生徒会長には当たり前のように俺が当選し、旧三年生のメンバーが新二・三年生と入れ替わっただけで、半分以上が既存メンバーのまま二期目がスタート。
「来年の会長にはミレイさんを指名しますからね」
そう告げたところ、当の本人は望むところだとばかりに微笑んだ。
「はい! っていうか、高等部に入ったらお手伝いさせてもらいに行くつもりでした」
「……二年生までは待てませんか」
進路についてはまだまだ迷っているのだが、研究者になる道はほぼ諦めた。
ロイドを見てもわかる通り、彼らはデスクワークだけど身体が資本なのである。寝食を忘れて熱中するくらいじゃないと優れた研究者にはなれない、と言ってもいい。
このまま経営者に徹した方がいいと判断し、授業はそっちをメインに履修することにした。
で。
一年生の授業が全て終わり、休日に生徒会室で仕事をこなしていた時のこと。
こんこん、と、外から丁寧なノック音。
「どうぞ」
声をかけるとドアが開いて、二人の人物が入ってくる。
一人は短髪で、よく見ると引き締まった身体の少年。
もう一人は黒いロングヘアを備えた小柄な少女。
「失礼いたします。こちらが生徒会室だと伺って参ったのですが」
「はい。確かにここが高等部の生徒会室ですが……」
少女の言葉に答えつつ、俺は少年の方へ視線を向ける。
(突然どうしたんですか)
(仕方ないだろ。この子が来たがったんだから)
若干、憮然とした態度で視線を返してくる少年──枢木スザク。
今度はどんな厄介事を持ちこんできたのか。
と言いつつ、既に予測してしまっている自分が憎い。少女とは初対面だが、見たところスザクより幾つか年下。しかも美少女と来れば候補はかなり限られる。
「初めまして。私は
やっぱりか。
物怖じせずに話しかけてきた少女を立って出迎えつつ、俺は内心の動揺を抑えて笑みを浮かべた。
「はい。アッシュフォード学園高等部生徒会長、リリィ・シュタットフェルトです。初めまして、神楽耶さま」
◆ ◆ ◆
厄介なことになった。
枢木スザクは平静を装ったまま内心呟いた。
「今はそれほど忙しくないので」
そう言ったリリィが案内してくれたのはクラブハウス内にある彼女の部屋。
利用するのは週に一、二度程度だというそこは清潔に整えられていた。
利用頻度の割に大きめの本棚には機械工学や経営論、心理学等の本が数多く並べられている。テレビも一応置かれているものの、菓子を片手に娯楽番組を見ていそうな雰囲気は微塵もない。
こういう時のために、と用意されていた四人掛けのテーブルは今、一席を除いて埋まっている。神楽耶とスザクが隣同士で、リリィは神楽耶の正面。
にこにこと笑顔を交わし合う少女達は一見和やかな雰囲気だが、幼少期から武道を嗜んでいるスザクは妙な緊張を感じ取っていた。
「では、お二人ともアッシュフォード学園に?」
「はい。婚約者を一人で行かせるのも心苦しいですし、今、日本で学びの機会を得るにはここが一番でしょう?」
「婚約者、ですか」
「まだ婚約は解消しておりませんので、スザク様は私の婚約者です」
ね? と同意を求められたスザクは「え、ええ」と苦笑した。
「神楽耶様からは『相手を連れてくることが婚約解消の条件』と言われているのです」
私の眼鏡に適う女を連れて来い、と言われているに等しい。
ミレイ・アッシュフォードが了承してくれれば話はすんなり進んだのだが、生憎、あの話は破談になってしまったため、スザクとしては妥協案を選ばざるを得なくなった。
つまり、名誉ブリタニア人になってアッシュフォード学園に通い、ブリタニア人の女性と恋仲になること。
方針としては悪くなかったはずだ。
ただ、誤算だったのは、それを聞いた神楽耶が「では私も」とアッシュフォード学園入りを希望したことだった。
この少女は何かというとスザクに「婚約者らしい振る舞い」を求めてくる。
スザクより三つ年下であるため大人の恋愛にはまだ疎いものの、二人で散歩したり世間話をしたりといった時間を持ちたがり、また、そういう時はきちんとエスコートしてやらないと機嫌を損ねる。
どういうわけか、政略結婚ではなく本気で好かれているらしい。
お陰でスザクとしては頭が痛い。
「現在の婚約者さまを連れて新しいお相手探し、ですか」
リリィがぽつりと呟く。
やめてくれ、と、端正な顔立ちの少女をそっと睨むと、
「本当に酷い話だと思いませんか、リリィ様?」
「ええ。スザクさんは少し女性を蔑ろにし過ぎかと」
「勘弁してくれませんか、神楽耶様」
対立するのかと思いきや一瞬で同調した二人を見て音を上げる。
と、
「スザク様。公の場以外では呼び捨ててくださいといつも言っていますのに」
「いえ、今は高等部の生徒会長との会談の場でしょう?」
「あら。リリィ様とのお喋りの場ですわ。そうですわよね、リリィ様?」
「はい。神楽耶さま」
何か恨みを買うようなことでもしただろうか。
愛想笑いを浮かべながら、スザクは己の不幸を呪った。
◆ ◆ ◆
まさか神楽耶まで学園に来るとは思わなかった。
皇神楽耶。
出番はあまり多くないものの、原作においてかなり重要な役割を果たす少女だ。
日本を裏から牛耳る「キョウト六家」のトップであり、アニメ内で明言はされていなかったものの、名前からして天皇家に相当する血筋と思われる。
子供であることから基本的にはお飾り扱いされてはいたものの、間違いなく日本の権力者の一角である。
原作ではルルーシュ扮するゼロの後援者となり、また自ら「ゼロ様の妻」を志願、魔女C.C.とカレンを含めた三人を「三人官女」と称するなど獅子奮迅の活躍を(主に恋愛面で)見せた。
以上のエピソードからわかる通り、割と「いい性格」をしており、
「神楽耶さまが外に出られてしまって、キョウトは大丈夫なのですか?」
「問題ありませんわ。あの方達にとって不必要な存在であれば、私はとっくに処分されております」
などと、飄々と言ってのける強さを持っている。
「ですが、貴女までが『名誉ブリタニア人』になるというのは……」
「あら、何か問題がありますか? 日本という国が無くなり、ブリタニア帝国が庇護の手を差し伸べてきた。その手を取って再起し、再び日本を取り戻す。順番として何も間違っていないでしょう?」
「ええ、確かにそうですね」
確かにそうだが、そんな風に割り切って考えられるのは一握りの人間だけだろう。
「……ところで、神楽耶さまはお幾つでしたか? アッシュフォード学園に初等部はないのですが」
「ご心配なく。私は来年小学六年生ということになりますが、いわゆる予科という制度を作っていただけることになっております。なんでも、他にも似たような境遇の方がいらっしゃるとか」
六年生だとナナリーと同い年か。
日本のお姫様とブリタニアの皇族が肩を並べて授業を受けるかもしれないのか。ある意味、夢のような光景だ。
わざわざ俺のところにやってきたのは挨拶も兼ねてそれを報告するためだったらしい。
俺は頷いて、
「護衛ならスザクさんがいますから、安心ですね」
「ええ。最強のナイト様です」
最強はうちの姉だ、と言い返したいところだがそれは我慢。
「リリィ様は私のこと、認めてくださいますか?」
「認めるも何も、このアッシュフォード学園は身分や人種に関わらず多くの人を受け入れています。正規の手続きを経て入学する方を否定するはずがありません」
「ありがとうございます。あなたは優しい方ですね」
「争いごとが嫌いなだけですよ」
神楽耶の言葉に、俺はそっとそう答えた。
スザク、そして神楽耶が入学することで来年の学園はちょっとした騒ぎになりそうだ。
今のうちに覚悟しておいた方がいいと思っていると、ミレイから連絡が入った。
『先輩。聞きましたか、部活の話』
「部活? 何かあったんですか?」
『なんでも次から、生徒会役員も部活所属が義務付けられるらしいんです』
「……え、そうなんですか」
思わず絶句する俺。
俺やミレイの通うアッシュフォード学園では全生徒に部活動への所属を義務付けている。前世の日本でもそういう学校は珍しくなかったのだが──問題は、今まで俺が「生徒会所属だから」という理由で部活所属を免れていたことだ。
「どうしてまた、急に?」
『二年目に入って、高等部の部活も本格的に動きだしますよね? なので、生徒会役員が率先して部活動を推進するべきだって理事会で決まったらしいです。お祖父──理事長からも明日あたり連絡があると思いますけど』
「……そ、そうですか」
まあ、わからない理屈ではない。
一年生で生徒会長になった俺が特殊なのであって、普通は三年間生徒会所属というのはありえない。なら、生徒会役員であっても一年から他の部に所属していた方がいい。
原作でも生徒会メンバーのシャーリーが水泳部と掛け持ちしていた。
「それはちょっと、困りますね」
『先輩、運動苦手ですもんねー』
下手にはしゃぐと倒れて寝込むことになるので、表現としては「嫌い」ではなく「苦手」で正しい。
要は体力が無いということなので吹奏楽部等の真面目な文化部も厳しいのだが。
『友達に文化部所属の子がいるので紹介しましょうか?』
「えっと……そうですね。お願いしてもいいですか?」
『わかりました!』
この機会に知り合いの部活状況をチェックしてみるのもいいかもしれない。
ミレイの元気のいい声を聞きながら、俺はそんなことを思った。