ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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生徒会長 リリィ 五

 第一回「みんなはどんな部活に入っているのかチェック」。

 

 最初の犠牲者──もとい、ターゲットに選んだのは他でもないミレイ。

 

『私ですか? 私は服飾部に入ろうかと』

「ミレイさん、裁縫得意だったんですか?」

『私だって人並みにはできますよ。小さい頃からやらされてるんですから』

 

 裁縫自体はそれほど好きではなさそうな口ぶりだが、では何故服飾部なのかといえば「イベントといえばコスプレじゃないですか」とのこと。

 確かに、原作でもその趣味は遺憾なく発揮されていた。

 本人もちゃんと着るからまだいいが、彼女の場合、自分で着るより人に着せる方が好きなのがまたタチが悪い。まあ、動物コスとか急に着せられても似合ってしまう生徒会メンバーもスペック高すぎると思うのだが。

 

 

 

 次はスザクと神楽耶のコンビに聞いてみることにした。

 二人とも理事長の配慮でクラブハウス組になることが決まっており、入寮の手続きがあるというのでちょうど良かった。

 手伝いをするという名目で会いに行き、どんな部活に入りたいか尋ねてみる。

 

「私ですか? 私なら……そうですね、柔道部か剣道部でしょうか」

 

 首を傾げつつ答えるスザクだったが、残念なことにどっちもアッシュフォード学園には無い。

 

「ああ、そうか。ブリタニアにはないのか……。じゃあどうしようか」

「なんなら自分で作りますか? 中等部の生徒会長にも理事長にも顔が利きますよ?」

「折角ですが、悪目立ちしそうな気がするので……」

「あら、スザク様。結婚相手を探してらっしゃる方が何を仰いますか」

「う」

 

 さすがは神楽耶様。

 俺とスザクの会話をにこにこと聞いていたかと思えば、ばっちりのタイミングでぴしゃりと言ってのけた。

 呻いたスザクは僅かに肩を落として俺に尋ねてくる。

 

「柔道と剣道、どちらがいいと思いますか?」

「やはり柔道ではないでしょうか」

「……へえ」

「それはまたどうしてですか、リリィ様?」

 

 ひょっとして迂闊だったか。

 興味深そうに話を掘ってくるスザク、神楽耶を見て内心動揺しつつ、言い訳を口にする。

 

「剣道が剣術の類、柔道は日本のマーシャルアーツでしょう? でしたら、特別な道具の必要ない柔道の方が部員は集まりやすいかと」

「ああ、確かにそうですね」

 

 神楽耶も「さすがはリリィ様」と褒めてくれたが、果たして今のでかわしきれたかどうか。

 脳筋なスザクを囮にした神楽耶の知略に舌を巻く俺だった。いや、半分くらい天然でやっている可能性はあるが。

 

 

 

 さて。

 屋外では日傘を手放せない上に虚弱な俺がわざわざ入寮の手伝いに来たのは、何も部活アンケートだけが理由ではない。

 どうせなら神楽耶とも仲良くなりたいというのが一つ。

 そしてもう一つは、

 

「では、クラブハウスには他にも住人の方がいらっしゃるのですね?」

「ええ。通常の寮では不都合のありそうな方のため、理事長が部屋を用意してくれているんです」

「不都合といいますと……?」

「身体が不自由であったり、使用人を用いる可能性があったり、それから──他の生徒とトラブルの可能性のある方、などでしょうか」

「納得いたしました」

 

 ちなみに俺は一つ目と二つ目に当てはまる。

 スザクと神楽耶に関しては三つ目。人種差別の問題があるため、隔離しておく方がお互いのためだろう。

 

「クラブハウスに住んでいる方は問題ないのでしょうか。……その、私達が住むことについて」

「問題ないと思います。一人は私ですし、後の二人も人種に拘る方ではありませんから」

 

 ブリタニア式の書類に不慣れな二人を手伝い、さっさとクラブハウスを進んでいく。

 ちなみに肝心の荷物運びに関してはスザク頼りである。

 

「なら安心ですね。格好いい殿方でしたらスザク様から乗り換えてしまおうかしら」

「ははは……。そ、そうですね」

 

 スザクの笑いが物凄く引きつっている。

 と、言っているうちに部屋が近づいてきた。

 

「他のお二人はスザクさんと同い年のお兄さんと、神楽耶さまと同い年の妹さんです。兄妹とはいえお年頃ですので、部屋は多少離して配置しております」

 

 で、ルルーシュの部屋とナナリーの部屋の間にスザクの部屋と神楽耶の部屋、そして俺の部屋が位置するような構図になる。

 

「では、妹君が私と一緒になる予科の生徒ですね? お名前はなんと仰るのですか?」

「はい。名前はナナリーさんで、お兄さんの方が──」

「ルルーシュ?」

 

 スザクの呟きが俺の言葉を引き継いだ。

 少年の視線の先には、今まさにナナリーの部屋を訪ねようとしていた兄・ルルーシュの姿。

 

「スザク? スザクなのか?」

 

 二人にとってはしばらくぶりの、原作で七年かかったことを考えれば随分と早い、親友同士の再会であった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 天気は幸いにも晴れで、屋上には爽やかな風が吹いていた。

 自販機で飲み物を買ったルルーシュとスザクは二人並んで周りの景色を眺めている。

 

 ナナリーと神楽耶のことはリリィに任せてきた。

 実質、咲世子に三人分の面倒を任せたようなものではあるが、あの少女がナナリーを害することはないだろう、と確信できる程度には、ルルーシュはリリィを信用している。

 ここに至るまでに何度か会い、少しずつ「ナナリーと二人きりにする時間」を増やしてきた結果だ。ここで短絡的にナナリーを害するくらいならチャンスは幾らでもあった、という話。

 

 おそらく、スザクも似たような理由で婚約者を預けたのだろう。

 いや。咲世子を見た時、何か納得したような表情をしていたことから見て、そちらの方と面識があったのかもしれない。総理の息子と護衛の家系、幼少期に面識があったとしてもおかしくはない。

 

「……その、なんだ。久しぶりだな、スザク」

「うん。ルルーシュも、無事で良かった」

 

 どこかぎこちない会話。

 紅茶と、緑茶。それぞれの飲み物を会話の間を埋めるように口にする。そういえば、クラブハウスの自販機に緑茶があるのはリリィのリクエストによるものだったか。あの独特の渋みが好みだとかなんとか。

 割合、親日家の性質が強いシュタットフェルト家の令嬢であれば納得の行く話ではある。ルルーシュ個人としては茶といえばやはり紅茶なのだが。

 

「あれからどうしていたんだ?」

「親切な人がいてさ。()()()()()があってしばらくは世話をしてもらえたんだ。その後は、皇家──神楽耶の家に匿われていた」

「そうか。お互い、良い人に巡り合えたんだな」

 

 ルルーシュとナナリー、そしてスザク。

 彼らは幼い頃──といっても二、三年程度前の話ではあるが──に出会った。母マリアンヌが何者かに殺害され、間もなく日本へ人質のように送られた兄妹。幸い、送られた先の枢木家は彼らを人として扱ってくれたのだが、本当の意味で血の通った付き合いをしてくれたのはスザク一人だった。

 枢木家に預けられてから戦争が始まり、アッシュフォード家に発見されるまでの間、彼らは時に喧嘩し、時に仲良く遊び、真の友情と呼べるものを築いた。

 とはいえ、お互いに境遇が違い過ぎる。

 背負った運命の重みが二人の口を重くしている。

 

「ゲンブ首相の件は、残念だったな」

「……うん」

 

 ぎり、と、奥歯を噛みしめながら答えるスザク。

 

「父親としてのあの人には思うところもある。だけど、首相としては自分にできることを精いっぱいやっていたと思う。なのに、あんなことになるなんて」

「ああ。纏まりかけた和平をあんな手段で破談にするなんて、あってはならないことだ」

「首謀者に心当たりはないのかい?」

「……わからない。ただ、ブリタニア皇帝が命じたとしても俺は驚かない」

 

 ルルーシュは少しだけスザクとの心の距離を縮めた。

 互いの想いが、少なくとも逆方向を向いていないことを確認できたからだ。

 

「クロヴィスは?」

「あの男があんな大それたことをするとは思えない。やったとしても誰かに脅されたか、命じられたかしたんだろう」

 

 現在のエリア11総督を務める第3皇子クロヴィスは芸術分野への関心の高い男だ。

 皇族らしい高慢さは持ち合わせているものの、ブリタニア人とイレブンを区分しているというよりは「皇族、貴族、平民」という区分での身分意識が強い。

 イレブンは反抗的だから取り締まる必要があるのであって、ブリタニアに恭順し、文化や芸術を理解するのならばどう生きようと構わない、とそんな風に思っているはずだ。

 

「やっぱり、大元は皇帝か」

 

 どことも知れない場所を見つめながら呟くスザク。

 

「スザク。お前は、どうするつもりなんだ?」

「決まってるだろ。僕は、日本人が平和でいられる場所を取り戻す」

「戦うつもりか? ブリタニアと」

 

 彼の想いそのものを否定するつもりはない。

 ルルーシュ自身、ブリタニアのやり方には否定的だからだ。彼ら兄妹を否定し、母の死を悼もうともしなかったブリタニア皇帝には憎しみさえ覚えている。

 いつかあの国は討たねばならない。

 ただ、ルルーシュはそれを今すぐとは考えていない。何年、何十年かかってでも力を蓄え、いつの日か達成できればいいと思っている。

 だから、親友が短絡的な方法を取るのであれば複雑な想いを抱かずにはいられない。

 だが、

 

「いや。それは最後の手段だ」

「……そうか」

「うん。戦うとしても、それは平和的な手段でだ。じゃないと結局、ブリタニアと同じになってしまう」

 

 もちろん、他にどうしようもなくなれば武力を行使するのだが。

 自嘲気味に笑いつつも自分の信念をはっきりと告げるスザクを、ルルーシュは眩しく思った。

 

「……強いな、お前は」

「女々しいんだよ。僕にああしろ、こうしろって言ってくる女性が多かったからかな」

「女性、か」

 

 スザクの言葉に、ルルーシュはふとナナリーと、それから仲の良かった腹違いの妹の顔を思い出した。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「部活動、ですか。私でも入れるでしょうか」

「もちろん。……まあ、予科のうちは年齢制限に引っかかるかもしれませんが、中学生になったら誰にも文句は言わせませんわ」

 

 いや、なんというか、神楽耶様はやはり俺なんかとはモノが違う。

 明るく感情的で、表情をころころと変えながら心の距離をあっという間に詰めてくる。若くして恋愛強者の貫録を漂わせていた原作のキャラクター性は間違っていなかった。彼女はなんというか、理詰めやしがらみで行動方針を作る男達とは根本から違う存在、女らしさを失わないままに「できる女」を体現している。

 ただお喋りをしているだけで眩いばかりの存在感を放つ彼女に、俺は思わず見惚れそうになってしまう。

 というか、穏やかに相槌を打ちながら笑顔を浮かべるナナリーも只者じゃないというか、ある意味、王者の風格を備えた傑物だ。周りの人間に慈愛を感謝を忘れず、それでいて人に世話されることに慣れており、自分の意思を貫く心の強さも持っている。

 咲世子(あね)が凄い人物なのは言わずもがな。実は俺って物凄く場違いなのではないかと思っていると、

 

「リリィさんはどんな部に入るのですか?」

「え? ええと、それを決めかねていまして、皆さんにアンケートを取っていたのです」

「そうだったんですね。……うーん、私は何がいいかなあ」

「ナナリーさんならどんな部でも馴染めますわ。ね、リリィ様?」

 

 俺は神楽耶に「そうですね」と答えつつ考える。

 温和なナナリーならどこの部でもすぐに馴染めるだろうが、足が動かず目が見えない彼女でも存分に楽しめそうな部というと、なんだろう。

 

「ナナリーさんには合唱部、なんて特に似合いそうです」

「合唱、ですか?」

「はい。せっかくの綺麗な声を生かさないのは損かと」

 

 歌詞を覚えるのに若干難儀するかもしれないが、歌いだしは伴奏の音で把握できるし、歌っている最中に動く必要もない。

 目が見えない分、記憶力に優れている子なので、自主練するのにも不自由はないだろう。

 これには神楽耶も手を合わせて、

 

「まあ、素敵ですわね。どうですか、ナナリー様?」

「はい、楽しそうです。……でも、ちょっと恥ずかしいかも」

「ナナリー様なら大丈夫かと存じますが」

 

 ナイス、姉さま。

 

「うーん……で、では、リリィさんも一緒にやってくれませんか? 知ってる方がいれば私、恥ずかしくないと思うんです」

「それはまた、大役ですわね、リリィ様?」

 

 と、思ったら、なんだかすごい役目を押し付けられた。

 可愛くて綺麗な声をしてるナナリーならともかく、俺が合唱なんかやっても悪目立ちするだけだと思うのだが、

 

「……そ、そうですね。生徒会と掛け持ちで良ければ」

「わあ。約束ですからね?」

 

 ナナリーと指切りをして約束した俺は「いざとなったら生徒会が忙しいと言えば……」と考えていた。

 この時は気づいていなかったのだ。

 ナナリーが中学に入るのは再来年、その時、俺は三年生で、生徒会長職をミレイに譲って隠居するつもりだったということに。

 

 仕方ないので(?)、戻ってきたルルーシュに部活の予定を尋ね、まだ保留中だというので「じゃあプログラミング部に入りましょう。私が作ります」と勧誘した。

 部というのは仮の姿。

 実務能力にも長けたルルーシュを我が社に勧誘するための建前である。これなら部長(社長)の仕事があると言い訳も立つし、優秀なプログラマーを確保できる。

 暇な時間に、在宅でいいから手伝って欲しい、バイト代はちゃんと出すから、と二人きりの場所で交渉したところ「俺も金を稼ぐ手段が欲しかったんです」とルルーシュも快諾してくれた。

 

 目下の問題が解決し、ほっと一安心する俺であった。


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