ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「お初にお目にかかります。ロイドさまと婚約させていただいている、リリィ・シュタットフェルトと申します」
似たような挨拶を何度繰り返しただろうか。
俺はロイドにエスコートされる形で貴族のパーティにやってきていた。
今日のドレスは青色の落ち着いたデザイン。黒だと既婚のイメージが強いし、白だと
ロイドの方もばっちりスーツで決めており、癪ではあるが似合っている。
「キミもなんだかんだ言って成長しているねえ」
「ありがとうございます。ロイドさまこそ、落ち着いていらっしゃいますね?」
「僕は小さい頃からだからねえ。いい加減慣れるよ」
で、あっちこっちへ連れまわされては挨拶をする。
初めて来たものだから会う人がほぼみんな初対面。向こうの名乗った名前を脳内データベースに照合し、新たに顔をインプットする作業に四苦八苦である。
と、僅かな自由時間にロイドが「ふうむ」と俺を見てくる。
「どうなさいました?」
「いや、猫を被るのが上手いなあと思って」
「そのままお返しさせてくださいませ」
何年もお嬢様やってればさすがに身に付く。シュタットフェルト家に来る前だって一応お嬢様ではあったわけだし。
「お、本命のご登場かな」
「え……?」
ロイドにつられて視線を向ければ、絵に描いたような金髪美形が優雅にこっちへ歩いてきていた。
さすがにこのレベルになると心理防壁を貫通してくるのか、俺は鼓動が早くなるのを感じつつ臣下の礼を取った。
「やあ、ロイド。こちらが噂の婚約者かな」
「ええ。うちの可愛い婚約者です」
「リリィ・シュタットフェルトと申します。殿下におかれましてはご機嫌麗しく──」
「そこまで畏まらなくて構わないよ。似たような挨拶をさんざんされて肩が凝っていてね。知人のところに逃げてきたんだ」
爽やかに微笑むこのイケメンはシュナイゼル・エル・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国第二皇子にして帝国宰相。
ルルーシュやナナリーにとっては異母兄であり、原作においてはルルーシュにとって最後の障害となった人物である。
一見、人当たりのいい温和な人物で、その印象も間違ってはいないんだが……この男、ブリタニア皇帝なんかとは別のベクトルの怖さを持っている。
腹の底が知れないというか、どこまで織り込み済みで動いているのか、何手先まで計算しているのかわからない、そんな男だ。
原作主人公ルルーシュでさえ知略で彼に勝ったことがなかった、というのだからその凄さは推して知るべし。
「少し話をしようか。リリィ嬢は、お酒は駄目かな?」
「はい。未成年ですので、ソフトドリンクをいただいております」
飲み過ぎると体調が悪くなりそうだし、成人したら少量から慣らさないといけないだろう。
お洒落なグラスに入ったスパークリングウォーターを受け取り、カナッペなどの軽食をちびちび口にしつつ、シュナイゼルと会話をする。
正直逃げたい。
「以前から君のことはロイドから聞いていてね。会ってみたいと思っていたんだ」
「光栄です。私も、ロイドさまが私のことをお話ししていると聞いた時はとても驚きました」
「安心していいよ。彼がここまで人に興味を持つのは珍しい」
「そうなのですか? 私にはその情熱をちっとも向けてくださらないのですが」
「ええ? いつも楽しくお話しているじゃないか」
ああ、うん、
楽しいし、参考になるから正直助かっている。
「ロイドさまはそのままで居てくださいませ」
「ロイドの性格はこのまま直らないだろうね」
「二人とも僕の性格をよく分かってますねえ」
さらりと嫌味をかわすな。
と、シュナイゼルがさりげなく、自然なウインクを送ってくる。悪戯めいた仕草はこの場の楽しさを共有しているというサインか。
こんなことをいつもやっているのだとしたら、女性ファンがさぞかし多いことだろう。俺がまともな女だったら多分やられていた。
「アッシュフォード学園には名誉ブリタニア人の生徒もいるそうだね」
「はい。後輩のミレイ・アッシュフォードともども、友人として親しくさせていただいております」
俺がスザクを構いに行き、ミレイがルルーシュを構いに行くので、ミレイがスザクと関わる機会も割とあったりする。
ミレイも婚約者として接するのでなければ別に問題ないらしく、一緒にいると嬉々としてスザクをいじっている。なかなか懐いてくれない猫みたいなルルーシュとは対照的な、子犬めいたところのあるスザクは「反応が可愛い」とかで、これはこれでミレイのお気に入りになりつつある。
一度はなくなった恋愛話だが、ちゃんと段階を踏んでから再度起こる可能性がもしかしたらあるかもしれない。
シュナイゼルは「ふむ」と顎に手を当てて、
「生徒会長も次期生徒会長も推進派か。なら、これからはより広い人材が集まるかもしれないね」
意味ありげな言葉だ。
誰か学園に寄越す予定でもあるのだろうか。何のために? って、もしかしなくてもスザク、あるいは神楽耶が狙いか。
シュナイゼルは普通に武力も使うが、平和的にブリタニアが優位に立てるならそっちを使うタイプだ。だとすると暗殺じゃなくて結婚相手を宛がう方向か。
一般には公開されていないブリタニアの皇女様で、守ってあげたくなるような美少女とか、スザクの相手にはぴったりじゃないだろうか。それも「スザクとくっつけ」と命令するのではなく暗に誘導するだけで当人達が恋仲になればベスト。
……まあ、とりあえず普通に返しておこう。
「もちろん、生徒会長としても歓迎です。友は多い方がいいと思いますので」
「なかなか気が合いそうだね」
冗談でも止めて欲しい。
「そうだ。リリィ嬢に一つ言っておきたいことがあったんだ」
「? なんでしょう?」
「面白い事業をしているらしいね。君の会社が作ったゲーム、私も少しだけプレイさせてもらったよ。チェスのような知的遊戯の方が得意なので少しだけだが」
「それはそれは、ありがとうございます」
「ああ。湖の乙女を入手した辺りで忙しくて遊べていないんだ」
いや、それ隠しキャラなんだけど。
「今後は架空の軍事ゲームなども考えていますので、もしかしたらお気に召すかもしれません」
「ほう? それは面白そうだ。どうせならKMFを登場させられたらもっと良いね」
「それはそうですが、軍部は権利関係がうるさいでしょう?」
ロイドをちらりと見ると「それは僕程度じゃなんとも」と肩を竦められた。
というわけで、ミッドナイトフレームとかなんかそんな感じの名前で濁そうかと思っていたのだが。
「なら、こちらから軍部に話を通してみよう」
「え、それは、よろしいのですか?」
「遊戯にKMFが登場するとなれば、いい宣伝にもなるだろう?」
妙に好意的だと思ったらそういう腹か。
とはいえ、KMFが登場するゲームを作るだけなら大手ゲーム会社に作らせればいい気がするが……。
と、思っていたらシュナイゼルが俺の耳元に顔を近づけてきた。二メートル近くある長身の彼なのでしゃがみ込んだ体勢になるのだが。
まあ、そこまでされても俺の容姿のせいでロマンス的な印象はない。
「……
「っ」
バレてるし。
いや、事業として行う以上、申請は必要だから情報は当然行ってるとは思うんだが。夢物語みたいな計画と現行のゲーム制作を結び付けた挙句、俺に近づいてくるとかどういうことだ。
忠告、か?
シュナイゼルの性格上、ゲンブを暗殺した一派とは対立していてもおかしくない。別にじわじわ文化侵略して長年かけて日本を併合しても問題なかったはずだからだ。となれば、過激派への抑止力の一つに使おうとしている、ともとれる。
「……過分なご配慮、誠に感謝いたします」
「うん。ロイド、いい婚約者だね。大事にしたまえよ」
「ええ、もちろんですとも、殿下」
……この男に(最終的に)勝ったルルーシュは一体どうなってるんだ。
愕然としつつ、俺は必死に頭を巡らせる。
シュナイゼルは怖い。
だが、ブリタニアには珍しい穏健派──というか、穏健な策も取れる派の彼と接触できたせっかくのチャンス。こちらからも何か打てる策はないか。
そうだ。
「あの、殿下?」
「なんだい?」
俺は精いっぱい背伸びをして、シュナイゼルとロイドにしか聞こえない声量で囁いた。
「エリア11で非人道的な研究を行っている一派がいる、という情報を耳にしたのですが、虚偽の情報でしょうか。もし本当にそんなことが行われているとしたら、私、寒気がいたします」
「……聞いたことはないが、本当であれば由々しき事態だね」
シュナイゼルは暗に、俺の密告に注意すると答えてくれた。
シュナイゼルに伝えたのは魔女C.C.に関する話だ。
不老不死であるC.C.は、現ブリタニア総督であるクロヴィス以下、一部の人間によって
拘束されてしまえばただの無力な少女に過ぎないため、そこから抜け出せないでいた。そんな時、偶然にもルルーシュと出会って物語が始まるのだが──。
この世界では日本対ブリタニアの戦争期間をはじめ色々なことが変わってしまっている。
ただのほほん、と待っていたとして、後に原作と同じ偶然が起きる、などとは言い切れない。
何かしらC.C.を解放する手立てが必要だった。レジスタンスに期待するのはスザクの頑張りを無駄にすることにも繋がりかねないし、かといって自力でなんとかするのも難しい。ならいっそシュナイゼルの力を借りてしまおう、と思った。
正直、これはある種の賭けだ。
ラスボスにヒロインを差し出すような行為とも言える。シュナイゼルがC.C.を拘束すれば相手が変わっただけにもなりかねない。それでもシュナイゼルなら、少なくとも非人道な扱いはしないのではないかと思う。
何しろC.C.の存在と不老不死の秘密についてブリタニア皇帝はとっくの昔に全部知っており、それを知らないクロヴィス達が勝手に研究していた、という話なのだ。不老不死であるという情報だけでもシュナイゼルなら何かしらの繋がりに気づいてくれるだろう。
これでシュナイゼルがギアスを所持して「日本人死すべし」とか言いだしたら最悪だが──まあ、ないと思う。ないと信じたい。
逆にブリタニア皇帝を倒してくれる可能性もあるわけだし。
とはいえ、あらためて先行きが不安すぎる。
とりあえずできそうな対策だけでもしておこうか……。
「対象の体感時間を停止させる能力?」
「はい。もし、そんなものがあったとして、それを所持している殺し屋がいたら、どんな対処法があると思いますか?」
我がプログラミング部の部員(という建前の我が社のバイト)となったルルーシュに「ゲームのネタ出しを兼ねた思考実験」という体で話題を振ってみる。
俺の周りで一番頭の切れるのは彼だし、その能力に直面する可能性が高いのも彼なので、考えてもらって損はない。
ルルーシュは「そうだな……」としばし考えた後、
「やはり狙撃でしょう。意識外から撃ち殺してしまえば能力を用いる暇もない」
「もし殺し屋が誰かわかっていなかったら?」
「映像記録や状況証拠から割り出すしかないのでは? もちろん、周到な相手であれば先んじて対策を打つでしょうが……。ん? もし、そんな能力があったとすれば、対象からは『時間が停まっている』ように感じられるはず。範囲型の能力であれば複数人の護衛もろとも対象を殺すことも可能、か?」
ぶつぶつと呟くルルーシュ。
気づいたらしい。そう、その通りだ。
「そもそも、
「さすがに時間停止まで行くと現実味がありませんか」
「超能力めいたものを持ち込んでいる時点で現実味なんてありませんけどね」
それが実在してしまうから困る。
「ですが、そんな暗殺者がいたとしたら最悪でしょう。目立った時点で、そいつの所属している組織から差し向けられてジ・エンドだ。いや、証拠が残らない、ということ自体が証拠になりえるのか。となれば、
「動かさざるを得ない状況を作るか、あるいは、過信して動かした事実があれば、突破口になるかもしれませんね」
「……なかなか面白い話ですね、先輩」
ルルーシュに話して正解だった、と、俺は微笑みながら思った。
「そう言っていただけると何よりです」