ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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皇女の友人・リリィ

 突然の事態。

 俺は硬直したまま、死角から一人の人物が現れるのを見た。

 

 薄茶色の髪をした幸薄そうな少年。

 身に着けているのはアッシュフォード学園の制服だが、右手には拳銃が握られている。

 表情はどこか虚ろで、これから自分が行おうとしていることにさしたる興味を持ち合わせていないように思えた。

 そして、彼の右目は赤く輝き、ギアス発動中であることを示している。

 

 足早に近づいてきた彼は黙ってユーフェミアに銃を向け、

 

「こんにちは、暗殺者さん」

「な……!?」

 

 俺の声に手を止めた。

 

「止まっていない? まさか、その青い輝きはっ!?」

「はい。私のギアスの力です」

 

 俺に発現したギアスは、他のギアスからの干渉に際して自動的に発動して影響を防ぐもの。

 名付けるならギアスディフェンダー、といったところか。

 

「私に『絶対停止』は効きません。ユーフェミアさまを殺させるつもりもありません」

「へえ、そう」

 

 ゆっくりとユーフェミア、ルルーシュの前に進み出る俺に拳銃が突きつけられる。

 

「じゃあお前から殺そう」

 

 ここでギアスはいったん解除された。

 ほんの一秒程度、ルルーシュ達が状況を認識しきる前に再発動されたが──うん、最後の懸念も解消された。

 この時点で俺は既に、持ってきた鞄の中に手を入れている。

 さっと取り出されたそれ──束ねられた防犯ブザーに少年がぎょっとした隙に、あらかじめまとめてあったピンを引き抜けば、けたたましい音がサラウンドで響いた。

 

「これで、ギアスを解いた瞬間に注目が集まります」

 

 ブザーを束ねていた紐をちぎり、バラバラにして床へ転がす。

 少年は反射的に銃を向け、音を出すブザーの一つを撃ち抜くが、全てを壊すのは困難と察したのか「ちっ」と舌打ち。

 

「死ね」

「嫌です」

 

 俺は、続けて鞄から取り出したペイントボールを少年へ思い切り投げつけた。

 

 

 

 

 

 ゲンブを殺した犯人について、俺は最初から心当たりがあった。

 

 ロロ。

 

 原作ではルルーシュの弟に扮して「ランペルージ」姓を名乗っていたため、本当の苗字は不明。わかっているのは、とある組織によって養成されたギアス能力者であり、非常に暗殺向きのギアスを持っているということ。

 絶対停止の結界。

 一定範囲(数百メートル程度?)の生物全ての体感時間を停止するというもので、対象にとっては時を止められているのとほぼ変わらない。さすがに認識さえできない間に殺されたのでは俺の父親どころか、咲世子でさえ為す術がない。

 だが、この超強力なギアスにも弱点はある。

 発動中は使用者であるロロ自身の心臓が停止してしまうのだ。このため、激しい動きをしたり長時間使用していると本人の命に関わる。

 まあ、作中でこれを連続使用しながらKMF(ナイトメアフレーム)で交戦圏内から逃れる、とかやってるので、俺からしたら羨ましいほど健康な身体を持っているらしいが。

 

 ユーフェミアとの話し合いに望むにあたり、もしかしたら出てくるかもしれないと思って準備していたのだが、案の定だった。

 狙いはおそらくユーフェミアだろう。

 アッシュフォード学園内で彼女を殺すことで、転校を主導したシュナイゼルに批判を向けさせられる。そうなれば彼の政治力は大きく削がれる。

 ついでに、今この場で殺せば俺かルルーシュに疑いの目が向く。面倒な相手を一網打尽にできる絶好のチャンスだ。

 

 ならば、こちらがすべきはただで殺されないこと。

 ユーフェミア暗殺の所要時間を引き延ばし、かつ、ロロが何食わぬ顔で逃げるのを防ぐ。それができればこっちの勝ちだ。

 防犯ブザーは引き延ばしのため。

 そしてペイントボールが当たれば、ロロの姿は他の生徒から不審に思われるだろう。

 

 

 

 

 

 だが、ボールは当たらなかった。

 思いっきり投げたはずなのに如何せん勢いが足りなかったらしく、ひょい、とばかりにかわされてしまったのだ。

 落ちたボールはべちゃっと潰れて派手な緑色を撒き散らした。

 

「なに今の。もしかして当てるつもりだった?」

「し、仕方ないでしょう」

 

 赤面して言い返しつつ、俺は一歩下がる。

 再びのインターバル。

 ほんの一秒程度の再開を経て再び凍り付いた世界の中、

 

「警戒して損したかな。リリィ・シュタットフェルト。ひ弱で運動がダメなんだっけ。君以外がそのギアスを持っていたら厄介だったかもしれないけど──」

「好きに言ってください」

 

 下がった俺の手がユーフェミアに触れる。

 途端、皇女は何事もなかったように動きだした。

 

「っ。あれ、リリィ様? そちらの方は、それにこの音……」

「殺し屋です! 私から離れないでください!」

「っ、触れた相手にも効果を及ぼせるのか!?」

 

 そう。

 俺のギアスディフェンダーは直接接触している相手にも防御効果を及ぼすことができる。

 ただし、触れ続けていないと効果がないし、原作ルルーシュの絶対遵守のように「一度使ったら永続する」ギアスに関してはかけられた時にしか防げない。

 ロロのギアスに関しては使用中はずっと発動しているので後からでも防げるが、問題は使用者の俺が殴られただけで死にかねないほど虚弱だということと、そのせいで「ユーフェミアの手を引いて逃げる」なんて真似が不可能だということだ。

 手を離したらユーフェミアは止まってしまうが、手を繋いだままだと俺のせいで追いつかれるというこの悲しさ。

 

「でも、構いません。少しでも守る力になるのなら……!」

 

 ユーフェミアに触れたまま、一歩離れた場所にいるルルーシュの手を引く。

 はっとした彼は唇を空振りさせると辺りを見回して、

 

「これは、前に先輩が言っていた……!?」

「話が早くて助かります。二人とも、私から離れないでください。もう一度固まってしまいますから」

 

 全員動けるなら、とばかりに解除されるギアス。

 

「この……! 余計なことばかりして!」

 

 ここでようやく銃が俺に向けられた。

 さっさと撃てば良かったのに、と思わなくもないが、凄腕の暗殺者ロロもこの状況は想定外だったのだろう。これまでは電子的な障害さえ気を付ければはい『絶対停止』、はい殺害、で仕事が終わっていたのだから。

 

「させないと言っています……!」

「リリィ様!?」

「私の後ろにいてください、今は時間を稼ぐのが重要なんです!」

 

 二人につかまってもらいつつ、ゴールキーパーのように腕を広げてユーフェミア達を守る。

 いかんせん身長差のせいではみ出しているが、心臓くらいは守れる。

 そういえば、防犯ブザーのために日傘を放り出してしまったので日差しがきつい。時間制限があるのは俺も同じか。

 だが、ここさえ乗り切れば後はルルーシュやシュナイゼルがどうにかしてくれる。

 

「死ね」

「先輩!」

「リリィ様!?」

 

 銃声。と同時に身体を引っ張られた。

 衝撃と共に左肩に猛烈な痛み。撃たれたのだ、と、滲みだした血を見て理解する。

 あまりの痛みに膝をつく。

 

「ちっ、死にぞこないが……!」

「ありがとうございます。お陰で、もう少し時間が稼げます。この空間は長くもちません。時間と、弾数さえ稼げば、後は」

「喋るな! せめて俺達の足にでもつかまっていろ!」

 

 ルルーシュが叫ぶ。

 それはいい。座り込んでいれば、俺を狙った弾がルルーシュ達に当たることはない。既に二発の弾と相応の時間を使わせた。このままなら──。

 

「いいんですか? 音、響いていますよ?」

「くっ、このおおおおおっ!!」

 

 結界が再開。

 そう。防犯ブザーがある以上、解除したままでいれば人が集まってきてしまう。ロロはギアスを使った状態で俺達全員を殺すしかない。

 逃げれば、俺達三人に顔を記憶され、皇女暗殺未遂の犯人として手配されることになりかねない。

 

「くそっ!?」

「はぁ、はぁ……っ。え……?」

「ぐ、あっ……!?」

 

 銃声。

 だが、俺に新たな痛みはない。

 代わりに声を上げたのはルルーシュだった。

 どこからか取り出した拳銃を構えていたらしい。銃弾はかすっただけのようだが、銃は床に落ちて転がる。すかさずユーフェミアが身を屈めて手を伸ばした。

 

「動くなぁ!?」

 

 銃弾が床を跳ねたが、若き皇女は怯まなかった。

 俺が掴んでいる方の足を動かさないままに拳銃を拾い上げると立ち上がり、意外にも様になった手つきで構える。原作では拳銃どころかサブマシンガン、更にはKMFまで使ってたからな……。ブリタニア皇族の英才教育恐るべし、である。

 やばい、目が霞んできた。

 

「絶対に許さないからな」

「やってみろ、できるものならな。だが、やるなら確実にやることだ。もし俺が生き残ったなら、俺は確実にお前を殺す」

「武器を捨てて投降してください。一刻も早くリリィ様をお医者様のところへ連れていかなければならないのです」

「ぁ……」

 

 意識が遠のく。

 

「俺の目を見ろ、下郎!」

 

 俺は一秒でも長く意識を、自分のギアスを維持しようと気力を振り絞りながら、ルルーシュとユーフェミアの足にしがみつくようにして倒れた。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「……やりすぎです、咲世子さん」

 

 ルルーシュは言葉を選びつつ、しゅんと肩を落とすメイド──否、リリィの姉にやんわりとした苦言を呈した。

 

「申し訳ありません」

 

 咲世子も言い訳はしなかった。

 ただ、自分のしたことに後悔はないと顔に書いてある。

 無理もないとは思う。

 とはいえ。

 

 ──専門家でもないのに、数百メートル先からの狙撃一発で胸の中心を撃ち抜くとは。

 

 タイミングはリリィが倒れた直後。

 どこまで近づいていいのか不明なため、マージンを取って陣取った場所からの本格的な狙撃。十分に時間を取って撃ったのは正しい判断だが、そのお陰で少女が負傷してしまったのも事実。

 咲世子としては()()()()()()()()()()というのが本音かもしれない。

 

 少年は死んではいない。

 ギアス使用の副作用と、弾に仕込まれた強力な麻酔薬のせいで衰弱しており、回復にどの程度かかるかわからないものの、身体は十二分に丈夫なようなので心配はないだろう。

 ただ、期待していたような情報収集はお預けになってしまった。

 

 あれから。

 

 狙撃によってギアスが解除された後、リリィの防犯ブザーによって屋上には多くの人が集まってきた。

 変装しているとはいえ見つかるとまずいルルーシュに、ユーフェミアは慌てず騒がず告げた。

 

『ルルーシュ、あなたは逃げてください。リリィ様のことはわたくしが』

『だが……』

『話はまた今度にしましょう。大丈夫、この方を害するようなことは誓っていたしません』

 

 それだけ言った皇女は日傘で影を作り、リリィの鞄から包帯を取り出して応急処置を行いながら、スピーカーモードで病院へ連絡を取り始めた。

 必死な表情から、どうにかしてリリィを生かそうとしているのがわかった。

 

『……すまない、恩に着る』

 

 屋上を出たルルーシュは「前会長が撃たれて倒れてる!」と騒ぐことで逆に人を集め、その隙にこっそりと学園を抜け出した。

 狙撃位置から離れた咲世子と合流し、潜伏先である家へと帰ってきて今に至る、というわけだ。

 リリィが倒れたことはナナリーにも伝えざるをえなかった。数日おきに顔を出していた少女が来なくなれば不思議に思うのは目に見えているし、誤魔化しきれるものでもないからだ。

 

「……リリィめ。そう簡単に死にそうにもないと思っていたが、まさか自分から死に急ぐとはな」

 

 話を聞いたC.C.はどこか不満そうにそう吐き捨てた。

 

「C.C.さん、そんな言い方は……」

「ナナリー。彼女も彼女なりに先輩を心配しているんだよ」

 

 妹を宥めつつも、ルルーシュもまた心中では動揺していた。

 目の前でリリィが撃たれる光景。それはひどく衝撃的だった。思わず母・マリアンヌや妹・ナナリーが同じ目に遭う光景を想像してしまったほどだ。

 ギアスを持った暗殺者の可能性はあらかじめ知っていた。

 派遣したのがギアスを研究する謎の組織である可能性もリリィが示唆していた。ブリタニア皇帝もまたギアスを所持しており、その組織と繋がっている可能性も。

 だから、こうなることは想定内だった。

 重傷者一名。絶対に助からない者を出すことなく脅威の暗殺者を退けたのだからむしろ成功といってもいい。同じ能力者がいない限りは危険が大幅に下がったのだから。

 だが。

 

 ──こうなることを最初から見越していたな!?

 

 自分が倒れる可能性を考えていたからこそ、リリィは持っている情報をごっそりと開示した。

 かえって混乱することを恐れず推測も含めて話したことがそれを裏付けている。

 

「絶対に死ぬなよ。……後はもう、好きにゲームでもなんでも作らせてやる。貴女の出る幕なんて作らせはしない。だから──」

「……お兄様」

「ルルーシュ様……」

 

 拳を強く握りしめる。

 ただ一人、何を考えているのかわからない魔女は、

 

「なんだ。惚れたのか、あの女に」

「馬鹿なことを言うな。ただ単に、見返してやる前に死なれては困るだけだ」

 

 はやる気持ちを抑えながら、ルルーシュは思考を巡らせる。

 ここからは自分のターンだ。

 暗殺者から情報を引き出せなかったのは痛いが、幸い、既に十分なカードは持っている。後は第三のプレイヤーを使って場を引っ掻き回す。

 

 

 リリィ・シュタットフェルトが一命を取り留めたとの連絡がミレイ経由で入ったのは、その日の夜遅くになってからのことだった。

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