ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「な……!?」
ジェレミアが硬直した。
ユーフェミアの言い放った「降霊術」という言葉がわからなかったのもあるだろうが、何より、
「ユーフェミア様、彼らは──いえ、こちらの方々は!?」
「初めまして」
「いや、もしかしたら会ったことがあるのだろうか。ジェレミア卿」
「その声、そのお顔……! おお、面影がある!」
ルルーシュとナナリーの後ろには咲世子の姿もあるのだが、ジェレミアの視線は間違いなく兄妹にだけ向けられていた。
信じられないものを見たという表情。
亡霊や偽物の可能性を疑っただろう。しかし、このタイミングで引き合わせたユーフェミアの意図を悟ると、その表情は歓喜に染まった。
「生きておられたのですね!? なんという幸運……! このジェレミア・ゴットバルト、直接貴方がたに詫びる機会が来ようとは夢にも思っておりませんでした」
跪いたジェレミアは、自分よりよほど若い二人に躊躇なく頭を垂れた。
「ルルーシュ様、ナナリー様。申し訳ございません。マリアンヌ様の護衛の任についていながら何の役目も果たせなかった罪、どのような処罰、どのような言葉でも謹んでお受けいたします」
「どうか頭を上げてください、ジェレミア卿」
「ああ。よもやお前が殺したわけでもなかろう。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名において全てを許そう。……もっとも、もはや用いることを禁じられた名ではあるがな」
謝罪の機会を与えられ、何をおいてもそれを口にした忠義の男に、兄妹は許しを与える。
こういう姿を見ると二人とも本当に皇族なんだな、としみじみ実感する。
ナナリーなんか特に人当たりが良くて腰が低いせいか、ついつい普通の女の子だと錯覚してしまいそうになる時があるのだ。
立ち上がったジェレミアはなおも感涙せんばかりの面持ちで、
「なんという寛大なお言葉……! ユーフェミア様、お二人を見つけ出し、こうして私と引き合わせてくださったこと、心より感謝いたします」
「よいのです、ジェレミア卿。ルルーシュとナナリーを見つけ、保護していたのはわたくしではありませんし、こうしてこの場を設けることができたのもわたくしの力ではありません」
「では……」
いや、ちらりと見られても、俺の力でもない。
「ジェレミア、その話は置いておこう。それよりも今は行うべきことがある」
どう説明しようか迷っているうちにルルーシュが口を開いて軌道修正。
「行うべきこと、といいますと……」
「先ほど申し上げた通り、降霊術ですわ」
「は?」
ぽかん、とした顔になるのはわかるが、こっちは大真面目である。
さっきの言葉は何も「死んだはずのルルーシュ達と引き合わせる」という意味ではないのだ。
◆ ◆ ◆
「今の俺には死者の魂を呼び戻す力がある」
そう告げると、ジェレミア・ゴットバルトの顔は理解できないものを見る顔になった。
まあ無理もない。
ルルーシュは肩をすくめると「嘘ではない」と告げる。
「まずは実際にやってみせよう。咲世子」
「はい、ルルーシュ様」
「ジェレミア卿。実はわたくしも見るのは初めてなのです」
若干わくわくしているユーフェミアはやはり只者ではない、と頭の片隅で思いつつ、進み出た咲世子と視線を合わせる。
「そちらの侍女は──どうやら名誉ブリタニア人のようですが」
「篠崎咲世子。枢木ゲンブ首相が暗殺された際、SPのトップを務めていた男の娘だ」
「なんと……!?」
「俺の力は死者の魂だけを短い時間、この世に戻すことができる。そのためには呼び出す死者と縁を繋いだ者の身体が必要だ」
ルルーシュに目覚めたギアスは『降霊』とでも呼ぶべきものだった。
咲世子とリリィは「口寄せ」とか言っていたが、この際、名前はなんでも構わない。個人的には「ファントムコール」とでも呼びたいが、また「センスが小中学生」と言われそうなので口には出していない。
それはともかく。
ジェレミアに説明したギアスの効果は実際に検証を行い、リリィと意見をすり合わせて導き出した推測だ。
『正確には「魂のデータベース」のような場所から死ぬ直前の状態を参照し、一時的に復元しているのではないでしょうか』
と、リリィは小難しい見解を示していた。
「ここまで言えば、これから呼ぶ死者が誰かわかるだろう?」
「……まさか、そんなことが」
驚くジェレミアをよそにギアスを発動する。
自分ではよくわからないが、ルルーシュの目は赤く輝いているはずだ。そして、これはルルーシュにもわかるが、咲世子の身体から力が抜ける。
かくん、と、崩れ落ちそうになった彼女を抱き留めて椅子に座らせると、その間にメイドの表情はどこか厳めしいものへと変わっていた。
「失礼。貴方は篠崎流三十六代目継承者で間違いないか」
「左様」
声色も心なしか低くなっている。
「ジェレミア。何か質問してみるがいい」
「で、では……」
ごほん、と、咳払いをしたジェレミアが数秒の思案の後に尋ねる。
「貴殿が妻へプロポーズした際の台詞は?」
「『俺の子を産んでくれないか』と」
「……っ」
リリィが堪えきれない、といったように口元を押さえた。
実の父親の不器用な口説き文句など、娘としては恥ずかしくて聞いていられないのだろう。ルルーシュとて母と皇帝の恋愛シーンなど再現して欲しくはない。
「そ、それに相手はどう答えたのだ?」
「『貴方が望むなら、丈夫な子を産みましょう』と」
「ちなみにジェレミア、魂を降ろしている間も咲世子の記憶は残るからな」
「なんですと!?」
つまり篠崎家の前当主は娘二人にデリケートな部分を知られたことになるわけだ。
ジェレミアも酷な質問をしたものだが──単なる演技でやっている可能性は低い、と、これでわかってもらえただろう。
「もう一つ聞きたい。貴方を殺した犯人の容姿は?」
「……幼い少年だった。突然現れたかと思えば枢木首相は既に撃たれた後だった。次の瞬間には私も撃たれ、倒れた。他の護衛役も次々に、奴が引き金を引いたタイミングさえ掴めずに殺されていった」
「髪と瞳の色は?」
「髪は薄い茶色、瞳は紫だった」
「ありがとう。おそらくもう呼ぶこともないだろう。ゆっくり休んでくれ」
ギアスを解除すると、ほんの数秒で咲世子はもとの状態に戻った。
どこか気まずそうに立ち上がり、リリィと一瞬視線を交わしてからナナリーの後ろという定位置に戻る。
「咲世子さん。貴方の父親の口説き文句は?」
「……申し訳ありませんが、ルルーシュ様。いくらなんでもその質問にはお答えしたくありません」
「ありがとうございます。変なことを聞いてすみません」
振り返った時には、ジェレミアの表情はルルーシュの力を信用したものに変わっていた。
「さて、ジェレミア。お前に頼みたいことがある」
「……は。このジェレミア、喜んでご協力いたします」
「良い返事だ」
リリィとユーフェミアを使ってジェレミアを連れてきてもらったのはここからのため。
「では、お前の身体に我が母、マリアンヌの魂を降ろす」
◆ ◆ ◆
ルルーシュのギアスは俺にも予想外のものだった。
なし崩しにナナリーとギアスの件を共有したからか、原作ほどギスギスした状況を体験していないせいか、彼が抱く復讐心はやや薄くなり、代わりに「スマートに問題を解決したい」という野心めいたものが胸に渦巻いている。
おそらくルルーシュが第一に求めたのは謎解き。
母・マリアンヌの死の謎を解くには殺された当人に聞くのが一番いい。そこに「母に会いたい」という願いが重なった結果、死者を呼んで話を聞くことのできるギアスが生まれたのだと思われる。
ギアスを得た直後、最初は俺が実験台になったものの、ギアスディフェンダーのせいで失敗。
仕方ないので咲世子で試したところ、うちの父が咲世子に乗り移った。これによって犯人がロロであることを特定し、かつ、時を止める、ないしはそれに近いギアスが存在することをほぼ確信できた。
で。
どうやら死者の魂を戻せるらしい、とわかったルルーシュは意気揚々とマリアンヌを呼ぼうとしたのだが──咲世子相手ではどうやってもマリアンヌを呼べなかった。更に咲世子の母や祖母なんかで試したところ普通に呼べたので回数制限というわけではない。
おそらく縁のある人間しか呼べないのだろう、ということで色々試したところ、咲世子としては二、三度軽くシゴいてやった程度でしかない少年(訓練中の事故で早逝した)でも呼べたため、血縁というほどの深い繋がりは必要なさそうだということが判明。
ということはナナリーならほぼ確実に呼べるのだが、目を合わせることで発動するタイプだったために対象とすることができなかった。
ならば、当時マリアンヌと接していた人間、マリアンヌに強い思い入れのある人間を連れてくるしかない、という話になった。
ユーフェミアでもおそらく呼べるのだが、敢えてジェレミアを連れてきたのは今後の布石。
一緒に謎解きすることでなし崩しに懐に入れ、協力させようというルルーシュの悪辣な作戦(誓って俺の発案ではない)である。
まあ、問題があるとすれば──。
「ルルーシュ様?」
「ルルーシュ?」
「馬鹿な、どういうことだ……!? ジェレミアでもユーフェミアでも成功しないだと!?」
やっぱりそうなったか。
俺はポーカーフェイスを貫いたまま内心で呟く。
咲世子の例から行けば呼べるはず。にもかかわらず成功しないのは、
「まさか、お母様は生きていらっしゃるのでは……?」
ナナリーの呟きが、俺の説明するべき事柄を先取りした。
「馬鹿な、ありえません!」
ジェレミアが叫ぶ。
「マリアンヌ様の心臓が停止していたのは間違いありません! 死因こそ隠されたものの、葬儀もきちんと行われているのです!」
「推測ですが」
今度こそ俺が口を挟む。
「肉体が滅んでも、魂が現世に存在していれば死んだことにはならないのではないでしょうか」
「何を言っているのです!? そんなことがありえるわけが──」
「いや。そうか、ギアスの力か!?」
さすがルルーシュ。
ちょっとしたヒントを出しただけで、いともあっさりと回答に辿りついた。
「ギアス、それは一体!?」
「さっきやって見せただろう。この世界に密かに存在している理から外れた力だ」
「私もギアスを持っているのです。もっとも、私の力は『他のギアスを防ぐ』というだけのものなのですが」
「ギアス。防御。……いや、まさか、そういうことなのですか!?」
「そうです、ジェレミア卿。リリィ様は自身のギアスによって暗殺者の魔の手から逃れた。彼の持っていたギアスを防御して」
辻褄は合う。
この世界の不可思議な現象には基本的にギアスが関わっていると言っていい。
もしかすれば邪馬台国の女王や恐山のイタコもギアスに関りがあったのかもしれない。
「ギアスは確かに存在する。こうして実例を見せられれば信じないわけにはいくまい」
「それは確かに……。ですが、ルルーシュ様。その力で何を為そうというのです。私に何をさせようというのですか!?」
「知れたこと。そんなものは一つしかない」
ルルーシュは大きく腕を広げ、舞台役者のごとく高らかに宣言する。
「世界の裏側に潜み、ギアスを使って人の営みに干渉しようとしている者達。そしてそれを容認しているであろうブリタニア皇帝。彼らの企みを阻み、世界をあるべき姿に帰す。それが、かの者達によって母を殺された俺の望みだ!」
「お、おお、まさか、なんという……!」
ブリタニア軍人の前で「皇帝は間違っている」と言い放ったルルーシュ。
現体制への批判そのものの言動なのだが、堂々とした態度のせいで物凄く格好良く見える。ナナリーもユーフェミアも「さすが」とでも言いたげな笑みを浮かべており、ジェレミアを感動させるだけのパワーが見事に生まれたことを物語っている。
うん、だからそれ自体は構わないんだが……ご近所さんはともかく、部屋の外にいるメイドさんに丸聞こえだと思う。
あ、咲世子が釘を刺しに行ってくれた。さすが姉さま。
メイド二人がこっそりと話をしている間にジェレミアは考えを纏めたらしく、ルルーシュをじっと見つめて言う。
「貴方様のお志、誠に尊きものと考えます。ですが、ルルーシュ様。可能であればこの話、クロヴィス殿下にもお伝えさせていただきたく──」
まあ、そうなるよな。
マリアンヌ殺害の件に不満、という意味ではクロヴィスとジェレミアは同志だ。
正直、俺としてはクロヴィスは不確定要素が多すぎるため、どう扱ってよいのか計りかねるのだが、
「いいとも。味方は多い方がいい。だが、わかっているとは思うがジェレミア。信用できない者へみだりに漏らしてはならない。いいな」
「Yes, Your Highness!」
圧倒的な度量を見せつけ、あっさりと答えてみせたルルーシュに、ジェレミアは高貴なる者への礼をもって答えた。
さて。
「あの、ところでジェレミア卿。マリアンヌさまが殺害された際、そこに警備兵などは全くいなかったのでしょうか? もし殺された方がいたとしたら、そちらに面識は?」
「あ……っ!?」
そして、ジェレミアに乗り移った警備の人間によって、マリアンヌ殺害の犯人の姿が明らかとなった。