ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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皇女の友人・リリィ 十

 あれ以来、例の少女が学園に現れることはなかった。

 

 あの一件自体、状況証拠だけで考えるとなんとも言えない。

 銃やナイフが飛び出してきたわけではないし、あの少女がしたことと言えば空気を読まずに近づいてきたことと、俺とジノの名前をフルネームで叫んだことと、動かなくなったジノを介抱しようとしたことくらい。

 ジノの素性はただのKMFマニアとかでも気づくレベルの情報なので怪しむ材料にはならない。

 ロロの一件と合わせて考えれば「俺とユーフェミアに近づいてきた怪しい相手」というだけでクロに近いのは確かだが、だとしても、まともに考えると「あの場で少女一人が暴れて何ができたというのか?」という話になってしまう。

 

 だが、まともに考えなかった場合──つまり、ギアスを考慮した場合には色々と話は変わってくる。

 例えば、あの少女のギアスが「フルネームで呼んだ相手の自由を奪い、どんな命令でも聞かせられる」だった場合。

 介抱するフリをして「ユーフェミアとリリィを殺せ」とでも囁けばあら不思議、ラウンズが皇族とその友人を殺そうとした不祥事の出来上がりである。

 最初は俺を暴れさせるつもりだったんだろう。

 だが、俺にはギアスが効かない。というか、もしあの少女のギアスが推測通りなら、ギアスディフェンダーが無くても効かない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 元孤児というカバー設定のほうで考えても効かない可能性は高かったと思うが、調査不足だったのか、それとも単なる警告か。

 ひとまず理事長には報告し、学園内のセキュリティを強化するという話にはなった。

 とはいえ、校門で生徒一人一人を確認するわけにもいかない。いきなり全寮制に変更するというのも生徒の家柄上難しいものがある。

 はっきりと事件だとわからないこともあって、すぐに取れる対策は「知らない生徒から話しかけられたら注意してください」と呼びかけることくらいだった。

 

 

 

 

 

 そして、それから数日後。

 放課後、理事長室に呼び出された俺はミレイと、キョウトから帰ってきた咲世子と顔を合わせた。

 

「向こうの様子はどうだね?」

「はい。依然として予断を許さない状況ですが、まずは一安心──といったところでしょうか」

 

 向こうに着いたルルーシュ達は早々、キョウト六家の重鎮たちと丁々発止のやりとりをすることになった。

 ルルーシュと神楽耶の弁舌、スザクの毅然とした態度によってなんとか場を収め、キョウトへの滞在を許された後は、可能な限りの手を使って理解を得なければならなかった。

 少数派である神楽耶個人を慕う者達をまとめ上げ、生き残っている旧日本政府の人材の中から穏健派を引き抜き、旧日本軍人達を説得して若き戦士・藤堂の協力を取り付け、レジスタンスとも接触してリーダー・紅月ナオトを口説き落とし、反神楽耶派の後ろ暗い金の動きや不正を暴き、並行してなるべく理想的な復興プランをまとめ上げる。

 特に力を貸してくれたのは桐原泰三という人物だった。

 日本のサクラダイト採掘を一手に引き受けている人物で、原作ではルルーシュとはかつて面識があった。実は俺も婚約者探しの件で一度顔を合わせている。

 

『蒔いた種が二粒、大きな花を咲かせたか』

 

 彼はそんなことを言って、ルルーシュ達への支持を表明したらしい。

 サクラダイト採掘という関係上、ブリタニアにも通じている彼が「ブリタニアともうまくやっていこう」とする再興策を支持するのは分かりやすい。

 有力者が支持を表明したことによって他の者が続きやすい空気も生まれ、流れが変わり出した。

 

 ブリタニアへの反感が強い派閥や日本をまるまる取り戻したい派閥も、こうなると強硬に反対はしづらい。

 彼らの懸念は「スザク達が上手く舵取りできず失敗すること」であって、平穏無事に行けば軌道に乗せられるだろう、と判断できれば話が別になってくる。

 ブリタニアが無理やりに新政府を終わらせに来たならそれはそれでOK。

 穏健派の力を削ぎ、日本人のブリタニアへの反感を強められるのだから、スザク達を隠れ蓑に力を蓄えていればいい。

 というわけで、あの会見が行われた。

 

「ルルーシュさん達の護衛は大丈夫なのですか?」

「ええ。信頼できる者に引き継いで参りました」

 

 篠崎流の門下生だった者や、篠崎流以外の忍者流派の使い手も各地に散ってそれぞれに活動している。

 咲世子はその忍者ネットワークを使って自身の繋がりの強い者へ働きかけ、数名をルルーシュ達の護衛として配置したらしい。

 いわく「単身で最も強い私は身軽な方が良いのです」とのこと。

 まあ、そもそも咲世子はアッシュフォード家に仕える身なので、皇家および枢木家の預かりとなったルルーシュ達をいつまでも守る必要がない。もちろん個人の感情としては気になるところだろうが。

 

 と、考えていた俺はミレイに脇をつんつんされて、

 

「先輩。やっぱり知ってたんじゃないですか。教えてくれてもいいのに」

「すみません。情報を漏らさないためには誰にも言わないのが一番ですので……」

 

 ミレイには言っておきたい気持ちもあったのだが、あそこまで行ったらアッシュフォード家を関わらせない方が逆に彼女らを守ることに繋がる。

 実際、ルルーシュ達の生存と新日本政府樹立の構想を同時に発表したことで、アッシュフォード家へのプレッシャーは大きく弱まったらしい。

 対処すべきことが「どん!」と目の前に現れたため、ルルーシュ達を匿っていたのは誰か、なんていうのは二の次になったのだ。

 このままごたごたが続けば有耶無耶のうちに逃げ切れるかもしれない。

 

「私はもう、堂々としているしかないだろう」

 

 ルルーシュ達を匿っていたんじゃないのか、といった類の質問にはのらりくらりとした回答を続ける。

 どうしようもない証拠を突きつけられた場合はアッシュフォード学園の理念を盾に「皇族だから匿ったのではない。身寄りのないブリタニア人を保護しただけだ」で押し通す。

 納得してもらえるかどうかは微妙だが、どうせ皇帝がその気なら処刑でもなんでも簡単にできてしまうのだから、その辺りは腹をくくるしかない。

 

「リリィ君」

「はい、理事長」

「君には咲世子を預ける。しばらく世話係として使いたまえ」

「っ」

 

 それは──。

 

「お借りしてしまってよろしいのですか?」

「うむ。学園内で危険に晒してしまった件の詫びだと思ってくれ。先日の件もある。君自身が狙われている可能性もあるのだから、傍に人を置いておきなさい」

「……かしこまりました。ご配慮いただきありがとうございます」

 

 深く一礼し、俺は理事長に感謝を述べた。

 なんと、俺にボディガード兼、まともな専属秘書ができてしまった。

 

 

 

 

 

「ところで、先日の一件というのは?」

「ああ。事件、と言っていいのかは判断できかねているのだが、ちょっとした騒動があってな……」

 

 思いがけず咲世子を借りられたことで、俺の内心が姉さま一色になっている間に、話は先日の件に向かった。

 これこれこういうことがあって、と話したところ、咲世子は事もなげに頷いて、

 

「ああ。それでしたら、私が向こうを離れる前日、容姿の一致する少女が捕縛されました」

「はあ!?」

 

 再チャレンジしに来ないと思ったら、ルルーシュ達の方を狙って捕まっていたらしい。

 

「捕縛したのはスザク様です。様子がおかしかったために声をかけたところ、怪しい動きをしたために取り押さえました。結果、所持していた刃物と銃器を押収しています。今頃は凶器ごと警察経由でブリタニア軍に引き渡されているはずです」

「それは……なんというか、思いがけぬ展開だな」

 

 危険人物だというのは合っていたが、警戒しているうちに勝手に捕まっていた──間抜けというべきか、それとも、日本とブリタニアの穏健派を潰しに来ていることを脅威と考えるべきか。

 

 

 

 

 

 色々と考えつつクラブハウス内の部屋に戻る。

 ほっと息を吐いてベッドへ腰かけると、後をついてきた咲世子は無言で室内の検分を始める。

 ピザ片手にゲームをしていたC.C.が顔を上げて、

 

「なんだ、帰ってくるなり騒々しい。……というか、咲世子も一緒か」

「ええ。このところ物騒だということで理事長からお借りしました」

「ほう。それは良かったな」

「はい」

 

 何のことでしょう、とか誤魔化すのももはや面倒だったので、素直に答える。

 口元が緩んでいるのが自分でもわかる。

 話しているうちに一通りのチェックを終えたのか、咲世子は最後に入り口のドアをしっかりとロックし、更に盗聴防止装置を取り付けて、

 

「リリィ様。この部屋の安全を確認しました」

「ありがとうございます」

「では、お着替えをいたしましょう」

「はい」

 

 C.C.がお腹を抱えて笑いをこらえている。

 軽くそちらを睨みつけつつ立ち上がり、咲世子のサポートで着替えさせてもらう。

 帽子や手袋を外し、制服を脱いでハンガーにかけ、

 

「ただいま、百合」

「ね、姉さま。せめて着替え終わるまで待ってください」

「いいじゃない。服を着てからだと皺になってしまうもの」

 

 正面から抱きしめられた俺は、姉の柔らかさと体温をたっぷりと感じることになった。

 

(ああ、姉さま……っ!)

 

 感極まったような声が内心で上がるが、同感だ。

 姉の温かさと匂いは何故か妙に安心する。きっと、幾つになっても彼女の傍が一番落ち着くんだろうな、と、掛け値なしに思える。

 腕を伸ばして自分からも抱きつこうとしたが、身長差と体格差のせいで難しかったので大人しくされるがままになった。

 そのままどのくらいそうしていただろう。

 

「おい。その格好、客が来たら怪しまれるぞ?」

「そ、そうですね。姉さま」

「え、ええ」

 

 身を離した俺達はいそいそと着替えを再開した。

 で、部屋着に着替えた上で「これならいいだろう」と、ベッドの上で抱擁を再開する。

 

「いや、それもどうかと思うが……まあ、良かろう」

 

 ふんと肩を竦めたC.C.は再びゲーム画面に集中し始める。

 

「お前が私に見向きもしなかった理由がわかったような気がするよ」

「C.C.。そんなこと言って、私に母性なんて見せなかったでしょう?」

「シュナイゼルの連れてきた怪しげな女にそんなもの見せるか」

 

 ごもっとも。

 

「ところで姉さま。スザクさんが捕らえた殺し屋っていうのはやっぱり……」

「百合ったら、そういう話は後でも……っていうわけにもいかないわね。ええ、ギアスの持ち主だったみたい」

 

 咲世子が話して聞かされたことによると、理事長室でぼかされた部分の経緯はこうだ。

 

 変装して紛れ込んできた例の少女。

 見慣れないブリタニア人の女の子を不審に思ったスザクは自身のギアスを使い、彼女を見た。『ギアスアナライザー』の結果はクロ。少女は視認した相手の名前を叫ぶことによってその人物のコントロールを得て、操ることができる能力者だった。

(これに関しては「知らない奴を見たらとりあえず調べておけ」とルルーシュや神楽耶からあらかじめ入れ知恵があったらしい)

 ひとまず呼び留め、当たり障りのない質問を投げかけたところ、フルネームを呼ばれそうになったので口を塞いだ。と、思ったよりも強い力で暴れ始めたので本格的に取り押さえたところ、銃やナイフを隠し持っていた。

 

「危ないことこの上ないですね……」

「スザク様がギアスを得ていたことと、その効果を知らなかったみたい。そうでなければ、あるいは狙われたのが別の方であれば危なかったかもね」

 

 なお、この少女についてC.C.に聞いてみたところ「知らん」ということだった。

 

「不老不死は私一人じゃない。他の奴が与えたギアスのことまで知るか」

「そうですか。ちなみに、男の魔女もいるんでしょうか」

「さあな」

 

 ぶっきらぼうな返答。だが、それ自体がある種の答えだった。

 

「警察へ引き渡す前に尋問もしましたが、彼女は口を割らなかったわ」

「自白剤は使わなかったのですか?」

「下手に使うと検出される恐れがあるもの」

 

 用意はできるのかよ、と思うかもしれないが、咲世子は忍者だ。毒の扱いにもある程度は長けている。

 

「ひとまず厳重に目隠しと拘束を施した上で警察に引き渡したわ」

「日本政府が発足していない以上、自前の警察組織は持てませんからね」

「ええ。警察には総督府の指示を仰ぐことを提案しておいたから、下手なことはしていないと思うけど……」

 

 不用意に目隠しを外した挙句に署内皆殺し、とかになったら馬鹿としか言いようがない。

 まあ、フルネームがないと殺せないなら、事前に情報収集していない限りは無力なはずだが。

 

「スザクさん達を狙ったということは、こっちに来た時のターゲットはユーフェミアさまだった可能性が高いですね」

「ええ」

 

 咲世子はこれに同意した上で、

 

「でも、あなたのことも守るわ。危険なことに変わりはないもの」

「ありがとうございます、姉さま」

 

 翌日、クロヴィスから俺に招待状が届いた。

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