ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「今日は格別に緊張します……」
「まあ、リリィ様ったら。これでもう三度目ですのに」
ある夜、俺はユーフェミアと共にとある建物の前にいた。
皇女殿下と並ぶのも恒例になってきたが、だからといってこの場でからかうのは勘弁して欲しい。
シュタットフェルト家の令嬢としては、同じ相手に招かれて同じドレスを着ては行けない。毎回別の、しかも質の良いドレスを選ばなくてはならないうえ、ユーフェミアを食わないように色にも気を遣わないといけないので、これでもかなり気を遣っているのである。
加えて、今回は招かれた場所が総督府ではない。
「クロヴィス殿下の私邸ですよ? 私程度が来るところでは……」
「リリィ様もシュタットフェルト家の長女ではありませんか」
「それはそうなのですが」
などと言っている間に使用人が入り口を開け、中に招き入れてくれる。
ここまで来たら覚悟を決めるしかない。できる限り優雅に一礼し、ユーフェミアから一歩遅れるようにして中に入る。
ちなみに今回は咲世子も一緒だ。ユーフェミアはメイドさんとジノの両方を連れている。この間も襲撃未遂があったばかりだし、ジノが「連れていってくれ」と聞かなかったのである。そんな彼は高級そうなスーツに身を包みつつ、護衛として帯剣している。
通されたのは食堂だった。
食堂といっても、普段食事をする場所ではなく来客時などに用いる広めの場所で、今は十人ほどでゆったり使えそうな大テーブルと品の良い木製の椅子が置かれている。
テーブルには既に、冷めても問題のない料理がずらり。
都度、給仕をしてもらうのでは話がしづらい、という配慮なのだろう。今回はフルコースではなくいっぺんに料理を並べる形式のようだ。
そして、そんな食堂で俺達を待っていたのはクロヴィスと、護衛役のジェレミア、そして──。
「お姉様!」
赤みがかった桃色の髪を持つ、凛とした雰囲気の女性。
あらかじめ顔写真を確認していたこと、ユーフェミアが姉と呼んだことから相手が誰かを理解した俺は、さっと一礼して頭を垂れる。
そして、再会した姉と妹の挨拶が終わるのを待った。
「いらっしゃっているなんて聞いておりませんでしたわ」
「すまない、驚かせようと思ってな。それに、軽く立ち寄っただけだから明日には発たねばならんのだ」
「お忙しいのですね。こちらにはお仕事で?」
「ああ。それと、会いたい人物がいたのでな」
この御仁がわざわざ会いに来た人物とは一体誰だろう……と、とぼけたい衝動に襲われているうちに、件の女性が近づいてきた。
「初めまして。私はコーネリア・リ・ブリタニア。ユーフェミアの姉だ」
「お初にお目にかかります。リリィ・シュタットフェルトと申します。ユーフェミアさまからは多大なるご厚情を賜っております」
「うむ。だが、堅苦しい挨拶はそれくらいにしておいてくれ。皇族として振る舞うのも軍人として規律を重んじるのも少々気づまりでな。たまには息抜きがしたい」
「かしこまりました。僭越ながら、お言葉に甘えさせていただきます」
コーネリア・リ・ブリタニア。
ユーフェミアの実姉にして武人でもあるこの女性が加わったことで、この場はブリタニア皇族が三人、ナイトオブラウンズが一人という物凄い空間と化している。
フランクにしてくれと言われても無理だろうと思いつつ了解の返事をすると、コーネリアの護衛として控えていた眼鏡の青年騎士が、
「コーネリア様。市井の者にあまり鷹揚な態度をお見せになるのは……」
「よい、ギルフォード。この者は我が妹、ユーフェミアの恩人でもある。私が多少気を抜いたとて、それを吹聴するような輩ではあるまい」
吹聴したらどうなるかわかってるよな、っていう脅しでもあるんだよな、これ。
内心恐怖を感じていると、コーネリアは俺のそんな感情を吹き飛ばすように笑って、
「あらためて、先日はユーフェミアを助けてくれてありがとう。できればもっと早く直接礼を言いたかったのだが、遅くなってしまった。許してくれ」
「そんな、とんでもございません。臣下として、友人として、ユーフェミアさまをお守りするのは当然のことです」
「そうか、ありがとう。どうか、これからもユーフェミアと仲良くしてやってくれ」
「勿体ないお言葉です」
差し出された手を握ると、女性としてはかなり強い力でぎゅっと握られた。
後ろでギルフォードが若干「ぐぬぬ」という顔をしている。コーネリアの騎士(皇族は一人につき一名、自身の専任騎士を任命する権利を持つ)であり、コーネリアには並々ならぬ想いを抱いている彼らしい。当のコーネリアからは死角になっているところで顔芸をしているあたりも、だ。
ここでクロヴィスが主催者らしく声を上げて、
「では、揃ったことだし食事を始めようか」
今回はクロヴィス主催の、ごくごく私的な食事会という名目である。
そんな会にどうして一人だけ部外者(俺)が交じっているのか、という話だが、ユーフェミアに続いてクロヴィスからも友人認定されているらしい。
割とバランス感覚のある皇族であるコーネリアも妹のことになるとただのシスコンお姉ちゃんと化すので、俺の存在に異を唱えることはなかった。
スープやパン、肉料理等、熱い方が美味しい料理が並べられると、ジェレミア達を除いた護衛、メイドは退室していく。ちょっとした給仕なら部屋に残った二人のメイド──ユーフェミアのメイドさんと咲世子が担当してくれるので不自由はない。
「そういえば、リリィ。私の送った見舞いと礼は届いたか?」
「はい。ありがたく頂戴いたしました」
見舞いとしては高い果物がどっさり届いたし、お礼という名目では会社に資金援助があった。
ゲームのクレジットに名前を載せさせてほしいとお願いすると「別に構わないのだが、したいと言うなら好きにしてくれ」と言ってもらえた。
協力・監修にブリタニア軍、特別スポンサーに皇女殿下の名前を書いたゲームとか史上初だと思う。もう、それだけで売れるんじゃないだろうか。
当のコーネリアは「多少の点数稼ぎにはなるかもしれないな」とか言っていたが。
そんな風に食事会は和やかに進んだ。
俺の仕事の話をしたり、クロヴィスの芸術談義が始まったり、コーネリアが(部外者に漏らしても大丈夫な程度に)武勇伝を語ったり、そんなことをしているうちに料理が減ってきて、
「さて、クロヴィス。そろそろ本題に入ってはどうだ?」
「そうですね、姉上」
コーネリアから水を向けられたクロヴィスが頷く。
「ジェレミア」
「はっ」
二人のメイドによって空いた食器が下げられた結果、テーブルにできたスペースへ、とある書類が配られる。
俺はちらりと見た段階で内容をある程度察した。ユーフェミアもそうだっただろうが、疑問の声を上げる者もいた。
ここまで除け者にされてきたため、俺達の動きを知らない男──ジノだ。
ユーフェミアの分の書類を覗き込んだ彼は眉を顰めて言った。
「失礼。クロヴィス殿下──こちらは一体なんなのでしょう?」
「ヴァインベルグ卿には説明が必要か。これは私が姉上の協力を得て作成したとあるリストだ」
一見、単に人名と簡単な役職、年齢や性別が並んでいるだけのリストだが、
「具体的にはなんのリストなのです?」
「皇妃マリアンヌ様が殺害された際、アリエス宮に出入りしていた者のリストだ」
答えたのはコーネリアだった。
彼女もクロヴィス同様、マリアンヌに好意的な印象を抱いていた一人だ。こうしてみるとマリアンヌ大人気だが、原作で大きくクローズアップされた人間ほど有能で、マリアンヌのことを慕っており、原作のルルーシュと
この返答にジノは驚愕し、
「クロヴィス殿下! マリアンヌ様殺害については皇帝陛下から箝口令が敷かれております! それを──」
「わかっている」
クロヴィスは慌てずに答えた。
皇帝シャルルの若いころによく似た面立ちの皇子の言葉にジノも居住まいを正し、
「だが、どうしても動かずにいられなかったのだ。マリアンヌ様は父上と特に仲の良かったお方。我々としてもあの事件が無念でならないのだよ」
「それは……」
そういう言い方をされると、皇帝に忠誠を誓うジノとしては弱い。
特に、マリアンヌ殺害については彼がまだ子供だった頃の事件であり、ジノ当人には実感が薄い。だからこそ、事件に強いショックを受けた者達と感情を共有しづらい。
割と人情家な彼としては他人の想いを理解しようと一歩引いてしまう。そこがクロヴィスにとっては付け入る隙になった。
「無論、父上──陛下に知られれば処罰もやむ無しかもしれん。それでも、私は知りたい。そして、マリアンヌ様を殺した犯人がのうのうと生きているのなら、何らかの処罰を下してやりたい」
「……そう、ですか」
唸り、ジノは踏み出しかけた足を戻した。
「かしこまりました。出すぎた真似をして申し訳ございません。ひとまずはお話を最後まで聞かせていただきたく存じます。ですが、何故リリィ様までこの場に?」
「リリィ様にはもともと、わたくしが協力をお願いしたのですわ」
「ゲームの参考として、
「なるほど。そうだったのですね」
クロヴィスの動向に納得したジノの別の疑問には、定番の「全くの嘘ではないが真実でもない」回答で誤魔化す。
俺がKMFに詳しいことをよく知っているジノとしてはこれも信じられる内容だったのだろう。頷き、それ以上は追及してこなかった。
「話を戻そうか。リリィ、ユーフェミア。このリストを見て、何か気づくことはないか?」
「と、言われましても……」
言われたユーフェミアは困ったように眉を顰める。
無理もない。いま渡された名簿から何かしら閃けるようなら、その人物は探偵か刑事にでもなるべきだ。
だが、俺の場合には予想される答えから逆算することができる。
求めていた名前をリストから探し、
「この『アーニャ・アールストレイム』というのは現ナイトオブシックスと同一人物でしょうか?」
「……ほう。さすがだな。ユーフェミアから話は聞いていたが」
コーネリアの呟きがひたすら怖いが、それはさておき。
「まさか!?」
「ああ。年齢・性別・家名まで一致する人間が他にいるわけもない。念のためアールストレイム家に問い合わせたが……間違いない。現ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムは当時、アリエス宮で行儀見習いとして働いていた」
「馬鹿な……!?」
大げさに驚いているのはジノである。
「ヴァインベルグ卿。このことを当人から聞いたことは?」
「ございません。彼女──アーニャは原因不明の記憶障害を抱えているらしく、幼少期の記憶に曖昧な点が多いと聞いています。ですから当人もそのことを覚えていない可能性があります」
「なるほど、な」
「クロヴィス殿下、それが何か?」
「いや。話が聞ければと思ったのだがな。難しそうだ」
記憶がないのでは、当人から話を聞いても何かが得られるとは思えない。
当時ただの行儀見習いでしかなかった少女が、たった数年でナイトオブラウンズに上り詰める──そこに
論理的でない結論は俺が口に出すわけにはいかない。
「では、次だ」
ジノの追及を軽くかわしたクロヴィスは再びジェレミアに命じて一枚の紙を配らせる。
そこにはひとつの似顔絵──警察が犯人を指名手配するときに使うようなそれが描かれていた。
「これは数名の証言を元に作成したマリアンヌ様殺害犯の似顔絵だ」
描かれているのは少年の姿だ。
高価そうな服を着た、利発そうな少年。絵自体はモノクロだが、髪には「金髪」と注釈がされている。この絵自体を見ただけでは「育ちのいいお坊ちゃんですね」くらいしか感想がないが、
「クロヴィス兄様の小さい頃に似ていますね」
ユーフェミアが何気なく言った一言に、他ならぬクロヴィスが頷く。
「やはりそう思うか。不本意だが、私も同意見だ」
「ああ。私から見てもクロヴィスに似ている」
兄妹三人が同意見、ということはかなり信憑性がある。
と、ここでコーネリアが意味ありげに、
「クロヴィスに似ているというよりは、父上に似ていると言うべきかもしれないがな」
「クロヴィス殿下は陛下に似ていらっしゃるのですか? シュナイゼル殿下も金髪で、見目麗しい方ですが……」
今の皇帝はガタイの良いロール髪のおっさんなので想像がしづらい。
原作では幼少期のシャルルはそれはもう可愛い少年だったので、おそらくはそうなんだろうが。
「ああ。父上の幼少期を知る者は、幼い頃の私を見て『陛下にそっくり』と口にしたものだ」
「では……?」
「もしこの似顔絵に信憑性があるならば……マリアンヌ様殺害の犯人は陛下の隠し子である可能性もある」
衝撃の発言がクロヴィスの口から飛び出した。